四日目(18)
暫定ですが。よろしく~♪
「「「面白そ~ぉ! やりたい!」」……な~?」
「ダメなんだーよなぁ。コレは二種免許無いーとさっ、おっと!」
会田さんが、すがりつく年少組をものともせずに、金糸雀號を走らせる。
ゴォォォォォォォォッ――――――!
パパーーン♪ キョキョキョキョッ、ブロロロロッ――――!
上空から落下してきた12㍍パラボラアンテナを華麗にかわす、面白バス金糸雀號。
ドガッン――――――ズザザッキョキョッ、ブロロロロッ――――!
巨大質量のあおりを喰らってホップする正式名称〝多目的科学測量用戦闘車両〟は、その名にふさわしく、勇猛果敢に危地へ飛び込んでいく。
正面モニタに表示されるカナリア色の光点は、――止まらない。
「会田さん、カッコイー!」
やっぱり、ハンドルかアケコン持ってるときの彼は輝いてる。
「ちょっと、素敵ね」
恋愛監督官様の頬もゆるむってもんだ。
「ゴラァ会田ぁ、いつまでも主機車両を無人のままにして置けんだろうがぁーー!」
画面右下のマップ表示。
薄オレンジの移動中マーカーと現在地との距離は500㍍の目盛り3つ分。
僕やケリ乃からの羨望のまなざしを、こころよく思わない狭量な半裸女性が、操縦席らしいちゃぶ台でくだを巻いている。
絶対、二太郎先輩に年少組の人気をかっさらわれ続けた、不当な恨みも混じってる。
イイからちゃんと制服を着てくれ。
「車手会田より、添乗員甲月へ業務連絡。乗客の皆様に自堕落な姿をお見せする事は服務規程に違反する。30分の減俸並びに住居ローダー内清掃を命ずる!」
僕の願いが通じたのか、会田さんが叱ってくれた。
確かに部屋の中はスナック菓子のパッケージや工具なんかが散乱している。
「んなっ!? 貴様、あとで覚えてろ!」
ちゃぶ台ごと器用に飛び上がる半裸女性。
口を尖らせ、しぶしぶノースリーブのベストみたいなのを着る。
下は制服でもあるタイトスカート、……の腰にゴチャゴチャとゴツイ機械がくっ付いた太めのベルトを巻きつけている。
気になるけど、あんまり見てるとケリ乃に怒られる。
短いスプリングケーブルで数珠つなぎにされた機械に長さはないから、ヒュペリオン1や2のようなバカ火力武器ではないと、……思いたい。
正面をみると巨大モニタに、64㍍パラボラアンテナが映し出されている。
これは遠隔操縦中の金糸雀號からのライブ映像だ。
「異世界化の余波で多少、流されたぁみたいでぇすぅねぇ~~♪」
定位置である僕の肩から、いつもの声が届く。
いま居る住居ローダーは、〝受理ちゃん完全対応〟を謳っている。
受理ちゃん達はやっぱり映像の方がカワイイ。
ボッ、ボゥワッ、ボボボボボボボッ、――――ゴォォォォォォォオォッ!
なだらかだった丘が地を走る炎によって、岩石だらけの岩山に変貌していく。
熱せられた土や草花が輻射熱で真っ赤に焼けていく様は――、昨日で見飽きたからソレほどスペクタクルには感じなかった。
ゴッポン、――――ドッパァァァァッ!
噴出するマグマ。
ピキパキョ、ガガン、ゴゴンッ!
急激に冷却され、自壊する玄武岩。
屹立し敷き詰められていく柱状節理は、一個一個が人や車が乗れるサイズだから、まるでシミュレーションゲームの升目にみえる。
爆発しては湧き出す、多種多様な組成を持つ岩石たち。
バラバラと崩れる岩柱の中から、きらびやかな結晶が転がり出る。
金糸雀號正面が、海賊の隠し砦の様相を見せ、面白バスの足下をすくう。
「ははっ♪ あまいあまい、人が乗ってなーけりゃ、こう言うことも出来ーるっ!」
座布団にあぐらをかいた運転手が、むき出しのハンドルを左右に忙しなく、ひねり倒していく。
……前にもハンドルだけを持ち歩いてたっけ。なんか金糸雀號のハンドルをセキュリティー代わりに引っこ抜くんだけど、良いのか?
キョキョキョキョキョッ、――――ゴゴゴッン、ギャリィン、ゴッガ、バッキョ、ゴンゴロゴンゴロゴロゴロゴ――――――――ッ!
