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第5話 ゴンズイ年貢を納める

 宿はクルムの街の商業地区西側に有った。親父が十五年前に定宿としていたのは、『森の熊さん亭』と、ふざけた名前の宿である。熊族の獣人が主人かなと思ったが、親父と二人で入って行くと、受付には20代の人間の女性が立っていた。その女性が、親父の顔をみて、目を見張り受付から飛び出してきた。親父の前に来ると、右ストレートを綺麗に決めて、胸をはる。

 「ゴンズイ、あんた今まで何処にいたのよ。15年も恋人を待たせておいて、何の連絡も無いのはどういうこと、言い訳があるなら言ってごらんよ。」と怒鳴る。

 目を点にした親父が、

 「お前、エルザか? えらい良い女になったな。恋人ってどういうことよ。お前十五年前はまだ10才だったじゃないか。」

 「10才でも、あんたがお嫁さんにしてやるって言ったんじゃない。忘れたとは言わせないよ。」と凄んでくる。タジタジになった親父が何か言おうとするが、

 「雅か、子供相手の冗談だったなんて言わないわよね。あたしを十五年も待たせておいて、いまさら冗談でしたじゃ済まないわよ。」と浴びせられる。

 うわあ、10才の子供に結婚してやるだなんて、犯罪者じゃんと、冷めた目で俺が見つめると、

 「おいおい、俺は手なんか出しちゃいないぞ。そんな目でみるな!」と言うが、

 「手を出さなくても、約束したわよ、どうしてくれるのよ。」とエルザさんに詰め寄られている。

 「わかった。エルザも、もう大人になってるから、俺はエルザが望むなら何時でも結婚したいと思ってるぞ。それより、こいつの紹介をさせてくれ。お前が名付けたタクマだ。今年15になったので、冒険者ギルドに登録してきた。これでもBランク冒険者だ。喜んでやってくれ。」と俺に注意を向ける作戦できたようだ。

 「ええ、この子があのタクマちゃんなの、うわあ、逞しくなっちゃってすごいじゃない。あたしがおむつ替えてあげたの覚えてる?」と、とんでもないことを聞いてくる。生まれたばかりの赤ん坊にそんな記憶が有る訳ないだろうがと言いたかったが、押さえた。

 「いえ、なにぶん赤ん坊でしたので。」と答えておく。

 「15年間、オーマ山岳地帯の山の中で、こいつを鍛えていたんだ。身寄りが解らないから、一人でも生きていけるように、俺の知っていることは全て教え込んだ。義理の息子だから、俺と結婚したら、お前はタクマの義理の母親になる訳だ。その年で母親になるんだ。よく考えろよ。」

 おいおい、俺を結婚の防波堤にしようとしてませんか?ちょっと立場上まずいんですが、親父、もう諦めろよ、15年も待ってくれる女なんてそんなに居ませんよと教えたくなった。

 「あら、私、タクマ君の母親なら成って良いわよ。タクマ君を育てるためにオーマ山岳地帯に居たのは解ったけど、15年間連絡も無かったことは別の問題だから、後でゆっくり聞かせてもらうわ。あ、そうだ、タクマ君今日はうちに宿泊するのよね。これ3階の301の鍵だから、部屋でゆっくりするといいよ。お風呂も何時でも入れるから、夕食の前に入って来たらいいよ。じゃあ、お義父さんはしばらく借りとくね。」

