思っていた魔法使い 上
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「……思っていたのと違ったなぁ」
そう呟いたのは、今私と契約している魔法使い。
「魔法使いってのは、杖を一振りするだけで、傷を癒したり、欲しいものを出したり、人の心を操ったり……何でも出来るもんだと思っていたよ」
魔法使いがごりごりとすりこぎを回して、作っているのは「魚寄せの薬」。勿論、作り方や材料は私が教えました。
「……魔法というのは手軽なものでも、万能なものでもありません。――あ、でも……やっぱり何でもないです」
「ええ?! 何それ! 気になるじゃないか!」
「本当に何でもないんです。あれは、魔法とは呼べないですから」
ゴーン ゴーン――。
夕七つ(午後四時)を報せる鐘の音が、私達の会話に割り込むかのように鳴り響きました。
「夕七つ……。魔法使いさん、申し訳ないのですが、今夜、外出してもよろしいですか?」
「いいけど……どこに行くんだい?」
「同じひし形模様を持つ猫の元へ。友人も、今、この国の人間と契約しているそうなので……」
◆◇◆◇
「――壱華さん。私、あなたの分まで花姫頑張りますね!」
年に一度、町の繁栄と安寧を願って、町人達に酒をふるまう、花姫。
勿論、女性の誰もが花姫になれるわけじゃない。
花姫に選ばれるのは、町で一番美しい16歳の娘。
今年の候補に挙がったのは、私を含む二人。
そして、選ばれたのは、私の手を繋いでいる六野という娘――。
「六野ちゃん、こっちに来て。花姫について色々と話があるんだ」
「あ、はい! 今行きます!」
では失礼します、と六野は頭を下げて、町の祭事を担う男衆の元へ急いだ。
「…………」
花姫になれるのは、町で一番美しい16歳の娘。
じゃあ、私はあの娘より不細工ってことなの?
ううん、そんなはずない――絶対に。
だって、私は親からも、町も皆からにも、「可愛い娘」「花のように美しい」って言われながら、16年も育ってきたもの。
私が花姫じゃないなんて、何かの間違いに決まっている。
無意識に拳を握っていた。爪が掌に食い込み、血が滴る。
「…………あ」
椿色をしたそれをみて、私はあの猫の言葉を思い出した。
『あなたがしたいことを願って。そうすれば、叶うから』
私がしたいこと……。花姫になって、私の美しさを皆に認めさせたい。
私は遠ざかっていく、六野の後ろ姿を視界にとらえながら、そう強く願った。
――瞬間、六野は絶叫した。
「ぎゃああああああああああああ!!」
顔を両手で覆い、地面をのたうち回る六野。その姿は死にかけの蝉みたいで、少し滑稽だった。
「――六野ちゃん!?」
「どうしたんだい!? どこか痛むのか!?」
そのまま六野は気を失い、顔から手が離れると、皆、絶句した。
六野の顔は誰だか判別出来ないほどに、ひどくただれていた。まるで妖怪絵巻に出てくるお化けのようだなと思った。
すぐさま、医師の元に連れて行かれ、治療を受けた六野。
しかし、顔は元通りにならず、ずっと部屋に塞ぎ込んでいるときいた。
「――かわいそうだが……六野ちゃんがああじゃ致し方ない。壱華ちゃん、今年の花姫になってくれないか?」
「…………」
あの猫の言葉は本当だったのね。
魔法で、私は花姫になった!
六野への罪悪感? そんなものあるわけない。
自分が幸せならそれでいい。だって、人生の主人公は自分だもの。
「……壱華ちゃん?」
「――勿論、つとめさせて頂きます!」
さぁ、今度はどんな魔法を使おうかしら。