90度旋回した視界が回転を始めた。
これ、地上を転がってる?
粉砕される赤や緑や青、黄色の、軽自動車サイズはありそうな巨大な、――――宝石の原石。
MAP表示によればひときわ大きな原石を、削岩機と化した面白バスが粉砕し損なう。
超巨大原石に乗り上げ、空高く弾かれた瞬間。
「――――ナイトラス・オキサイド・システム作動! 緊急発進――――――!!」
ピピピッ♪ ゴッガンッ!
ドッシュゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴーーーーッ!
空中に躍り出た金糸雀號が角加速度を、そのままに爆発的な推力を見せた。
――――――ヒュィィィィィィィィィィィィィィィンッ!
進行方向に対して2時方向。
MAPサイズを目に見えて変化させるほどの、加速をする薄いオレンジ色の光点。
凄まじい勢いで回転する正面モニタ映像。
まえにも有ったよなこんなアトラクションぽい状況。
「「「「「眼が回るぅー!」……よぅ?」」」」
きゃはははっ♪
ウケてるからいいけど、映像酔いとかしそう。
慌ててケリ乃さんを確認する。
なんか、口の端を引きつらせてるけど、耐えてる。
モニタ映像は回転したまま、大きく旋回していく。
再び正面に捉えられる64㍍パラボラアンテナ。
空中で旋回機動するバスって、バスって呼んで良いのか!?
「んぁ!? 何アイツまだ居んの!? このまま異世界までくっついて来やがるつもりですか!? ナマイキーーッ!」
ちゃぶ台お姉さんが言ってるのは、異世界化する地表の変化に耐え平気な顔で怪光線を放ち続けているパラボラアンテナ(大)のことだ。
ちなみに12㍍の小さいヤツは、隆起した岩盤に激突してピンク色の爆煙と化してる。
「会田へ、業務連絡。空間異常領域への侵入は速やかに行われることが望ましい。よって、合流経路上の一切合切を、――――ぶち抜けーーーーっ!」
「添乗員甲月へ業務連絡。3秒まて――――」
ジェットパイロット会田さんが、ハンドルを維持したまま体を後ろにゴロリ。
飛び退く小さい子達。
会田さんは足を伸ばして体をひねり、腰のあたりから太めのケーブルを引き抜いた。
転がったときの勢いを利用して、再びあぐらをかくドライビングポジションへ。
床運動は、堅そうなケーブルを勢いよく引っ張り出すために必要な手順だろう。
そして、引っ張り出されたケーブルは、今日、大活躍のあの〝円盤〟に接続された。
「佳喬ちゃん、あのケーブルって甲月さんがヒュペリオンに繋いでたヤツじゃない?」
ケリ乃の声には、〝だから絶対危ないヤツよね〟のニュアンスが含まれていて、僕もそう思う。
――――ジャカッ!
両膝で支えられたハンドルの、中央部分が開かれる。
プパァーーッ♪
円盤の尖った方が差し込まれ――――。
「再燃焼装置作動ゼロ秒!」
――――――ゴッヴァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!
MAP光点上に表示されていた『NOS』という小さな警告表示が、『SUPERAUGMENTOR』へと切り替わった!
「「「「「ワッァァァァアアァアアァァッッッッァアアアァーーーーーーーーッ!?」」」」」
僕達は一瞬で大写しになったパラボラアンテナが粉砕されるのを見た。見た目に反して凄く脆かった。
カッヒューゥィ♪ カッヒューゥィ♪
――――――ガガッガガガンッ!
