笑える朝はいつまでも
「今日は晴れてくれましたね。てるてる坊主のおかげでしょうか」
リビングでカップを洗っていると日葉が来た。
「そうかもな」
日葉のほうを見て織音は微笑む。
「夢ではお疲れ様です。恐らく今度はもっとハードだと思いますよ。私は最初やられた時は吐いちゃいましたから」
やはり、過去に日葉もやっていたらしい。
実際に生きているものを刺すというのは、調理とは違い刺した時の筋肉の締まり、刃物から伝わってくる鼓動などの感覚が直に伝わってくる感覚は、遠距離とは違い近距離特有のものだろう。
「でも、今日は花火を楽しむぞ」
「はい」
二人笑顔で顔を合わせる。
織音と日葉は、屋台で何を食べるのか。花火はどこが一番きれいに見えるのか。服装はどうするのか。
今日の事をたくさん話していた。
朝から話し続けもうお昼の時間になっていた。
時間を忘れて二人話しているとインターフォンが鳴る。
「では出てきますね」
日葉が玄関へ向かい様子をうかがう。
覗き窓から外の様子を見ると、繊月と冴月が立っていた。
玄関のドアのチェーンを外して解錠する。
勝手に入ってくる人がいるので日葉はチェーンをかけ施錠する癖をつけていた。
「どうも、皆来ているかな」
冴月はいつもの調子で入ってくる。
「お邪魔します」
繊月は前回とは違い礼儀正しく入ってくる。
二人を中に入れた後、チェーンをかけ施錠する。
日葉がリビングに戻ると、織音が繊月の前で正座をしていた。
その隣に座って呑気にお茶を飲んでいる冴月の隣に日葉も座る。
「これってどういう……」
状況が何もつかめない。
「簡単な話だよ。織音君が魔術を使った、だから繊月が怒っている。ただそれだけさ」
織音は鷹中に魔術を使っていたが繊月にバレていたらしく、繊月に正座をさせられているという事だ。
「前言ったでしょ?魔術である程度は監視しているって」
「……まだやってたのかよ」
「それは、心配だから――」
「一つ言わせてもらうけど、それはストーカーと同じだぞ」
繊月は耳をほんのりと赤くさせて、否定を一人で繰り返す。
織音はそんな繊月を横目で見て一つ溜息を吐く。
「とりあえず、反省はした。もうその魔術を解いてくれ」
「え、嫌よ」
「なんでだよ」
何が繊月をそこまで動かしているのか、何も分からない。
ヤンデレだっただろうか。織音とは長い付き合いだがそんな事を思わせる時などなかった。もちろん今の状況を抜いてだ。
「はい、お二人さんそこまで。繊月さん魔術を解いてあげなさい」
冴月は中立に入る。
「冴月先生は黙っていてください」
「そうもいきません。確かに見ていて面白かったのでまだ見ていたいですがそうもいかないのです。魔術師になったからと言ってプライバシーの侵害がなくなったというわけではないので、それ以上はやめた方がいいですよ」
無駄な一言があった気がしたが、その通りだった。
繊月も諦めてくれたようで、それ以上反論することなく魔術を解いてくれた。
織音は安堵のため息を漏らし、お茶を飲む。
「終わりましたか」
日葉も繊月の心配性には呆れていた。
織音は頷いた。
「また怒られそうな話題ですけど、花火大会の時だけでもブリガンテの実体化を許してくれませんか」
「「それは却下」」
織音と繊月は完璧なほど声を合わせて否定する。
「別にいいんじゃない?」
一テンポほど置いてから冴月は織音と繊月の意見とは反対の事を言った。
冴月は代償が掛かるのに何故日葉に同意するのだろうか。
「楽しむ時は皆で楽しんだ方がいいからね」
冴月らしい理由だった。
大きな理由もなく、一人の人として楽しく過ごす事だけを考える。
魔術師でなければ嬉しいだろうが、魔術師になった織音や繊月にとっては無駄なお節介に感じてしまう所はある。
織音は実際、楽しい思い出にしたいという目標があったため、その繊月の簡単で単純な理由で考えが変わる。
「今日ぐらいならいいか……」
「ちょっと、雪君」
先ほど何を説教で何を話していたのか分からなくなる。
「確かに、繊月さんのブリガンテは竜の姿だ。繊月さんには関係のないことかもしれないね」
冴月は繊月の今気にしていないところをわざと言う。
「でも、ブリガンテって姿を変えられないのか?」
織音は気を利かせてみるが、冴月からの返答は「変えられない」だった。
「別に私が言いたいのはそこじゃなくて、――分かったわよ!」
何をすればどう反応してくれるのか把握済みなのだろう。流石は繊月の教師だけの事はある。
「そうと決まれば、おいで宵」
早速日葉はブリガンテである宵を呼び出す。
「別に我は興味ないんじゃがな」
頭を掻きながら、宵は具現化する。
「そんなこと言わずにね、ほら」
「その花火とやらは楽しいか?」
「もちろん」
日葉は目を輝かせながら答える。
「ではよかろう」
楽しいことに目がないのはブリガンテも同じのようだ。
同様に織音も雪音を呼び出す。
雪音は宵とは違い最初から乗り気だった。
「それじゃ、準備しますか」
「「おおー」」
冴月の声に皆で声を合わせた。




