近くの幸せ
「主、銃があるぞ」
宵は、射的と書いた看板が立て掛けられている屋台を指差す。
「あれは射的ですね、銃弾がコルクになっていて景品を当てて倒す、もしくは奥に落とすっというゲームみたいなものです」
日葉の説明に宵はやりたそうに見ていたので、織音はお金を屋台のおっちゃんに払ってコルクの弾を八発受け取る。
隣の女子高生がやっている姿を見て、やり方を知る。
「こんなおもちゃ、すぐに当ててやるわ」
自信満々に銃を構える。
大当たりの小さな箱を狙う。
撃つ。
――撃つ。
――――撃つ。
「おい!不良品じゃろこれ!」
見事に全て外した。
「お嬢ちゃん、残念。次頑張ってね」
射的のおっちゃんはイチャモン付けられたことに一切怒ることなく、飴を三粒宵にあげた。
小声で文句を言いながら貰った飴を一粒口へ運んだ。
「おっちゃん、今年もやらせてもらうよ」
冴月が宵の後ろから出てきてお金をおっちゃんに渡す。
「おう、姉ちゃんか。今年は取らせねぇぜ」
おっちゃんは冴月にコルクの弾を渡す。
冴月はポケットから煙草を取り出し火を付ける。
「今年は最初から本気かい、だが今年からここも禁煙になったんだ、射的終わったら捨てるんだな」
おっちゃんは常連である冴月に特別に喫煙の許可を出す。
「あんがと、おっちゃん」
一発撃つ。
大当たりの箱に当たるが倒れない。
また、一発撃つ。
大当たりの箱に当たるがまだ倒れない。
八発中七発撃ち、七発とも当たっている。
少しずつ後ろにずらしていた。
大当たりの箱にはおもりが入っていて倒すことは出来ず後ろに落とすほか、方法は無い。
最後の一発を撃った。
見事大当たりの箱に当たるが、後ろに落ちることも倒れることも無かった。
「あらら、残念」
冴月はさほど悔しそうにはしていなかった。
「はっはっはっ、八年目でようやく勝てたわい」
おっちゃんは嬉しそうに笑っていた。
「しかし、あと三発ほどで姉ちゃんなら落とせそうだが、もういいのかい?」
「あぁ、一度の勝負だ。台の奥行を長くするとは考えたね、このままその箱を置いておいてやるといい」
冴月は潔かった。
「そうするよ、ほれ飴は貰ってけ」
おっちゃんは冴月に飴玉を一つ投げ渡す。
「くれるんだね、ありがとよ」
冴月は煙草をボケット灰皿にしまい、射的の屋台を後にした。
歩いていると宵はまだ不満をこぼしていた。
「おい、なぜぬしには当てられるんじゃ」
「あそこの銃は少し下にいくから上を狙うんだよ。それに玩具だから毎回同じ場所に行くとも限らない」
簡単に言えば冴月は射的についてはガチなのだ。
宵が難しい顔をしていると、ソースのいい匂いがしてくる。
途端に考える事をやめて、その匂いのする方へと歩いて行った。
すると目の前に焼きそばと書かれた垂れ幕がある屋台が現れた。
「よし、雪!金を出せ」
屋台を見つけると同時に雪にお金をねだる。
「頼み方物騒か、俺も並ぶから一緒に行くぞ。誰々食べる?」
皆の顔を見ると、皆一つずつとの事だった。
宵と織音の二人で屋台に並ぶ。
前を一人の男が横切る時に、織音にぶつかる。
その男はスマホをずっといじったまま歩いていく。
宵が、その男を追いかけようとするが、織音は宵の頭をつかみ止める。
「何するんじゃ」
「いいから隣にいろ」
織音は宵を隣に寄せて手をつかむ。
「雪はそれでよいのか」
「何したってああいう奴はどうにもならないよ」
それ以上何か言葉を交わすわけでもなく、つないだ手を離すわけでもなく、屋台の列に並んでいた。
「いらっしゃい」
元気のいい青年の声がする。
「焼きそば七つください」
「はいよ。二四五〇円ね」
元気のいい青年にお金を渡す。
「雪、一つ多くないか?」
宵は焼きそばが一つ多い言事に気が付いた。
「鷹中の分さ」
織音の説明に宵は納得した表情を浮かべる。
「雪が二つ食べるわけでは無かったのだな」
「お前に俺はどう見えてるんだ」
宵はテンションが上がっていて楽しそうだった。
食べることが好きなのか、祭りが好きなのか、どちらも正解で不正解だろう。
皆と現実世界で遊べることが嬉しい、ただそれだけだ。
「まいど」
三つの袋に分けて入れられていた。
織音が二つ持ち、宵が一つ持った。
織音は宵の手を繋いだまま、皆がいる元へと戻った。