そして、着地点に居た住居ローダーをロボットアームで器用に連結した。
少し床がぐらついたけど直接的な振動や衝撃はない。
「「「「「あれ? 平気だ」」わ」だね」……落ちない?」
回る世界の影響を受けず、僕達は天井に落ちずに済んでいる。
手ぶれ補正機能が働いているだけじゃなくて、重力や慣性制御もされてることになる。
座席がないのもそのせいかもしれない。
二日目の緊急避難時の惨状を見たリィーサが、「対策を講じる」って言ってたけど、…………これはひどい。
車内環境だけなら、もう立派な宇宙船じゃんか。
そんな面白バスの正面が眼の前に見えている。
当然、中は無人だと思ったら、運転手が乗ってた。
ノイズ混りに揺らいでたから、自動的に表示される映像なんだろうけど、一瞬心霊現象かと思って焦った。
気づいたケリ乃さんもギャー言ってた。年少組にはのっぺらな顔がウケた。
「ランデブー成功! 金糸雀號全出力カット! 緊急停止ーー!」
面白バスに突き動かされるやんわりとした衝撃で幾らかシャッキリとした、我らが面白添乗員が叫ぶ。
「はぁーー!? 俺の金糸雀號がそんなショボい再燃焼加速するわけねーだろ! 残り30秒フルスロットルで加速する!」
勢い余って弾道軌道に入る様子が、画面の両端で事細かに図解されていく。
「なに勝手言ってんだ!? 貴様、減俸すっぞ!」
「まあ聞け、ココで止めても経費は同額だ!」
「何の必要があんのか、説明しろ!」
「俺が飛びたいんだぁっ!」
規則厳守の会田さんにしては珍しいな。勤務外なら甲月と一緒になってバカやってるけど。
「僕もっ飛びたい!」「「私もっ!」……ひゅーん?」
小さい子達は、相手にしてくれる大人なら誰でも好きだな。
木宿さんからは、逃げてたけど。
『LIMIT 00:24:88』
ジェット噴射の方向が調整され、バレルロールから完全に復帰した面白ジェット機は、もう既に上昇を開始している。
僕達はドコまですっ飛んでいくのか。
「ちょうど、本日宿泊予定だった北西の方角でわぁ、ありまぁすねぇ~~♪」
――――カヒュゥーーィ♪
「――――よし、会田、許可してやる!」
背後からハッチ音。そして弾道飛行へのゴーサインが聞こえた。
ドッゴゴゴゴゴゴゴォォォォォオォォォォォォンーーーーーーーーーーーンッ!
住居ローダーの質量と姿勢制御に回されていた推進力が一点に集約していく。
加速度だか燃焼効率だかの扇形のゲージが振り切れてなお、小刻みに上昇を続けている。
「首席! 何言ってるんですか!?」
驚愕の表情で背後の自走式自動装填型工作機械を振り返る美人添乗員(ちゃぶ台)。
白衣の少女が、細顎で正面モニタ隅を指し示し、MAP表示を広域に切り替える。
僕達全員の視線が広域MAPに注がれる。
金糸雀號と住居ローダーが合流し、二重丸になった『◎』。
その進行方向とは逆サイドに、巨大な▼マーカーが無数に出現していく。
地を割るピンク色の爆煙で金糸雀號の背後が埋め尽くされる。
もともと悪かった背後の視界はゼロになった。
ポポポポポポポポポポポポポッ♪
あの爆煙の中に巨大な敵が無数に居ることを広域MAPは知らせてくる!
「わーかーりましたー、折角なので物見遊山とシャレ込みますか~」
上司登場で背筋を伸ばした、ちゃぶ台お姉さんがTVリモコンを操作する。
ヒュパパパパパパパパッ!
住居ローダー内の壁床天井の全方位が外部映像表示し、透明になった。
異世界化中のメチャクチャな光景で、室内が包まれる!
無人の金糸雀號も透過されてるから、爆煙の中から出現したモノの正体がよく見えた。
それは、無数の金属塊。
先端に凶悪な形状の掘削ドリルを搭載したロボットアーム群だった。
間一髪で難を逃れたのは会田さんの無茶な暴走(飛翔)欲求のおかげだ。
直撃を喰らったら喰らったで、それに対処はしただろうけど今僕達は金糸雀號に登場してないし制服も着れていない。
そんな会田さん本人は、異世界敵性勢力を出し抜けたことを鼻にかけることもなく、年少組とハイタッチしたりしてる。
七色の爆煙が遠くの地面にも、かすかに見えた。
あっちは試金石撃破から始まった異世界化が、伝播している境界線だ。
これで現実世界は、目に見える範囲には無くなった。
真下には、隆起する岩山で構成される山岳地帯が、凄まじい解像度で僕達を追いかけてくる。
あの下には、ロボドリル腕(巨大)がひしめいている。
初日のロボ腕や線条鉄杭と攻撃の種類が同じだけど、今までの傾向から威力は見た目以上に凄まじいんじゃないかとおもう。初日の砦のロボ腕は甲月がヒュペリオン2の一発で攻略してたけど、線条鉄杭の尋常じゃない強さは数段上になってたしさ。
甲月の強化服が有れば、どんなのが相手でも平気だなんて思ってたけど、甘かったなー。
◇
「…………ぅ~」「…………ぁ~」
次第に遠くの地平線が丸く見えてくるのが怖くて、僕とケリ乃は微動だにできなくなった。
ほんの30秒程度の、噴射テストでなんでこんなに空が真っ青になってんの?
