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10連休に遊びに行くなら、たとえばこんな異世界  作者: スサノワ
二日目

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27/81

二日目(7)

慌ただしいですが、まとめて2本お届けいたします。

※受理ちゃん達の描写を追加:2019/11/13 19:02

「(サカ)」「(シ)」「(シャヒ)」「(ナ)」

「(……グゥッグゥッ、グゥッグゥッ♪)」

 受理ちゃん達の謎の呪文と、怪魚(レモラ)の鳴き声が、せめぎ合っている。

 ふと思ったんだけど、怪魚(レモラ)の鳴き声は、本当の意味で〝呪文〟なのかもしれない。

 昨日の凄い顔の妖精も魔方陣出すときに、何か叫んでたしさ。



 ――――スゥゥゥ。

 受理ちゃん達の呪文が効果を発揮してるのか、視界を包む全天の赤が、淡い紫色に変化した。

 やがて、その色も水中に溶けるように希薄になっていく。


 元の青みがかった色合いに戻る、外部映像(みずのなか)

 残った球状空間(あかいろ)は、心臓の鼓動のような収縮を繰り返していた。

 「(――グゥッ(ドクン)、――グゥグゥッ(ドックン)♪)」

 その不穏な緩急は、スキさえあれば、再び巨大化しようとするかのようで――。


 ――ブォン!

 不意に、受理ちゃん(ワン)が、拳を突き出した。

 受理ちゃん(シックス)が避け、返す刀で目つぶし――では無く。

 グー、チョキ、チョキ、グー、パー。(ホイ)(ホイ)(ホイ)(ホイ)

 突然始まった、一風変わった〝あっち向いてホイ〟。

 最初にじゃんけんがまとめて何回か行われ、その後、勝ち越した数だけ連続で首の向き当てを行う。


 パー、グー、チョキ、パー、グー、グー、チョキ、ぱしん。(ホイ)――くるん、(ホイ)

 首や指差す方向に上下は無くて、左右の動きだけで勝敗が付けられている。

 先にじゃんけんを連続したり、指や首の方向が限定されたりしているのは、何かの理由があるんだろう。

 だけど、あまりの理不尽さに、言葉が口を突いて出た。


「……イカサマだ」「……ズルね」

 僕の言葉にケリ乃も賛同してくれる。


 累計三回じゃんけんに負けた(シックス)が、四回目に(ワン)の〝手〟を叩いて、強制的に手を変えさせていたし、

 しかもその上、首の向きを当てられた(シックス)が、そのまま華麗なターンを決め、いつの間にか首の向きを逆にしたりしていた。

 そんな、ゲームのルールを一切無視したイカサマに対し、(ワン)は毅然とした態度で両眼をチカチカピカピカさせるだけだった。


 チョキチョキ、グーグー、パーグー、スタッ。

 何故か回り込む(シックス)

 パー、チョキ、スタッ。同じようなステップで追従する(ワン)

 パーパー、チョキ、グー、ぱしん、スタッスタッ。

 (ホイ)、スタッスタッ。

 (ホイ)――くるん、(ホイ)、スタッスタッ。

 (ホイ)――くるんくるん、(ホイ)、スタッスタッ。

 向かい合う(ワン)(シックス)が、一手順に付き一歩ずつお互いの周囲を旋回し出した。

 本格的に訳が分からない謎の舞踏と化した二人。


「「解説を、ご所望ですか?」」

 重な(だぶ)る、受理ちゃん(スリー)(フォー)ちゃん。

 解説のチャンスを我が物としようとしているのか、二人とも大きく手を振り飛び跳ねている。

「じゃあ、手短にお願い」


「見えない空間内部を推測する為の数学的代替(メタファー)として、勝者敗者が必ず出るゼロサムゲームを、敵対的生成ネットワークと呼ばれる人工知能アルゴリズムの一種で、〝標準化〟していまぁす❤」

 スラスラと流れるセリフ。どこか挑戦的にボクの肩の上辺りを睨み付けている。


『敵対的生成ネットワーク:〝生成〟と〝識別〟という相反した目的を持つニューラルネットワーク同士による、〝未知の現象〟に対して有効な強化学習方法』

 (フォー)ちゃんのセリフの補足をしてくれる座席モニタ。

 ……モニタには個性が無いけど、受理ちゃん達と同じようなAIなんだろうな。


佳喬(よしたか)様! 15件の重要な解説項目が更新されました。学芸モードをオンにしてもよろしいでしょうか? ――カシャカシャン!」

 伸びる指し棒。この緊迫した状況で解説合戦でも始められてはたまらない。


「学芸モードは却下。手短に一言で説明してくれる?」

「受理されましたぁー。では一件だけ~❤ 先ほどの(フォー)による〝数学的代替(メタファー)〟という表現を文法的修辞(レトリック)として捕らえた場合、(ワン)及び(シックス)による物理系(リザーバー)コンピューティングという観点が脱落してしまいま――」


