三日目(1)
三日目になりました。また、少しずつ進めていこうと思います。よろしくお願いします。
「ちょっと、甲月さん。これから私たちどうしたらいいのよ?」
「そう申されましてぇーもぉー……ツルツルツルッ」
岸染莉乃(16)に咎められながら、麺をすする美人添乗員甲月緋雨(2×)。
ケリ乃……莉乃さんは、僕の遠縁の幼なじみだ。久々に会ったらビックリするくらいの美少女になっててビックリした。
甲月は見た目も中身もハイスペックな美人添乗員。少し派手目なお姉さんにしか見えないけど、とんでもない科学技術、なんだっけ、バイオ何たらかんたらの権威だ。あと、メカにも強い。
「莉乃、リィーサちゃんのカップ麺おいしい……よ?」
剣呑な空気を和らげたいのか、鬼獏次葉(14)が馴れない笑顔を作った。
それなりの大企業の御息女だからか、少し変わってる。僕達とは今回が初顔合わせだったけど、もう大分打ち解けてくれたと思う。
「「おいしいっ!」」
双子の山沢兄妹が同調する。別に空気を読んだわけでは無く、率直な感想を述べただけだろうけど。
ちなみに兄が双一(12)。妹が双美(12)。
素直で良い子達なんだけど、時々パワフルで手に負えない時がある。
「うん。コレは結構イケる……もぐもぐ」
僕、紙式佳喬(17)も率直な感想を述べておく。
プリップリの海老と半熟のゆで卵と肉厚のチャーシューはとても凍結乾燥されたとは思えない瑞々しさで、とても食欲をそそる。
「さすが首席っていうか、これ作ったのは多分首席補佐だろうけど……ズゾゾッ」
格闘ゲーム世界チャンピオン〝Tボーン鐘倉〟という肩書きも持つ、金糸雀號運転手の会田丁字(2×)。
格ゲー好きな僕から見たら伝説級の有名人だけど、アケコン握ってないときは意外とポンコツな一面も。
「え? そうなんですか? ……ズゾゾゾー」
スープも飲んでみた。うは、超旨い。
僕が選んだのは会田さんと同じ〝海鮮醤油味〟。
他には〝味噌バター味〟、〝背脂豚骨味〟と実に多彩だ。
「だって、あの首席がこんな自己主張すると思うかい?」
会田さんが、テーブルの上に捨てられたフタを箸で指し示す。
僕は、くっつけたままのカップ麺のフタを箸で押し下げた。
そのパッケージのど真ん中。〝弾ける笑顔で陽気に手を振る〟リィーサ・メヴェルムさん(××)。
「……絶対しないですね。プッハハッ、か、カワイイッ……ブッゴッホゴホッ!」
リィーサは元が超絶美少女なので、普段の無表情との落差が凄まじくて、……麺が喉に詰まった。
くそう、さっき甲月がこのカップ麺出してきた時に、ひとしきり皆で笑ったんだけどなー。
ちなみにリィーサっていうのは、甲月達が所属している研究所の一番偉いというか成績優秀者の少女だ。
その責務の一端としてか『甲月管理者』という腕章を腕に付けて甲月達をマークしている。
相当、色々やらかしたんだろうな……特に甲月が。
「ま、又笑ってる! 首席の期間限定パッケージのドコがそんなに面白いんですぅーかぁー!?」
甲月一人だけ、リィーサの太陽みたいに弾ける笑顔に耐性が有った。
ひょっとしたら、甲月には普段のリィーサもこんな風に見えてるのかも知れない。
能力っていうか設計開発に関して啀み合……競い合ってるフシはあるけど、それ以外では見かけよりは仲が良いんだと思う。
「――ズゾゾゾゾーッ……ぷはーっ、ごちそうさま!」
いーや、超旨かった。なんなら、毎食コレでも良いかもしれない。
麺も学校近くのラーメン屋のと比べても全然遜色なかったし、これスーパーに並んでたらバカみたいに売れそうだけどなー。
そしたら、こう度々金銭的な面で、これほど苦労なんてしなくても良いだろうに。
もう馴れてきたけど、「鶯勘校研究所(鶯観光)はバカなの?」とは思う。
実際には、まだ〝世の中に出回ってない悪魔的な科学技術力〟を無尽蔵に行使する天才科学者集団だけど。
なんというか、会社組織としてのあり方が社会と噛み合ってないというか、商売っ気が無いというか壊滅的なまでに下手な気がする。
それには、〝空間異常領域研究〟を第一に掲げる彼らにとって最大のハンデ、〝異世界関連事案の全ては日本国内において黙殺される〟っていう通例が有ることも関わってくるから、仕方無いのかも知れないけどさ……。
◇
ココは金糸雀號の後部カーゴルームの中。
