一日目(19)
一日目がやっと終わりです……終わりだったんですが。あと一回分、二日目に続けるために増えるかも知れません。増えたらすみません。
ヒュンッ――――パシッ!
Tボーン鐘倉が受け取ったのは、両面にラバーが貼られたラケット。
コッコッコココココンッ!
甲月が持つラケットと卓球台の間を高速で跳ねる、オレンジ色。
少年少女達のハートを鷲掴みにした会田さん。
ソレを見て、悔しくなった甲月が、卓球試合をふっかけた?
……子供かっ!
中学生が、得点板をゼロに戻した。
首から提げた箱を持って小刻みに付きだしている。
動きは謎だけど、闘いを促している事は判る。
丁◇0ー0◇甲
サーブ、鐘倉。
オレンジ色が、甲月の美しい顔の上の方に突き刺さった。
……ダイレクトに。
「あ、すまん。かなり久々だしマジで手が滑った」
中学生が、得点板をめくる。
丁◇1ー0◇甲
「え? 今なんで点が入ったんだ?」
「知らないわよ。次葉に聞いてよ」
サーブ、|甲月。
オレンジ色が対角線に接地――した瞬間。
鋭角な軌道変更をする、直径4センチ。
横っ飛びにソレを追う丁字の双眸。
その視界に割り込んでくる真っ赤な平面。
――ガンッ!
一瞬で卓球台の外から詰め寄り、丁字の顔面にカウンター(?)を繰り出した甲月。
ギュリュリュリュリュッ――ドゴン!
錐揉みしながら、スカイラウンジのソファーに突き刺さる丁字。
丁◇1ー5◇甲
だからなんで点が――、知らないわよ――。
「あら? ごっめんなっさーいっ! 手が滑ったわ~(棒)」
シュシュシュシュシュッ!
とシャドーボクシングの様に凄まじい勢いで、ラケットを振り回しながら、元の位置へ戻っていく浴衣美人。
「ふっ、コーポ鐘倉流合気柔術免許皆伝の俺にステゴロで挑むとは、見上げた根性だ。女にしておくのはもったいない!」
鼻血を垂らしながら、ひょいと起き上がるレジェンド。
「っていうか……本当にもったいないわよね。甲月さん、すっごい美人さんだし、スタイルなんかも完璧でモテそうなのに……」
ケリ乃がこう言うって事は、モテ無いってことなんだろうなあ。
「佳喬おにーちゃん、ステゴロってなあに?」
「こんな言葉覚えなくて良いんだけど、素手でケンカすることだよ」
「じゃ、素手じゃないよねー、ラケット使ってたしー」
「あ、ホントだな」
双子は目ざといなとか思ってると、
「あら、ヤロウっての? 良いわよ、アンタお得意の格闘ゲームで勝負しようじゃないの――――」
踏み込んだのは一歩だけ。金糸雀號みたいなカラーリングのド派手なスリッパを履いた、甲月の逆足。
「――――但し、リアルでっ!」
繰り出される掌底。その細腕には、距離にして約7メートル分の〝歩行アシスト効果〟が乗ってる。
会田さんがいくら、〝コーポ鐘倉流合気柔術免許皆伝(?)〟とか言ったって、物理的な優位性に敵うわけが無い。
そもそも何だよ、〝コーポ鐘倉流合気柔術免許皆伝(?)〟って。
コーポ鐘倉ってソレどんな道場だよ。
瞬きする間に、いきなり眼前に現れた甲月を、ステップを踏むようにスイッチして避ける会田。
順足になった甲月には、継ぐ二の足がない。
掌底に添えられた右手を取りに来る会田の腕。
ソレを躱すため、体を開いて腰を落とす甲月。
ストン――――ブッワッ!
西洋双六風、段だら縞の浴衣がはだける。
白い肌と、小さめで刺激的なデザインの下着が、丸見えになった。
「ちょっなんで、中に着てないのよっ!」
わめくケリ乃さん。コラまて、僕の顔を両手でふさぐな、見えないだろっ!
細い首、引き締まったヘソ周り、透けるパステルブルーのレース生地。
ぶるんるぅん。体幹に遅れて上下する柔らかな肉感。
至近距離でそんなモノを喰らったら、到底ガードできる訳が無く。
そう、健全な成年男子にとって、甲月緋雨の大人の体は、ガード不能技だった。
「――――っ!」
止まったニヤケ顔を、スコンと足払い。
歯を食いしばる半裸女性。
落ちてきた頭に炸裂するアッパーカット――ギュルルルルッ、ゴゴンッ!
しかもスクリュー気味でねじられた腕には――〝エネルギー減衰サポーター〟。
吸収された衝撃はプールされずに、即座に相殺される仕組みになっている。
ヒュルルルルッ――――ドゴガンッ、ビキッ!
普通の家の三倍はあろうかって高さの天井に、めり込むレジェンド。
丁◇2ー11◇甲
ガラガラララッ!
上から降ってくる会田と瓦礫。
瓦礫と会田を、連続ハイキックで的確に迎撃する、あられもない下着姿。
血が垂れる頭を押さえつつ会田は、甲月の足を蹴り返して着地した。
その足下にも、金糸雀號カラーのスリッパ。
でもこっちの方は男性用なのか色合いがシックで、甲月が履いてるヤツほどには悪目立ちしてなかった。
「だ、大丈夫ですかっ!?」
と瓦礫を掻き分ける僕に――ケリ乃がタックル。
「佳喬ちゃん邪魔! 甲月さん! 前っ! 前、隠してっ!」
僕を押しのけ、台風の目に飛びつく細身の美少女。
もー何やってるんですか!? ……お酒くさい。ひょっとして酔っ払ってる?
などと小言を言いながらも、ケリ乃は甲月の、豊満な自己主張を手早く隠し、整えていく。
良かった。女子が居てくれて。
2人のデタラメなケンカ卓球を、遠巻きに見てた野次馬達が、急に散っていく。
なんだ?
丁◇0ー0◇甲
「とまあ、君たちの護衛のために、我が鶯観光は常に装備万端です。ご安心下さい」
と、その場を取り繕うエダの両肩にも、たすき掛けされたサポーターが覗いている。
「ほら、コウヅキも取り繕え。少年達がビックリしてるだろ」
と声をかけながら、ケリ乃から申し訳なさそうに同僚を受け取る会田丁字。
「そうだぁ~ぞぉ~、少年~、ひっくっ! 矢でも鉄砲でも、ICBMでもいいから持って来いってぇーんだぁ! 陸戦兵器相手なら、ぶっちゃけ勝て――――ぐかぁ~~!」
会田に抱えられる、大虎。
ここだけ見てたら、旅行先で酔い過ぎちゃった彼女を介抱する彼氏さんに、見えないことも無くもない。
そして、2人の背後には、立派なヒゲを蓄えた恰幅の良い男性が待ち構えていた。
その胸に光る名札。ソコに書かれた総支配人の文字。
丁◇0ー-100◇甲
その後、破損した箇所の修繕費用と、会田もとい、Tボーン鐘倉のイベント出演料を相殺した結果。
鶯観光所属金糸雀號搭載会計監査AIとして、話し合いに同席した受理ちゃん弐によれば、ミステリーツアーの続行も危ぶまれるほどの、大赤字を計上してしまったとの事だ。
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「一体、何やってんだ、あの人達!?」
甲月のサービスシーン(?)が有っても良いという方がいらっしゃいましたら、ポイント評価をお願いします。




