第17話 宿泊所作っちゃいました。
やっと、深淵の森から10キロ程離れた野営地に辿り着いた時は、辺りが夕闇に包まれ出した頃であった。二台の荷馬車を止め、冒険者たちもテントの準備を始めたが、それを止めて4個のかまくらを土魔法で作った。いつもの一人用より2倍の大きさで作って、中にベッド二つと椅子とテーブルを作る。全て土魔法によるもののため、石化で強化して表面を洗浄魔法でクリーンにしてみた。石のドームの中に二個の石のベッドと石の机と椅子だけの簡単な作りだが、ベッドの上に枯れ草を敷き詰めシーツで包んだだけで、充分安眠出来そうだ。入り口に作り置きして異空間収納に入れて有った木製扉を付けて、四棟の宿泊所が完成した。最初、何をしているのか不思議そうに見ていた『火炎の魔戦士』の四人は、30分足らずで簡易宿泊所を作って終った俺を、取り囲んで質問責めにする。主に、魔導師のニーナが、
「タクマ殿、これは土属性魔法の応用ですか? 普通、このような建物を土魔法で作成した場合は、膨大な魔力が必要になり、必ず魔力切れに陥りますが、どうしてタクマ殿は可能なのですか?」と興奮して聞いてきた。
「ああ、この位はそんなに魔力は消費しませんよ。元々ジャイアントモールの使う土魔法を参考に術式を簡略化してますから、普通の土魔法のような魔力消費はありません。モンスターが使う魔法は殆ど自然の中に存在する魔素を魔力に変換して体内魔力は殆ど使いません。」と説明してあげると、
「ではタクマ様は、モンスターと同じように自然界の魔素を魔力に変換出来るんですか、そのような魔術は聞いたことがございませんが?」とかさねて問い詰める。
「ええ、今の魔法術式は無駄が多いくせに、簡略化すると機能しないものが殆どです。そこに、自然界の魔素を吸収して属性魔力に変換する術式を加えるだけで、魔法効果と発動スピードを飛躍的にアップさせることが出来ます。夕食後に一度貴方の魔法を見せて下さい。改善出来るかも知れませんよ。」と答える。他の皆もいろいろ聞きたそうだが、まず、夕食の準備をする。たっぷり有るオーク肉のステーキを土魔法で作った竈で焼きながら、もう一つの竈でスープを作ってみた。テーブルも椅子も全員座れるサイズで簡単に土魔法で作る。ステーキ皿と、スープ皿を並べ、準備ができたところで、焼き上がったステーキを盛り、スープを入れて中央に篭に盛ったパンを置いて出来上がりだ。
「皆さん、テーブルに付いて下さい。夕食にしましょう。」俺は、周りの皆に声を掛けた。
「お昼もそうだったけれど、タクマ殿は凄い手際ですね。野営でこのような料理が出来るのが、未だに信じられません。」と、ソフィアさんが言えば、
「私も最初の頃は、信じられませんでした。タクマ殿は護衛としても超一流ですが、料理人の腕や、建設家としても一流です。これからの護衛依頼は、タクマ殿を指名依頼したいです。」とカムエルさんまで言い出した。
「いやいや、今回は、俺も王都に来たい用事がありましたが、護衛依頼は専門にする気はありませんよ。さあ、そんなことより温かいうちに、食べて下さい。」と釘を刺しておく。
フレアさんもそうだが、四人の冒険者の食べっぷりは見事で、すぐにおかわりのステーキを焼くはめになった。フレアさんとニーナさんが二枚で、ソフィアさんとサムさん、ヤーンさんの三人は四枚のステーキを平らげた。俺と、カムエルさんはステーキは一枚で充分で、代わりにスープをおかわりした。皆お腹いっぱいになったところで、
「簡易宿泊所を作ってみましたので、『火炎の魔戦士』は男女別で二棟使って下さい。中にベッドが二つありますので、カムエルさんとフレアさんも今日は一棟つかって下さい。荷馬車と馬たちには結界を掛けておきますから、見張りの交代等の心配は要りませんよ。」と言うと、
「タクマ殿、この四棟の宿泊所は、明日の朝、壊してしまうのか?」とソフィアさんが問いかけて来た。