 「はい、それではお風呂に入らせてもらいます。親父、じゃあな。」

 俺は、鍵を受け取ると、直ぐに三階の部屋に向かって歩き出す。

 「おい、タクマ。俺を見捨てるのか、」何か親父が喚いているが無視することにした。建物自体は、結構、年季が入っているが、綺麗に清掃されており、結構流行っているようだ。301号室の鍵を開け、中に入ってみると、結構広い部屋にダブルサイズのベッドと応接セットが置かれており、前世でのビジネスホテルに比べると、テレビが無いだけで、広さや清潔感で負けていない。防具と言っても皮鎧程度の装備だが、脱いで剣をテーブルの上に置く。ソファーに座りまず一服したいが、この世界でタバコを見たことがないし、まだ15才ではダメだろうと納得する。部屋を見回すとサンダルが置いてあったので、ブーツを脱いで防具と剣と一緒に、早速、異空間収納に放り込む。これは、何も持たなくても大丈夫だし、盗難の心配も無いなと思い、凄い魔法を手に入れた実感が湧いてきた。金貨1800枚なんて、安い買い物だ。シャツと短パンにサンダル姿になって、親父のことは無視して風呂に入ることにした。旅の間は毎日、浄化魔法を寝る前にかけているので、シャツも短パンもきれいな状態を維持しているが、やはり日本人はお湯に浸かりたい。オーマ山岳地帯の村まで行商にくる商人から学んだ水属性魔法は、お金も払っていないのに、非常に生活の約にたつものだ。これは商人達にも何か恩返しでもしてみようと、首までお湯に浸かりながら、ふと思った。前世では、熱いお湯が好きだったが、こちらでの入浴習慣の無い生活に慣れると、この宿くらいの温めのお湯が丁度いい感じだ。1時間近く長湯して、食堂に向かう。通りに面した窓側の席で、親父が一人で飯を食っていた。厚いステーキとポテトサラダを食っている。前の席に座るとエルザさんが飛んで来た。

 「タクマちゃん、何にする」と聞いてきたので、

 「親父と、同じものお願いします。」

 「ゴールデンバイソンのステーキセットね。冒険者だから大盛りでいいね。」とえらく機嫌よく戻っていく。急に態度が変化したので親父の方を見ると、顔を俺の方に寄せ、

 「タクマ、すまんがフェンリル討伐の儲けの金貨500枚、俺にくれ。結婚はしばらく待ってくれるんだが、新居をこの裏に建てることになった。まあ、土地はこの宿屋のものだから金貨200枚も有れば、家一軒ぐらい建てられるが、新婚用の家具とかいろいろ注文が多い。それに突貫で建てさせる以上、大工に金を弾まなきゃいけない。金貨300枚以上いりそうなんだ。お前の分け前まで食い込むのを避けられないんだ。」

 「いいよ、俺まだポーションの残りの金貨200枚有るから。それより、家を建てるんじゃ、冒険者ギルドの依頼は受けている暇がないでしょ。その間、俺、商人の護衛依頼でも受けて王都旅行に行って来ても良いかな?」先程、お風呂で考えていたことを実行しようと、親父に確認する。

 「良いんじゃないか。一人でドラゴン討伐なんかに行かれるより、よっぽど安心だ。この魔法袋を持っていくか? あ!異空間収納魔法を使えたんだ。いらねえよな。」と親父の許しが出たので、明日ギルドで、護衛依頼を探すことにする。ちょうどタイミング良く、料理が運ばれてきたので早速いただく。

 エルザさんが嬉しそうにエールを親父の席に持ってくる。新居をせしめるとは、この女なかなか出来ると感心し、義理のお母さんには逆らわない方がいいと肝に銘じる。


 翌朝、一人で通りの屋台巡りを始める。まだ、時間が早いため、商売を始めているところが少ないので、先に肉屋を見に行く。昨夜食べたゴールデンバイソンの肉が結構旨かったので、護衛旅行中に焼いて食いたいと思い探しにきた。なんでもエルザさんの説明では、この辺の草原に多い体高3メーター近いバッファローのような魔物で、魔法等は使えないが、非常に硬い毛皮と、角で突進してくる猪のような性格のDランクの魔物だという。正面から戦うとオーガでも突き殺すほどの強さを見せるが、普通は落とし穴に誘い込み槍で仕留めるようだ。比較的安全に仕留められるので、若い冒険者たちが狙う獲物だときいた。肉屋は営業していたので、ゴールデンバイソンの肉が有るか聞くと、丁度今がシーズンとのことで、いくらでもあると言われた。金貨1枚分を買い求めると10キロのブロックが10個になった。

 こちらの相場は解らないが、安いと思う。次に八百屋に行く。勿論、肉は異空間収納に納めておく。八百屋でも、キャベツ、タマネギ、ジャガイモ、トマトとそれぞれ金貨1枚分購入し、異空間収納に放り込む。果物屋にも行って、好きな桃や梨、メロンなどを金貨1枚分買い込む。結構時間が掛かったので、屋台も営業し始めている。串焼き肉と肉と野菜を挟んだサンドイッチのような物をそれぞれ金貨1枚分購入して、ギルドに向かった。

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