四日目(19)
暫定ではありますが。よろしく。
ニュギリュレルヴルウ♪
何か言葉を話しているようにも聞こえないでもない。
微塵子たちの断末魔は、ゴム風船がねじれたりするときの音に聞こえる。
今にも大道芸人甲月が、ひょろ長い風船をひねって、お花とか動物とか出しそうだ。
シュッドッドッドッドッドッドドドドガン。
金糸雀號のロボットアームが工業用のリベットを撃ち出す音も、微かに聞こえてくる。
僕達に寄ってくる超巨大極小生物が、次々に迎撃されていく。
まだまだ全周を取り囲まれてるから、濃い空の色やずっと下の方に見えていた海面なんかは見えないけど、金糸雀號の周囲に多少の空間が出来た。
「あんなに柔らかくてひ弱なのに、貫通はしないんだな?」
「初速わぁ280m/sec~、有効射程わぁ約190メートルでぇす♪」と銃弾並の威力だから突き抜けて2、3匹倒せそうなモノだけど。
どれだけ至近距離で着弾しても、一つのリベット弾に対し、きっちり一匹しか倒すことが出来ないのだ。
『UNKNOWN・B~M 撃破数合計 30X.』
戦闘中の状況を知るために、金糸雀號見取り図だけをスマホに表示してもらってる。
いま撃破数がうなぎ登りで300を超えたところ。一桁の位は早すぎて見えない。
敵の名称は分からないからアルファベットになってるけど、……少なくとも12種類のミジンコが撃破されている。物理検索に引っかからないモノは自分達で呼称名を決めるのが恒例だけど、こいつ等は微塵子で良さそうだ。
「強靱な皮膜みたいなので覆われてるのかしら……、でも全然強くないわよね? ビス留め程度で弾けちゃうんだし」
横を見たら、ロボットアームに押されただけで弾けてた。
「いま、ロボットアームがかすっただけで破けたよ。……どういうことだろう?」
こいつ等は弱い。僕達でも棒を持ったら撃破出来そうなくらいに。
「お二人ともぉ~、目のつけ所がぁ良いでぇすぅねぇ~♪ 現行空間は、物理法則が改変されていると考えるのが妥当でぇすぅ~♪」
「物理法則が改変? タイムビューアみたいに?」
「いえ、タイムビューアは物理法則の増設でぇすぅ~♪ 物理法則改変は、ツアー中に既に何度も目視確認されていまぁすぅよぉぅ~♪」
「うん? えーっと、……じゃあ、ケフラットモール達が投げてきた、魔方陣付きのハンマーとか?」
「はぁい、そうでぇすぅ~♪ 魔方陣を出現させ、その呪術的作用で物性の差し替えや強化を行う事は物理改変と見なしまぁすぅ~♪」
よし、理解した。
確かに、現代の地球には魔方陣でなにかの作用を強化したりする技術なんてない……。
いや、あるじゃんか。鶯観光の連中や、他ならない受理ちゃん達も魔方陣使ってるよね?
詳しい話は〝青い手帳絡み〟の情報開示待ちだから、まだ聞けてないけどさ。
そろそろ、甲月とリィーサが持ってる青い手帳、恐らくは異世界や異世界関連技術に関する全ての疑問が詰まった原初の書。
あれにアクセスする方法くらいは聞いておきたいけど、いまは――。
「――コッチの弾薬を減らすことが目的なのか?」
率直な意見を述べるにとどめる。
「面っ白そーなお話してますねー。私も混ーぜて❤」
操縦席を抱えてガタガタと寄ってくる住居ローダー住人甲月。
「……いいんですか、そんなに暇そうにしてて」
仮にも人類存亡を掛けた一大決戦中(4/10)だろ。
「いやぁー、会田と弐と金糸雀號である零が滞りなく対処しておりますのぉでぇ~、いいかなーと♪」
僕とケリ乃の前に設置したちゃぶ台兼操縦席には、TVリモコンとミカン籠やグミやガム、そしてナゼか醤油差しやラー油に食卓塩まで常備されていた。
ちゃぶ台、……動くのかよ。足の一本にケーブルが繋がってたり、縁に木製の操縦桿が折りたたまれたりてるけど、ほんとにちゃぶ台として使ってんだな。
「……減俸されなきゃいいですけど? ……もぐもぐ」
差し出された中からグミを選んで口に放り込むケリ乃。
口調にトゲがあるのは、住居ローダー住人が僕に抱きつくみたいにピッタリとくっ付いてきたからだろうか。
僕は仕方ないからケリ乃の方に体をずらした。
そうすればケリ乃さんが距離を取ってくれるから、パーソナルスペースを確保できるだろう。
「…………あれ? ケリ……莉乃さん?」
ケリ乃さんは左右の手を使って交互にいろんな色のグミを口に放り込んでいく。
あの、こんなに密着したままだと、いろんな意味でドキドキするから、ちょっと離れてくれませんか?
