表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
猫は魔法使いを食す  作者: しがないねこ
8/8

思っていた魔法使い 下

「ち―――びっ!!」


 会うなり、友人――ミィルさんは私に抱き着き、頬を舐めてきました。

いわゆる、猫のあいさつってやつです。


「あなたに会いたくて、会いたくて、仕方なかったわ」

「え? この前町で会ったばかりじゃないですか」


 その時に、ミィルさんは町の酒屋の娘に仕えていると教えてくれたのです。


「一日でも離れると……何年も会っていないみたいに寂しくなっちゃうの」


 そう言って、ミィルさんは舌を小さく出しました。

 短毛の私と違い、ミィルさんの体はふわふわとした長い白い毛で覆われています。

 前足に黒い三角形の模様があり、前足を揃えるとひし形模様になります。


「ねぇねぇ、屋根の上でお月見しましょう。それから――」

「その前にミィルさんの契約者様に挨拶したいです。勝手に、よそ様の家に上がり込むなんて……失礼ですからね」

「んーいいけど、寝ているわよ」

「寝ている? まだ遅い時間じゃないのに?」

「そうなの。彼女はこっちにいるわ」


 ミィルさんの後を追うと、言われた通り、契約者の少女が縁側で眠っていました。

 しかし、少女が握っている花を見て、私は驚愕しました。


「ミィルさん……これって……」


 紫色の花弁に、うっすらとついた金粉が光る花。

 間違いない、これは―――。


「ええ。夢蝶蘭よ」


 歌うように、ミィルさんが言いました。


「ど、どうしてこれを使ったんです……?! この花は……」


 夢蝶蘭。湖の底で、千年に一度しか咲かない希少な花。

 とても美しい花なのですが、花の香りを嗅いだ者は眠りに着き、何もかも自分の思い通りになる夢の世界の住人になります。眠りを覚ますには二十四時間以内に、夢蝶蘭の対となる花を嗅がなければなりません。二十四時間を過ぎてしまうと――その者は死んでしまうのですから。


「ねぇ、千備! 明日も空いているかしら?」

「私の契約者様に訊いてみないとわからないです……。ミィルさん、対の花は用意してあるのでしょう……?」

「え? そんなもの用意していないわよ」


 少女の体に顔を押し付け、ミィルさんは満足そうな表情を浮かべます。


「だって、彼女がそう望んだんですもの。

何でも自分の思い通りになる魔法が使いたいって

そんなこと出来るのは、この花しかないでしょう?」

「……ですが、それは魔法とは言えないんじゃ――」

「ねぇ、千備」


 薄暗闇の中、ミィルさんの目が赤く光りました。


「あなたも夢蝶蘭を使ったことがあるじゃない。これ以上余計なことは言わないで」

「………………はい」


 そう答えると、ミィルさんは私に駆け寄って、額をぺろぺろと舐めてきました。


「いい子、いい子。ねぇ、千備。明日は一緒に、この女を食べましょう!」

「いえ、結構です。私が食べたいのは、今の契約者様ですから」

それから、私とミィルさんは屋根上でお月見を楽しみました。


「他の猫達は元気にしているかしらねぇ」


 ミィルさんがポツリと呟きました。


「そうですね……」


 他の猫達も、どこかでこの月を見上げているのでしょうか。

 そして、何を想っているのでしょうか。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