表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/81

一日目(16)

何とか一日目が無事に……無事か?

※2019/09/14 3:38 読み辛いトコがあったので修正。

 行き先不明の(ミステリー)ツアー初日。

 大まかな行程が無事終了したらしい(全然無事じゃ無いけど)。

 命の危険にも散々晒されたけど、

 いざ終わってみれば被害は、僕のシャツ一枚だけという快挙。


 今日の体験は一生のうちでもトップクラスに入る、

 デタラメに面白い出来事ばかりだったのは間違いない。

 10億円とか、小遣いにしては多すぎる臨時収入とかを考えれば、

 なおさら、かなりの高評価を出さざるを得ない。


 でも、それと、子供(ぼく)達に危険が及んだことを、無かった事にするのは全然別の話だと思う。



 ◇現実世界帰還後/小さな展望台の駐車場にて◇


「一体全体どういうことなんでしょうか?

 魔法とか異世界とか、この金糸雀(カナリア)號と装備品の悪魔みたいな謎の技術とか――

 そもそもこのツアーとアナタたち(うぐいす)観光研究所の目的って何なんですかっ!?」

 ――ドン!

 僕は壊れない程度に(相撲取りがドロップキックしたって壊れなさそうだけど)、座席のアームレストを叩いた。


「前にも一度言いましたが、本当は、皆様と打ち解けたのちに、

 異世界の説明やツアーの目的などお伝えした上で、

 同行をお願いする手はずだったのです――本当にごめんなさい」

 (ひざ)にオデコをくっつけた超最敬礼……むしろ、逆にふざけてる?


「――大変すみませんで~した」

 くだけた感じのアナウンスも入ってきた。

 高飛び込み選手みたいになってた添乗員(こうづき)の頭が、30度くらい持ち上がる。

 指先で抱えてた制帽が小脇に挟まれる。

 少し癖っ毛の頭頂部がワサリと揺れた。


「まあ、小さい子達は、ほんっとに楽しかったみたいだし、ひとまずは許してあげても良いんじゃない?」

 と、ケリ乃から意外にも優しい言葉が。

 更に30度持ち上がる添乗員(ガイド)頭部(ヘッド)

 あ、小鳥のロゴマーク。帽子の正面にあの目つきが悪い奴がくっついてる。

 あれって、(うぐいす)観光のマークだったのか。


「「「楽しかった~」」よ?」

 続く小さい子達の言葉。

 更に30度。

 その内面に全く伴ってない、華やかで麗しい顔。

 上目遣いでコッチを見上げる、その表情。

 確かに、反省しているように見えるけど、その瞳の奥には、獰猛(どうもう)な何かが潜んでいる気がする。


 だめだ。この人、見てくれだけは、スッゲー美人だし、このまま顔をつきあわせてたら、またどこまでもペースを握られてしまうに違いない。


「じゃあ、判りました。異世界なんかに関する説明が足りなかった事は、こうして謝罪されたし、もう良いです。けど、――旅行はコレでおしまいです」


「「「「ええーーーーっ!?」」」」

 なんでケリ乃まで反対するんだよ。


「それと、ウチの親戚一同は、まだウチにいると思うんで、今すぐ連絡して迎えに来てもらいます!」

「「「「「ええーーーーっ!?」」」」」

 なんで甲月(こうづき)まで混ざってるんだよ!

 なんかふざけてる。制帽もかぶり直してるし、もう今すぐにでもツアーを再開しそうだ。


「場合によっては、警察に通報して、(うぐいす)観光研究所も調べられることになるかも知れませんよっ――!」

 僕は言ってやった!

 どうだ!


 すっ――折れ曲がっていた甲月(こうづき)の体が垂直になった。

 細められた唇から、長い長い息が吐き出される。

「そう、上手くは、……いかないと思いますよぉう?」

 今まで聞いたことの無い低いトーン。


 派手目で美人で、スタイルも超抜群で、

 戦術級携帯兵器(ヒュペリオン2)を振り回す、

 芸達者(エンターテイナー)にして研究員(サイエンティスト)

 しかも、生命(バイオ)情報科学(インフォマティクス)とか言うヤツの権威(オーソリティー)

 そうだった。この人、見てくれだけじゃ無くて、中身(スペック)も良かったんだっけ!


「ど、どどどどど、どういう意味ですか!? ぼ、僕たちを帰さないつもりですかっ!?」

 まずい。思ってたより事態は深刻だったのかも知れない。

 周囲の観光客達の邪魔にならないようにって、急いでバスに戻ったのは失敗だった。

 あのまま、展望台の係員にでも助けを求めるべきだっただろっ!

 僕はバカかっ!

 僕は意を決して席を立つ。ケリ乃達には頼れない。みんなを外に出しさえすれば、いくらでもチャンスは――――。


「おトイレですかぁ~? 金糸雀(カナリア)號にも配備されておりますがぁ?」

 消えたと思ってた受理ちゃん(スリー)が、胸ポケットから顔を出し、ドアを指差してくれた。

 プーッ♪ プシューーッ、ガチャン。

 ――――!?

