一日目(15)
数行程度の砦戦を整えると4000文字超えてしまう。無尽蔵に増やす事が出来てしまうのも無いよりはあった方が良い能力なのだけど。まあとにかく帰って来られそうですよ現実世界に。
悪い顔をして受理ちゃん壱に小さな電卓を弾かせている甲月。
何かを確認してから嬉々として金糸雀號へと駈け戻っていく。
「その線から向こうへは行かないで下さいね。スグ戻ってきますから~~~~」
戦闘により、この辺の枯れ葉は綺麗に吹き飛んでしまっている。
その固めの地面に青い釘抜きが刺さっている。
そしてソコから伸びている地面に引かれた線。
「そこから先には行くなよー。一応甲月お姉さんの言うことは、聞いておこうな~」
年少組からの、うん、わかった、はい?
という、気もそぞろな返事。
裏切り者が粉砕した木々の根っこのへし折れ具合を確かめたり、地面に開いた穴の様子をつぶさに観察するのに忙しいらしい。
ボコボコと開いた穴は、底が浅くて足を入れても危険は無い。
あの小さいとはいえ結構しっかりとした体型の〝ズングリ〟が、一体どういう魔術を使って、この単なる窪みの中を高速移動したり、隠れたりしてたのかはサッパリ判らない。
まあ〝異〟世界って言うくらいだから、何でもありなのかも知れないけど、こう基本的な部分の説明が無いのでモヤモヤする。
腕を組んで頭を悩ませていると、ケリ乃が僕のシャツを引っ張った。
振り返ると、金糸雀號の隔壁が一つ開いて、中からロボットアームが飛び出してる。
そのアームの先には、お馴染みの〝くすんだピンク色の長い棒〟。
ソレを受け取った甲月が、棒から棒を引き出したりして発射準備を整えていく。
「現実世界の時点で既に何でもありだったからな~」
ガチガチガチン!
なぜか砦の機械腕に向かって、威嚇するような動きを見せるバスの腕。
飼い主そっくりじゃんか、あのロボ腕。
ギャリリッ――ガチンガチンガッチンッ!
怒ったみたいに、腕を旋回させ、再び鎌首をもたげた要塞砦。
こいつ等――――本当に似てるぞ。関節のネジみたいな丸いパーツなんかまでソックリだし。
ヒュペリオン2を抱えて戻ってくる甲月。
その足取りは異様にゆっくりで、実際の移動速度とまるで合ってなかった。
あのジャングルブーツみたいなゴツイ靴にも、きっと種も仕掛けもある。
歩行アシスト付きのあの靴は、かなり欲しいかも。
◇
「お待たせいたしましたー。コレさえ有れば、百人力ですよぅ♪」
僕たちの前に横たわる、自分で引いた境界線を踏み越え、火球発射装置を構える甲月お姉さん。
その顔は、やっぱり、昼間から見てはいけないような、どこか艶めかしいニヤケ顔で。
「それ、さっき、全然通用しなかったんじゃ?」
「いーえ。大丈夫ですよう。外で使えるなら、ヒュペリオン2は無敵ですので~♪」
ピピッ♪――構えるなり即座に引かれるトリガー。
――――チュィィィィィン、ヒュッボッボッ、ボボボボボボォウワッ!
発射され、その直径を大きくしていく火球。
その成長速度が速い原因は、足下をのたくってる太くて堅いケーブルのせいだろう。
甲月の腰辺りから伸びたケーブルはヒュペリオン2に接続されているけど、ソレとは別にもう一本。
かなり頑丈で本格的な電源ケーブルらしきモノが、トリガーの上辺りの側面にも接続されている。
その接続先は、もちろん金糸雀號だ。
ボォゴォワァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!
火球の成長は何時までも止まらない。
よく地平線に近い月が大きく見えるなんて言うけど、そんな生やさしいもんじゃなかった。
もう太陽が落ちてきたみたいな騒ぎ。
射手甲月が〝無敵〟と豪語したのにも根拠があったみたいで――――要塞砦に届く頃には、それは、ケフラットモール達へ向けた特大の攻撃よりも遙かに直径が大きく、光の強さも強烈になっていた。
ボッゴワァァァァァァァァァァァァァァァッ――――ガッキィィィィィィィィン!
金属質な効果音と共に、火球を受け止める機械腕。
僕たちの視界一面にふくれあがっていた火球が、その大きさをググググと小さくしていく。
また大爆発する前触れかと思ったけど、その動きは威力を吸い取られて押さえ込まれている様にみえる。
火球がどんどん縮んでいくと、砦の巨大石垣や機械腕の先端が再び見えてきた。
機械腕には六角形の盾みたいなモノが握られていて、その表面に特大サイズの魔方陣が浮かび上がっている。
白金の光沢が火球に燻され、次第に煤けていく。
その輝きを維持するべく、回転させ位置を小刻みに調整していく機械腕。
丁度、金糸雀號の正面モニタを掴んだ、ロボットアームみたいな動き。
甲月は火球を、機械腕へ向けた銃口を、1ミリすらも反らさない。
とうとう真っ黒になった盾は、なんか受理ちゃん壱が入ってる甲月の胸に貼られた、通信端末みたいに見えた。
火球の向こうに見え隠れしていた、魔方陣が消失する。
シュゴォォォォォォォッ――ボッガン!
