第9話 レガート侯爵 追記
前話の補足分になります。
短いです。
商人の荷馬車が見えなくなってから、レガート侯爵の傍に護衛隊隊長のブースが、寄ってきた。
「閣下、侯爵家の内紛を、あの様な者たちに見られて、このままで宜しいのでしょうか? 何でしたら、後を追い始末してしまう方が宜しいのでは?」と聞いてくる。
「ふふふ、お前たち10人がかかっても、キズ一つ付けられんじゃろうて、あのファイアーボールを見たか? 一発で何本もの丸太で築いたバリケードが 木っ端微塵じゃ。バリケードの裏に隠れていた6人も炭化して砕け散っていた。その上、騎馬の眼前に出したファイアーウォールの高さと、厚みも半端ないものじゃった。そして、止めの雷撃は、倅の部下でも優秀な4人が、一人として躱すことも出来ず即死させおった。今はBランクと言っていたが、年齢の都合でギルマスが出せる最高ランクに留めているだけのことよ。あれは既にAランクいや、Sランクの実力じゃろうて。そんな男に牙を剥かれたら、レガート侯爵家のみならず、我がアトキア王国も滅亡させられることじゃろうな。」と笑いながら言うので、「閣下、買い被りすぎでは有りませんか? 私には、あの少年がそのような化け物にはとても見えませんが。」と護衛隊長が反論する。
「ブースよ、儂も嘗てはアトキア王国の魔導師長を勤めた男じゃ。その儂が、あの少年の魔力をはかり切れなんだのじゃ。あれだけの魔法を放った場合、普通なら魔力欠乏に陥ってもおかしくない威力じゃった。しかし、あの少年は、すべて無詠唱で、出来る限り威力を落とした状態で魔法を放っておった。魔力消費も、自らの魔力回復量の範囲内での使用に見えた。この意味が解るか?あの程度の魔法なら、何時までも放ち続けることが可能と言うことじゃ。例え10万の軍勢でも殲滅されるじゃろうな。決して敵に回してはならん相手と心得よ。」と諭す。
「解りました。肝に銘じます。それで、この後のご指示は?」と言うので、
「ふむ、倅も焦って儂に牙を剥いた以上、覚悟は出来ていよう。孫のニーナを世継ぎにするためにも、王都に赴き倅ノームを討たねばなるまいよ。奴の子飼いの兵は、今回の襲撃で全滅しておる。すぐに、王都の屋敷の護衛隊に連絡して、ノームの捕縛に当たらせよ。それから、クルムに誰か気の回る者を使わして、あの少年の事を調査させろ。旅の途中に助けられたが名も聞いていない老人が、礼を言いたがっているとでも誤魔化しておけ。さあ、儂らもゆっくり王都に向かうとしようか。」
こんな会話が、立ち去った現場で交わされていようとは、夢にも思っていないタクマは、カムエルさんの傍の御者台で、昼食用の獲物を探索魔法で探していた。