そう言う顔で見つめていたら、次第にケリ乃さんの顔が赤くなってきた。
ロクにかみ砕けてないのに高速で無限グミ(たぶん一定量を下回る度に何らかの手段で入れ物に補充されてる)なんかやってるから、ふくれっ面みたいになってる。
いやいやいやいや、まてまてまてまて、今日はホントみんなおかしいよね!?
僕は立ち上がり、ちゃぶ台を飛び越えた!
ケリ乃と甲月とで円周を三等分する位置に、僕は座り直した。
「あれ? ソッチに座るんですか? 折角の両手に花なのにもったいない……ブツブツ」
なんかブツブツ言いながら住人が座布団をくれたので、僕とケリ乃はフカフカな座布団に腰をおろした。
むむむ。やっぱり全員がハイになってる気がするので、小さい子達を目視確認する。
金糸雀號の小さくて細っこい方のロボットアームと同型のが、子供達をぶら下げてラボラトローダーの周囲を回ったりしてる。
元からハイな子供達の違いは分からなかったけど、楽しそうで良かった。
ロボ腕(小)の操縦は受理ちゃん達がやってくれてるから安全だしな。
しかし、微塵子たちは一瞬でオワコンになったぞ。
イベントやアトラクションとして考えたら、異世界側の残存兵力は、最終日まで持つんだろうか?
◇
「絶命するとぉ体組織が微粒子化してぇー、攻撃してきた相手に向かって放出されるよおでぇすぅよぉぅー♪」
甲月付きの受理ちゃん壱が、集まってきた微塵子たちに関する解析結果を報告する。
「微粒子化っていうのは、クラゲが水になるみたいな?」
「相手に向かって? 一矢報いてるつもりなのかしら?」
会田さんや金糸雀號達の頑張りで、密集されていた周囲の空間がひらけてきている。
「ふふふっ、非常にふざけた、もとい興味深い生態してますねぇー。科学者としては、持って帰れるならあのなかの一匹でイイからお持ち帰りしたいところですよ~♪」
弾け飛ぶのは生態で、一匹ずつしか倒せないのは物理法則が改変されている関係らしい。
「そぉですねぇ~。これだけ隙間ができたら、探査プローブからの映像もちゃんと映るでしょうからぁ、近くで見てみまぁすぅかぁ~?」
ちゃぶ台の上を指揮棒を杖代わりにしてうろついていた受理ちゃん参が聞いてきた。
たしかに所々隙間が空いて濃い空や、ずっとしたの海面が所々見えてきている。
――――ヒュッパッ。
アップにされた微塵子がスグ横をバタフライで通り過ぎていく。
前方は少しひらけていて、遠くの方にまだまだ沢山の極小生物に酷似した形態の超巨大生物が浮かんでいる。
ちゃぶ台の真ん中に浮かんだ半球状の空間。コレ全てが縮尺された空間映像になっていて、正直相当面白い。
「ではコチラぉ~、お使いくださいまぁせぇ~♪」
ちゃぶ台の縁まで歩いて行って足下をトン。
ジャカリと飛び出てきたのは金糸雀號の座席に付いてるのと同じザイズの操縦桿。
でも、コッチのはちゃぶ台と同じ木目が付いてて、明らかに木製だった。
「うわっとと!」
映像が急に失速して急降下を始めたから、僕は慌てて操縦桿をつかんだ。
つかむと同時にアームレストがのびて、肘全体がホールドされる。
方向操舵は見た目通り。上昇下降も反転させずに普通に操作できる。
僕は探査プローブの姿勢を、取り戻した。
水平に戻った主観映像を左右に大きく振ってみると、右側にチラリと金糸雀號と住居ローダーが見えた。
僕はソッチへ舵を切る。
