三日目(10)
三日目(9)の文字数が、1M超えてしまったので分割しました。
多少、科学技術的な部分の補足を足しました。
「佳喬様、莉乃様。これ以降、〝謎の鉄串〟を『線条鉄杭』と正式に呼称致しても、――ぐりん――宜しいでしょうか?」
「だからそれ、いちいち聞かなくて良いですよ」
「え? 私にも聞くの? なんでよ?」
「いえ、弊社の服務規程に則って行動いたしませんと、私の薄給がより無残なことになりかねませんので。莉乃様にお聞きしましたのは、的確な〝呼称名候補〟への著作権的な配慮です」
「金糸雀號直上、急速接近する高熱源体、恐らく〝線条鉄杭〟を再び感知!」
僕達の間抜けな会議を、会田さんの緊迫したアナウンスが強制終了させる。
けど、アナウンスも一部、間抜けだった。早速〝チュロス〟正式採用されちゃってるじゃん。
「車首会田へ業務連絡――使用中の全天透過モード/標準レイヤーを間接射撃レイヤーへ変更されたし。受理ちゃん壱は本作戦に限り、管理者権限で射撃諸元算定プログラムを実行すること」
周囲の映像に変化はない。
けど、地中の奥深く、僕達から見ると天井側に立体的な三角錐が表示された。
「了解しました。管理者権限で射撃諸元算定プログラムをスタートします」
魔杖から聞こえる声はいつもの受理ちゃんの声じゃなくて、零ちゃん寄りの大人っぽくてノイズまじりの機械音声――――。
「あ、〝チュロス〟こっちに来るよ?」
不意に|双美が手元の模型を手で回転させた。
傾く金糸雀號(模型)。
透明なケージを手で回すと、中の金糸雀號も回転軸に沿って旋回機動。
そして無造作に押される『⑱ボタン』。
でも、その場所は金糸雀號直上じゃなくて、9時方向仰角マイナス30°くらい。
バタバタバタッ――――ガリガリズザザザァッ。
局所的に可動され、坑道壁面に接触するほど隆起した〝鱗状の外部装甲板〟。
実際の位置的には次葉の座席側。初日に獣みたいな妖精が飛び込んできた辺りの少し下。
――――ドッゴォォォォォォォン!!
突き上げられる衝撃。その立体的な三角錐が文字通り車内に進入してきた。
直撃を喰らった次葉が座席にしがみ付く。
砕け散る、適性兵力を示す間接射撃レイヤー上の〝三角錐表示〟。
鶯勘校制服と砲手用の耐Gシートはちゃんとお嬢様を守ってくれている。
坑道壁面からの爆発放電、飛び込んでくる――回転体。
ギャギギャギギャリリリリリリィンッ、ヴァリヴァリヴァ――――ガッギュッギィィィィィンッ!!!
ソレは金糸雀號の床下側から突き立てられ――――一瞬で寸断された。
双美が展開した〝可動式装甲鱗〟が、突き立てられた高熱の掘削ドリルを寸断して撃退した……らしい。
「なんで!? 〝装甲板〟なんていうから、比較的平和で良いわねって思ってたのに!」
ケリ乃が肆ちゃんに聞いてる。
ほんとだな。切られた線条鉄杭先端が10時方向仰角80°に突き刺さってる。
威力で言ったら、新装備の規格外の冷気攻撃と同レベルって事だ。
そう考えると、金糸雀號が頼もしいと同時に屈強な檻のようにも思えてくる。
「はぁい♪ ご解説させてぇいただぁきまぁすぅよぉー。隆起した〝可動式装甲鱗〟を脈動させることにより、敵弾の初速を殺します。その後、通電式の『電磁装甲』としても機能させまぁーす♪」
可愛く説明してくれてるけど、……『電磁装甲』って何だっ!?
肆ちゃんの解説に合わせた詳しい図解が、座席モニタに表示されていく。
戦闘中にやってる場合じゃないけど、今、僕には仕事がない。
せめて装甲板が敵を寸断した理屈だけでも頭に入れておきたい。
『1:〝可動式装甲鱗〟を隆起させ、攻撃に備える。』
『2:着弾と同時、〝可動式装甲鱗〟に掛かるテンションを瞬間的にカットオフ後、フルパワーで再隆起。』
『3:軌道を逸らした敵弾に落雷並みの数万アンペアという大電流を直接※ぶつける。』
『4:局所的に発生した電磁場によって敵弾芯をへし折り、ジュール熱で焼き切る。』
「金糸雀號専用〝可動式装甲鱗〟…………ベトレイヤー1のレーザーシャベルなんかよりよっぽどおっかない代物だったな」
「そ、そうね」
ケリ乃にも今は仕事らしい仕事がない。僕と同じ事を考えたんだろう、自分の座席モニタを睨み付けている。
今朝、水中で活躍するはずの怪魚が入った〝生体HDD〟を借りてなんかやってた猫エプロンが、「山沢ご兄妹にも〝生体HDD〟、有効利用して貰いましょう」って言い出した時、一体どうするんだと思ってたんだけど。
あの小魚が纏ってた赤い球状空間。あの自身のテリトリーを死守するための空間把握能力。
ソレを使って双子達が辺りを付けた大まかな範囲から、更に正確に狙いを絞る為の補佐プログラムとして利用するのだという。
作動条件がシビアな〝電磁装甲〟が要求する高分解能の幅は…………『※2ミリ以下』?
