三日目(8)
うわわ、すみません。2週間以上ってなにしてんだ。一週間ちょっと程度かと思ってるんですよね。
『ハイテク無題4』の本文作業を一気に終わらせたので、「作業しないと」という焦りが弱まっていたのはあるかも。
ゴォッオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ――――!
金糸雀號最後部。
新装備に取り付く小蟹の群れ。
その表面が白くギラギラと発光していく。
バヂバヂバヂィ――――小蟹が放電を放つ。
シュッゴォッオォォォォォーーーー!
小蟹で出来た灼熱の編み目から、無数のジェットが四方に放たれる。
「異世界敵性兵力は、物量作戦を展開中! 並列接続された幼殻類が電弧放電を開始! 極所温度5405K、なおも上昇中!」
SF映画みたいな会田さんの台詞。
やっぱり、この人、ハンドルかアケコン握ってるときは実に様になる。
――シャカッ!
僕は片眼鏡を引っ張り出して、会田さんの台詞の裏付けを取る。
ガスコンロみたくなってる辺りに表示されている温度は、なんと『5132℃』。
「ほほう、面白いですね。自身の外殻を溶接して〝自走式自動装填型工作機械〟の動きを止めようとしていますよー」
楽しげな甲月。
ソレを見て「そんなに落ち着いてて大丈夫なの!? ――タイヤとかってゴム製でしょっ!?」
と声を荒げるケリ乃。
「それは大丈夫だと思うよ。パンクしても平気で走るって会田さんが前に、太鼓判押してくれたから」
初日に「金糸雀號の〝耐熱耐爆仕様の防弾タイヤ〟だって万が一パンクでもしたら異世界生物にタコ殴りにされるんじゃないんですか?」って会田さんに聞いたら、
「大丈夫、その場合でもチューブレスタイヤ内空に〝電磁気力を利用したジャッキ構造のキャタピラ〟が搭載されてるから安心だよ」って言ってたからな。
けど〝5000℃超えの小蟹達の攻撃に耐えられるかどうか〟はまだ聞いてない。
内心ヒヤヒヤの僕がケリ乃を安心させてる間に、美人添乗員が移動ラボの高級オフィスチェアみたいな座席へ着席した。彼女の尻が乗せられているのは、壁から引き出された補助席が変形しただけのモノだ。
〝錐揉み状態のバスの中で椅子が床に張り付いていられる原理〟もまだ聞いてないけと、どうせロクでもない〝悪魔的な技術〟に決まってる。
そう、寸詰りで前傾姿勢なこの面白バスは、オーバーテクノロジーの塊だ。
たかが〝5000℃〟程度じゃびくともしない……はずで。
でも、ミステリースポット③算出の時に見たマグマの温度が〝1200℃〟ってのを考えると、…………一抹の不安がなくもない。
「受理ちゃんへ業務連絡。被害状況を報告して下さい」
白衣姿の女性が涼しい顔で、天板の上に降り立ったAIキャラクタにお願いしてる。
「当機及び自走式自動装填型工作機械からの損害報告はありませぇん。尚~、自走式自動装填型工作機械の耐熱機構の稼働占有率は3%でぇすぅー!」
同じく白衣に着替えた全長10センチのホログラフィーが応答する。
「えっと3%ってぇー事はー……3で割ると大体1600℃、掛ける100だから……16万度!?」
ふーーっ。やっぱり、全然平気だった。
「はぁい♪ 少なくとも、〝自走式自動装填型工作機械〟が健在で有る限りにおいて、金糸雀號は地球上で最も耐熱性に優れた乗り物で有ることが、シミュレートにより立証されておりまぁす❤」
僕の耳元から舌っ足らずな声が届いた。
僕の肩の上に居る受理ちゃん参が補足説明をしてくれたのだ。
……支給されたカナル型イヤホンか、金糸雀號本体か、はたまた受理ちゃん壱から漆の基本スペックなのかは分からないけど、この音の正確な位置の再現度も凄かった。
面白バスの各種装備には、毎回…………あきれる。
ノイズキャンセリング機能作動中のイヤホンを介しているのに、肉声と変わらない音の解像度。
離れた所に居る会田さん以外の全員の声が、適宜選択されリアルタイムに僕達の耳に届いている。
指向性マイクの性能に真っ先に度肝を抜かれたけど、イヤホンとしての基本性能の全てが市販品と比べて突出してる。まあ音響関連製品の値段は天井知らずだから、僕が試したことが有るヤツなんて高が知れてるだろうけど。
「このイヤホンも、貰って帰りたいんだけど……」
なんて、本音もつい漏れる。
◇
バヂバヂバヂィボムッ、バヂバヂバヂィィッボガムッ――――持続する放電に耐えきれなくなった小蟹組成物が炸裂している。
シュッゴォゴォゴォッゴオォォォォォォォォーーーー!
