計画
目を覚ますと、日葉はのんびりとソファーに座りテレビを見ていた。
「日葉、少しは心配してくれないですかね」
「嫌です」
テレビを見ながらはっきりと言った。
織音は立ち上がり日葉の隣に座る。
「仕返しは無しですよ、さっきのはお兄ちゃんが悪いんですから」
「それは理解してるつもりだよ、ただ……」
織音は突然口を止めた。すると、気絶から目が覚めて初めて日葉が織音の顔を見る。
「なんですか」
日葉は途中で話を止められ、続きが気になってしまい聞いた。
「たださ、魔術は使わないで欲しいなってさ」
「……」
「俺のためにさっきやってくれたんだろ?そうだとしても魔術をもう少し控えてほしい」
二人の間に無言の時間が続く。
気まずい空気の中日葉が小声で喋る。
声が小さすぎて聞こえず織音は聞き直す。
「――だから!約束ですからね」
「約束?」
約束をしてほしいのは織音のほうだが、日葉から頼まれる。その意味が分からずに『約束』の言葉を繰り返す。
「ですから、私はもっと魔術を控えます。なのでお兄ちゃんも魔術を控えてくださいね」
考えてみれば当たり前のことだ。
日葉の『己の記憶』というものよりも、織音の『寿命』のほうが気を付けなければならないことなど、天秤に掛ければ一目瞭然だ。
特に、織音が他人の寿命、人に限らず動物だとしても自身の『寿命』以外を使うような人間ではないことは織音に関わった人、誰もが知っている。
「分かった、約束な」
「はい、約束です」
二人は小指を絡めて約束を結んだ。
ゆっくりと織音は部屋に戻り、部屋の奥にある棚の中をあさる。
「あった」
探していた物はすぐに見つかり、ドアの近くにあるCDデッキに探していた物を挿入し再生ボタンを押した。
流れてくる曲は昨日学校でイヤホンから聞こえていた曲だ。
「雪はこの曲が好きなのか?」
雪音はいつものように姿を現す事なく声だけだった。
「うん、Loo awaってバンド。元は健兄さんが疲れた時とかに聞くといいぞって教えてくれたバンドなんだ。それからこのバンドが大好きになってさ」
Loo awaについて話していると、健兄さんの事を思い出す。
「泣いているのか?」
懐かしくもあり、それと同時に悲しさがこみあげてくる。
そんな情けない姿を雪音に見られてしまうが、ばれていることを承知でごまかそうとする。
「そんなわけないだろ、もう……」
ごまかそうとすればするほど悲しく思え目に涙がたまる。
「今は心の疲れを取りたいから部屋に来てLoo awaの曲を聴いてるんだろ?だったら強がりとかなしでいいじゃんか」
雪音の優しさが詰まっている言葉がより、切なさを倍増させる。
今ある感情をごまかそうと叫ぶ。
「あーもう知るか!なぁ雪音、夢の中で魔術を使わずに宵に会うことって可能か?」
隠すというか、爆発させるというか、宵にならこのもやもやを発散できる気がした。
「雪の妹さんも寝れば可能だろうな。宵ちゃんがどうかしたのか?」
「日葉経由で蹴られた仕返しをまだしてないから夢の中だけでも動いておこうと思ってさ。てか宵はよくちゃん付けを許したな」
宵が料理した後、食器洗いの途中で宵が命令して日葉が織音を蹴った時確かに、おぼえとけよ。と言っている。
会う機会もなかったので、もし会えるのならば一発殴ってやろうと考えていた。
それにしても、あのめんどくさそうな性格の宵がちゃん付けを許すとは予想外だった。
「勝手に呼んでるからな」
にこやかに雪音は笑って見せた。
「怒られんぞ」
勝手な予想に過ぎないが、黙ってちゃん付けを許すとは到底思えない。
「そん時はそん時だ。それじゃどうやって雪の妹さんを寝かせるよ」
「それは夜まで待つさ」
織音は不気味な笑いを浮かべながら部屋を出て行った。




