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生命魔術と想い出(修正前)  作者: 紗厘
第四章 ~始まりの夜花(はなび)~
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戦闘初試験

 雪音に言われた通りに鋭い刃を想像する。

 目を瞑り自分に意識を集中させる。

 織音がかっこいいと思っていたサバイバルナイフを想像する。

 刀身は500ml.のペットボトル程の長さにグリップは円柱を想像する。


 実際に刃物を生成出来ていたが、周りにいた雪音も宵も日葉も全員が笑っていた。

 織音は右手に握っている刃物を見ると出刃包丁を持っていた。


 生成した本人も目を疑う。


「雪、鋭い刃物で包丁を想像したのか」


 雪音が笑い苦しそうにしている。


「違う!俺は――」


 かっこいいサバイバルナイフを想像したはずだ。

 戸惑っている織音を見て宵が解説をする。


「主のにぃは一度実物を見なければしっかりと生成出来ないのじゃろうな」


 織音がしっかり見たことある刃物は確かに包丁しかなかった。


「魔術も唱えないと発動できなくて、生成も実際に実物を見なければちゃんと生成は出来ないとか……」


「魔術師的には下の下だろうな」


 織音は心からガッカリしていた。

 やっぱり雪音は笑っていた。

 最初は魔術(ちから)が手に入ったと思い気分が上がっていたが、魔術師としてのモチベーションが下がる一方だ。

 今となっては宵に仕返しをするという事はどうでもよくなっていた。


「しかし包丁で人は殺せる。十分であろう。さて雪だったか包丁を構えてみるのじゃ」


 宵が織音の名前を呼ぶことに少し驚いたが、信頼してくれているのだと思うとうれしくなった。

 織音は包丁を逆手に持ち変える。

 走りながら宵に近づき上から包丁の持った右手を振り下ろす。

 宵は軽々と横にずれるだけで避ける。

 織音はそのまま顔面を地面にぶつける。


「雪、なぜ逆手に持ち変えたんじゃ」


「……かっこいいから」


 宵は一つ大きなため息をして説教を始めた。


「まずなんじゃあの走り方は、マラソンか何かか?包丁は普通に持てばよい、逆手の持ち方は殴る動きを使ってナイフで切る戦闘方法ではあるが、それを分かってないのであれば普通に持たぬか!それに最初から上から振り下ろす馬鹿がどこにおるか」


この一つの説教で日葉がどれだけ苦労したのかが分かった気がした。


それから体感的には二時間ほど経っただろうか。休む事も無くナイフの振り方や相手との間合いの取り方を動きで教わった。


「さて、実践と行こうではないか」


 宵の合図で織音は距離をとった。

 織音は最初に生成した包丁を持ったまま、宵は素手での勝負だ。

 今度はしっかりと包丁を握り素早く宵に近づく。

 宵は最初と同じように今は動こうとはしない。 

 また直前で避けられるのだろうと思いながらも、直接急所のある胸部に向けて包丁を刺しにいく。


 織音は一気に全身の力が抜け座り込んだ。

 織音の持っていた包丁は宵の胸部を突き刺していた。

 包丁から皮を貫き肉を刺す感覚が生々しく伝わっていた。

 

「なんで……」


 十分に避けられるはずだった。

 避けなかった事は織音でもわざとだと確信した。


「雪、急所を外すとは中々の鬼畜じゃの」


 笑ってはいるが刺された痛みはある。


「それどころじゃないだろ。なんで避けなかった」


「ふふっ、分からんか。魔術師とは殺しあう定め、しかし人を殺すことを軽く済ませるべきものではない。まず最初に命を奪う重みを体をもって知れ。銃はダメじゃな、あれは殺したという感覚もなく命を奪う最悪なものじゃからな。分かったか雪、その感覚が人を殺すという事じゃ、雪の心は耐えられるか?」


 人を殺す感覚を知らせるためだけに、実際に宵は一時的とはいえ死ぬ。

 宵なりの体を張った教育だった。

 

「俺は……」


 織音は人を刺した感覚に怯えていた。

 それでも守りたい人がいる。

 一緒にいたいと思える仲間たちがいる。


 だから……


「耐えられる」


 無駄な言葉はなく、宵を見ながら立ち上がる。

 これまでに無いほどの覚悟の(あらわ)れだ。


「そうか、引いてくれることも少しは願っていたんじゃが、仕方あるまい」


 宵も織音には人殺しをして欲しくはないと少しは考えていたようだったが、織音は自分の信念を貫いた故に、覚悟を決めた。

 それ以上は宵だけでなく雪音も日葉も口を挟まなかった。


「今日の昼には恐らく回復しとるじゃろう。また夢に会いに来るとよい。いつでも手合わせしてやる」


 宵は自分に刺さっている包丁を抜きそのまま倒れた、その瞬間に視界が一気に真っ暗になる。

 目を瞑っていることに気が付き、目を開けるとカーテンの隙間からは光が差し込んでいた。

 時計を見ると午前七時を回っていた。


「起きたのか」


「あぁ、おはよう雪」


「あまり寝た感覚は無いな」


「でしょうね、大丈夫?」


 人を刺す感覚。否、人を殺す事に耐えられるのか心配をしているのだろう。


「大丈夫だ」


 一言答えるだけでそれ以上に会話はなかった。


 織音は雪音とあいさつを交わした後、紅茶の入ったカップをリビングへと持って行った。

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