結ぶ
「呼んでおいてお茶の一つもなしか?」
ベッドに座るや否や、織音を茶化す。
本当にお茶が出ないことを不満に思っているわけではない。そもそも、本当にほしい時には素直に、飲み物をくれ。と頼んでくる。
織音はそのことを理解して、すぐに話をしようとする。
「一つ聞きたいことがあるんだ。だからごめん」
手を合わせ、事を始める前に謝る。
「何がだ?」
急な謝罪の意味が分からず戸惑い織音に近づく。
織音は顔を上げて鷹中の目を見る。
「リンク」
織音が魔術をかけた瞬間、何もなかったように鷹中はベッドに座った。
「雪音、これは……」
「成功だ。試しに気になることを聞いてみろ正直に答えるはずだ」
雪音は姿を現せることなく次の指示を出す。
「今から聞くことには正直に答えて欲しんだ」
鷹中は静かに頷くだけだった。
いつも学校では夏のセミのようにうるさい鷹中が静かに落ち着いているなんてありえないといってもいいかもしれない。だがそれはいつのも状況なら、だ。
催眠術の魔術のせいで、性格が変わっと考えることが自然だろう。
織音はそのまま質問を続けることにした。
「鷹中、お前はどっちの味方なんだ」
鷹中は口を開くことなく返答する。
織音のほうを指差すだけだった。
織音は安堵の息をこぼした。
そのジェスチャーは織音たちの仲間だと思ったからだ。
調子に乗り、他の質問を繰り返す。
「明後日の花火、楽しみか?」
鷹中は首を縦に振った。
「ここにいる人たちは好きか?」
先ほどと同じように首を振る。
「じゃあ……」
織音が次の質問をしようとしたとき雪音に止められる。
「雪、やめろ。相手がただ返事をするだけに喜びや快感を覚えるな。悪い癖しかつかない、もう解除したほうがいい」
雪音の言葉で我に戻る。
「あ、うん、ごめん」
雪音が止めていなければ、相手が返事をするだけということに、心地よさを感じ以後もやりかねなかっただろう。
謝って、一息おき魔術を解く。
「あれ、俺……寝てたか?」
催眠術をしている間はその時の記憶は無くなるようだ。都合がいい。
「あぁ、話の前振りで寝てたよ、鷹中のせいでずっと独り言だった」
嘘を隠すために笑って見せた。
「そうか、それはわりぃ」
もう用事は済んだ。何か理由をつけて帰らせよう。
「今日はもう帰ったら?疲れてるんだろ。正直急ぎの話でもないから元気な時にでも話をしよう」
鷹中は二秒ほど考えて同意した。
「じゃあ俺は帰るわ。すまないな」
右手を顔の前に持ってきて謝る。
左手はポケットから袋を出していた。いつのもテレポートを使う準備だろう。
「またな」
織音が最後の挨拶を交わすとすぐにテレポートでそこから姿を消した。
織音は一つ溜息を吐き、ベッドに転び眠った。
道端にある小さな人気のないトンネル。
真上から電車の通る音が鳴り響く。
そのトンネルの明かりはすべて切れていて、近くにある点滅を繰り返すだけの街灯の明かりだけがトンネルの中を照らす。
「いや……来ないで……」
二十代ほどの女性がそのトンネルで怯えていた。
目の前には赤色のベストを着て紫と青の縦ボーダーのシャツを羽織っている男性が立っていた。
「あぁ、そんな顔はしないでください。せっかく綺麗なのが台無しですよ」
女性は恐怖に怯え動くこともままならずその場に倒れてしまう。
男は自分の手元に持つ血の付いた包丁を見た。
「これですか。これが怖いのですか」
その包丁を持ったまま女性に近づきしゃがむ。
「大丈夫ですよ、これからもっと綺麗に、まるで――芸術品のようになりますから」
包丁をお腹のあたりへ運びゆっくりと差し込む。
女性は、怯え、叫び、泣き、苦しんだ。
痛いだけで死ねない苦痛とまだ生きたいという感情が混ざり合っていた。
男は女性の反応を少しだけ楽しんでいた。
「それほど苦しいですか……では、仕上げと参りましょう」
刺した包丁をゆっくりと横へと動かす。
女性は痛みで声を出せなくなった。
男は包丁を抜き、そのまま首元に刺した。
女性は苦しみながら死んだ。
その姿を見て男は興奮していた。
「あぁ、なんと美しい。あぁ、きれいな肌に赤色の滴。なんという美しさなのでしょうか、腕へ流れていく滴が、お腹から垂れる臓物が、首から噴き出た後の背景が――すべてが美しい――」
男はそのまま一人で続ける。
「ですが残念です。このままでは駄目なので。その血液を回収させていただきますね。『タンク』」
男が『タンク』と口にした瞬間、その女性の血液は一滴も残すことなく消えていた。
男は興奮したまま女性を放置し、どこかへと消え去った。




