思っていた魔法使い 中
1年ぶりの更新になってしまい、申し訳ありません……!
それからも、私はたくさん魔法を使った。
呉服屋で可愛い着物を見つければ、それと同じものを魔法で出した。
手習い処のお師匠さんが口うるさいので、不幸なことに遭えばいいのにと願った。そうしたら、お師匠さんの母親が病に臥せったらしく、お師匠さんは慌てて田舎に帰って行った。
「あー魔法って、本当に最高!!」
縁側で、魔法で出したかりんとうを頬張っていると、女中のなつがやって来た。
なつは正座をし、主人の娘である私に向かって頭を下げる。
「お嬢様。私事ではありますが、この度結婚が決まりまして……来月、屋敷を離れます。今までお世話になりました」
「ふぅん。どこのぼんくら男と結婚するの?」
「ぼ、ぼんくら……? えっと……その……実は……海宮家の若様と……」
「はぁ?」
なつの口から出た結婚相手が衝撃的で、かりんとうの袋を地面に落としてしまった。
名門貴族、海宮家。
なつは勿論、町の酒屋の娘の私でも、住む世界が違う。そう、雲の上の人よ。
なつは空を飛んで、雲の上の住人になる。そして、下界の私を見下ろし――嘲笑うのだわ。
屈辱感で全身が熱くなり、私は湯呑をなつに投げつけた。
「どういうことよ!! 何で、ろくでなしの孤児のあんたが海宮家に嫁げるのよ!! 身分が違うじゃない!!」
「お嬢様……?」驚いたように顔を上げるなつ。それから彼女は、おどおどと、若様との慣れ初めを話し始めた。
「……半年前、見知らぬ男達の集団に絡まれているところを助けていただいたのです。その際に、男の刀が若様の着物を切ってしまい……持ち合わせていた裁縫道具で繕ったのです。その出来事で私達は親しくなり……お互い時間が合えば会っておりました。
先月、若様は私に求婚し、自分の身分を告白しました。……それまで若様はどこにでもいる町民を装っていたので……若様が海宮家の御子息だとは気づきませんでした」
「――――っ!!」
父が親を亡くし露頭に迷っていたなつを女中として雇った。
なつは私の言うことを文句一つ零さす、聞いてくれた。
今までずっと下にいたなつが、私より上になるなんて絶対に許せない!
「別れなさい! あんたと海宮様は、絶対に似合わない!!」
なつの髪を思い切り引っ張る。
痛みで顔を歪めながらも、なつは話を続ける。
「勿論! 身分が釣り合わないと、求婚を断りました! ですが、若様は『身分なんて関係ない!』『周りが何て言おうとも、僕が君を絶対に守る!』と何度も仰って……私は結婚を決めたんです!」
「駄目! 別れて! 別れて! 別れろぉぉぉ!!」
「お嬢様の命令でも……それだけは聞けません!!」
なつは私を突き飛ばし、この場を離れた。
私はよろよろと立ち上がり、引き抜けたなつの髪の毛を握り締める。
「…………許せない。許せない。許せない―――――あ」
どうして忘れていたんだろう。
私には何でも思い通りになる「魔法」があるのに。
「――――ねぇ、なつ。地獄に堕ちて」
翌日。海宮の若様が急死したとの知らせが、世に出回った。
何でも、海宮家に恨みを抱いていた家臣が、若様の食事に巧妙に毒を仕込んだらしい。
なつは三日三晩嘆き悲しんだ後、首を吊って自殺した。
「――なつ、あなたには雲の上より、地の下がお似合いよ。とっても」
なつの小さな墓の前で、私は微笑んだ。