そもそも羽根なんか付いてないのに、おかしくない!?
本当に噴射の推進力だけで飛んでるなら、それはロケットだ。
「受理ちゃぁあぁあぁん、広域マップとぉおぉ、金糸~雀號見取り図ぅ、出してぇくれるぅ~?」
僕達はモニタに対して背を向けてるから、そうしてもらわないと何も分からない。
声が震える。けど、ソレも仕方がないと思う。
――――チッ♪
はしゃぐみんなの様子に、半透明なゴーグル表示が重なる。
『時速1330Km/高度4103メートル/
外気温-7℃/外気圧620hPa/
経度14X・X°:緯度38・X°/
金糸雀號射角矯正±0.2』
「あぁ、音速超えてんじゃんかぁぁあぁ」
ちらりと後ろを見ると、背後の金糸雀號を取り囲むように音速の雲が出来ていた。
「え、そなの?」
僕はヘッドセットを外した。
受理ちゃんのガイドのおかげか、具体的な数字を見ると怖さを正確に感じてしまうからだ。
「二日目の時点じゃあぁ、空まではぁ飛べなかったよねぇえぇぇ?」
「はぁい♪ 会田が申請していた金糸雀號強化改修案が受理され本日未明、より強力な改造パーツに換装されましたぁ~❤」
くそう。やっぱりか。「もういっそ空でも飛びそう」とか言ったらスグに実装するって思ったから、言わないでおいたのに、言わなくてもこうやって空飛ぶようにしちゃうもんな-。
「よ、佳喬ちゃぁん。折角の景色見ないのぉおぉぉ?」
自分の膝をジッと見つめながら、ケリ乃が袖を引っ張ってくる。
折角の珍しい景色は僕だって見たいけど、高度4000メートルに生身で放り出される(イメージ)は怖い。
折衷案として、外部映像を進行方向、つまり住居ローダー背面側だけにしてもらった、
それ以外はR18のシルエット表示の、おまけ付きで。
ふう。いくらか落ち着いた。
僕達だって伊達に何度もバスで空を飛ばされてきてはいない。対処法も身につくってものだ。
そっと真下を見る。
金糸雀號にかなり遅れて、地球創世みたいな山岳隆起が追っかけてくる。
じっと見ていたら、CGでできたシルエット表示なのに、自分が高高度に浮かんでいることが頭から離れなくなった。
「受理ちゃん、やっぱり怖いから、床のシルエット表示は消してくれる?」
「えっ!? じゃあ、アタシもそれにして!」
ケリ乃さんが僕の肩をひっつかんでゆすってくる。
肆ちゃんに頼めば良いじゃんか。
「はぁい♪ 了解、……受理されましたぁ~❤」
いま受理ちゃんが、自分のキャラ付けと周囲の状況との優先順位のすり合わせを行ったのが分かった。
受理ちゃん達はドコまでも僕達に適応してくれるけど、僕達だって多少は適応能力があるのだ、
――――ジッ♪
床の透過表示が消えて元の散らかった床になる。
そういや、二太郎付きの〝却下さん〟は強化服の中に回収されたままなのかな。
出してあげなくて良いのかな?
でもな、こんな音速飛行中に暴れられたら命に関わるし、……放っておく事にする。
◇
「どこだここは?」
ちゃぶ台から身を起こした美人天才科学者が、途方に暮れる。
風船に吊られ宙に浮かぶ金糸雀號。
高度は2000メートル。周囲は、見渡す限りの海だ。陸地は見る影も無くなってる。
途中まではロボットアームが頑張って海に陸地を造成して食い下がってたんだけど。
現在地点は、昨日打ち込んだ地中の〝超高精度次元変動追跡局第一号〟によって補正された正確な座標によれば、だいたい北海道島上空のはず。
正距方位図法による現代地図が眼下に投影される。
広大な北海道の地図でいえば活断層の近く、国立公園なんかが有るあたりのハズなんだけど。
……やはり見渡す限り海。
異世界化をしても、ある程度の地形が反映されていると思っていたのは甲月達も同じだったようだ。
「このままジッとしてても、らちも明かないし。ちょっくら金糸雀號に戻るか」
え!? こんな上空で乗り移るの!? ソレって危なくない!?
