一日目(5)
執筆のための調べ物が進まなくて時間が空いてしまいました。ごめんなさい。
甲月は、ヒュペリオン2発射の衝撃で2メートルくらい吹っ飛んで、正面モニタに背中から激突した。
「ぎゃっふん!」
甲月のふざけてるみたいな呻き声を聞いてる乗客は居なかった。
中学生と双一のちょっと向こう。左側の隔壁が閉じた窓の前辺り。
自分の全長の倍くらいの巨大な火球に押されていく、見た目が全くかわいくない妖精。
魔力的なパワーは顔に入る力に比例するのか、凶悪な顔が更にいびつになり、狂気を帯びていく(もはや顔芸みたいにも見える)。
シュゴゴゴゴォォォォォォーッ!
威力が全く落ちず、微速推進を続ける火球。
「あ、割れそう」「割れそう」
パリィン!
双子達の口を突いて出た予言通りに、妖精の盾となっていた魔方陣が、軽い音をたてて砕けた。
「ギャギャエリギャギュ!」
妖精は、呪文(?)のような金切り声を上げる。
すると魔方陣が回転しながら2枚現れた。
ガッ――!
一瞬耐えるが。
パリンパリン!
一気に粉砕される。
ヴォムッ――ドガガァァァァァァァァァン!
着弾と同時、爆発で埋め尽くされるバス内。
「うぉぉぉわ!」「キャーッ!」「「キャハハハッ!」」「ひゃわぁーー!」
なんか、戦隊物のファイナルアタックみたいな派手な煙で、視界がゼロになった。
◆
火球も、その派手な大爆発も、見た目に反して、そんなに熱くなかった。
甲月が〝危険が無い〟と言っていたのは、本当っぽい。
ガッシャァァァァァン!
火球は爆発で燃え尽きなかったのか、後ろの大きめの窓を突き破った。
バシャン!
隔壁が閉じて、割れた窓が塞がれる。
やっぱり、〝危険が無い〟ってのは、ウソかも知れない。
割れた窓から一気に煙が出て行ってくれたので、視界が元に戻った。凄まじい爆発の残響も消えた。
火球が命中して、粉砕された妖精は、羽根一枚残ってなかった。
その代わりに――バスの床に落ちる黒っぽい石(明らかに妖精の体の厚みより直径が大きい)。
それにノータイムで蹴りを入れる中学生次葉。シートベルトは外れてて、ずり落ちそうなだらしない姿勢だ。
なんか、最初の難しそうな印象が、もう微塵も無い。行動的な双子達よりも、手足が早いかも知れない。
打ち解けてくれていると考えれば、嬉しい気もするけど。
コンッ――カコンッ――コロコロコロッ!
「こらっ! そんなもの蹴っちゃ危ないでしょっ!」
涙目になったケリ乃が注意してるけど、「何が起こるか判ったものじゃ無いっ!」と本音も一緒にぶちまけてる。
質感よりは軽そうに転がってきた鉱石みたいな物を、起き上がった添乗員甲月が足で踏みつける。
甲月は「ぎゃっふん!」て言わされた割には、けろりとしていた。
はだけた軍服デザインの制服。そのハーフコートみたいなのの裏地が、ケリ乃が手に巻いている物と同じカラーリングだった。
さしずめ全身ハードパンチャーって事なのだろう。実際、衝撃の全ては――作用点である正面モニタに集約され、大きなヒビが幾重にも入っている。
うう、格ゲーは出来無くなってしまった。
「佳喬ちゃん、後ろ見て……」
ケリ乃が、子供みたいに座席に膝立ちして、真後ろを指差してる。
双子達の360度自由に回る座席と違って、僕たちの最後尾の座席は回る角度が限定的で、真後ろまでは回らなかった。
僕がシートベルトを外して真後ろを見ると、ずっと遠くの方の河川敷辺りから小さく黒煙が立ち上っている。
火球(の残り)は、凄まじい威力を残していたみたいだ。
「あれ、大丈夫なんですか?」
僕は後ろを向いたまま、添乗員へ尋ねた。
「だーいじょうぶです。ギリギリまでコントロールして、人家などを避けましたし、全てアトラクションの一環ですので。……それに、すぐに、この辺一帯それどころじゃ無くなりますから……ぼそ」
