交錯する授業
織音が中心となり《コンタクト》で覗いたこと、織音が魔術師になった日から今日までの事を全て冴月に話した。
話し終わると冴月がまとめる。
「そっか、繊月と日葉の喧嘩か」
「簡単にまとめ過ぎです」
あれだけ大変なことを『喧嘩』という一単語でまとめられてついつい口が出てしまった。
「織音からツッコミが来るとは思わなかったな」
「ふざけないでください」
冴月は胡坐をかき、織音の反応に嬉しそうに笑う。
「すまない。あとさっきの話だとまだ魔術師についてはブリガンテである雪音君もあやふやと言うわけだ」
織音と雪音が同時に頷く。
「それじゃ、魔術師について授業を始めよう、織音君と雪音君以外は復習と思って聴くように」
「「はい」」
冴月の言葉に皆が声を揃えて返事をした。
流石教師というべきか、冴月の説明は解りやすいものだった。
まず、魔術師になってしまうトリガーは『死んだ人に会いたいと願う』時だ。
身近な人が死んでしまい、生き返らせたい。や、あと一度会いたい。と願う時魔術師となる。
雪音と見た夢の中で『勝者に相応しい物』は死んだ人を一人だけ生き返させることが出来る道具だそうだ。
確かに、織音も事故で古くからの友人を亡くした。ただ「ありがとう」「さようなら」の二言を言いたいと願ったことがトリガーになったのだろう。
魔術師は魔術で代償を払えは何でも出来る。
だがそこに落とし穴があるらしい。
代償は決して一つではないという事だ。ただ、主なものが《砂》や《紙》《記憶》《寿命》などというだけで、他に誰しも同じ代償を持っているという。
それは《生命》だという。
魔術で直接人を殺すことは出来る。
しかし命と同等の対価とは命でしかない。己の死で特定の相手を一人だけ殺すことが出来るらしい。
「そうだ、ブリガンテを具現化させることになぜ代償を支払わなければならないか分かるかな」
言われてみると何故か分からなかった。
時間をかけて考えていると冴月が答えを出す。
「本当は不可能なことだからだ」
あまりにも言葉が少なすぎてよく分からなかった。
どこから何が不可能となるのかさえ曖昧だ。
そこに冴月の説明が加わる。
「ブリガンテは本当は夢の中にのみ存在を許されている。それを現実世界に出すことは出来ないのは分かるかな」
織音は首を傾げた。
「夢で女の人の胸を触れても現実では触れないでしょ」
「なっ」
繊月が付け加えてイジワルな説明をして、織音は耳を赤く染める。
ブリガンテの具現化の代償について理解は出来なかった。それでも何となく分かった気がしている。
「非現実的な事を起こせることが魔術であり、なかった物を勝手に作ったりするんだからその代償は払われる」
それでもピンとは来なかった。しかも、さっきよりも分からなくなった。
「もう少し簡単に……」
冴月も少し悩むが、すぐに説明を始める。
「もっと簡単に言えているのか分からないが、非道徳的な行為をした罰として代償が支払われる」
この説明でピンと来た。
本当はやってはいけない行為をやってしまい、代償とは罰金の代わりみたいなものだろう。
「ブリガンテは夢の中でしか会ってはいけない存在。それを無理やり寝ていない時に会うようにした罰としての代償だよ」
「ちゃんとした理由があったんですね」
冴月は簡単に説明をしてくれたが、それは簡単そうに感じてとてつもなく複雑だ。
見た目はシンプルでありながら、中では複数の歯車が噛み合っている時計のように。
ただ同じ面を揃える簡単な事なのに、その動きには幾通りあり同じ面を揃える事は容易くはないルービックキューブのように。
楽しそうに笑っているように見えて、それとは裏腹に心の中では苦の感情を抱いている人間の感情のように。
魔術とは複雑なものだった。




