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第8話 レガート侯爵

 王都への旅は順調に進んでいた。最初、フレアが荷馬車の幌の中で寝て、俺とカムエルさんが、交代で見張りと睡眠を取る野営を3日間続け、4日目は街か村の宿に泊まる予定であった。しかし、フェンリルの風属性魔法の習得から、風魔法結界を張れるようになったので、見張りの必要がないことをカムエルさんに言って、土属性魔法でかまくらのようなドームを作り、そこで休むようにした。勿論、フレアとカムエルさん親子は、荷馬車の中で寝てもらう。狭いが、二人なら何とか荷箱を並べた上で休めるとのことだった。馬も荷馬車も結界で包んでしまっており、魔物に襲われる心配はない。このかまくらを作る土属性魔法は、オーマ山岳地帯に生息しているジャイアントモールと言うモグラの魔物の土魔法から習得した。それ以来親父との旅にテントを持っていくことがなくなり、専ら、かまくらを作ってその中で寝るようになった。土をドームにして石化させるため、テントのように風の心配もなく、勿論、雨にも大丈夫だ。ゴールデンラビットの気配探索を張り巡らせば、結界魔法が無くても、なんとかなった。反対に親父ゴンズイの気配を感じた魔物はむこうから避けてくれていた。まあ、今回は親父は居ないので、結界魔法で護ることにした。フェンリルの風属性結界魔法は、臭いも、気配も全て隠せるようである。既に出発してから2週間目になるが、夜間に魔物が近づいてくることは、一度も無かった。まあ、北東部の主要都市クルムと王都を繋ぐ街道に魔物や盗賊が頻繁に出没するようでは、この国も先がないように思うが、この世界では普通なようだ。


 旅の15日目の朝、俺は結界魔法を維持したまま、朝食の準備をしていた。カムエルさんが、旅の食糧に用意していた硬いパンがどうしても嫌な俺は、パンをナイフで、2cm程の厚さに切り、卵とバターでフレンチトーストを作っていた。フライパンはないので、土魔法で作った石のフライパンで3人分を一度に作っていると、そばの街道を1台の貴族用のような豪華な馬車と、前後を5人の騎士が騎馬で通りすぎていく。騎士も馬車の御者も、結界に包まれた俺たちには、一切気付かず、王都に向けて通り過ぎていった。えらい早くから出発したんだなと、思いながら、次に肉を焼いて行く。朝食なので、薄めに切って焼いた。異空間収納から作り置きしていた野菜サラダを盛って出来上がりである。最初、カムエルさんから干し肉を出されたが、親父も俺も狩りをして肉を補充できるので、硬い干し肉を食べることは無く、もっぱら肉は異空間収納にあるゴールデンバイソンの肉を使っている。

 土魔法で作ったテーブルに3人分のフレンチトーストと、焼肉、サラダを並べていると、フレアとカムエルさんが起きてきた。全員揃って、朝食を食べて、すぐに王都に向け出発する。昨日は俺が御者を務めたので、今日はカムエルさんの番である。土魔法で即席に作ったかまくらや、テーブル、フライパン等を土に戻し、結界を解除して出発する。カムエルさんの横の御者台に座り、探索魔法サーチで半径20キロを確認すると、先程通り過ぎた一団は、5キロ前方を進んでいた。その先には、峠となっており緩やかな上り坂が続いている。丁度峠を登り切った周辺に問題が発生していた。こちらからでは、約15キロ前方に20名位の集団が、バリケードを作っている。盗賊かと一瞬考えたが、動きが統制されているようで、どう見ても軍隊のようである。カムエルさんに探索結果を告げると、

 「貴族同士の諍いでしょうね。本来は、別の道を迂回するのですが、ここから引き返して迂回すると、3日は余計に掛かります。このまま横をすり抜けたいのですが、襲った側が、目撃者をそのまま通すとは思えません。一番安全なのは、襲われた方を援護して、襲撃者たちを撃退することですが、襲撃者20人に対して護衛が10人では、こちらの方も殺されそうですね。」と言いながら、荷馬車のスピードを上げて、俺の顔を見詰める。

 「良いですよ。こんなところで集団で馬車を襲うのは、盗賊と一緒と考えて殲滅しても問題ないでしょ。今から急げば、襲われる前に追い付けるかもしれません ね。」と俺が了承すると、カムエルさんもにやりと笑った。出発して直ぐなのでうちの馬たちは元気一杯で、グングンスピードを上げる。荷台の幌から、何事かとフレアさんが顔を出したので、カムエルさんと話し合った内容を教え、襲撃者たちを、殲滅する方針に決定したことを告げる。半時間程度で前を行く馬車の一団に追い付く。護衛の騎士が二人、俺たちの方に向かってきた。表情が険しい。

 「おい、商人、前を行くのは、レガート侯爵令嬢の馬車である。追い越すことは罷りならんぞ。」と脅してくる。もう一人は剣に手をかけている。俺は、こんな上から目線の奴らがどうなろうとかまわないと思ったが、カムエルさんは、違った。

