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天界で育った少女の物語  作者: 斗瑚
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待ちわびた女の子

こんにちは!初投稿となります。よろしくお願いします(^^)

黒と白の大理石のような床にアンティーク調の家具。中世ヨーロッパ風の部屋に置かれたソファの前を、腕を後ろに組んでウロウロする男性。どうも落ち着きがない。


「まだか!まだ産まれんのか!」


ホワイトシルバーの髪に強面の顔が言葉に凄みを持たせる。


「初めてではあるまいし、落ち着いてください。その様なお姿を配下の者たちが見たら威厳が台無しですよ。ねぇ」


ゴールドの髪を綺麗にまとめ、油断のない佇まいからは、上品さが滲みでている女性が男性を諭しながら、呆れた声で、一緒にソファに座っている男の子たちに微笑みながら声をかける。同意を求められた男の子たちは、普段の男性からは想像もつかないような落ち着きのなさに苦笑いしている。


「ミランダ。分かっておる。だがな、これが落ち着いていられるか!」


ミランダという女性に、男性がそう叫ぶと同時に


「んぎゃあ~、んぎゃあ~!」


隣の部屋から、元気な赤子の声が響き渡った。


声が聞こえたと同時に隣の部屋の扉へとすぐさま近づく男性。隣の部屋の扉から出てきたメイドが、勢いよく近づく男性に思わず一歩退く。


「産まれたかっ!?」


声を掛けられたメイドは男性の勢いに引きながらも


「おめでとうございます。元気な女のお子様でございます」

「!? そうか、そうか…」


強面の顔がくしゃりと歪み、嬉しそうな顔へとかわる様を見たメイドは、信じられないものを見たとばかりに驚愕の表情を浮かべるが、すぐにいつものメイドたる姿へ戻り、


「どうぞ、お入り下さい」


と、ドアを開け奥の部屋へ入るように促す。部屋の中には大きなベッドが置いてあり、ベッドには歳は20代ぐらい、ピンクの髪をしている綺麗な女性が座っており、その腕の中には産まれたばかりであろう赤子が抱かれていた。ベッドの脇には、女性に抱かれた赤子を愛しそうに見つめる男性。こちらの男性もホワイトシルバーの髪だが先ほどの男性よりも明るい髪色だ。


「レイモンド!」


名前を呼ばれて、ベッドの脇に座っていた男性が振り向く。


「父上!」


レイモンドと呼ばれた男性は、ベッドに座っている女性の腕から赤子を抱き上げ、近づいて来た男性に抱き渡す。


「父上、ルーナミアです」

「ルーナミア…良い名前だな…ルーナミア…ルーナ…」


赤子の名前を呟きながら、とても優しい顔でルーナミアに笑みを向ける男性。周囲の者たちは強面の男性のありえない表情に、一同凍りついたように固まっている。


「お祖父様、僕たちにもルーナミアを見せて下さい!」

「リチャードもう少し待ってくれ」


ルーナミアが産まれるのを心待にしていた男の子たちの一番年長者であろう男の子が痺れを切らして声を掛ける。


「お祖父様ずる~い!!」


ルーナミアを独り占めにしていた祖父を非難したのは一番下の男の子シュテファンだ。


「むっ…!」


ずるいと言われたが、ルーナミアを離したくない男性は、話題を変えようとベッドに座っている女性に声を掛けた。


「オリビア、体調はどうだ?」

「問題はございません」

「うむ。よく頑張ってくれたな。疲れたであろう。ゆっくり休めよ」

「ありがとうございます」


声を掛けられたオリビアという女性は、微笑みながら言葉を返す。


「ライル、いい加減にして下さい」


そう言ってミランダは男性からルーナミアを取り上げる。


「あぁ~、私のルーナが・・・」


いじける男性をよそに、ミランダはソファに座り男の子たちを呼び寄せた。


「お祖母様、僕も抱っこしていいですか?」

「もちろん、いいですよ」


ミランダは優しい眼差しを向けながら、シュテファンを椅子に座らせ、その腕にルーナミアをそっと渡した。


シュテファンは驚いた。自分の腕の中にいるルーナミアの軽さに。幼い自分が力を入れるだけで、簡単に壊れそうなほど小さな妹を、自分が守らなければと改めて心に誓うシュテファンであった。