これは流石に見間違えだろう、……だよな。
「双美様、お手柄です! 敵は電磁波による妨害を隠れ蓑にして、位置を偽装しています。この坑道を取り囲む360度方向からのブラインド攻撃は――――「あ、ココにも!」
双一の小さな手が、模型を取り囲む透明なケージに伸びる。
――――ドッゴ――ガッギュッギィィィィィ!
今度は1時方向。〝線条鉄杭〟が出現と同時に寸断された。
でもコレって、……会田さんが居る運転席を狙ったんじゃないか?
そしたら、さっきのも次葉を狙って来たのかもしれないじゃん。
「金糸雀の格闘レンジより、〝線条鉄杭〟が離脱!」
会田さんのホッとした感じのアナウンス。運転席だから、ほとんど直撃を喰らった様なモノだろう。
さっきの中学生みたいに、立体的な三角錐表示に横から貫かれている所がありありとイメージ出来た。まあ、無事で良かった。
「敵行動予測は機能せず、〝群選択〟による制限は継続――」
添乗員兵士から多目的科学測量用戦闘車両車手への業務連絡、からの沈黙。
「――――――――――――お二人は、どうやって、〝線条鉄杭〟の進入経路が前もってお分かりになったのですか!?」
〝戦術級携帯防衛システムの廉価版〟を抱え、面白バスの模型と双子を何度も見比べている。
カチャペタリ。
やがて、呆然としながらも添乗員いや、魔法遣いが魔杖を壁のアタッチメントに貼り付けて手ぶらになった。
〝線条鉄杭〟の居ぬ間に押される座席パネル。
「リプレイ見てみましょうか?」
引き出される片眼鏡×6。
「「――この時、この辺に小さい矢印がいっぱい出たから、ソコをじっと見てただけだよ。そしたら、小さい矢印が重なって大っきな矢印になって――」」
指差す場所は違うけど、一字一句違わずハモる台詞。
魔法遣いを、シンメトリーに見上げる双子。
「――飛び込んできたと言うわけですねー。コレって、受理ちゃん達の強化学習成果とも違うし……まさか、『高課 金量 子演算』?」
研究者甲月の震える言葉は、区切りがおかしくて一瞬何のことか分からなかった。
『『『『『高架 禁猟 私怨斬?』』』』』
その声を拾った座席モニタが一瞬誤変換したくらいだ。
何この呪われそうな字面……ひょっとして必殺技?
入力コマンドで言ったら、〝前から下半回転で後ろ、前+全ボタン同時押し〟みたいな大技感。
会話の文脈から即座に表示し直された座席モニタから、その演算能力の高さを示す数式がはみ出した。
全員、片眼鏡装着中なので、空中に躍り出た数式は無遠慮にドコまでも伸びていく。
乗客全員の首がソレを追って曲がってく中、研究者甲月の見解が続く。
「高課金量子演算です。受理ちゃん達の目標地点算出時の、強力な『高負荷演算』を更に凌駕するほどの、『超大規模演算能力』による物量をつぎ込んだ怪物じみた演算単位です。但し、もの凄い電力とお金が掛かります……本来は」
◇
「これは、ちょっと手に負えませんね。……受理ちゃん達、何か分かりますか?」
壁の表示パネルを操作して、最新の収支決算を確認していた魔法遣い研究員がサジを投げた。
壁にくっつけておいた魔杖を再び手に取りながら、多種多様な並列演算も可能な部下達に尋ねた。
「「「「「そぉうでぇーすぅーねー」」」」」
空中を駆け寄ってきた、半透明のホログラフィー×5。
「裏切り者:怪魚タイプは鹵獲される直前に、私たち2体による電子戦を仕掛けられていたので、どうもソレを経験的に獲得していると思われます」
そう言うのは受理ちゃん陸。双一付きの受理ちゃんだ。
「うふふふふふ! 全ソケット使用の高負荷演算以上の〝未来予測〟が定格作動で使い放題!? ぎゅーーーーぅふっふふふふふふふふふっ、うふうふふふっ!」
オモチャみたいな色の魔法の杖を抱きしめ、体をくねらせる魔女甲月。
おい、ほんともう、大丈夫ですか?
小さい子達だけじゃなくて僕とケリ乃の情操教育にも良くないからさ、ソレ止めよ?
三日目(10)までにボス撃破は果たせませんでした。詳細伏せますが、二日目並の強行軍(文字数)になるかも。ブクマあると執筆速度が8倍になります。よろしく。
自動処理:コード妨害×1