僕たちを安心させ……る気が無いのか、不吉なことをぼそりと付け足す甲月。
ケリ乃が後ろを向いた姿勢のまま、メモに『爆発はアトラクションのいっかん』『この辺一帯それどころじゃなくなる?』と追加してる。
その手元を見ていた、ケリ乃の肩に乗った受理ちゃん肆が、小首を傾げた。
あれだけの爆発が車内で起きたにもかかわらず、受理ちゃん達がノイズ一つ出さずに元気に空中に表示されてるのは、ひょっとしなくても凄い気がする。
受理ちゃん肆が、傾げた小首を戻す動きで、手足をばらばらに持ち上げた。
そして、そのまま体の前で、何かを巻き取るように、両手首を交互にクルクル回し出す。
「アーカイブ、更新中……更新中……」
かわいらしい、お遊戯みたいなクルクル回し。四回に一回、手足をばらばらに持ち上げる動きが入る。
何かのデータを更新中らしいのはわかるけど、ダンスは何故かヒートアップしていく。
あ、処理進行状況表示代わりなのかもしれない。
こんなぶっとんだ状況じゃ無かったら、僕も自分の通信端末のスイッチを入れて、眺めたいくらい面白い速度になっていく。
「えー、乗客の皆様に申し上げます。思ったよりも標的との遭遇が早かったモノで、子細、説明不足は否めませんが――」
着衣を整え、ヒュペリオン2を背中に背負った添乗員甲月が、何かの口上を始めた。
◇
乗客全員が、一点を見つめている。
視線の先では、パッと見は綺麗なお姉さん(でも制服の裏地パワーで、ゴリラとケンカしても勝ちそう)が、周囲を見渡しながら口上を続けている。
軍服風の制服+背中の長銃の甲月が、〝辺りを注意深く見渡している〟と、哨戒任務中の兵士にしか見えない。
正面モニタ(残骸)の横から見える、進行方向前方を振り返り、甲月の泳いでいた視線が止まった。
「――進行方向前方、小高い丘の上をご覧下さいませ。当ツアー初日の目的地であるミステリースポットその①……えっと、受理ちゃんへ業務連絡。照会をお願いします」
とてもバスガイドには見えないミリコスお姉さんは、片眼鏡を手で持ち上げ、裸眼(両眼)と見比べたりしながら、受理ちゃんに指示を出した。
「はあい。アーカイブ更新終了。引き続き物理検索を開始しまぁす――」
体操選手のように両手を広げ、つま先をそろえてダンス終了。
「――、一件の該当がありましたあ♪」
そして、本日、何度目かの敬礼を披露する、金糸雀號専属AI。
「ミステリースポットその①、〝連絡点1木剋土〟が識別されましたぁ。固有名は――
『リゴBe3Al2Si6O18フープ〓烏領の要塞化砦ヶ♭』
――でーすぅ❤」
座席のモニタにも表示されたその文字は、受理ちゃんに読み上げてもらわなかったら、とても発音なんて出来そうに無い代物だった。
ケリ乃がメモ帳をめくって、新しいページに目的地の固有名とやらを、書き写し始めると、
キィィィィィィィィィィィィィィ――――――
なんか耳鳴りがする。さっきの爆発で耳をやられたかな?
見るとケリ乃も耳を手でふさいだり離したりしてる。
年少組に至っては、三人とも身を固くして、必死に両耳を押さえている。
――――――ィィィィィィィィイイイ!
どうも甲月の方から音が聞こえてくる。
甲月は、制服のポケットから、黒っぽい石みたいな物を取り出した。
「あれか、耳鳴りの原因!」
さっき拾い上げた、妖精が残したドロップアイテム。
よく見れば、緑色がかってる。そういえば〝試金石〟とか言ってたっけ?
「なんか……光ってない?」
右席が指摘する。
ん? 確かに石自体が光ってるみたいに見える。
その緑色の光が強くなり――、
パッキィィーンッ!
甲月が手にしていた試金石とやらに、ヒビが入った。