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第7話 ファイアーボール

 朝食を早めに頂き、お弁当のサンドイッチを貰ってエルザさんに見送られ、森の熊さん亭を出る。親父はやはり帰って来なかった。大工の棟梁の家で酔いつぶれているのだろう。俺は、初めての護衛依頼で依頼主を待たせる訳にはいかないと思い南門に急いだ。まだ、門は開いていなかったが、既にカムエルさんの荷馬車は門の前に待機していた。

 「おはようございます。」俺がカムエルさんに挨拶すると、

 「あ、おはよう、早いですね。まだ、門は開いてませんよ。」とカムエルさんが応え、荷馬車の中から一人の少女が顔を出す。同い年ぐらいに見える。

 「娘のフレアです。王都の魔法学院に入るため同行します。火属性と水属性の魔法適正が有るようで、本人も希望しますので私の実家から通わせることにしました。独学で火の初級魔法の攻撃魔法も使えるようになりましたので、旅の途中でも見てやって下さい。フレア、こちらがBランク冒険者のタクマさんだ。王都への往復で、護衛してくださる。挨拶しなさい。」

 「カムエルの娘のフレアです。王都までの片道だけですが、よろしくお願いします。」と丁寧に挨拶される。

 「こちらこそ、よろしく。カムエルさん、俺まだ火属性は薪に着火させるくらいしかできませんよ。攻撃魔法を使えるフレアさんに反対に教えてもらう方です。」と、一応断わっておく。そんな話をしている間に、門が開いたので、急いで御者台にカムエルさんと乗り込む。門衛にカムエルさんが、商業ギルドにカードを見せ、俺が冒険者カードを提示して、すんなり通過する。王都への街道を結構なスピードでカムエルさんが、馬を走らせるので、四週間も馬が持たないんじゃないか心配になって聞くと、途中の6か所の街と村に、替え馬を用意してあるとのことであった。初日の今日は、クルムの街に近く、魔物や盗賊が街道に出没する心配がないが、練習のため、御者台でゴールデンラビットが使っていた気配探索の魔法を使ってみる。元々小さな魔物が持っている能力のようで、外敵から身を守るためのものだが、魔力を殆ど持たないゴールデンラビットだと100mが限界だった。同じように俺が使ってみれば、半径5キロを把握できた。そのままでも充分役に立つが、ゴールデンラビットのイメージでは天敵のホーンラビットやワーウルフへの特定の魔物への拘りが強く、自分用に生命力検知に簡略化して、今回初めてテストしてみた。普通に、魔力回復能力以下の微かな魔力で半径20キロ範囲内の探索ができた。しかも、今までに出会った魔物や動物は識別できるようだ。魔力を少しずつ上げていくと、探索範囲が広がっていく。最大でどのくらい探索できるか調べるため、魔力をどんどん上げて行ったが、探索範囲100キロで、いくら魔力を増やしてもそれ以上の能力アップは無かった。最大探索範囲での魔力使用量は、俺の魔力回復量と同じくらいなので、常時、発動させた状態でも魔力枯渇する心配がないことが解った。しかし、探索範囲100キロでは、情報量が膨大で、頭が痛くなりそうなので、通常は、20キロ範囲の探索をかけておくことにする。新しい闇属性の探索魔法サーチの誕生である。

 テスト結果に大満足した俺は、異空間収納からお弁当のサンドイッチを取り出し、カムエルさんに一つ進める。

 「お、良いのかい、じゃ、遠慮なく」と、片手で手綱を捌きながらサンドイッチを取る。俺も一つ片手に取り、荷台の幌の中にいるフレアにも進めてみる。

 「ありがとう、ちょっと小腹がすいてたの。」とフレアも嬉しそうにサンドイッチを口に入れる。エルザさんが用意してくれたサンドイッチは3人で分けてすぐに無くなった。空のカゴを異空間収納に放り込み、探索状況を見直す。20キロ周辺には危険な魔物の気配は存在せず、盗賊の気配もない。美味しそうな野生動物や小型の魔物を街道周辺に絞って探し、風の刃で仕留めようと考えていると、なかなか思うように街道には近づいてくれない。4時間以上走り続けた馬をそろそろ休めなければと思ったとき、街道の横からキジが3羽飛び立つ。反射的に風の刃をあびせた。御者台から飛び降り、首の落ちた3羽のキジを回収して、

 「カムエルさん、馬を少し休ませましょう。その間に昼食にしましょう。」と3羽のキジを見せる。カムエルさんも馬車を止めると、馬たちの世話をし始める。俺は、キジの羽を毟り、土魔法で竈を作って、薪を集めキジを焼く。前世で捌いたように皮も程よい大きさに切り串に纏めていく。塩味付けのみしかないが、キジの焼き鳥フルコーフである。3羽分、次々に焼きながら串焼きを食べる。こういう食べ方が初めてなのか、フレアもカムエルさんも手が止まらない。3羽有ったキジは、頭と骨と羽をのこして瞬く間に3人の胃袋に収まった。本当は醤油や日本酒、味醂等があったら、鍋にしたかったが、塩しか持っていないので、簡単な焼き鳥にしてみたのが、結構良かったみたいだ。馬もゆっくり草を食んでいる。そろそろ出発することにした。焼き鳥の臭いに魔物が寄ってこないか心配そうなフレアにリンゴをひとつ放り投げ、周辺には魔物は存在していないと教える。後片付けを土魔法で一瞬に穴を掘り中に放り込んで埋めてしまうことにする。

 穴の中に燃え残りがあったので、フレアに小さなファイアーボールを作って貰い、穴の中を焼き尽くしてから土で覆ってしまった。フレアのファイアーボールは確かに攻撃魔法として相手に投げつけることができるが、殺傷能力は低いようだ。魔力量の少なさもあるが、詠唱にムダが多すぎ、時間が掛かるうえ、威力を削いでしまっていた。余計なものを削除し、簡略化した詠唱をフレアに教え、草原に向かってもう一度ファイアーボールを発動させてもらう。今回は、先程の三分の一の時間で直径1mのファイアーボールが発動し、凄いスピードで前方の草原に飛んでいく。100m程前方に落ちた途端爆発した。落下地点半径10mぐらいが炭化していた。

 「何事ですか?」カムエルさんが飛んできた。

 「ごめん、フレアさんに、ファイアーボールの簡略化した詠唱をしてもらったんですが、ちょっと威力が上がりすぎたみたいです。」と、俺が説明するが、魔法を使ったフレアさん自身が茫然自失の状態になっていた。

 「詠唱を変えただけで、こんなにも、威力が変わるものなの?」と俺を問い詰めるが、

 「魔力の使用量は変わっていないでしょ。元の詠唱では、態々効果を抑える文言が組み込まれていましたし、無駄に魔力を拡散してました。イメージに上手く繋がっていなかったので、ちょっと変えてみただけです。これが、本来のフレアさんのファイアーボールですよ。」と伝える。

 念の為、炭化した草原に水魔法で雨を降らせ、徹底消火して、荷馬車に乗り込む。初日から良いものを見せてもらった。詠唱の簡略化もすぐにできたので、俺の火属性魔法に攻撃魔法のファイアーボールも追加できた。この改良版として、炎の矢や、ファイアーウォールも簡単にイメージとして掴めたので、すぐにできると思う。

 只、フレアさんの威力があれ程になると、俺が使った場合最低でも直径10m位のファイアーボールが出来そうなので、こっそりとは実験できそうにないのが問題だと御者台の上で考えていた。

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