一日目(14)
進んでいます。着実に。あと1、2話で終わります(一日目が)。よろしくお願いします。
「あれって何なんですか? さっき周りには何も無いって言ったのに!」
と言う僕の質問に返答は無く、甲月はバスから飛び降りて、そのままスタスタと歩いて行く。
そして彼女は、手にしたプラスチック製のバールみたいなモノで、ゆらゆらしていたトーテムポールを粉砕した。
「危険は有りませんがぁ」「全て取り除かないと~」
「「元の現実世界が帰還することは出来ませぇん~」」
ケリ乃の肩の上にあぐらをかいて座る受理ちゃん肆と、双美の頭の上でバランスを取る漆が解説してくれる。
っていうか、この人達(AIだけど)、金糸雀號の外でも表示されてるじゃん。
さすが、〝まだ世の中に出回ってない技術〟。
でもいま、〝現実世界が〟って言ったな。高性能だけど、言い間違えとかするんだな。
まあそれどころじゃない。急ごう。
僕は甲月がしたように、ドア横のフタ付きのスリットに手を入れる。
中から取りだしたのは、くすんだ青色の釘抜きみたいなの。
念のため、もう一回手を入れて二本貰っておくことにする。
両手にソレを持って僕はバスを降りた。
枯れ葉がクッションになって、少し歩きにくい。
「ちょっと! あんなの倒せるわけ無いでしょっ! 近寄っちゃダメッ!」
僕が手にした得物を見て、ケリ乃がわめき立てる。
甲月が歩いて行く先に、まだ何十本も煙みたいに立ち上っているソイツ等は、確かにぐねぐねしてて輪郭もはっきりしない。
凄まじく気持ち悪い光景だ。
「双一ー! 次葉ちゃーん! どこだー!? 戻ってこーい!」
「なに? 佳兄ぃー?」
「どうかされました……か?」
バスの前と後ろから声がする。今まさに目的地方向へ駆け出そうとしてた所だったみたいだ。
「先に行っちゃダメだ! 皆一緒に行動すること! 約束できないなら、もう旅行は終わりにするしかないよ」
どのみち、元の現実世界に無事戻れたら、こんなイカレた異世界旅行なんて即終了だけど。
「えーっ! わかったよ~」
「お約束します……よ?」
それでも、とりあえず効果があるなら、嘘も方便ってことで。
「よし、全員揃ったな」
金糸雀號のドアの前に集合する僕たち。
「この専用の釘抜きなら、小さなお子さんでも簡単に壊せますし、本当に危険はありませんよ? それに、良いお小遣い稼ぎになると思いますがぁー?」
またもう一本の不気味棒を粉砕しながら、甲月は気になるセリフを吐いた。
「「「「「お小遣い?」」」」」
チョット興味を引かれる。おじさんや父さんから貰ったのがあるから、お金はそこそこ持ってるけど。
僕はビリビリに裂けた、お気に入りだったシャツの裾を持ち上げる。着替えはあるし、もう旅は終わりだけど、やっぱりお気に入りの一枚は欲しい。
「この要塞砦ですが、陥落できればクリア報酬として〝獲得した全てのポイントやドロップアイテムを現実世界に持ち帰る〟ことが出来ますよ? ……まあ、どの道、クリアしないことには帰れませんので、クリアはして頂くことになるのですけれども」
バリィーン!
添乗員の無造作なスイングで、又新たに粉砕される黒い棒。
「ドロップアイテム? このハンマーとか? でも、ポイントって何の役に立つの?」
金糸雀號めがけて投擲された斧やハンマーが、こっち側にも沢山転がっている。
「えーと、ちょっと待って下さい。受理ちゃん、最終更新時のレートで算出して下さい」
「はぁい。〝バッドドリーム〟一カ所につき、一律0・2ポイント。異世界突入時点の空間異常領域内部観測データ市場価格に換算しますと――」
という受理ちゃん壱の言葉を引き継いで、肆から漆の受理ちゃん達が一斉に解答した。
「「「「――1ポイント=50,000円前後となりますので、約1万円となりますねぇ~❤」」」」
◇
「なん……だって?」
僕は手を滑らせ、軽い棒を地面に落とした。
「但し、鶯勘校研究所もしくはその後継機関が存続する限りにおいて、ポイント精算が可能となりますので、お早めの換金をオススメいたしまーす!」
ボリィーン!
「それとコンボが途切れると、評価額が再算出されてしまうので、同一種だと約半額になってしまいます。そちらについてもご了承下さいませぇー!」
ペキィーン!
なんかややこしいことを解説しながらも、黒いグネグネを次々と撃破していく鶯観光研究所所員。
「ですが〝バッドドリーム〟に関してはぁ~(伍)」
「初回報償金やぁコンボ補正などがぁ(漆)」
「ございませんのでぇ~。確かに良いお小遣い稼ぎにぃ~(肆)」
「なるとぉ~、思われますよぉう~❤(陸)」
受理ちゃん達が、次々に説明を引き継いでいく。
僕は、プラスチック製ぽい釘抜きを拾った。
そしてその、くすんだ青色をジッと見つめた。
棒にはスイッチの類いは無くて、矢印や型番なんかも書かれてない。
「どうかされました……か?」
小首をかしげる中学生。
「じゃあ、さっきの次葉の獲得ポイントって。……ケリじゃなくて、莉乃さん」
「なによ?」
「2万かける5万円っていくらになる?」
「どうしたのよ急に? えっと……10億円じゃないの?」
「さっき見た金糸雀號の収支決算に、……次葉が2万ポイント貰ったって出てた……んだけど?」
ギギギ……ギギッ?