 思わぬ援軍に戸惑いつつも、僕は叫んだ!


「みんなっ! 外に出ろっ! 誰でもイイから助けを呼ぶんだーーっ!?」

 えーっ? やだっ! なんでよ? 何でです……か?

 席は立ったけど、そこから動く気配が無い。何て緊張感が無い奴らなんだ。


「イイから急げっ!」

 僕が甲月(こうづき)を押さえている間に――スカッ。

 あれ? 手応えが無い。甲月(こうづき)はそこに居なくて――居るわけがない。


「えっ? 何か居ましたか!? 皆様のことは、私が命に代えてもお守りいたしますので、ご安心下さいませ~~っ!」

 甲月(こうづき)はバスの外で、くすんだ青色の(バール)を振り回していた。

 周囲を見回す様子に余裕は無い。

 片眼鏡(モノクル)も引き出されている。


 ………………あー、少なくとも彼女は本気で、未知の敵から僕たちを守ろうとしている。

 あの綺麗で頭は良いけど、どこかポンコツなお姉さんを見てたら……もうほんと……どうでもよくなってきた……フフッ、ぷはははっ!。


 不意に慌て者(こうづき)が、動きを止めて僕を振り返った。

 

「周囲に敵影無し。安全確保(クリア)

 受理ちゃん(ワン)報告(リポート)を聞いた、甲月(ポンコツ)お姉さんの目が据わった(ジトリ)


   ◇


「では、発車いたし~ます」

 軽快なアナウンス。

 ドアが閉まり、発車する金糸雀(カナリア)號。


「(え? ちょっとまてい! 会田(えだ)貴様っ! こらぁ! 止まりなさい!)」

 ドンドンとドアを叩く添乗員(バスガイド)


「乗客の皆様に申し上げます。市街地走行中は大変揺れますので、ご着席の上、シートベルトをお閉め下~さい」

 パパーーン♪

 ブロロロッ――――!

 結構なスピードで駐車場を出る金糸雀(カナリア)號。

 慌ててシートベルトを締める僕たち。

 双子が笑い、慌てたケリ乃が受理ちゃん(フォー)を出し、中学生が(笑ってる僕を見て)つられて笑う。


 甲月(こうづき)達、(うぐいす)観光研究所。

 彼らが、何らかの思惑で異世界旅行に、僕たちを巻き込んだことは事実だ。

 でも、ソコに悪意が無い事だけは確認できた。

 僕たちを心から楽しませようと、今も必死にバスを走らせている。


 ちなみに甲月(こうづき)は、四つ目の信号で止まったときに追いついてきた。

 全力で逃げる観光バスに勝てる……あの歩行アシスト付きの靴、ホントに欲しいんだけど。



 ◇国道沿いのドライブインに停車中◇


「まず大前提が間違っていますので、ご訂正させて頂きますが、(うぐいす)勘校(かんこう)サイドの多少の身勝手な思惑はあれど、私共は皆様方と一心同体にして一蓮托生(いちれんたくしょう)です。その辺のことをこれからお話していきますが、その前に――」

 そう言って差し出してきたのは、角が丸くなったあんまり堅苦しさを感じない、浮ついたデザインの名刺。

鶯勘校(うぐいすかんこう)研究所/

 金糸雀(カナリア)號専属乗務員兼研究員

 こうづき ひさめ❤』

 『※必要情報開示レベル3』なんて注意書きが隅っこに書かれてて、裏面は使い捨ての磁気カードみたいになってた。

 ※腹を割って話をするためと前置きされてから、僕たちは情報レベル3とやらへのアクセス権を譲渡されている。


「改めまして、こうづき、ひさめでぇーっす❤」

 僕の座席の前までよってきた甲月(こうづき)が、急に体をクネクネさせる。

 肩に乗る受理ちゃん(ワン)まで一緒になってクネクネしてたけど、コッチはいつものお遊戯みたいにしか見えない。


「なんかチョット、いかがわしいわね」

 後部右座席(ていいち)に戻ったケリ乃が、クネクネする添乗員(こうづき)を見る。

 そして何故か、次に僕を睨み付けて来た。


「あれ? カンコウってこう書くんだねー?」

 ケリ乃の視線に耐えかねた僕は、中学生(つぐは)に同意を求めたけど、特に返答は無かった。


「添乗員甲月(こうづき)へ業務連絡。ツアーの対象年齢(レーティング)は10歳から17歳までとなっております。注意されたし」

「はい、ではおふざけはこのくらいにして、先を進めましょう。今お渡ししたプリペイドカードは、ツアー中、肌身離さず携帯して下さい」

 僕に尻を向け良く通る声で、皆に説明する添乗員。

 ケリ乃の視線が鋭さを増していく。理不尽だ。


「コレと同じくらい大事です……か?」

 中学生が首からさげてる良い(こしらえ)の箱。

 ソレが、甲月(こうづき)のはち切れそうな腰回りに、グイっと押しつけられた。


「はい、次葉(つぐは)様は、〝バスターコア〟も一緒に持っていて下さい」

 なおも押しつけられる、(バスターコア)

