はじめまして 新しい魔法使いさん
血 魚 香木
この三つさえあれば、誰でも魔法使いになれます。
まず、香木(欠片でもかまいません)に火をおこします。
次にその火で、自分の血をしみこませた魚(自分の血でなければ、意味がありません)を焼きましょう。
――これで、おしまい。
幾分もしないうちに、体の一部にひし模様が入った猫がどこからともなく現れ、あなたを魔法使いにしてくれるでしょう。
◆◇◆◇
「――ひ、額にひし模様の猫……。あの話は……本当だったんだ……」
腰を抜かし、餌を乞う魚みたいに口をパクパクさせる人間。
……呼び出したのは、そっちなんだから、化け物をみるような目を向けないでほしいです。
鼻先で、人間の震える指に触れ、心に直接話しかけます。
(はじめまして。人間さん)
「――?!」
(あなたが魔法使いになることを望むのなら、教えましょう。授けましょう
頭の形は小さいけれど、人が知り得ない知識を。
人ならざるものを視る瞳を。
人以外の言葉を理解する耳を。
けれど、その代わり、あなたが死んだら、私はあなたの死体を魂ごと食します)
「た、魂ごとって……? それに何の意味があるんだ……?」
(人は生死を繰り返す存在。しかし、魂を失うと、転生が出来なくなってしまいます……それでも、あなたは魔法使いになりたいですか?)
「…………」
長い沈黙が流れます。
やがて、人間の身体から震えがとまります。そして、決心したかのように頷き、今度は口ではなく、心で言葉を伝えました。
(はい。僕を魔法使いにしてください)
瞬間、甘い香りを漂わせていた火が大きくなり、魚を飲み込みます。
役目を終えたといわんばかりに火は小さくなり、魚の骨を欠片も残さず、消えました。
――契約が完了した証拠です。
「これからよろしくお願いします。新しい魔法使いさん。あなたにとっては死ぬまで、私にとっては短い時間ですが」
口頭で言ったのは、契約が交わされ、人間――いいえ、魔法使いが、猫の私の言葉がわかるようになったから。
さあ、今度の魔法使いは、どんな魔法を望むのでしょうか。
そして、肉体、魂はどんな味がするんでしょうか。
今まで食した数多の魔法使いとは、違った味で、私を楽しませてくれるでしょうか。