第3話 冒険者ギルド謹製最高級ポーション
クルムの街まで帰り着くのに6日かかった。フェンリルの内臓を入れた壺を氷で冷しながらの道中は、何も問題は無かった。只、魔道具の魔法袋を持っていれば、こんな荷馬車も必要ないし、中にいれたものは、時間が止まるから腐敗の心配も要らないのにと、親父に文句を言ったぐらいである。道中の水や氷は、オーマ山岳地帯の村に行商に来た商人が使う水属性魔法を見て、5歳のころから使えるようになり、親父を驚かせた。身体強化や、親父が少し使えると言っても、薪に着火させるぐらいの火属性魔法もそのころから使うことが出来た。どう言う訳か解らないが、使われる魔法を見ただけで、その発動イメージが飛び込んでくる。人族も魔物も関係なく理解でき、自分も使えるようになる。一度、錬金術師がポーションの原料探しに、オーマ山岳地帯に入ってきて、親父に護衛依頼してきた。家の山小屋に住み着き付近の薬草を探し回る依頼だった。結構、この国では有名な錬金術師だったようで、取ってきた大量の薬草を魔法袋に入れていた。体力回復ポーションと、魔力回復ポーションを、簡単に山小屋の中で作った。いろんな調合道具を使用して目の前で作っていたが、それを見るかぎり道具を使わなくても魔法だけで作れるのにと幼いながら思った。錬金術師が、土属性魔法で、砂からガラス瓶を作るのを見て、自分も同じものを作り、山小屋の近くで錬金術師が使った薬草を見つけ出し魔法だけで体力回復ポーションを作ってみた。10個程作って木の枝で栓をつくりヘトヘトになるまで山を駆け回ってから一口舐めてみた。すぐに効果が表れて、絶好調の状態に復帰した。一瓶に100cc程入っているが、一口舐めただけでこの効果に子供の身体だからと思い、親父の酒の壺に20cc程入れておいた。錬金術師が作った体力回復ポージョンは茶色の液体だったが、俺が魔法で作ったものは無色透明で、酒の味を変えることはないと思えた。実際、薬草採取から帰ってきた親父とその錬金術師は、夕食を食べると旨そうに酒を酌み交わしていた。5歳そこそこの身体では、さすがに酒は飲ませてはもらえず、自分で作った山葡萄のジュースを飲んでいる。
「ゴンズイ殿、この酒のほうが、私の作るポーションより元気がでるが、どこで手にいれたんだ?」と錬金術師が言えば、
「麓の獣人族の村で買ってきたもんだ。俺は元々、回復ポーションより酒の方が旨くて元気がでるぜ。」と答えている。二人はそのまま俺がポーションを入れた酒の壺を瞬く間に空にした。「しかし、今日の酒は全然酔えねえな。」と愚痴り出したので、体力回復ポーションを作ったことは黙っていることにした。錬金術師が都に帰る際、麓の村で酒を買い込んだことは、親父が買いにいって売り切れていて解った。その後、魔力回復ポーションもこっそり作ってみたが、錬金術師が作った緑色ではなく、金色で透き通った液体になった。舐めてみるとほんのり甘い。元々魔力が多く殆ど使っていなかったので、回復云々は解らなかったが、同じように土属性魔法でガラス瓶を作りコルク栓をして10本保管しておいた。
フェンリルとの戦いで、初めて攻撃魔法を使い、少し魔力を消費したかと思い、一本取り出して舐めてみたら、確かに魔力量が補填できた。でもほんの少ししか消費してなかったようで、この程度ならすぐに自然回復できたと思う。
クルムにやっと辿りついた俺たちは、すぐに冒険者ギルドに向かい、リルカさんにフェンリル討伐の報告をした。併せて馬車に積んできたフェンリルの内臓、爪、牙と毛皮の買い取りをお願いする。現物の毛皮等を持ち込んだおかげで、依頼達成の証明も出来、すぐに金貨150枚の討伐報酬が出たが、買い取り額の方が高額になり、毛皮が金貨200枚、内臓が50枚、爪20本で金貨50枚、牙が50枚、となり、合計金貨500枚の収入である。ホクホクで出て行こうとしたら、リルカさんに、ギルドマスターの部屋に来てほしいといわれた。親父と顔を見合わせてからリルカさんの後についていく。2階の奥の扉の前で、リルカさんがノックして、俺たちを中に誘う。
「よう、ゴンズイ十五年ぶりだな。そいつがあの時のガキか?デカくなったな。」と奥の椅子から立ち上がった虎族の親父より上背のある筋肉マンが近づいてきた。
「何だ、サイラスか、お前がクルムのギルドマスターになってたのか?じゃあ、Aランクチーム「狂戦士軍団」は解散したのか、他の連中はどうした?」旧知の間柄のようで、ゴンズイがズケズケ聞いて行く。
「十年前にオーガの群れに急襲されて、俺は足をやられて走れなくなったんで引退したが、他の連中は新しく魔術師も仲間に引き込んで新チーム「風の騎士団」を立ち上げて、今じゃAランクチームに返り咲いているぞ。それはそうと、今回、お前とその息子二人でフェンリルを討伐してくれたそうだな。15年前の累積実績と今回のフェンリル討伐で、お前のランクはAに昇格させるぞ、それから、その坊主の魔力量をもう一度ここで測定させろ。お前と一緒にフェンリル討伐できる奴がFランクの訳がなかろう。」そう言うと、サイラスさんは前回より一回り以上大きいオーブを持って来て、俺に手を翳せと言う。前回は、何も考えず魔力を通してしまったために、暴発させたので、今回は出来る限り魔力を絞って掌を翳した。オーブの中が、ゆっくり金色に輝き、水色に変化して緑に変り、赤い炎が出て茶色に変り、漆黒となって白に戻った。どうやら今回は暴発せずに済んだようだ。