 「騎士殿、前方2キロほどの峠の頂上付近で、街道にバリケードが張られ20人ぐらいの兵士が待ち構えております。ここにいます少年は探索魔法に優れており、このままあなた方が進んだ場合は、戦闘になると思いお知らせにきた次第です。どうされるかは、馬車の中の方とご相談されては如何ですか?」と親切に教えてやる。

 「なに、本当か? そんなことが解るのか?」と問いかけてくるが、

 「ええ、この少年は歳は15才と若いですが、既にBランクまでになっている冒険者です。魔法も強力で、フェンリルさえ仕留めた方ですので、間違いないかと思います。」どこまでお人好しなんだよ、とカムエルさんの方を見るが、真剣に説得している。騎士が一人主人の馬車に駆け戻って行き、ドア越しに今の話を伝えている。おもむろに、馬車が止まり恰幅の良い老人が顔を出した。俺たちの荷馬車が、その横に追い付いて止まると、その老人が馬車を降りて俺たちの方に歩いて来た。

 「そこな冒険者殿、このものに話したことは、本当かな?」と俺に直接聞いてきたので、

 「ああ、本当だ。ご令嬢の馬車と聞いたが、何か訳ありの馬車のようですね。」と俺が言わなくてもいいことを言うと、

 「ははは、若いが流石Bランク冒険者じゃな。その馬車から見ると、そなたらはクルムあたりから王都を目指して荷馬車一台で急行しているようじゃな。そのような旅の護衛が出来るのは、余程の馬鹿か、実力者しかおらんわな。解った。儂は、戦闘する訳にはいかんので、どうじゃ、依頼として、前方のバリケードを突破して、20名の敵を殲滅してくれんか?依頼料はこの金貨100枚で頼みたいんじゃが、どうかの?」と聞いてくるので、

 「殲滅していいんだな。まあ、街道を封鎖して襲おうとする奴等は、盗賊と見なしても問題ないから、手加減なしで殲滅するぞ。」と、俺が言うと、

 「ふおほほ、遠慮はいらん。ほれ、報酬は先渡しじゃ。」と金貨の袋を手渡してきた。俺はそれを受け取ると、カムエルさんに荷馬車を走らせてくれるように頼み、レガート侯爵家の馬車を追い越して峠の頂上を目指す。残り2キロほどだったので、すぐにバリケードが見えてきた。俺はフレアさんと、カムエルさんに荷台の奥に隠れているように頼み、御者台から飛び降りて、前方に駈け出した。走りながら、バリケードに向けて、ファイアーボールを投げつける。直径3m程度の押さえたファイアーボールであったが、バリケードに当たった途端、爆発した。バリケードは木端微塵になり、街道も抉れてしまった。まだ威力が高すぎたようだ。バリケードの裏側に隠れていた兵たちのなれの果てであろう。炭化した死体の破片が散らばっている。左の林から騎馬に乗った14人の男が飛び出してきた。

 「貴様、何者だ。」と先頭の男が喚くが、

 「街道を封鎖して潜んでる奴に誰何されるいわれはないな。盗賊として処分されても、文句は言えないはずだがな。」と言ってやる。

 「くそ、冒険者風情が、踏みつぶせ」と馬を駆って向かってきた。引き付けて、直前にファイアーウォールを出現させる。炎の壁に馬が驚き棹立ちとなって、兵士たちを落馬させる。4人が馬から飛び降りて難を逃れたが、残りの10人は、落馬して、呻いている。4人は剣を抜き、俺がファイアーウォールを消す瞬間を待ち構えているが、大した力量ではないので、雷撃を直撃させ、ファイアーウォールを解除する。雷撃を受けた4人は即死していたが、落馬した10人はまだ苦しんでおりショートソードを抜いて止めを刺そうと歩いて行こうとすると、

 「そやつらは、此方で処分する。もはや依頼は達成したと認める。」先程の爺さん、多分レガート侯爵本人であろうが、追い付いてきて、話しかけてきた。

 「さすがに、強力な魔物が多いクルムの冒険者は、物が違うのう。この程度の相手では瞬殺じゃな。」と言う。護衛たちが呻いている敵を検めながら止めを刺している。

 「見覚えのある奴が居ますか?」と聞くと、

 「ふむ、まあ儂の倅の部下じゃな。そこに死んでいる4人には見覚えがあるわ。」と、とんでもないことを、サラッと言ってのける。貴族にも面白い親爺がいるなと感心していると、

 「其方らは、急ぎの旅じゃろ。ここは儂の部下が処理して置くから、先に出発してくれてよいぞ。そうそう、そこな商人、困ったことができたら、王都のレガート侯爵家の屋敷を訪ねるとよいぞ。」との言葉をカムエルさんに掛け、家紋の入ったハンカチを渡し、

 「門番にこれを見せれば、すぐに会えるようにしておく。」と付け足して、自分の馬車の方に帰っていった。俺たちは、お言葉に甘え、すぐに荷馬車を出発させた。

 貴族のお家騒動に関わるつもりはないので、二度と会う事も無いだろうと気軽に考えていたが、本人たちは知らないが、どうやら長い付き合いが始まっていたのだ。

 



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