すると金糸雀號の全体が見えてきた。
「「「ウッギャァァァァァァッ!」」」
つい甲月の叫び声につられて、僕とケリ乃まで「ウッギャァァァァァァッ!」って言ってしまった。
こう言うことか。
さっき受理ちゃんが報告してくれた〝弱き者ども〟微塵子の生態。
『絶命すると体組織が微粒子化して、攻撃してきた相手に向かって放出される』
ケリ乃が言ってた「一矢報いたつもり」ってのがある意味正解だったらしい。
奴らの返り血を極至近距離で浴び続けた、金糸雀號は綺麗にラッピングプリントされていた。
何匹分もの微塵子たちの〝生前の姿〟が鮮烈に。
それまで、弱い敵だし色味もカラフルだったから、僕達はなめていたのだ。
異世界敵性生命体達の訳の分からない、――造形と生態を。
ミジンコっぽいのが赤。
ケイ藻と言うより電車っぽいのが青。
角が生えたクラゲみたいなのが緑。
腕がいっぱい生えたエビみたいなのか黄色。
雪の結晶とか木の枝みたいなのが紫やオレンジ。
水で洗うとスグ落ちるみたいで、会田さんがワイパーを掛けたところは綺麗に切り取られている。
全部ひっくるめて、鮮やかな空一面が、おぞましく感じられた。
「生前の姿そのままに返り血でプリントされることに狂気は感じますが、脅威は感じません!」
と強がる添乗員兼科学者の口元は、ひどく歪んでいた。
「気持ち悪いけど、水で落ちるなら安いもんだな」
「そ、そうよね。気持ち悪いけどね」
「「「なあに~?」」……どーしたの?」
年少組が景色やロボットアームに飽きたのか、ちゃぶ台に寄ってきた。
◇
「受理ちゃん、さっきの機械腕がここまで来るのにどれくらい掛かるか概算出る?」
甲月が自分の肩にひっついてた受理ちゃん壱を掴んで目の前に持ってくる。
「そ-でぇすぅねぇぇぇっ♪ 海岸から海上に進出したときの速度が30m/minでぇしたかぁらぁ~、約8日ほど掛かると思われまぁすぅ~♪」
「8日!? それじゃ連休終わっちゃいますよっ!?」
「そうよねっ! それに今日中に倒さないといけないんじゃなかったの?」
「まあ、落ち着いてくださいませ。そのへんはコチラが考えずとも向こうが、帳尻を合わせてくるから問題ありませんので~」
帳尻を合わせるってのがどういう意味かはわからないけど、異世界側が本日中の決戦を間に合わせてくれる確約があるらしい。
まだまだ隠された情報があるって事は確信できたけど、それって少し、いやかなり、きな臭くないか?
僕達がむずかしい顔をしていたら、青い手帳を引っ張り出そうとしたから、とりあえずの納得をする。
今のところアレを出されたら、乗客は従うしか手が無いのだ。
「あ、おミカンいかがですか? 甘くてオイシイですよ♪」
取り繕うように話題を変える美人添乗員。
「お腹いっぱいだからいらないわ」
そりゃあれだけグミをつめこんだらそうなる。
「「「みかん。たべる!」」……はんぶんこ?」
双一が甲月に剥いてもらったミカンを食べ始める。
双美と次葉も、半分に分けたミカンをそれぞれ食べ始めた。
僕は横にあったガムをもらった。もぐ……、うわ、酸っぱっ!
「ぅひーっ!?」
包み紙を見たら『100%合成天然レモン果汁30%配合』なんて、まるで引っかけ問題みたいな栄養成分が書かれてる。
変な汗出てきた。あと、包み紙にはジョギングする白衣の女性が描かれていた。
ダイエット効果でもあるのか?