サイラスさんが目を瞠って、
「おいおい、全属性で魔力量測定限界とは、とんでもないガキだな。」
「ガキじゃありません。タクマと言う名前があります。」思わず抗議してしまう。ガキとか坊主とか、失礼にも程があると思い睨みつけると、
「いやあ、すまんすまん。赤ん坊のお前しか知らなかったんで、ついつい名前も聞いてなかったな。タクマか、いい名前だ。タクマ、お前は俺のマスター権限でBランクに昇格させる。本来、二人でフェンリルを倒せるような奴はAランク以上だが、ギルドマスターの権限で与えられる最高ランクはBまでなんだ。それで我慢してくれ。」と強面の顔を崩してやさしく笑いかけてきた。
「いやいや、Fランクから急にBランクなんて3ランクも飛んでますが、良いんですか?」何か他の人に恨まれそうで、心配になるが、
「ばかいえ、このオーブで測定限界の魔力量があればSランクの魔術師と同等の力がある証明だ。その上、お前は全属性で測定限界なんだ。最初の光は聖属性、水色の水属性に緑の風属性、赤い炎の火属性に茶色の土属性、漆黒の闇属性まで全てだ。いや待てよ、最後は白になったよな。鍛冶魔法や錬金術まで使えるのか?タクマ、何か作ったことがあるのか?」と問い詰められたので、リュックから2本のポーションを取り出してサイラスさんに渡す。
「5歳のころ、オーマ山岳地帯の山小屋に都の錬金術師が薬草収集にきたとき、目の前で体力回復ポーションと魔力回復ポーションを作ったので、自分でも、もっと簡単に作れると思ってやってみたら出来たのがそれだよ。作ってから十年経っているけど、こないだ舐めてみたけど大丈夫だったよ。」と説明した。
2本のポーションを手に持ち突然立ち上がったサイラスさんは、扉の方に向かい一階に向かって、
「リルカ! ちょっと来てくれ、すぐにだ。」と大声でリルカさんを呼んだ。何事かとリルカさんがギルドマスターの部屋に入ってくる。サイラスさんが俺の作ったポーションをリルカさんに渡し、
「タクマの作った、HPとMPのポーションだ。お前ポーションに詳しかったよな、ちょっと見てくれ。」と言う。
受け取った瓶を見比べ、リルカさんはまず無色の方のコルクを開け、小指の先に付けて口にもっていった。固まった。目を大きく見開き、コルクを締めるともう一つの瓶のコルクを開け、同じように確認する。それから慌ててコルクを締めて、
「これは、迷宮で数十年に一度ドロップされる神々のポーションの濃縮液です。この瓶を20倍に薄めたぐらいが、ちょうど1本の神々のポーションと同じ位になると思います。」リルカさんが慎重に2本の瓶をサイラスさんに返す。
「それで、その神々のポーションてのは、いったい幾らするものなんだ?」とサイラスさんが問いかけると、
「殆ど、オークションになります。前回エルシアの迷宮で発見されたものは、1本で、金貨100枚になりました。これ一本だと、その20倍の価値になると思います。」真面目な顔でそんなことを言う。
「いやいや、俺が5歳の時に初めて作ったポーションが、そんな金額で売れる訳無いでしょ。それに、そんな高い値段じゃ、王侯貴族しか使えない代物になっちゃいます。神々のポーションなんて名前じゃなくて、クルム冒険者ギルド謹製高級ポーションぐらいにして、十分の一くらいで売れないかな?」言って終ってから気付いたが、十分の一でも金貨10枚になるから1本で20本になれば、200枚になってしまう。いや、高すぎるよと思い、
「もっと下げようか?」と聞くと、リルカさんが慌てて、
「それ以上値段を下げては、他のポーションが売れなくなります。多くの錬金術師が、ポーションの制作を辞めてしまい、大変な事態に陥ると思います。これ程高品質なポーションは、やはり最低でも金貨10枚が妥当です。ギルドマスター、クルム冒険者ギルド謹製最高級ポーションとして販売しましょう。」何かリルカさんが、積極的に推進してくれるなと思っていると、
「タクマさま、今お持ちになっているのは、この1本ずつだけですか?」と聞かれたので、
「ううん、それぞれ10本持ってるよ。」と言うと、目を輝かせて、
「それでは、その20本を金貨2000枚でギルドに卸して下さいませんか?ギルドで20倍に希釈して少し色を付けてから、1本金貨10枚で販売します。タクマさまが金貨2000枚の収入なら、ギルドの儲けも金貨2000枚になります。ギルドマスター、これで宜しいですか?」凄い遣り手のリルカさんを見てしまった。おれはそれで充分だと答えると、ギルドマスターも、薄めて瓶に詰め替えるだけで、金貨2000枚になると理解したようで、
「じゃあ、タクマ、残りの9本ずつをここに出してくれ。それからリルカ、タクマのギルドランクをBランクに昇格させるから、ゴンズイのカードとタクマのカードを持って行ってAランクとBランクのギルドカードに更新しておいてくれ。」
金貨2000枚って日本円で考えたら2億円以上かよ。フェンリルで金貨500枚貰って、びっくりしてたら、あんなポーションが2000枚に成るなんてちょっとヤバイじゃん。うわあ、もう何も考えないことにしようと、思ったら、親父に頭を叩かれた。
「てめえの遣ったことから逃げるんじゃねえ。」流石、親父はお見通しのようだ。じゃあ、この金で魔法袋を買いに行くことにする。