一日目(18)
更に続いてしまっています。すみません。次回で一日目が本当に終わります。
◇高級リゾートホテル/バックギャモンB棟3203号室◇
湖畔ビューの4名宿泊可能なダマスクキルトスウィート。
「本当に、私もご一緒で宜しいのですか?」
「いっしょがいー!」
「だって、こんな広い部屋に、三人だけなんてもったいないし、甲月さんともっとお話したいなって……」
「テラスに温水プールも付いてる……よ?」
双美よりはいくらか大きく、莉乃よりは小さい身長。
早速水着に着替えた次葉が、皮製の箱を構えている。
「わ、わかりましたっ! じゃあ、夕方のイベントまでプールを楽しみましょうか」
ぼるん♪
軍服みたいなカーキ色の制服を脱ぎ、その下のノースリーブに包まれた双丘があらわになる。
「わー! おっぱいおっきー!」
飛びつく双美。箱を手ににじり寄る次葉。
大人の女性の体型について真剣にメモを取る莉乃と、ソレをつぶさに観察する肆。
観察対象の頭の上で、壱も同じように制服を脱ぎ捨てた。
『受理ちゃん壱←凹凸無し』追記されるメモ。
美少女、岸染莉乃の視線は、なおも対象に絡みつく。
「な、なんですかコレ? 私、大人気ですねぇ――――ポッフン❤」
大人の女性が、ダマスクキルト製のふんわりもこもこしたダブルベッドに、押し倒された。
添乗員甲月は少女達に翻弄……熱烈歓迎されていた。
◇高級リゾートホテル/バックギャモンB棟3307号室◇
夜景ビューの4名宿泊可能なモダンスウィート。
「本当に、俺も一緒でイイんですかい?」
「いっしょがいー!」
「この広い部屋に2人だけって何か落ち着かないし、よかったらゲーム一緒にやりませんか?」
僕は持ってきたゲーム機をセットアップした。
あとはホテルの回線にログインするだけで僕のゲーム環境がそのまま使える。
「ゲームやりたいって要望を聞いてたんで、このモダァンスイートにしたんだけど、正解だったみたいだな」
後ろ頭を掻いてから、胸ポケットの六角形を指先でつつく。
すると飛び出てきたのは半透明な、運転手姿の受理ちゃん(たぶん弐)。
「この壁一面が無地でスモーキースカイブルーなんで、発色が良いんですよぉう❤」
受理ちゃん弐が、手にしていた丸ハンドルを右に回した。
――――ヒュッパ!
天井が高いスゥイートルームの横長の壁。その比率は丁度、16:9。
ギュヒィーンヴヴォヴォォン♪
壁一面に表示されたゲーム機の起動画面。その圧倒的な色彩。
受理ちゃんみたいな半透明じゃ無い、まるで印刷したみたいな解像度。
「ゲーム機本体のスペック限界の32Kまでの解像度表示が可能でぇ~す❤」
僕と双一は、その圧倒的な解像度に打ちのめされ、背後のソファーに倒れ込んだ。
(音響は金糸雀號が分解点検中なので、仮想サラウンドの7・1chが限界で~す)って受理ちゃんの説明は耳に届かなかった。
「すっげー! 佳兄ぃーー! やろうやろう、今すぐゲームやろっ!」
ほんの数時間前に、この何倍もの臨場感で異世界を味わった僕たちだけど、それはそれ、ゲームは別腹だ。
「そうだ、この間買ったレースゲームは観光バスも使えるんですよ」
僕は金糸雀號から持ってきたバッグを漁る。
ゲームデータは全部クラウドに入ってるし、あとはコントローラーがあれば――。
――コカカカッツココン、パパパパンッ!
リズミカルな、レバー操作。コンマ一秒以下の正確さで叩かれるボタン。
会田さんが手にしていたのは、格闘ゲーム用のアーケードコントローラー。
金糸雀號で見た、最近出たばっかりの、すっげー性能良いアケコンだ。
「よし、遅延ゼロ確認。受理ちゃん、良い仕事だ」
画面に表示されているのは、コントローラーセッティング。
入力に対する反応速度を数値で確認することも出来る。
僕たち格ゲープレイヤーの間では、〝プレイヤーズチェックサム〟なんて呼ばれてる。
確かに表示されている反応値はコンマ以下で、ほぼゼロに近い。普通はどれだけ高性能なゲーム機でもこんな数値は出ない。
でも驚くべきは会田さんのリズミカルなアケコン操作の方だ。
そういえば、甲月も会田さんも、受理ちゃんに習って色々マスターしたっていってたっけ。
「なら、格ゲーやりたいです! 『コンボジェットイグジット3』か『トグルオーガ』!」
「やりたいやりたいっ!」
「フフッ……じゃあ、やりますか――」
『――YOU WIN!』
『――YOU WIN!』
『――YOU WIN!』
運転手会田は少年達に叩きのめされていく……ゲームで。
◇高級リゾートホテル/バックギャモン大広間B◇
ケリ乃達と合流した僕たちは、かなり豪華な山海の幸を楽しんだ。
ソレは本当に豪華で、結構量があった。脇目も振らずに片っ端から平らげてたら、「佳喬ちゃん、お行儀悪いわよ」と怒られた。
でも今、食べておかないとスグ横の特設会場で設営中の、
『世界チャンピオンゲーマー/Tボーン鐘倉さんと対戦組み手会!』
が始まってしまう。
すでに、ステージ上には最新型でスマートなアーケード筐体が、何台も立ち並んでいる。
中身は出たばかりの『コンボジェットイグジット4』。
うおおお。急がなければいけない――がつがつ、もぐもぐ。
あれ? 隣の会田さんまで、料理をかっ込んでる。
出るつもりなのかな? 格ゲー大会。
筋は良いけど、まだまだ経験者には及ばなくって、双一にも負けてたけど。
「……もぐもぐ、ゴクン。じゃあ行ってくる」
「僕も出たい」
食事を平らげた僕を双一が恨めしそうに見つめる。
「いいわよ、残しても、この量なら大目に見てくれるでしょう?」
そう言うケリ乃も半分を残して、腹をさすっている。
「わーい、行こう! 佳兄ぃ~! と、丁兄ぃ~も!」
会田さんやっぱり出る気なんだ。
「「「「いってらっしゃい」」」……?」
女性陣に見送られ、双一に引っ張られていく僕と会田丁字さん。
設営が終わった特設会場では、既に司会者が、『対戦組み手会』へのエントリーを募っている。
僕たちは、横のテーブルで名前、年齢、使用キャラを参加用紙に書き込む。
すると、流れていたゲームのBGMが切り替わった。
♪――この曲は!?
