一日目(10)
あれ? すみません。地味展開がもう少しだけ続いてしまうかも知れません。あと、ダークな部分が多少出てきます。R15付けた方が良いのかな?
「時間も無いので手短に。〝ズングリ〟の中の一個体を、〝殲滅種〟にします」
「「「「「わんおふせっとばすたぁ~?」」」」」
「選択した一個体に対し強化施術を行います。〝同種への攻撃にのみ特化する〟という制限付きではありますが、その副作用として、この10日間、優秀な使役モンスターとして扱うことが出来るようになります」
「使役って、アレ……か? いやまさかそんな、今時、はははっ?」
「そ、そうよね。もったいぶって何を言うのかと思えば、ねぇ? ……よいしょ」
ケリ乃は中学生を床に下ろし、隣の空いた座席に座った。
◇
反応が悪い僕たちに、わかりやすくしようとしてくれたのかも知れないけど、空中に浮かんだ立体的な図解を駆使した説明は難解さを増していくばかりだ。
「――具体的には、防衛本能と闘争本能の脳内マップをソックリ入れ替えます。自身が本能的に知る弱点、その撃破だけが生き残る術という認識を――あら、こんな話、乗客の皆様にお聞かせして良いことではありませんでしたね」
なんか物騒なことまで言い出したけど、問題はソコでは無い。
「……私が開発した〝バスターコア〟に格納しておけば、異世界中ならいつでも呼び出して使役することが可能になるという……」
特大のサイコロみたいなモノを、ラボ奥の引き出しの中から取り出す。
「わーっ! ダメダメ! 珠じゃ無ければ良いとかそんな安直すぎて、……」
だめだ、この美人|科学者甲月は、全く気づいてない。
なんと説明したモノか。うかつなことを言うと、色々と角も立ちそうだし。
「なーんだ! これってヴァケモンのパク――もぐむぐ」
僕は双一の口を押さえた。
「わ、私『ヴァケット・モンスターズ』ぁ大好っきだ……ぜっ! 私がやってもイイです……かっ?」
怖ず怖ずと名乗り出る中学生。
「次葉様、大歓迎ですよ」
あ~あ、……まあいいか。別に異世界での話だし、モンスターテイマーとか召喚獣とか、昔から普通にあるしな。
「じゃあ、私、あの木によじ登っている子が欲しいのですが、よろしいでしょう……か?」
次葉は、バスの進行方向で言ったら四時方向を指差した。
まだ絶讃シビれ中の、ズングリ大隊の左のハズレの方。
よく見たら、たしかに小さいのが、木にぶら下がってる。
「よく見てたなー、僕は怖くてそんなにじっくり見てられなかったよ」
「顔を背けてたら、そこに居まし……た?」
中学生が指定したのは、能力の高そうなズングリリーダーや、大きな個体では無かった。
体長1メートルも無さそうな、小さな個体。たしかにコレは、チョット――
「――コアラみたいで、かわいいで……しょう?」
◇
バチバチバッ――――シュウゥゥゥゥゥゥン。
蠢めくように煌めいていた稲光が止まった。
ザワリ。蠢く地面。
その脈動は、急激に加速する。
波打つように押し寄せる黒い波。
ドドドドドドドドドッ――!
奴らが踏みならす地響きで、揺れる金糸雀號。
もう、ズングリの波までは、5メートルも無い。
足が短いから速度的には少しだけ余裕が無くも無いけど。
「状態異常の数字消えてたから気付かなかった!」
ドン!
僕たちの見てる透過映像正面、金糸雀號右側面に一匹目が体当たりする音。
「ひぃっ!」
――ドン、ドガン、ド、ド、ド、ドガッ、ガガンッ!
その体当たりの様子が、ガラス一枚隔てただけのような、不自然な明瞭さで余すところなく透過表示されている。
眼は無く、巨大な口から無数の牙が飛び出している。近くで見ると、そのビジュアルは、とてもおぞましかった。
凶暴な姿の妖精の獣指数を3だとしたら、こいつ等のは7とか8だ。
何より体格が思ったよりもゴツくて威圧感が半端なかった。バスの窓に手が届く大きな奴も居る。
「ご、ごわいよーっ! 佳喬にーぢゃん!」
「う゛えええええぇぇぇぇぇぇぇん!」
盛大に泣き出す双子。まだ小学生だ、今まで虚勢を張れていたのが、おかしいんだ。
「甲月さんっ!」
何かやるんなら早くしてくれ!
