第18話 我が家へ
ニーナさんとフレアさんを伴い、野営地に戻った俺は、まだテーブルで食後の紅茶を楽しんでいるカムエルさんとソフィアさんたちの元に行く。俺も、フレアさんとニーナさんの分も紅茶を入れて、テーブルについた。
「タクマ殿、今夜の見張りは、俺とヤーンで交代してやりますから、ゆっくり休んで下さい。」とサムさんが言いだしたが、
「魔物除けの結界を張ってますし、気配遮断魔法もかけてますので、見張りの必要はありませんよ。」と教える。
「それに、この20キロ周辺には、この結界を破れるような魔物はいませんので、皆さん簡易宿泊所でゆっくり休んでもらって大丈夫ですよ。」と勧めてみた。実際この魔物除けの結界を破れるのは、Aランク以上の魔法に特化した魔物ぐらいで、ここならグリフォンぐらいしかいない。夜間にグリフォンが狩りをした話は聞いたことがないので、安心して寝て貰って大丈夫だと思う。雑談のあと、各自浄化魔法で清めて寝ることになったが、カムエルさんと俺しか浄化魔法を使えないことが解り、俺が、『火炎の魔戦士』四人に浄化魔法をかけ、カムエルさんがフレアさんにかけて、それぞれのかまくらに入っていった。
俺も自分のかまくらに入ってから、ドアを閉め、転移魔法の実験をしてみる。どのくらいの距離が可能かまず確認するため、オーマ山岳地帯の我が家の自分の部屋をイメージし、転移魔法を使ってみる。一瞬で、懐かしい山小屋の自分の部屋に帰っていた。魔力消費を見てみるが、グリフォンから逃げたときと殆ど変らない微量な消費であった。長距離転移も近距離転移も殆ど魔力消費は変わらないことが解った。それならと、王都リーマの冒険者ギルドをイメージして転移しようとしたが、発動しなかった。自分の目で見える範囲と、一度行ったことのある場所でないと、転移できないようだ。まあ王都は、あと一週間もかからずに辿りつけるから、その後なら何時でも転移可能になると、自分を慰め、我が家の地下室に向かう。元々この地下室は、10才の時に、ジャイアントモールの土魔法を覚えて、遊びでコッソリ造ったものだ。それ以来、土属性魔法の練習で、強化され、今では大理石で囲まれた地下宮殿の様相を呈している。上部の山小屋の10倍以上の空間ができてしまった。15才になるまでの5年間に土属性魔法の練習でオーマ山岳地帯の山を歩き回り採掘魔法で収集した宝石の原石や、金のインゴットでその面積の半分が埋まってしまっているが、魔法金属のミスリルも少しだけ有ったのを思い出したので、来たついでに異空間収納に入れて帰ろうと思ったのだ。しかし、何処に保管したのか解らなくなったので、取り合えず邪魔な宝石の原石と黄金のインゴットを全て異空間収納に入れてみる。これで問題なく地下宮殿の全ての部屋を回れるようになったので、鉄とミスリルのインゴットを探してみる。鉄は10キロのインゴットが10個見つかった。ミスリルは流石に2個しか無かった。やっぱり希少金属は本格的な鉱山を作らないと大量には採掘できないものと思われる。しかし異空間収納の収納品一覧を確認すると、宝石の原石は10トンもあり、黄金のインゴットにおいては30トンと表示されていた。うわあ、こんなに溜めこんでたのかと改めて驚いた。まあ、王都の錬金術師の魔道具等を見学して自分で作る材料には事欠かないので、そのまま異空間収納にいれておくことにする。それよりも作り置きのポーションも有ったはずなので、次の納品分のHPポーション20本とMPポーション20本を探す。ポーションはすぐに見つかったが、あと残り100本ほどである。納品用の20本ずつ異空間収納に収め、もう一本ずつ取り出し20倍に希釈して新しい瓶に詰めかえて、自分用に異空間収納に収める。ここでの用は終了したので、簡易宿泊所の中に転移して戻った。サーチして状況確認するが、何事もなかったようだ。皆ぐっすり眠っているようなので、俺も眠ることにした。
朝、起きてかまくらから出ると、既にソフィアさんが起きており、剣舞のようなことをしている。毎朝の習慣のようだ。俺は頭を下げて挨拶してから、朝食の準備にかかる。朝は手間をかける気がないので、紅茶とフルーツ盛りにパンを用意する。それと屋台で買いこんでいた串焼き肉を人数分並べた。そうこうしていると、カムエルさんやフレアさんも起き出してきたので、朝食にしようと声をかける。その声に驚いたように、サムさん、ヤーンさんがかまくらから飛び出してきた。ニーナさんも既に魔法使いのローブを纏って出てきた。
「ニーナさん、魔力回復できてますか?」と聞いてみると、
「ええ、昨夜三度もファイアーランスを撃ったのに、魔力切れにもなりませんでしたので、十分回復できてます。」と返事が帰ってきた。
「じゃあ、朝食を済ませちゃって下さい。」と声をかける。早速、サムさん、ヤーンさん、ソフィアさんもテーブルに付いて、串焼き肉に齧りついていた。カムエルさんもフレアさんもすぐに食事をはじめる。俺も、串焼き肉をパンに挟んで齧り付く。屋台の串焼きは、味が濃いのでパンに挟むとちょうどよい。パンを2個たいらげ、紅茶を楽しむ。朝から皆、食欲が旺盛で、フルーツも結構食べてくれている。串焼きのお変わりを聞くと、サムさんとヤーンさん、ソフィアさんの三人が手を挙げたので、魔法袋から出すふりをして、異空間収納から3本出し、配る。紅茶のおかわりをして、ニーナさんとフレアさんにも紅茶をおかわりする。なんか護衛より料理人として働いている方が多い気がする。食事も終わったようなので、テーブルと机を土に戻し、竈も土に戻しておく。馬を荷馬車に繋ぎ、王都リーマを目出し出発である。『火炎の魔戦士』の面々もあとに続く。
今日はカムエルさんが御者をしてくれる順番のため、御者台の横に座り探索しながら出発した。周辺20キロ範囲には、脅威となる魔物の姿は無く、ゴブリンとオークの小集団のみで襲ってきたら殲滅するのに左程手間になるとは思えない。多分来ないと思うが。深淵の森から遠ざかるだけのため、魔物の脅威はなくなるが、今日、明日は盗賊の警戒がメインで良いと思う。そんなふうに考えながら、3時間程進んだ時、前方20キロ地点に30人程の集団を発見する。今回はバリケード等は作ってないが、軍隊のように整然と、馬を並べて待っている。正面に10騎、左右に10騎ずつで、完全に待ち伏せである。