大爆発する盾。
機械腕は、まるで気絶してるようにフラフラしている。
「……気絶してるのか?」
甲月は火球を、機械腕へ向けた銃口を、1ミリすらも反らさない。
ジワジワとその大きさを再び拡大させていく火球。
その大きさはすぐ巨大な砦と同じくらいになって、もう、とにかく――――眩しかったっ!
◎
「うわ、まぶしっ!」
「「「まぶしい!」」?」
はくちゅ――ゴツッ!
ケリ乃が、火球の強烈な光に当てられて、くしゃみをした。
弾みで、僕の肩に突き刺さるオデコ――痛って!
■
フッ――強烈だった太陽みたいな光が、急に弱まった。
甲月が地面に引いた線。
そこから黒いアクリル板みたいなのが飛び出していて、凄まじい光量を遮ってくれている。
「遮光シールドを表示しましたのでぇ、もう見てもだいじょうぶですよぉう❤」
火球発生装置の肩の上から小さく手を振る受理ちゃん壱。
コレも〝まだ世の中に出回ってない技術〟だ。
でも強い光を遮る立体表示てのは、バスの中で見た〝複数同時対応な拡張現実技術〟よりもタチが悪い。
暗い光で強い光をどうやって遮蔽してるんだ?
もう、本当に何でもありだな。
なおも、ふくれあがっていく火球の真ん中辺り。
水面に煌めく太陽みたいな光。
ソコに灯る『0』の表示。
ヒュン――縮む煌めき――ドガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン!
●
いけねっ!
最初にコレ喰らって甲月は後ろに吹っ飛んでたっけ。
僕は咄嗟に、甲月の射線上に立ってたケリ乃を突き飛ばした。
「キャッ!?」
決してさっきの頭突きに対する仕返しじゃ無い。
いや、ホントにそれどころじゃ無い。
年少組だけじゃ無くて、ケリ乃にだって無事にツアー初日を終えてもらわないと困る。
足下の太くて堅いケーブルに足を取られた僕は、ケリ乃に覆い被さった。
「痛っ」
遮光シールドの外側。凄まじい光のうねりが、抉れた地面の土や、残っていた打突武器なんかを弾き飛ばしていく。
少し暗い視界の上空。爆発する機械腕。
「ぎゃっふん!」
甲月お姉さんが、案の定コッチに吹っ飛んできたけど、〝遮光シールド〟にぶち当たって止まった。
ああもう、この〝遮光シールド〟自体も、悪魔的な技術じゃん!
「よ、佳喬ちゃんの……エッチッ!」
ケリ乃に蹴り飛ばされながら、落ちた機械腕に粉砕され、あっけなく崩れていく巨大砦を確認した。
よし、コレで元の世界に帰れるっ!
■
ボボウゥゥン。
遠くでも何かが爆発した。
振り返ればソレは、金糸雀號の更に向こう。
立ち並ぶ巨岩が、ケフラットモール達の断面みたいにブロック化して、砕け散った。
残されるビルのような形状。
一面に広がっていた、見渡す限りの大森林が、一斉に蠢く。
ボッシュシュシュシュシュシュシュシュウッ!
まるでロケット花火のように発射される、大木たち。
後に残るボコボコした地面と、生い茂る背の低い草花が全て――ブロック化した。
――ギシリッ!
土の感触が、一瞬で角張った砂利のように代わる。
上空で大爆発する大木。
うーーーーわーーー!
ものすごい騒音と火花。〝遮光シールド〟の謎の高性能でも、全方位からの衝撃は防げない。
◆
「みんなっ! 金糸雀號に戻れっ――!」
「――その心配はございませんよ。すぐに――帰還しますので」
周囲の騒乱の中、涼しい顔で片眼鏡を引き出す甲月お姉さん。
当然吹っ飛ばされたダメージはなく、金糸雀號や遠くの空を眺めている。
「次は――現実世界、現実世界。(――お乗り間違えのないよう、ご注意くだ~さい)」
なんか運転手会田さんの、ふざけたアナウンスが聞こえた気がしたけど、
グラグラグラッ――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!
強烈な縦揺れと、地響きの凄まじい轟音で、とても立ち上がれない。
なんとか、ケリ乃と双一にしがみ付く。
双一は次葉に、次葉は双美に、双美はケリ乃にしがみ付いた。
ブロック化してる全ての地面が、弾けた!
不思議と痛くはないけど、ガラスみたいな瓦礫がそこら中から飛んできたら、何も出来ない――――!
僕たちは、その場で体を縮ませている事しか出来なかった。
◇
――ブロロロロン。
その音に目を開けると、近くの駐車場へ入っていく乗用車。
周囲には、森も巨大砦の巨大な石垣の残骸も、何かもが無くなっていた。
振り返っても見渡す限りの大森林は無くて――。
パパ――ッ♪
坂の途中に停車している金糸雀號にクラクションを鳴らす乗用車。
バスから伸びた太くて堅いケーブルが通行の邪魔をしてるみたいだ。
――ガヤガヤガヤッ。
僕たちは、小さな展望台に続く小道で、円陣を組んでいた。
ドタン――ドサドサドサッ!
倒れる僕に引っ張られて、皆がこけた。
腕時計を見ると、現在はツアー初日のPM12:31。
僕たちは現実世界に戻ってきた。
ギャグでもハードSFでもなく、〝甲月の甲月による甲月のための甲月アクション〟になりました。じゃあ、ジャンルは『甲月アクション巨編』になります。一日目は、本当にあと1話で終わるのです……か?