いくら神速のブーツやゴリラに勝てる制服があったって――――。
止める間もなく駆けだす会田さん。
「ちょっとまっ――――」
顔を上げたときには、背後から開閉音。
「――――呼んだかい?」
金糸雀號運転席の後ろには移動ラボやその他のモジュールが備え付けられていて、それには扉も付いている。
金糸雀號を振り返ると既に会田さんが搭乗していた。
っふーーーー!
あせった。けど、よかった。金糸雀號のカーゴルームとかと同じで、エアロックから外に出なくても行き来できる仕組みになっているのだ。
隣でケリ乃も薄い胸をなで下ろしている。
よかったよかった。
あれ? また心を読んだのか不意の鋭い視線で、ケリ乃に射すくめられる。
「ときに甲月、〝偽籍測量結果〟どこやった?」
「え、私知りませんよ? ひょっとして先輩が持ってっちゃった!?」
「いや、測位衛星用地球局なら拾っといたぞ。さっきそこのA2引き出しにしまった」
会田さんが金糸雀號から会話に混じる。
一人だけ金糸雀號ってのは危険かとも思ったけど、こうして会話は出来るし問題は無さそう。
比較的近くに居た僕が、まだ高さが怖いからゆっくりとだけど引き出しに辿り着いた。
触ると『A2』って表示が浮き出た引き出しを開けて、仕切られたケースの中から光線銃を取りだす。
「ん?」
一番奥の仕切りの中にガラス質で固められた例のひしゃげたヘルメットを発見した。
へー、良かったなオマエ。撃破されちゃったけど、こうして残骸だけでも残ってるなら何かしらの意思みたいなのは解析して貰えるだろ。
バタン。
引き出しを閉めて戻る。
「――――会田さん! 後ろっ! なんかいる!」
僕は高さが怖いのも忘れて、叫んでた。
「なにっ!? ――レーダーに機影無し。……何もないーけど?」
でもいる。
僕の眼にはしっかりと、ユラユラ漂う〝ミジンコ〟が今にも金糸雀號に取り付こうとしてるのが見えている。
でもソレ、……ソイツらは全然〝微塵〟なんかじゃなくて、金糸雀號の横幅と同じくらいのサイズがある。
巨大な微塵子達は広範囲に広がって結構沢山居て、じんわりとコッチに集まってきていた。
大きさが段違いだけど、昨日の幼殻類みたいな集団攻撃をしてくるのか?
「ホントに見えてますよ! 透き通ったミジンコみたいなのがいっぱい! 金糸雀號に取り付こうとしてます!」
「「「「「みじんこ?」」見たことある!」あたしなーい」……小さいのかな?」
「ふむ? ひとまずソレをくれないか、ヨシタカちゃん?」
彼女なりのジョークだろうけど、この緊迫したときに止めて欲しい。
ケリ乃さんのオーラが増大していくのを肌で感じる。
――――プシューゥィ♪
リィーサは僕から〝偽籍測量結果〟を受け取ると、自走式自動装填型工作機械のハッチをさっさと閉めてしまった。
ハッチ表面に写し出された中の映像は、コンソールに接続した光線銃を解析するのに夢中だった。
適材適所。自分のやれることを優先しているのだ。
じゃあ、僕はどうしたらいい?
「受理ちゃん、どうしよう!?」
「そぉうでぇすぅねぇぇぇ~?」
僕にわしづかみにされたAIキャラクタは、頬に小さな手を当て、斜め上を向いて思案している。
かわいい。かわいいけど――――。
僕の言うことをいち早く信じてくれたのは、ちゃぶ台お姉さんだった。
「会田へ業務連絡! 探査プローブ全弾発射いそげー!」
半透明のシルエット表示な金糸雀號から、半透明なロボットアームが二本伸びた。
迫撃砲のようなポンポコした射出音で、左右交互に飛び出していく小さなロケット弾みたいなの。
そのウチの数発が、極至近距離でミジンコに命中した。
会田さんのスグ横。
半透明で輪郭くらいしか見えてなかった虚ろな存在が、ぷるりっと震えるように実体を現した。
小さな手が生えた丸っこいフォルムはやっぱりミジンコそっくりだけど、燃えるような色をしてるとは思わなくて、僕までみんなと一緒になって驚いた。
色づいたソレは、どこからどう見ても未知の異世界敵性生命体だった。
その少し後ろには、真っ青な列車みたいなのがブルルルるっと物凄いぶるぶるした動きと共に出現していた。
その数や色彩がドコまでも増えていく。
金糸雀號は、色彩の暴力に取り囲まれた。
残弾2話。どーすんのさ。
20201111 自動処理:コード妨害×1.