但し、金糸雀號の何倍もの広さで、かなり開放感がある。
時計を見た。
『AM00:08 980gal◕』
980っていう謎の数字は重力を表しているらしいけど、具体的な意味はいまいち判らない。
隣にある、欠けた輪っかみたいな謎のゲージの見方なんて、言わずもがなだ。
昨日の夕方、振り切れてたゲージの振れ幅は、平常運転に戻っている。
「まだ夜中の12時ですよ。どうするんですか、これから」
僕達は、10連休に子供達だけ参加のバスツアー中だ。
鶯観光の添乗員と運転手の二人を入れて、計7名の珍道中。
今は日付が変わって、三日目になった所。
一日目、二日目と家族や友達に言っても絶対に信じて貰えない驚天動地の大冒険だった。
謎の異世界化や鶯勘校研究所の整備基地訪問などを経て、行き先不明のミステリースポットを既に二つ撃破した。
こんな危険なツアーを止めないのは、逃げたところで最終的に似たようなことに巻き込まれそうだって言う話を信じたのと、ツアー制覇の暁には僕達にも超高額の成功報酬が支払われる事になっているからだ。
普通に人生を送っていたらとても手に出来ない、一人頭10数億円もの大金。
でもソレは、この決死の旅程を続けるための口実でもあって、僕達はツアー自体にとても魅力を感じていた。
そう、甲月達との旅行は最っ高に刺激的で、ぶっちゃけた話、僕達子供に〝自発的に引き返すことなんて〟――――出来るわけが無かったと思う。
◇
「うーん、そうですねぇ~。最悪、人数分の寝床と備蓄は有るし、温泉旅館さんのご厚意で駐車スペースも確保出来たから、問題ないと言えばないですけど……非っ常ーにっ味気ないですねぇ~」
カーゴルーム内、就寝スペースが左右に配置された中央。
簡単なリビングセット。
いつもの制服姿では無く、エプロン姿の甲月。
あまり可愛くない猫の顔がプリントされている。
「ううう、私のお刺身と温泉がぁ」
別に〝釣り堀〟も〝温泉〟もケリ乃のじゃ無いけど、たしかに期待が大きかったから、ボツになった時の絶望感は大きかった。ケリ乃って言うのは、小さい頃からやたらとモノとか僕とかを蹴り飛ばしてたから僕が付けたあだ名だ。怒るから言わないけど。
そして、こっちのエプロンにプリントされた兎の顔も、あまり可愛くなかった。
「寝床があっても、僕は全然眠くないですよ。結局、金糸雀號が戻ってくるまで、ふて寝しちゃったし」
「「「眠くないよー」」……ね?」
もう深夜だけど起きたばかりだから、小さい子達も目が冴えている。
「ぐぐぐ、これも全てコイツのせいだっ!」
甲月が歩いて行って――ガンッ!
「――痛ったっ!」
ソレを蹴り飛ばし……つま先を押さえて蹲った。
「だぁーめぇーでーすぅーよぉー! 配備されたばかりの『自走式自動装填型工作機械』をイジメたらぁー!」
エプロンに付けられたブローチみたいな六角形。小型通信端末から飛び出てきたのは、いつもの全長10センチ。
この半透明なホログラフィー。デフォルメされた愛くるしい美少女キャラは金糸雀號専属AIの〝受理ちゃん〟。
壱から漆まで居て、甲月・会田・僕・岸染・鬼獏・山沢兄・山沢妹の順に対応した通信端末を所持している。
金糸雀號本体にも受理ちゃん零っていうのが居たりするけど、普段は出てこない。
「ココから続く山岳地帯。特に矛路駒峰周辺のマグマ溜まりを通り過ぎるまでは、この子に奮起して貰う事になるんですからぁー!」
受理ちゃん壱が指差したのは、リビング真後ろのチョット開けたスペース。
サンダル履きの足を押さえる甲月(涙目)の横。
バイクの操縦席と言うには無骨過ぎる、分厚い金属製の筐体。
コンパクトに配置された各種の装置群とロボットアームは、金糸雀號車内、正面モニタ周りの計器類や移動ラボを彷彿とさせる。
操縦席であろうシート部分から下が床にめり込んでるから、全体的なフォルムがどんなモノなのかは判らない。
まあ、この謎のマシンが、〝僕達が温泉旅館に泊まることも出来ずに金糸雀號の中でカップ麺をすする羽目になった原因〟なのは間違いないようだけど、――蹴るな蹴るな。
ソイツがリィーサからのメール通りの性能を持ってるなら、ヒュペリオン2の全力砲撃だって傷一つ付けられやしないんだからさ。
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