そういや、まえも思ったけど、ツアーはじまってから食べ通しな気がする。
そろそろ乗客全員の体調管理を受理ちゃんに、お願いしておかないといけないかもしれない。
この酸っぱさをケリ乃にも味合わせてやらなければ。
僕は酸っぱさをかみ殺して、〝酢ガム〟を差し出した。
◇
「初日が肉弾戦とドリルっぽいのだろ? そして、二日目が小魚と軟体動物っぽいのが来て……」
「三日目がまたドリルっぽいのいたわよね……、凄く強くて硬いヤツ……もぐもぐ」
ひょい。ケリ乃の手が〝酢ガム〟に伸びる。
予想に反して、彼女の味覚は酸っぱさに耐性があった。
『大ダコ』『チュロス』『稲荷寿司』
なんて食べ物の名前を羅列するケリ乃のスマホメモを前に、僕達は考察をつづける。
ただ流されるばかりじゃなくて、置かれた状況をまとめておこうと思ったのだ。
金糸雀號の探査範囲に敵影はなくなった。
日中は燃料を使わずに風船だけで高度を維持できるらしいから、ひとまず休憩中。
新しいちゃぶ台が設置され、自動索敵モードで広範囲に警戒中の探査プローブの一機を小さい子達に操縦させてくれている。
金糸雀號の装備はどれでも遊びに使える。優れた道具はソレだけで十分に面白い。
「どおかぁ♪」「されましぃたぁかぁ~?」
僕付きの小さいのが、ケリ乃付きの小さいのと手に手を取って、コッチを見上げてきた。
「ん、いやさ。昨日までの金糸雀號に対する攻撃の成果を、異世界側の勢力は学習してるんだなーと思ってさ」
っていう単なる一人言みたいなのに鶯勘校勢が全員、食い付いてきた。
「「「「「「「「「えっ?」」」」」」」」」
鶯勘校勢(リィーサ除く)と全ての受理ちゃん達がコッチを振り返る。
後ろを見たら会田さんまで大口を開けてた。
なに、この圧力。ケリ乃に助けを求めるも、彼女は急にみんなに呼ばれて、あっちのちゃぶ台に移動してるし。
ジッとケリ乃を見てたらコッチを横目で見て、〝鶯勘校勢の謎の学術的優先順位には関わりたくありませんよ〟と言う意味の首振りを返したきり、背中を向けられてしまった。
僕を一人にしないでくれ。
◇
「異世界化中のリソース管理わ誰がどうやって――――」
「点在する空間異常物件がその発露なんじゃねーのか――――」
「いや、ソレを言ったら、Tビューアが異世界化プロトコルを統括してるからこそぉ――――」
「そうしましたらぁ♪ 〝空間異常領域検出機構〟に類する緩衝記憶装置はドコに有るんでぇすかぁ――――」
「――♪ ――――」「――、――――」「――! ――――」
受理ちゃん達も交えた白熱の議論。当然、僕にはとてもついて行けない。
受理ちゃん参がまたプラカードの出し過ぎで、毬栗みたいになったから、指先で突いてへし折ってやるので精一杯。
ちなみに、へし折った分のキーワードに関する講座やガイドやレクチャーは全部、後日、僕が受けることになる。もう怖いから保留件数の表示は消してもらってる。さすがに四桁は行ってないと思うけど。
「ふう、リィーサが〝偽籍測量結果〟を解析して出てくるまでは、どこまで行っても平行線ですねー」
なんか、異世界化の主な原因とか、空間異常領域内で発生する謎のエネルギー発生原とか、根本的なところは、全く解明されてなくて、僕みたいな外野の素っ頓狂な意見を聞いて議論が再燃したりしている。
それは、そんなあやふやなモノに求心力を与えるだけの情報が、〝青い手帳〟には書かれてるってことの裏返しでもある。
「もう一度、参考までにお尋ねしますが、あの微塵子たちが認識遮蔽していたにもかかわらず、どうして居るって分かったんですかぁ?」
あれ? 議論の対象っていうか矛先が僕に向いた?
「さっきも言ったけど、ただ輪郭が見えただけで理由なんてぜんぜん分からないですよ! 心当たりもない……、って言いたいけど思い当たるのは、あの体中くすぐられてるみたいなあの感覚で、体の中の何かが変わったんじゃないのかって事くらいで」
「……そう言う意味でもぉ〝偽籍測量〟のぉ解析ぃ待ちぃでぇすぅねぇ~~♪」
「対クローキング機能が、佳喬様の眼に備わったと見てよさそうですね――――、ときに佳喬様、ツアー終了後、ウチにバイトに来ませんか?」
「バイト? 研究所で、僕が?」
前にも就職斡旋されたけど、一介の高校生に、あの天才科学者集団の中で、お役に立てることなどない。
「異世界転移能力だけじゃなくて遮蔽装置を看破する〝幻視の魔眼〟も併発してるとなれば、時給2万円くらいもらっても罰は当たらないと思ーうよ?」
ちょっとまて、会田さん。
ソレって体の良い、いや悪い――、モルモット扱いなんじゃ?