◇
美人研究者は、涼しい顔を崩さない。
人差し指で、自分の耳の上の辺りをつつく。
ロボットアームが、壁に掛けられた帽子を取り、甲月の頭に静かに乗せた。
「研究員甲月より業務連絡。全方位接地パラライズ発射準備完了次第発射」
兵士研究員甲月が、指示を出していく。
――ゴンッ! ――ドゴン! ――ゴガッギャギギッ! ――ガンガンガガガン!
その間もバスを覆っていく衝撃は増大中。
〝ズングリ〟達は、第一陣を足場にして、窓の隔壁を手斧かなんかで叩き始めている。
「(その帽子必要なのかよっ!)」
「(キャーッ!)」「「(うぇぇぇぇぇぇん!)」」
装甲越しでも、うるさくなってきた。
このままだと、囲まれたり、上によじ登られたりして、まずくないか!?
「研究員甲月へ業務連絡。全方位接地パラライズ発射準備80パーセント完了」
運転手さんは、マイクを使ってる。甲月の声はどうやって聞こえてるんだ?
受理ちゃんが通訳してくれてるのか?
でも、あの若いけど渋めな運転手さんが、受理ちゃんと仲良く会話してる所は想像付かない。
「(同時に使用中の透過モード/通常レイヤーをR12へ変更、並びに静磁式防音装置緊急作動)」
一瞬の透過モード消失。窓を装甲版でふさがれた車内。急に狭くなったように感じる。
殺意の塊みたいな喧騒は、今にも天井に取り付こうとしている。
「金糸雀號、緊急稼働。全ソケット連結。全方位接地パラライズ発射」
バヂバヂバヂバヂバヂバヂッ――――――ドッッッッシャァァァァァァァァァアアンッ!
バスの直下から、稲光が何十本も上に登っていく。
シルエットを縁取られていく、〝ズングリ〟で出来た壁。
舌を出して首をだらりと落とした様子は、やっぱりグロい。
「透過モード/使用レイヤーをR12へ変更。静磁式防音装置緊急作動」
◆
ジジジジッ――――――――――。
車内が静寂に包まれた。急に自分の息を吐く音が聞こえる。
透過モードも、シルエットだけが表示されるようになり、全く怖くない物に変換された。
一度点滅する、透過映像。
再び透過モードの表示レイヤーがリアルなモノに変化した。
「わっ」
一瞬、消えてからもう一回見せられると、きびしいなこいつ等。気持ち悪い。
座席を少し回して双子達を見る。
「大丈夫?」
「うん。動いてるのは判るけど、」
「見えなくなったから、だいじょうぶだよ」
双子達には、一瞬映った〝シルエットだけの表示〟が見えているようだった。
ほんとすげーな金糸雀號。
ぐらり。
ボトボトボトッドドドドズズズッン!
稲光ごと崩れた〝ズングリウォール〟。
地面に落ちても、まだひっくり返ったままだ。
×
「さて、これでまた時間が出来ましたので、す、進めましょうか?」
次葉を見つめた研究員の表情が引きつっているのは――
ジジジッ。印刷される効果音。
『出金 1,850,000/全方位パラライザー使用:即時決算
出金 200,000/全ソケット使用(5分):即時決算
本日 AM11:02現時刻までの収支 -4,182,332』
太字で表示されている、赤文字のせいなんだろうな。
大丈夫なのか? どんどん増えてるけど。
¥
「でもでも、改造したり、仲間同士で殺し合いなんて、かわいそうですよ……ね?」
悩む中学生。たしかに、まだ小さいって事は、親兄弟も居るかもしれないしな。
「ソレについては問題ありませんよ。彼らは今回この連絡点が召喚されてからの命しかありませんし、むしろ、クリア後は即座に消滅してしまいますので、彼もしくは彼女という個としての生命の存続を果たすには、どのみちこれ以外の方法はありません」
いろんな意味で、中学生には(僕にだって)難しいことを並べたてる美人科学者。
なんかいろいろ流したらいけないことも混じってる気がする――座席の表示は金糸雀號の収支のままで、補足は無い。
ケリ乃がメモでもしてくれてると良いんだけど。
「――つきましては次葉様の――血液を頂きたいのですが。
生体認証用のDNA採取及び、モンスターデコード用の生体ハードディスクを作成するのに必要ですので――」
次葉はソレを聞いたとたんに座席を立ち、僕の座席の後ろに潜り込んだ。
「注射嫌い! 止めます!」
よっぽど注射が嫌いなんだろうな。疑問系じゃ無くなってる。
ちょっと複雑な部分だけ、箇条書きにしてからこの部分を書き始めたんですが、書いても書いても終わらなくなってしまいました。次回は超ハードSF回になってしまうかも知れません。近いうちに無双はしますのでお待ち頂けると嬉しいです。誰がするかはまだ決めてませんが(オイ)。