サーチライトで照らされているかのような、強烈な閃光。
最後部の僕達からは後光が差していて、さぞかし眩しかろう。
添乗員が指示を出し――――スゥゥゥッ、後部側の輝度が落とされた。
「はい。子細予定範囲内に付き問題ありません。外部装甲板の強度は昨日、超特大のバブルパルスに耐えたことで実証済みですし。それに現在、金糸雀號外装には〝土熊〟体毛の分子構造を模した耐熱耐爆特化仕様の〝可動式装甲鱗〟が、展開されていますしね」
ビシッ――親指を立てる甲月添乗員。
同じポーズでソレに答える山沢兄妹達。
金糸雀號を覆う〝可動式装甲鱗〟が波打つ。
耐熱耐爆に次ぐ耐熱耐爆。ただでさえ頑丈な面白バスが、コレでもかって位に、どこもかしこも耐熱耐爆の灼熱地仕様車としての性能を発揮していく。
◇
ガチガチガチンッ!
ガチガチガチンッ!
ガチガチガチンッ!
灼熱の編み目の上に、新たな編み目が折り重ねられていく。
自身の組成を溶接する程の高温を維持し幾重にも責めてくる〝小蟹達(並列繋ぎ)〟。
「受理ちゃん伍へ業務連絡。〝自走式自動装填型工作機械〟を、全自動装填モードへ切り替え後、熱電変換素子帯による発電を開始して下さい」
という添乗員甲月の、業務連絡を聞くなり、次葉の座席トレー上で突貫工事が開始される。
チュィーーーーンッ、ドガガガッ、バチンバチン、ガンガンガンガンッ、ドゴガガァン!
な、何してんだろ? ケリ乃も首を伸ばして次葉の横の当りを凝視してる。
「はぁい、業務連絡が受理されましたぁ♪ 〝自走式自動装填型工作機械〟を、全自動装填モードへ移行。これより〝熱電変換素子帯〟による発電を開始しまぁす!」
受理ちゃん伍が座席トレー上に作り上げたのは、受理ちゃん程度のサイズの――〝七輪〟だった。
金糸雀號の背後、眩しさを遮蔽されてて良く見えないけど、何かが作動してる。
僕達は双子達の座席の間、金糸雀號の模型を見た。
正面モニタの見取り図よりこっちの方が断然見やすい。
金糸雀號(模型)は双子と比べるとかなりでかい。
本格的なラジコンみたいなサイズで、スケール的には1/30くらいか。
近所のおもちゃ屋で見かけた、ひと抱えは有った戦車のがそんなだった。
そして、面白バス(模型)に取り付いたロボットみたいな新装備(模型)は、受理ちゃんより一回り大きいくらい。
プラモで言ったら、1/144の超人気ロボットみたいなサイズ。
それが金糸雀號の120㍉砲……じゃなくてなんだっけ、120㍉探査芯射出……経路――だっけ?
ソレに片腕を連結して、残った腕はやっぱりお腹の辺りに繋がってた。
「なるほど、あれが〝全自動装填モード〟っていうやつか?」
金糸雀號の肥大したオデコの当りに並んでいく白いタケノコ。
装填数を表しているらしいタケノコ表示が5個を超えた所で数字の『1』に変化した。
そして数字の横にまたタケノコが並んでいく。
弾倉一個に付き5発入るみたいだけど、そんなに詰め込んで爆発したりしないだろうな。
「これなら体を動かさなくて良いから、小蟹に邪魔されないって訳ね」
銃器類に疎いケリ乃も、事態は把握している。
っていうか、大砲じゃなくてレーザーシャベル(?)の弾だから銃器類じゃないけどな。
僕は受理ちゃん参を掴んで尋ねた。
「最初から、この状態で潜り始めたら良かったんじゃないの?」
「そう上手くはいかないのぉでぇすぅよぉー。なにせ、このぉ『全自動装填モード』わぁ、とぉんでぇもなぁい電力食いでぇすのぉでぇー」
受理ちゃんの困った感じのカワイイ口調。
「電力食い?」
時々蜘蛛の糸みたいなレーザーシャベル(?)を発射する面白バスに、〝ヒュペリオン1〟みたいなデタラメな所は無い――けど、新装備の背中から何かが棚引いてる。
ギシギシギシッ――バガガガガッンッ!