◇
添乗員の美しい顔が真っ赤な夕焼けに照らされている。
異世界の日の高さが現実とどれだけ一致してるのかは分からないけど、直下の海が真っ暗で何も見えなくなってからだいぶたつ。
識別された敵拠点の名は、『震源断層採掘場』だったはず。
震源断層ってのはまだ判らないけど、採掘場って事は鉱山か石切場みたいな感じだろ。
周り一面海で陸地が見えないのが気にかかる。北海道はどこに行った?
異世界化の余波で地形が変わるとは聞いてたけど、島がなくなるほどの変化には甲月達も困惑してた。
「そろそろ日も落ちますね。金糸雀號の高度が維持できなくなりますので、どういたしましょうか。もう一度高高度までエンジン吹かして飛ぶか、このまま着水するか――――」
「添乗員甲月へ業務連絡。俺は高度を取った方が良いと思うんだが、首席からコスト温存しろってティッカー流れてきたぞ」
「んーーーーっ。探査プローブ損耗率49%。残存電力ソケット4つと燃料タンクは80%プラス予備タンク50回分。あとは兵装損耗軽微、そんな使ってないけどなー。首席のドケチめ」
ドガン。ロボットオブジェからハッチの内側を蹴る音が響き渡る。
「あー首席は太っ腹だなー。肉付きも良くって健康的だなー♪」
ドガンドガンドガン!
本来、灼熱に耐える隔壁越しにこれほど大きな音が届くはずはない。
あえて蹴る音を増幅してコッチへ伝えているのだ。
「甲月さん、うら若い乙女に太っ腹とか健康的って表現は控えた方が……」
みかねたケリ乃がそれとなく諭す。
でもたしかリィーサは鶯観光歴が甲月達より長いって話だから、見た目よりは若くないんじゃなかったかな。どっちにしろ甲月は、もう黙ってたほうがいいんじゃないか。
また鉄塊でぶん殴られるぞ。
「ちぇっ、じゃーしょーがない。コスパ重視で行きますかー。受理ちゃん壱へ業務連絡。全方位索敵」
「全方位索敵開始――ぐ~るぐ~るぐ~――敵影を確認」
声のトーンを落とした、受理ちゃん(壱)が遠くを見るようなポーズで360度回転した。
「敵性兵力、当機六時方向より金糸雀號へ時速320kmで接近中♪ その数、……2224、3476、約1100体/秒で増加中ぅ~♪」
その報告を聞いた兵士甲月の顔がこわばった。
「――――会田ぁ! 敵影最大望遠、正面に出せっ!」
――――ピュッワッ♪
僕達は拡大表示されたその姿を見て、戦々恐々とするしかなかった。
新たに発見した敵影を表示するためにMAP表示の尺度がドコまでも小さくなっていく。
少なくとも周囲100キロに総数3400体以上の敵が高速で接近中で、今なお数が急激に増大中で有ることを知らせてくる。
その高速接近する水面を走る列車は、先端に付いたクザビ型の鉄塊で文字通りに、海を割り背後に陸地を出現させていた。
寸断された海面から押しのけられた岩盤が左右交互に隆起する様は、まるでモーゼかファスナーで開かれた筆入れみたいで。
筆入れから飛び出してくるのは消しゴムや鉛筆ではなく、無数の微塵子とドリルアームだった。
「甲月……さん! 僕達に制服を下さい! 急いで!」
あれ? 居ねえ!? どこ言った甲月?
いつの間に飛び込んだのか強化服ハンガーから〝強化服3号機〟が飛び出してきた!
もちろん中には甲月が入っていて、その手には魔杖が握られている。
――――カヒュゥーィ♪
「落チ着ケ! ヴァカモンガッ! ソンナ強化服一着デドウスルツモリダッ!」
エアロックに飛び込もうと横を通り抜ける強化服に投げつけられる、拡声音声とロボ腕チョップ!
特攻番長甲月緋雨、撃沈。
そう、住居ローダー内部中央にある、ロボットのコックピットにはロボ腕が付いたままだ。普段は邪魔にならないように折りたたまれてるけど、有事の際にはこうして操作することも当然出来る。
「コスパ重視であんな凶悪そうなヤツに勝つには、もう私が出るしか無いじゃ無いですかっ!」
配線の都合か、もろい高床にめり込むオオカミが抗議の声を上げた。
――――プシュゥーィ♪
開かれる天の岩戸。
「ソレに関して超絶に面白い情報がある」
グヒヒと顔を歪ませる美少女が取り出したのは僕が手渡した光線銃だった。
さあ、話数残り一発で倒せますかね。
2020/11/16 自動処理:コード妨害(大)×1.




