一日目(16)
何とか一日目が無事に……無事か?
※2019/09/14 3:38 読み辛いトコがあったので修正。
行き先不明のツアー初日。
大まかな行程が無事終了したらしい(全然無事じゃ無いけど)。
命の危険にも散々晒されたけど、
いざ終わってみれば被害は、僕のシャツ一枚だけという快挙。
今日の体験は一生のうちでもトップクラスに入る、
デタラメに面白い出来事ばかりだったのは間違いない。
10億円とか、小遣いにしては多すぎる臨時収入とかを考えれば、
なおさら、かなりの高評価を出さざるを得ない。
でも、それと、子供達に危険が及んだことを、無かった事にするのは全然別の話だと思う。
◇現実世界帰還後/小さな展望台の駐車場にて◇
「一体全体どういうことなんでしょうか?
魔法とか異世界とか、この金糸雀號と装備品の悪魔みたいな謎の技術とか――
そもそもこのツアーとアナタたち鶯観光研究所の目的って何なんですかっ!?」
――ドン!
僕は壊れない程度に(相撲取りがドロップキックしたって壊れなさそうだけど)、座席のアームレストを叩いた。
「前にも一度言いましたが、本当は、皆様と打ち解けたのちに、
異世界の説明やツアーの目的などお伝えした上で、
同行をお願いする手はずだったのです――本当にごめんなさい」
膝にオデコをくっつけた超最敬礼……むしろ、逆にふざけてる?
「――大変すみませんで~した」
くだけた感じのアナウンスも入ってきた。
高飛び込み選手みたいになってた添乗員の頭が、30度くらい持ち上がる。
指先で抱えてた制帽が小脇に挟まれる。
少し癖っ毛の頭頂部がワサリと揺れた。
「まあ、小さい子達は、ほんっとに楽しかったみたいだし、ひとまずは許してあげても良いんじゃない?」
と、ケリ乃から意外にも優しい言葉が。
更に30度持ち上がる添乗員頭部。
あ、小鳥のロゴマーク。帽子の正面にあの目つきが悪い奴がくっついてる。
あれって、鶯観光のマークだったのか。
「「「楽しかった~」」よ?」
続く小さい子達の言葉。
更に30度。
その内面に全く伴ってない、華やかで麗しい顔。
上目遣いでコッチを見上げる、その表情。
確かに、反省しているように見えるけど、その瞳の奥には、獰猛な何かが潜んでいる気がする。
だめだ。この人、見てくれだけは、スッゲー美人だし、このまま顔をつきあわせてたら、またどこまでもペースを握られてしまうに違いない。
「じゃあ、判りました。異世界なんかに関する説明が足りなかった事は、こうして謝罪されたし、もう良いです。けど、――旅行はコレでおしまいです」
「「「「ええーーーーっ!?」」」」
なんでケリ乃まで反対するんだよ。
「それと、ウチの親戚一同は、まだウチにいると思うんで、今すぐ連絡して迎えに来てもらいます!」
「「「「「ええーーーーっ!?」」」」」
なんで甲月まで混ざってるんだよ!
なんかふざけてる。制帽もかぶり直してるし、もう今すぐにでもツアーを再開しそうだ。
「場合によっては、警察に通報して、鶯観光研究所も調べられることになるかも知れませんよっ――!」
僕は言ってやった!
どうだ!
すっ――折れ曲がっていた甲月の体が垂直になった。
細められた唇から、長い長い息が吐き出される。
「そう、上手くは、……いかないと思いますよぉう?」
今まで聞いたことの無い低いトーン。
派手目で美人で、スタイルも超抜群で、
戦術級携帯兵器を振り回す、
芸達者にして研究員。
しかも、生命情報科学とか言うヤツの権威。
そうだった。この人、見てくれだけじゃ無くて、中身も良かったんだっけ!
「ど、どどどどど、どういう意味ですか!? ぼ、僕たちを帰さないつもりですかっ!?」
まずい。思ってたより事態は深刻だったのかも知れない。
周囲の観光客達の邪魔にならないようにって、急いでバスに戻ったのは失敗だった。
あのまま、展望台の係員にでも助けを求めるべきだっただろっ!
僕はバカかっ!