世界チャンピオンゲーマー『Tボーン鐘倉』がテーマソングにしてる、『コンボジェットイグジット』シリーズの主人公キャラのテーマソングだ。
♪――軽快に流れ続けるテーマソング。
会場に『Tボーン鐘倉』の姿は無い。
ざわつき始めた会場の真ん中に、意外な人物が躍り出た。
「――ブフォッ!」
吹いた。食べたばかりの豪華な食事が飛び出さなくて良かった。
双一も、開いた口を閉じることが出来ないでいる。
ナゼかと言えばそれは――。
その人が、目深にかぶっていた帽子を投げ捨て、浴衣を脱ぎ捨てたから。
そして、背を向けた長袖Tシャツの背中には、筆書きの『T』の文字!
司会者がマイクを会田さんに手渡した。
ステージ中央に立った会田丁字さんは、静かな声でこう言った。
「どうも、Tヴォーン鐘倉~です。今夜わぁ楽しみま~しょう」
司会者が会田さんからマイクを受け取り、絶叫する。
「本日の主役! Tボーーーーン鐘倉ぁー選手にー拍手ーっ!」
ウオワァァァァァァァァァーーーーーーーーッ!
◇↓→↓→←→PKPP+G◇
――コカカカッツココン、パパパパンッ!
リズミカルな、レバー操作。コンマ一秒以下の正確さで叩かれるボタン。
「も、もー言ってくれたら良かったのに~♪」
人が悪いなーと言いつつ僕は、ニッコニコだった。
自分のパーフェクト負けを喜ぶ、プレイヤーなんて居ない――いや、居るのだ。
圧倒的な強さの前には、尊敬と畏怖しか無いのだ。
「ナイスファイト!」
親指を立て、少年の健闘をたたえるTボーン鐘倉。
「丁兄ぃ~、次は僕だよ! 負けないかんね!」
双一も僕と同じ程度で瞬殺された。
組み手会も、当日大会もTボーン鐘倉の独壇場だった。
対戦相手の得意技を必ず一度は喰らってくれるサービス精神。
けど、油断は一切なく、全てストレート勝ち。
――なのにソレなのに、ブーイングどころか、連勝数が増えるたび、沸き上がる歓声。
――ソレがTボーン鐘倉だっ!
◇スカイラウンジ併設/レクリエーションルーム◇
「え? ひょっとして、このトレードマークって〝T〟じゃなくて〝丁〟なのっ!?」
僕は参加賞でもらったロングTシャツ、……いやロング丁シャツを掲げ、問い詰めた。
「恐縮~です」
頬を染め、後ろ頭を押さえる長身。
ガラガラと崩れていく硬派なイメージ。
「で、でも名前が違うじゃ無いですかっ!」
なおも食い下がる僕。
「ああそれ、世界大会出るときにプレイヤーネーム決めろって言われたから、その時住んでた〝コーポ鐘倉〟から急遽取ったんだよね」
ガクリ、完膚なきまでに打ちのめされ、崩れ落ちた僕を年少組が慰めてくれた。
◇
大人気格闘ゲーム『コンボジェットイグジット2SP』世界大会で優勝経験を持つゲームプレイヤー。
『Tボーン鐘倉』。会田丁字のゲーマー時代のプレイヤーネーム。
Tはテイジの丁。ボーンはやせてるから。鐘倉は当時、コーポ鐘倉に住んでいたから。
くっ! いや、レジェンドは今でもレジェンドなんだけど。
でも、そっか部屋で負けてたのは超ウルトラ接待プレイだったというわけだな。ぐぐ、悔しいというか恥ずかしい。
「でも、検索したら結構な人気よね。運転手さんのこと見直したわ❤」
美少女にスマホ片手に言い寄られ、後ろ頭を押さえる長身。
長身の周りに人だかりが出来た。僕も混ざろうと気力を奮い起こして立ち上がった、その時。
「――なぁ~んかぁ気にいらないわねぇ~!」
浴衣姿で色っぽ……さのかけらも無い仁王立ち。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ。
地の底から轟くような重厚な威圧感。
それは、添乗員から発せられている。
次回の甲月のセクシーアクション。要らなかったかな? 有ってもイイヨという方は、是非ポイント評価をお願いします。