「ええ、元の状態に戻した方が良いんじゃないですか?」と俺が言うと、
「出来たら、このまま置いておいて欲しいんだが、私たちリーマの冒険者は、深淵の森での討伐や薬草採取が非常に多いんだ。深淵の森の手前に、このような簡易宿泊施設が有れば、今後も利用できて助かるんだが。」と言うので、
「良いですけど、ゴブリンなんかが住み着きませんか?一応魔物避けの結界は張って起きますが、効果は、一ヶ月くらいしか持ちませんよ。」と言うと、
「それで十分だ。一週間もすれば、我々も来るし、その時、魔物避け結界石を持って来て、野営地の四隅に埋めようと思う。そうすれば、十年くらいは持つから心配いらない。」とサムさんも気に入ったようである。俺は壊す手間が省けるので、了承する事にした。
「フレアさん、ニーナさん、少し魔法の訓練をしますか?」俺は二人に声をかけた。
「「お願いします。」」二人揃って、やる気満々である。俺は二人を、野営地の西に広がる荒れ地に誘った。
「大丈夫、付近20キロ以内には魔物の反応は有りませんから、心配いりませんよ。」と一応フォローしておく。
「フレアさん、この前教えたファイアーボールをあの岩にぶつけて下さい。」まず、フレアさんの上達具合を確認するため、お願いすると、すぐにフレアさんの頭上に直径2m位のファイアーボールが出現し、俺の指定した岩に飛んで行く。着弾と同時に爆発して、そこに有った岩は粉々の赤く焼けた石の欠片に変わっていた。飛ぶスピードも威力も倍以上になっていた。
「フレアさん、この前からこっそり練習してたんですか?」俺が聞くと、顔を赤くして
「この前教わった術式の詠唱を、毎日少しだけ頭の中で繰り返しイメージ練習しただけです。こんなに強力な魔法に成っているとは、思ってもいませんでした。」と言う。
「今のが、初級火魔法のファイアーボールですか? 私が今まで見てきたものとあまりにも違います。詠唱時間も解らないくらいですし、威力もスピードも桁違いです。」とニーナさんが驚いているので、
「ニーナさんの最大威力の魔法を、あの岩に撃ち込んでもらえますか?」俺は、説明を省いてお願いしてみる。気にした様子もなく、ニーナさんは詠唱を始める。30秒程の詠唱後、彼女の頭上に炎の槍が出現し、
「つらぬけファイアーランス!」と彼女が叫ぶと同時に、炎の槍が、岩に撃ち込まれた。炎の消えた後には、50cm程抉られた岩が残っていた。俺は彼女の唱えた詠唱を地面に木の枝で書き記した。
「ニーナさん、貴方が今唱えた術式がこれです。」と、地面の詠唱部分を指し示し、
「この部分は必要ありません。それからここも削除できます。この間にこれを入れても、四分の一の詠唱ですむと思いますよ。」と簡略化した術式を示した。その内容に目を丸くしたニーナさんはもう一度簡略化した術式を唱える。彼女の頭上に先程とは大きさは同じでも赤から白に色を変えた炎の槍が出現し、的の岩に撃ち込まれる。岩は残っていた。30cm程の穴を開けて。その後ろの岩にも同じように穴が開いている。そして三つ目の巨岩に深さ5m近い横穴を開けて消えたようだ。炎の槍を撃った本人が固まってしまった。
「どうですかニーナさん、威力もスピードも遙かに増しているのに、魔力消費は四分の一以下でしょ。」と俺が声を掛けると、
「はい、いつもは炎の槍を二発撃つと半日は魔力が使えませんが、今はまだまだ撃てそうです。」と答えた。
「次は、今の術式を頭に描きイメージして撃ち出してください。フレアさんのように無詠唱で。」と続けざまに要求すると、すぐに、彼女の頭上に先程と同じ白い炎の槍が出現して撃ち出された。穴の開いていた二つの岩は砕け散り、巨岩には先程の穴の上にもう一つ5m以上の横穴を作っていた。その威力にまた呆然としているニーナさんに、
「今日はこの辺にして休みましょう。」と声をかけ野営地に引き返した。