 その時、中学生制(セーラー)服の胸元から微かに届く振動音(ノーティス)

 少女は箱を戻し、スカーフ止めに貼られた通信端末を押した。


「私は大事じゃ無いんですかぁー?」

 飛び出す半透明。

 頬を膨らませ異議を唱える、中学生制服姿の受理ちゃん(ファイブ)


「受理ちゃんも大事ですよー。先にお渡し済みの通信端末も、常に携帯して頂きます。ソレとは別に、このプリペイドカードも必ず携帯し――痛ったっ」

 再び、グググッと押しつけられる(バスターコア)を両手で押し返すバスガイド。

次葉(つぐは)様は、全部で三つになってしまいますが、ちゃんと持っていて下さいねー」

 腰を引き、前部座席(ふたごたち)の間に避難するナイスバディー。


 中学生が(バスターコア)を掲げ、謎のドヤ顔を向けてくる。

 オマエは甲月(こうづき)の尻に恨みでもあるのか――いや、単にうっとうしかったのか。

 なぜか受理ちゃん(ファイブ)まで一緒になって同じ顔(ドヤってる)

 受理ちゃん達は、持ち主に最適化される(似てくる)のかも知れないな。

 (ワン)は口調とか動きが兵士みたいだし、金糸雀(カナリア)號のロボットアームなんかまで、好戦的で甲月(こうづき)ぽかったりしたし。


   ◇


 正面パネル前の空いたスペース(ステージ)に躍り出た添乗員(バスガイド)が、クルリと僕たちに向き直った。


「そちらは、情報レベル3以上をお持ちの方の安全をお守りする為に用意されている、〝特別な保護プログラム〟へのアクセスキーです。何時如何(いついか)なる時であろうとも、私甲月(こうづき)緋雨(ひさめ)の権限と身命(しんめい)において、必ずや、皆様をお救いする事をお約束するモノです。使い方は、現在、日本国内に存在する全てのプリペイドカード式の自販機や券売機などの、挿入口へ差し込んで頂くだけですので~」

 スラスラと淀み無い長口上。さすがは添乗員(バスガイド)


「駅にある電話にも使えます……か?」

 次葉(つぐは)が具体的な質問をする。

 いっさい物怖じしないのには、つくづく関心する。さすがはお嬢様だ。変なとこも含めて。


「駅の電話……? ああ、テレホンカードですか? はい、駅構内や主要施設などに設置されている、高速通信可能な次世代公衆電話にも対応しておりますよ。基本的には、受理ちゃんが近くに居ないときの緊急用です。万が一の時の為に、携帯して頂ければ結構ですのでー」

 ソレを聞いた次葉(つぐは)は、甲月(こうづき)の名刺をスカートのポケットに大事そうにしまった。


 みんなが名刺(アクセスキー)を仕舞うのを待つ添乗員(こうづき)

 その言葉が砥切れる隙をうかがってたのか、双子が座席をこっちに向けた。


(よし)兄いーー。おなかすいた~」

「私もーー」

 双子が、シンメトリーに空きっ腹を押さえた。

 腹を空かせてたのか。道理で静かだと思った。


「そういえば、佳喬(よしたか)ちゃん、おばさまにお重箱みたいなの持たされてなかった?」

「あ、忘れてた。母さんから朝飯預かってたんだっけ」

 腕時計を見れば、PM01:01。そりゃ腹も空くな。


 通路の一部が階段になって、下に降りていく(・・・・・・・)甲月(こうづき)

 あれ? このバス、ソコまで高さあったっけ?

 屋根の前の方にはなんか謎の厚みがあったけど。


「あら、結構沢山有りますねぇ~」

 確かに、数段重ねの重箱は、朝持って来る時大変だった。

 甲月(こうづき)達も含めた、全員(しちにん)分ならそれも(うなづ)ける。


   □


 カヒューーィ♪

 移動研究所(ラボ)がまた設置された、と思ったけど違った。

 モニタ周りにあった各種計器類が天井付近まで持ち上がって、食器や調理器具、包丁やグラスなんかが、次から次へと配置されていく。

 壁の奥の、医療機器みたいなのとか、ロボットアームとかには、カバーが掛けられたままだった。


 一蓮托生とまで言うのだから、甲月(こうづき)の話は最後まで聞いてやるつもりだけど、話はまだまだ続きそうだし、まずは、腹ごしらえだ。

 運転手会田(えだ)さんも交えて、かなり遅い朝飯になった。

続いてしまいました(謝罪)。次回一日目最終回(希望)。甲月のセクシー(当社比)アクションにご期待下さい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