「はい。ソコまで。学校でも、AIとか量子コンピュータとか授業中に出てくるけど、受理ちゃんとか甲月(こうづき)……さん達がヤってるのとは、たぶん違うヤツだよ」

 受理ちゃん(スリー)の解説を、止める。

 (ワン)(シックス)による、何かの演算処理(?)が他の受理ちゃんに影響を与えている気がする。最初に説明された〝全部で一つの疑似人格が構成されています〟っていうのが関係してるんだろうな。


「では、タスクに追加しておきますねぇ~♪」

 なんか、しれっと付け足されたけど、放っておこう。

『待機タスク59:金糸雀(カナリア)號専属AIの成り立ちとシステム構成についてのガイダンス』

 ――グイッ。

 座席モニタも、視界の隅で何か表示してるけど、放っておく。

 ――グイグイッ!

 お嬢様(つぐは)が、ボクのシャツを執拗に引っ張って何かを訴えて……やめてくれ。またシャツをダメにしちゃうだろ。

 次葉(つぐは)を見たら、顎で3時方向をシャクっている。

 受理ちゃん達の相手をしてるウチに最前線(げんば)で動きがあったみたいだ。


   ◯


 ジジジッ――♪

 赤い球状空間が黄色い点線で縁取られていく。

 点線は、球状空間の収縮に合わせて、伸び縮みを繰り返している。


 ――――スゥゥゥ。

 球状空間、〝怪魚(レモラ)不可視の空間(けっかい)〟が、透けてきた。

 必死に尾びれを動かし泳ぐ、小さな琴引(さかな)の姿が現れる。

 でも、ソレは、古いゲーム機みたいなポリゴンで表現されていた。


「受理ちゃん達が見える様にしてくれています。どうぞ、落ち着いて狙いを付けて下さい」

 しかし、ポリゴン魚は、体をくねらせる度に分裂して5、6匹に増えた。

 背後を振り返ろうとする、少年の頭をしっかりと押さえる、フカフカフワフワ(こうづきおねえさん)


「大丈夫です。そのまま狙いを定め続けて下さい。横の数字が100になったら操縦桿のトリガを引いて下さい」

 まだかなり大きなロックオンサークルの数値は50。それ以上、進まない状態が続く。

 それでも、魚が寄せ集まる辺りをロックオンし続ける砲手(そういち)


   †


「カキカ」「リエキ3」

 座席トレー上の受理ちゃん達が謎の舞踏を終了。発せられる謎の呪文。

 そして、裏切り者(ベトレイヤー)弾頭を作るときに見たばかりの、両手片足を持ち上げる面白いポージングが開始された。

 交互にポーズを変える二人の両眼が、凄い速度でチカチカピカピカしだした。

 何かの計算が終わって答えが出たと思ったけど、まだまだ計算が必要みたいだ。


 瞳の色が虹色のグラデーションと化していく。

 すると、魚の一匹一匹に、小さなサークルとソレに沿って増加する丸いゲージが現れた。

「(……グゥッ♪)」

 そのうちの一匹から、黄色い輪(点線)が広がっていく。

「(ゴン――グラリ)」

 金糸雀(カナリア)號や地面を超えてなお拡大する球状空間(点線)。

 細かな揺れは、怪魚(コトヒキ)武力行使(こうげき)が続いている事を示している。

 周囲の景色に変化は無いが、怪魚(コトヒキ)の真下に小さなクレーターが出来ている。


 やがて、全てのポリゴン魚のゲージか満タンになると、群れが、ぎゅっと寄せ集まった。

 折り重なったソイツ等は残像を残していて、まるで何本もの尻尾が生えているみたいに見える。


『――70、――90、』

 一定距離以上は狭まらなかったロックオンサークルが一気に収縮する。

 ピピピピピーーーーッ♪

 ロックオンサークルに『100:OK』のサイン――


「撃つよ!」

 ボッシュン! ロボットアームの先から発射されるマイクロ魚雷。


「命中すれば、少なくとも、試金石撃破には成功しますので、異世界化が始まります。皆様、シートベルトをお締め下さいませ~」


 シュルルルルルルルルルルル――ッ!

 ソレは緩い軌道を描いて、正確に球状空間(けっかい)に吸い込まれた。

 ――シュルルッ――バラッ。

 受理ちゃん達の謎の舞踏を以てしても、不可視の空間(てんせん)内部の魚雷の正確な状態までは掴めないのか、

 魚雷は複数に分裂し、バラバラな軌道を見せた。

 シュルッ――

 シュルッ――

 シュルッ――

 シュルッ――

 シュルッ――

 次々とかき消えるポリゴン魚雷。


 シュルルルルッ――ぼぎゅ!