僕は意を決して席を立つ。ケリ乃達には頼れない。みんなを外に出しさえすれば、いくらでもチャンスは――――。
「おトイレですかぁ~? 金糸雀號にも配備されておりますがぁ?」
消えたと思ってた受理ちゃん参が、胸ポケットから顔を出し、ドアを指差してくれた。
プーッ♪ プシューーッ、ガチャン。
――――!?
思わぬ援軍に戸惑いつつも、僕は叫んだ!
「みんなっ! 外に出ろっ! 誰でもイイから助けを呼ぶんだーーっ!?」
えーっ? やだっ! なんでよ? 何でです……か?
席は立ったけど、そこから動く気配が無い。何て緊張感が無い奴らなんだ。
「イイから急げっ!」
僕が甲月を押さえている間に――スカッ。
あれ? 手応えが無い。甲月はそこに居なくて――居るわけがない。
「えっ? 何か居ましたか!? 皆様のことは、私が命に代えてもお守りいたしますので、ご安心下さいませ~~っ!」
甲月はバスの外で、くすんだ青色の棒を振り回していた。
周囲を見回す様子に余裕は無い。
片眼鏡も引き出されている。
………………あー、少なくとも彼女は本気で、未知の敵から僕たちを守ろうとしている。
あの綺麗で頭は良いけど、どこかポンコツなお姉さんを見てたら……もうほんと……どうでもよくなってきた……フフッ、ぷはははっ!。
不意に慌て者が、動きを止めて僕を振り返った。
「周囲に敵影無し。安全確保」
受理ちゃん壱の報告を聞いた、甲月お姉さんの目が据わった。
◇
「では、発車いたし~ます」
軽快なアナウンス。
ドアが閉まり、発車する金糸雀號。
「(え? ちょっとまてい! 会田貴様っ! こらぁ! 止まりなさい!)」
ドンドンとドアを叩く添乗員。
「乗客の皆様に申し上げます。市街地走行中は大変揺れますので、ご着席の上、シートベルトをお閉め下~さい」
パパーーン♪
ブロロロッ――――!
結構なスピードで駐車場を出る金糸雀號。
慌ててシートベルトを締める僕たち。
双子が笑い、慌てたケリ乃が受理ちゃん肆を出し、中学生が(笑ってる僕を見て)つられて笑う。
甲月達、鶯観光研究所。
彼らが、何らかの思惑で異世界旅行に、僕たちを巻き込んだことは事実だ。
でも、ソコに悪意が無い事だけは確認できた。
僕たちを心から楽しませようと、今も必死にバスを走らせている。
ちなみに甲月は、四つ目の信号で止まったときに追いついてきた。
全力で逃げる観光バスに勝てる……あの歩行アシスト付きの靴、ホントに欲しいんだけど。
◇国道沿いのドライブインに停車中◇
「まず大前提が間違っていますので、ご訂正させて頂きますが、鶯勘校サイドの多少の身勝手な思惑はあれど、私共は皆様方と一心同体にして一蓮托生です。その辺のことをこれからお話していきますが、その前に――」
そう言って差し出してきたのは、角が丸くなったあんまり堅苦しさを感じない、浮ついたデザインの名刺。
『鶯勘校研究所/
金糸雀號専属乗務員兼研究員
こうづき ひさめ❤』
『※必要情報開示レベル3』なんて注意書きが隅っこに書かれてて、裏面は使い捨ての磁気カードみたいになってた。
※腹を割って話をするためと前置きされてから、僕たちは情報レベル3とやらへのアクセス権を譲渡されている。
「改めまして、こうづき、ひさめでぇーっす❤」
僕の座席の前までよってきた甲月が、急に体をクネクネさせる。
肩に乗る受理ちゃん壱まで一緒になってクネクネしてたけど、コッチはいつものお遊戯みたいにしか見えない。
「なんかチョット、いかがわしいわね」
後部右座席に戻ったケリ乃が、クネクネする添乗員を見る。
そして何故か、次に僕を睨み付けて来た。
「あれ? カンコウってこう書くんだねー?」
ケリ乃の視線に耐えかねた僕は、中学生に同意を求めたけど、特に返答は無かった。
「添乗員甲月へ業務連絡。ツアーの対象年齢は10歳から17歳までとなっております。注意されたし」
「はい、ではおふざけはこのくらいにして、先を進めましょう。今お渡ししたプリペイドカードは、ツアー中、肌身離さず携帯して下さい」