「ルーナ、僕が守ってあげるからね」

「「僕がじゃないぞ!僕たちがだ!」」


シュテファンの言葉を長男のリチャードと次男のブライアンが訂正する。長男、次男、三男と男が続き、父親の兄弟も男ばかりの上に、父親の兄弟の子どもたちも男ばかりという、男だらけの一族の中にようやく女の子が産まれてきたのだ。それを考えると先ほどの祖父らしき男性の態度も頷ける。


子どもたちが順番にルーナミアを抱いているところを羨ましそうに見ている男性にレイモンドが小声で声をかける。


「父上」

「あったのか?」

「はい。伝承の通りであればいずれ、氷華湖にも影響が現れるでしょう」

「そうか…レイモンド」

「はい、父上」

「ルーナミアの世話には特に信頼のおける者を置くように。それから―――」

「分かりました。そのように」


難しい顔で話していた二人だが、話が終わった途端に


「ルーナ~!おじいちゃまだぞぉ!」


デレ顔に戻る父親の姿に苦笑いをするしかないレイモンドであった。


コンコンッ。ドアをノックする音がする。


「失礼致します。エルヴィス様とウィリアム様がお見栄でございます」

「おぉ、エルヴィスとウィリアムか、通せ」


執事に案内されて入ってきたのは、レイモンドの弟のエルヴィスとウィリアムだ。


「兄上!おめでとう!本当に女の子だって?!」

「ありがとう!エルヴィス!」

「兄上!おめでとうございます!」

「ありがとう!ウィリアム!」

「子どもたちは後日妻たちと一緒に来るからな!」


大きな声でそう言うのはレイモンドと1歳違いのエルヴィス。がたいのいい大男で腹の底から出している声はよく通る。


「兄上!声が大きいですよ!」


兄を嗜めるのは一番下の弟のウィリアムだ。細身の体で賢そうな容姿がエルヴィスとは対象的だ。


「ガハハハ!すまん、すまん。して、赤子はどこだ?」


キョロキョロと小さな赤子を探すエルヴィス。


「!?」


その目に映ったのは、普段の威厳ある姿とは似ても似つかないぐらいにデレた自分の父親の姿であった。これにはいつも冷静沈着と評判のウィリアムも凍りついた。


「ウィ、ウィリアムよ」

「はい、兄上」

「俺は幻でも見ているのだろうか?」

「あ、兄上にも見えるのですか?では、幻ではないのですね…私にも見えるのです…」


こんな二人の様子に苦笑しながら、レイモンドは父親に声を掛け、ルーナミアを抱き上げ、弟たちにルーナミアを紹介した。


「エルヴィス、ウィリアム、ルーナミアだ」


腕の中にルーナを渡されたエルヴィスは、慌てた。自分の子どもも息子ばかりで産まれたばかりの女子を抱っこするのは初めてなのだ。


「まだ女か男かも分からんような赤子だか、女かと思うとかわいいな。父上のあの表情も幻ではなかったと分かる」


しばらくルーナミアを抱っこして満足したエルヴィスはウィリアムにルーナミアを渡す。


「兄上、私も息子ばかりで女の子は初めてなのですが…かわいいですねぇ」


なにせ、男ばかりの一族なのだ。女の子と聞くだけで自然と顔が綻ぶ。後日、面会に来たエルヴィスとウィリアムの息子たちも同様にデレていた。来る予定のなかったエルヴィスとウィリアムも再度面会に来ていたのだ。これには、奥方たちも呆れ返っていた。


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