 最後の一発が消えた瞬間、サウンドアイコンが点いた。

 着弾音がはっきりと聞こえてくるのは、アトラクション的な理由で甲月(こうづき)達や受理ちゃん達が上手くやってくれてるからだろう。


 砕け散るポリゴン魚。落ちるバスターコア。


 縁取り(けっかい)が消え、現れたのは、ほんのりと血がにじんでいるだけの空間。

 やっぱり、ベトレイヤー周りは残酷だ。


「各員へ通達。〝試金石(タッチストーン)怪魚(レモラ)〟、絶滅(イクスティンクション)

 甲月(こうづき)の宣言通りに怪魚(レモラ)は消失。

 金糸雀(カナリア)號をゆらしていた武力行使(こうげき)も止まった。


 静寂に包まれる中、双一(そういち)が泣きそうな顔を僕に向けてくる。

「……昨日も申し上げましたが、彼等(あれら)はこの異世界化の帰還(・・)と共に消失しますので(・・・・・・・)、御懸念は無用ですよ~♪」

 言ってる事も半分くらいは分かるけど、そうそう割り切れる話では無い。

 甲月(こうづき)双一(そういち)を一人で座席に座らせ、シートベルトを締めてやっている。

 そして、片眼鏡(モノクル)を回収し、自分の制帽に取り付けた。



 クレーターの中央。落ちている小さな箱。

 重なるように現れた小さな(サークル)

 伸びる(ライン)の先端に現れた赤い文字。

『betrayer2<inactive>』


新種(デベロップ ア )発見ニュープロダクト、〝裏切り者(ベトレイヤー)2〟を目視確認(ビジュアルチェック)!」

 箱に張り付く丸い(アイコン)が、四角い(アイコン)に変化した。


双一(そういち)様、〝(ワンオフ)(セット)(バスター)〟のご誕生、誠におめでとうございまーす」

 研究員(こうづき)のとぼけた声。オマエ、空気読めよな。


「『裏切り者(ベトレイヤー)2を鹵獲(ろかく)試金石(タッチストーン)怪魚(レモラ)個体名:レモラ(仮称)/行動終結(インアクティブ)』」

 元に戻ったらしい受理ちゃん(シックス)の静かな声が車内に響くなか、座席モニタが同じ文面を表示する。


「元気出して。これで、ヴァケモンごっこ、一緒に出来る……よ?」

 次葉(つぐは)の励ましが効果的だった。

「そっか! 忘れてた。ボクもあの箱(・・・)と同じの貰えるんだっけっ!」

 やったーっ! とはしゃぐ少年に目を細める添乗員。


「では双一(そういち)様が元気になられたところで、受理ちゃんへ業務連絡。ミステリースポットその②の照会をお願いします」

「はいはぁい♪ アーカイブ更新並びに物理検索(・・・・)は終了していまぁす。一件の該当が有り、ミステリースポットその②、〝連絡点(ジャンクション)土剋水(どこくすい)〟が識別されましたぁ。固有名は――

『ニルSiO2(シリカ)バーク(さかさくらげ)虎鶫(とらつぐみ)領の移動拠点ρ(ロー)~(チルダ)

 ――でーすぅ❤」

 座席のモニタにも表示されたその文字は、昨日の要塞砦(ケフラット)と同じで、読み上げてもらわなかったら、とても発音出来そうに無い。


 双一(そういち)が座席をコントロールして、窓際に少し寄っていく。

 試金石怪魚(レモラ)は、バスターコアに格納され正常に裏切り者(ベトレイヤー)化した。

 同一種が居ないため、起動直後に即停止。ロボットアームが掴んで回収中だ。


 ガッキュンッ!!

 3時(そういち)方向の水中から、謎の大音響。

 見るとロボットアームの先端が粉々に粉砕されている。


「水流を検知!」

 アナウンスと同時、揺れる金糸雀(カナリア)號。

 ズッゴゴゴーーーーッ!


「うわわっ、な、なんだ?」

 金糸雀(カナリア)號が凄い勢いで引っ張られている。

 僕たちは金糸雀(カナリア)號の進行方向を見上げた(・・・・)

 甲月(こうづき)、いや、〝マグカップ〟の口が大きくひらいている。


 ズボッ――ヒュィン!

 怪魚(レモラ)武力行使(こうげき)にも耐えた、アンカーが一本抜けた。


 ズッゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッゴゴーーーーッツ!

 金糸雀(カナリア)號は甲月(こうづき)ソックリな〝巨大頭(マグカップ)〟に吸い寄せられていく。


「添乗員甲月(こうづき)へ業務連絡! 当機への攻撃を即刻中止されたし!」

 運転手会田さんのレジェンドギャグが、冴え渡る。

 けど、そんな場合じゃ無かった。4つあったアンカーの、最後の一本が抜け落ちた。

ホントどなたか1ポイントで良いので。ブクマでもよいです。

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