夢と選択
「料理というのは難しいが楽しいものだな」
宵が日葉と料理を作っていた。というのも、織音がリビングを出てから少し経った時、不意に宵が料理をしてみたい。と言い出したのだ。
それは、その時の空気感を変えたいという気持ちもあったが、もともと日葉が料理をしているところを見ていてやってみたいとも思っていた。
昼ご飯を作っていたつもりがいつの間にやら夕ご飯の時間帯になっていた。
都合のいいことに織音は寝ていた。
そこで気が緩んだのか、ハンバーグを焦がしてしまい日葉は大丈夫だと言ったが、宵は
あと一度だけでいいから作りたいという事だったので作り直すことにした。
焦げてしまったものは宵が責任をもって全部食べていた。
ブリガンテは食事をしない。
それは空腹を感じないから、それに満腹感も感じはしない。
しかし味覚はあるので、不味そうな顔をしている。
ブリガンテにとって食事とは子供の遊びであるゲームのような感覚なのだ。
必要ではないが一つの娯楽として存在するもの。
「真ん中をへこませて、フライパンに置くんです」
日葉に言われたように宵はやってみるが失敗する。
「フライパンに置くまでに形が崩れてしまうのじゃが」
「少しは大丈夫ですよ、フライパンの上でも少しは修正できますから」
宵は近くにあったスプーンを手に取り、ハンバーグの形を整える。
両面を焼き終え蓋をして弱火にして待つ。
「ここまでは順調じゃな」
笑顔を日葉に見せる。
「そうだけど、さっきもここで失敗したんですよ」
先ほどの失敗を指摘され宵は頬を膨らませる。
「分かっておるわ」
そのままずっとフライパンを見続ける。
そこに風呂上がりの織音が来る。
「いい匂いしてるな」
そう言い、キッチンの方を見ると日葉だけではなく宵も立っている事に驚く。
「宵って料理できたのか」
日葉は笑いながら否定する。
「違いますよお兄ちゃん、私が今一から教えているんです」
織音は納得する。
「どうだ宵、いい感じに出来てるか?」
「も、もちろんであろう」
嘘だ。すぐにそう思った。
だが口には出さず、頑張れ。とだけ伝える。
テレビ前のソファーに座りリモコンを手に取りテレビをつける。
いつの間にか眠りについていた。
「なぁ雪、鷹中の事で話したいんだ」
ここは夢の中か。
壁も屋根も何もない真っ白な世界だ。
ただ地面があるだけの何もなに世界。
「殺すことは絶対にしないしさせはしない」
「それとは違うんだ、もっと安全だが、ほかのやつの前では絶対に話せない事だ」
殺さなくて鷹中を信じられる方法と言うのは魅力がある。
聞くだけでも価値はありそうだ。
「何をすればいい」
「寿命を三年分使い鷹中に催眠術を掛ける。そして真実を喋らせる」
催眠術なら確かに確実だが代償がでか過ぎる。
「なんで三年も使うんだ」
「当たり前だろう、人間をおもちゃのように変えるような物だ。私は逆に三年は少ないとも感じたぞ」
それは納得だ。
社会の檻の中とはいえ自由な人間を、自分の思うがままに操れるのだから。例えるならば『生きた人形』と言うべきだろう。
だがそれを生きているかと言われれば曖昧なところだ。
それを三年の寿命に変えて出来る事は凄くもあり恐怖も感じる。
それでも、やっぱり悩むところはある。
黙っていると、雪音がもう一つ案を出す。
「ほかの案としては、『コンタクト』で記憶を覗くことだが、雪は無防備になりもちろん私も相手の記憶に入るのだから雪を守れはしない。しかも繊月と雪の妹さんの時は特定の場所、時間全てを把握できていたが鷹中に関しては分からない。いつ目的の記憶にたどり着けるのか分からない。その時間とリスクを考えれば三年を削り確実に鷹中の本性を知った方がいいだろう」
否定は出来ない。
だがやはり三年と言うのは気が引ける。
「答えは出す、でも少し時間をくれ」
「分かった」
会話を終えると一瞬真っ暗な世界に代わり、日葉の声が聞こえる。
「お兄ちゃん、ご飯出来たので起きてください」
肩を揺らされていた。
目をこすりながら答える。
「もう出来たのか」
「そうですよ。準備してください」
ソファーから立ち上がりテーブルに目を向ける。
「おお、美味しそうじゃないか。宵が全部用意したのか」
見事な出来栄えで、盛り付けも美味しそうに見せられている。
しかしテーブルには四人分の料理。雪音の分もあるのだろうか。
「我が作ったものはハンバーグだけだ。だが盛り付けは頑張ってみたぞ」
「これからだな」
宵の頭を撫でてみる。
すると、こちらを嫌そうな目で見上げてくる。
「我を子供のように扱うではないわ」
織音はすぐに手を退ける。
「主のにぃ、早く雪音も出さぬか」
やっぱり、皆で食べたいんだな。
そう思うと自然と笑みがこぼれる。
「お兄ちゃん、寿命もあるし無理は……」
「大丈夫だよ、皆で楽しもうぜ」
皆で楽しみたい。
これは本音だ。
実際いつかは戦う事になり、いつか殺される可能性もあるのだから、今生きている時に楽しみたい。そう願っていた。
織音はいつものように、雪音の名を呼びリビングへと呼び出した。