僕に尻を向け良く通る声で、皆に説明する添乗員。
ケリ乃の視線が鋭さを増していく。理不尽だ。
「コレと同じくらい大事です……か?」
中学生が首からさげてる良い拵の箱。
ソレが、甲月のはち切れそうな腰回りに、グイっと押しつけられた。
「はい、次葉様は、〝バスターコア〟も一緒に持っていて下さい」
なおも押しつけられる、箱。
その時、中学生制服の胸元から微かに届く振動音。
少女は箱を戻し、スカーフ止めに貼られた通信端末を押した。
「私は大事じゃ無いんですかぁー?」
飛び出す半透明。
頬を膨らませ異議を唱える、中学生制服姿の受理ちゃん伍。
「受理ちゃんも大事ですよー。先にお渡し済みの通信端末も、常に携帯して頂きます。ソレとは別に、このプリペイドカードも必ず携帯し――痛ったっ」
再び、グググッと押しつけられる箱を両手で押し返すバスガイド。
「次葉様は、全部で三つになってしまいますが、ちゃんと持っていて下さいねー」
腰を引き、前部座席の間に避難するナイスバディー。
中学生が箱を掲げ、謎のドヤ顔を向けてくる。
オマエは甲月の尻に恨みでもあるのか――いや、単にうっとうしかったのか。
なぜか受理ちゃん伍まで一緒になって同じ顔。
受理ちゃん達は、持ち主に最適化されるのかも知れないな。
壱は口調とか動きが兵士みたいだし、金糸雀號のロボットアームなんかまで、好戦的で甲月ぽかったりしたし。
◇
正面パネル前の空いたスペースに躍り出た添乗員が、クルリと僕たちに向き直った。
「そちらは、情報レベル3以上をお持ちの方の安全をお守りする為に用意されている、〝特別な保護プログラム〟へのアクセスキーです。何時如何なる時であろうとも、私甲月緋雨の権限と身命において、必ずや、皆様をお救いする事をお約束するモノです。使い方は、現在、日本国内に存在する全てのプリペイドカード式の自販機や券売機などの、挿入口へ差し込んで頂くだけですので~」
スラスラと淀み無い長口上。さすがは添乗員。
「駅にある電話にも使えます……か?」
次葉が具体的な質問をする。
いっさい物怖じしないのには、つくづく関心する。さすがはお嬢様だ。変なとこも含めて。
「駅の電話……? ああ、テレホンカードですか? はい、駅構内や主要施設などに設置されている、高速通信可能な次世代公衆電話にも対応しておりますよ。基本的には、受理ちゃんが近くに居ないときの緊急用です。万が一の時の為に、携帯して頂ければ結構ですのでー」
ソレを聞いた次葉は、甲月の名刺をスカートのポケットに大事そうにしまった。
みんなが名刺を仕舞うのを待つ添乗員。
その言葉が砥切れる隙をうかがってたのか、双子が座席をこっちに向けた。
「佳兄いーー。おなかすいた~」
「私もーー」
双子が、シンメトリーに空きっ腹を押さえた。
腹を空かせてたのか。道理で静かだと思った。
「そういえば、佳喬ちゃん、おばさまにお重箱みたいなの持たされてなかった?」
「あ、忘れてた。母さんから朝飯預かってたんだっけ」
腕時計を見れば、PM01:01。そりゃ腹も空くな。
通路の一部が階段になって、下に降りていく甲月。
あれ? このバス、ソコまで高さあったっけ?
屋根の前の方にはなんか謎の厚みがあったけど。
「あら、結構沢山有りますねぇ~」
確かに、数段重ねの重箱は、朝持って来る時大変だった。
甲月達も含めた、全員分ならそれも頷ける。
□
カヒューーィ♪
移動研究所がまた設置された、と思ったけど違った。
モニタ周りにあった各種計器類が天井付近まで持ち上がって、食器や調理器具、包丁やグラスなんかが、次から次へと配置されていく。
壁の奥の、医療機器みたいなのとか、ロボットアームとかには、カバーが掛けられたままだった。
一蓮托生とまで言うのだから、甲月の話は最後まで聞いてやるつもりだけど、話はまだまだ続きそうだし、まずは、腹ごしらえだ。
運転手会田さんも交えて、かなり遅い朝飯になった。
続いてしまいました(謝罪)。次回一日目最終回(希望)。甲月のセクシー(当社比)アクションにご期待下さい。