美少女の首が錆び付いたオモチャのロボットみたいな動きで、僕と隣に居る小柄で年下のお嬢様を振り向く。
「それと、ポイント獲得には受理ちゃんのっ、物理検索機能がっ、必要になりまぁす~よっとっ!」
|甲月の良く通る声が、木々の向こうで揺れている。
着実に、〝バッドドリーム〟撃破数を増やしてるようだ。
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ふーん。ごそごそ――ぺたん。目つきの悪い小鳥をあしらったロゴ。回転する魔方陣。
「受理ちゃん参、現時刻をもって業務に復帰しまぁす❤」
飛び出す半透明。もー、佳喬様は、よーやっく私を出してくれましたねぇー。忘れられてるんじゃ無いかと、冷や汗ものでしたよぉう!
と文句を言う割に、そのコスチュームは紺色のジャージ姿だし、右手にはTVリモコン、左手にはポテチの袋がしっかりと握られている。
くわしい貼り付け方は、判らなかったから、起動した通信端末を胸ポケットに戻す。
胸ポケットから顔をのぞかせる受理ちゃん参と目が合った。かわいい。
「……ちょっと佳喬ちゃん。何で受理ちゃん起動してるのよ?」
甲月みたいにスタスタと先へ進む僕に、ケリ乃が訝しげな声を投げかける。
「いや、高校生ってのはさっ、色々物入りなんだよっっと!」
僕は恐る恐る青い棒を振り抜いた。
――バリィィィン!
何の手応えも無く、壊れて消える〝下手なトーテムポール〟。
なるほど、コレは危なくない。コレで一万円なら、本当に良い小遣い稼ぎだ。
「そ、そんなこと言ったら、私だって高一なんだからね! その棒、アタシにも貸してよっ!」
その後、思ったよりも数があったので、年少組も入れて、皆で順番に黒いのを壊して回った。
次葉の10億円には遠く及ばないけど、ソコソコの稼ぎにはなったと思う。
というか、中学生の大金を別にしても、すでにバスツアーの代金なんて軽く超えているけど、……良いんだろうか?
▣
「〝ズングリ〟捕まえたっ……ぜっ!」
戦隊ヒーローみたいな格好つけたポーズで、野球のボールくらいの大きさのサイコロを回収する次葉。
どうぞコチラをお使い下さいと、添乗員から差し出された革製の箱みたいなのに、サイコロを入れる中学生。
「ツアー中は極力肌身離さず携帯して下さるようお願いいたしますね」
革製の箱から、ストラップを引っ張り出した甲月が、ベトレイヤー1所持者の首にそっとかけてくれる。
ムフ~~ッ♪ 鼻息も荒く、御満悦なご令嬢。
いいな、いいな! と手を出す双子達。
「一日に付き最大お一人までと言う制限はございますが、この先、他の皆様の分もご用意させて頂く機会がいくらでもありますから」
む? そうか。次葉だけじゃ無くて、僕らにも10億円のチャンスはある訳か……いやいや、命あっての物種ってヤツだ。
こんな危険すぎるツアーを、とてもとても続けられない。続けて良いわけが無い。
◇
その後は、周囲に散乱する山のような打突武器のウチ、魔力を帯びて光っているモノだけを、皆で回収した。
コレはPT精算出来ませんが、これからの旅程において必ずお役に立ちますので、まあ人数分程度は確保しておきたいですねぇ~❤とは受理ちゃん参の談。
「どうぞ、コチラへ投入してくだ~さい」
外部スピーカーで拡声された運転手さんの声が、森に響く。
金糸雀號右側面のど真ん中辺りに、電子レンジの扉みたいなのが自動的に開いた。
年少組達は、こぞって光るハンマーを投入していく。
〝ズングリ〟達から熾烈な攻撃にさらされたはずなのに、バスの外はほとんど変化が無かった。
多少表面はデコボコしてるんだけど、塗料が剥がれたり傷になっていないので、綺麗に見えるのだ。
他のと比べると地味だけど、たぶんコレも〝まだ世の中に出回ってない技術〟のひとつだろう。
「あらかた片付きましたでしょうか?」
そう言って、添乗員甲月が振り向いたのは、目の前に残る巨大な砦。
片眼鏡を引っ張り出して、目視確認とか言うヤツをしてる。
その視線の先。砦の頂上のハッチが開いて、バコンッ――――ウィウィン、ギャリギャリギャリッ!
巨大な機械腕が再び飛び出してきて、その矛先を僕たちに向けてきた。
なんだよまだ残ってるじゃないかよ!
次回、ギャグになるかハードSFになるかで作品のジャンルが決まります(決めてなかったのかよ!?)。