その腕時計のベルトみたいな白金色の金属製のバンドが、坑道の壁にぶち当たって飛び跳ねている。
そして、その表面が白熱したのは一瞬、直後、金属帯は白煙を発した。
「「「「燃えてる!?」」」」
作業に没頭してる次葉以外全員が慌てた。
「いえ皆様、ご安心下さいませ。燃えているわけじゃ有りませんよ? 佳喬様は〝機能性生地〟の熱変換デモンストレーションを覚えていらっしゃいますか?」
「あ、あ? アレってまさか……煙じゃなくて、冷気!?」
「「「冷気? 冷たいの?」」」
「はい。アレの機械作動式です。元となる熱電素子の構成と、熱変換のための理論はもう少し複雑ですが、基礎理論は同じモノです」
嘘だろ? 氷どころか生半可な材質なんて一瞬で気化(昇華)するだろうに。
ギシギシギシ――――ガガガガガガガガガッバゴン、ボッガン、ボッフォン!
〝ラボラトローダー(模型)〟に取り付いていた塵みたいなゾエア達(模型)が、弾けて霧散していく。
「熱処理された並列接続幼殻類が、発生した割れ目により破断! 残存異世界敵性兵力は後退中!」
製造工場の現場監督かつ通信兵みたいな会田さんの台詞。
「いよーっし! だんだんお膳立てが整ってきましたねぇー、……うふふ、うふ、うふふふっ♪」
そして、いつもの甲月らしい薄ら笑いが炸裂する。
「添乗員甲月へ業務連絡! 勤務態度に関する服務規程違反により、10分の減俸を命ず!」
会田さんのアナウンスを聞いた、添乗員甲月が、片眉をつり上げた。
バッシュシュシュシュシュシューーッ、ゴォゴゴゴゴゴゴゴォォォォオォォォオォ!
バスの六時方向が突然の煙幕に包まれる。
「ご安心下さいまぁせぇー♪ 自走式自動装填型工作機械〟内蔵〝熱電変換素子帯〟による発電が臨界に達しただけぇですぅーのでえー!」
「車手会田より、受理ちゃん伍と次葉ちゃんへ業務連絡。弾倉数が12を超えたら〝試錐用炸薬式レーザービット〟を制限点射射撃出来るよ」
同僚に対するのとはまるで違う、会田さんの優しい声。
「受理ちゃん、発電効率算出! 余剰発電分の電力を私に全部渡せるようになるのは、何分後?」
なんだその、怖いワード。オマエに全電力を渡したりしたら、ロクなことにならないに決まってるじゃないか!
「現在発電効率算定中ー♪ 現在発電効率算定中ー♪ 現在――概算でぇー約30%、耐熱機構の稼働占有率2%で固定した場合、局所熱力学平衡まで約15分の見込みぃ~~❤」
軽い首振り程度の進行表示。
「チッ――――マッズイわねー、ミステリースポット③目標地点までの到着予定時刻は!?」
声色だけアクション映画のヒロインみたいな感じで取り繕ってるけど、その顔は又ヘラヘラと緩んできている。
壁のパネルを嘻嘻として操作するその顔は、初日にヒュペリオン2を取り出したときと瓜二つ。やっぱり、かなり気持ち悪い。
「金糸雀號に急速接近する高熱源体、感知!」
会田さんの緊迫したアナウンス。
「受理ちゃん、うふ。到着予定時刻算定を中断、ぷふふ。高熱源体の正確な位置を特定して下さい、……くふふふふっ♪」
天井から降りてきた円筒状のケージみたいなモノに、両手を突っ込む甲月。
左右にあるパドルを操作して何かを探している。
おい、オマエ何を取り出すつもりだ?
「無理でぇーすぅ! ゾエア放電からの電磁波により、磁気探査装置による正確な位置の特定が出来ませぇん!」
背後を見れば幼殻類たちが、ピッタリと後をつけてきている。
「くっ!? まさか、ぷふっ、『電波妨害』が幼殻類達の本来の作戦目的っ!? ……ぎゅっふっふー♪」
だからオマエ、真面目にやれよ。また会田さんに減俸されるぞ。
(9)は既に文字数6K弱あるので、出来るだけ早い内に。
次回、ボス前哨戦終結予定。一気に炸裂します。主に甲月が。
自動処理:コード妨害×1




