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第16話 深淵の森②

 ニーナは、グリフォンの覇気に当てられ、上空を仰いだまま、固まっていた。突然その姿が消える。

 「ガギィーン!!」

 大音響に、思わずニーナが振り向くと、ソフィアの真上でグリフォンの爪が見えない壁に食い込んでいた。

 「ふう、ギリギリ間に合ったみたいだな。」そんな声に驚いて後ろを振り返ると、15才ぐらいの少年が立っていた。


 俺は荷馬車を急がせ、冒険者たちが深淵の森に侵入した場所に辿り着くと、周辺に魔物が居ないことをカムエルさんに伝え、ここで待つようお願いする。すぐに身体強化を掛け、一目散に討伐現場に走った。上空のグリフォンに注意しながら後衛の魔法使いが佇む場所に辿り着くと、グリフォンに魔力反応がでる。すぐに、トロールと戦っている3人の周りに風の魔法障壁を三重に展開した。直後、女剣士の頭上にグリフォンが出現し、障壁に爪を食い込ませる。

 「ふう、ギリギリ間に合ったみたいだな。」俺は魔法使いの女性に声をかけた。

 俺は直ぐさま飛び出し、障壁を裂こうとするグリフォンに、風の刃を浴びせる。しかし俺の攻撃と同時に奴は転移し、俺の頭上に出現して爪を浴びせようとする。当然、風の障壁を纏っていたおかげで、グリフォンの爪は俺には届かない。障壁に雷撃を纏わせる。弾かれたように飛び離れるグリフォンに再度風の刃を浴びせた。グリフォンの姿は瞬時に消えたが、翼が数枚舞い落ちる。遙か上空に円を描きグリフォンが飛んでいた。

 「すぐに撤収しろ。奴の転移魔法の対策はない。障壁もいつまでも張っておけないぞ。」とトロールの側で呆然としている三人に叫ぶ。

 「解った。全員撤収!」女魔戦士が叫び、三人は後衛の魔法使いの元に駆け戻る。俺もすぐに後に続く。また上空のグリフォンに魔力反応がでる。四人の冒険者と自分を包む障壁を纏う。

 「グワァー!」背後で悲鳴が上がる。振り返ると、片足のトロールが、グリフォンの爪に肩から胸を引き裂かれていた。グリフォンがトロールに襲いかかっている間に、隠してあった荷馬車まで逃げ延びる。追いついた俺は、荷馬車と冒険者四人纏めて、転移魔法をかける。次の瞬間、俺たちは、深淵の森への侵入口に立っていた。

 「今、どこから来たんですか?」カムエルさんが俺に問いかけてくる。

 「グリフォンから逃げ切るために、全員転移させました。」と俺がカムエルさんに答えると、初めての転移経験に状況把握が出来ず周りを見回していた四人の冒険者が、俺とカムエルさんの側に寄ってきた。

 「どうやら君に助けられたようだね。私はBランクパーティー『火炎の魔戦士』のリーダーをしているソフィアだ。魔術師がニーナ、盾がサム、剣士がヤーンだ。全員Bランクに昇格したばかりだ。君に助けて貰えなければ、グリフォンの爪から逃れられなかった。ありがとう。」と礼を言いに来た。

 「へえ、仕留めたトロールをグリフォンに掻っ攫われた件でクレームを言われるかと思ったけど、あの場合、グリフォンを倒す手段が無かったので、我慢してね。」と俺は答えた。

 「そんなことは、どうでも良いです。でも、貴方もグリフォン同様に失われた固有魔法の転移魔法が使えるんですね。どこで習得されたんですか?」と魔術師のニーナさんが聞いてくるが、

 「転移魔法は、固有魔法じゃありませんよ。闇属性の空間魔法の一つです。でも、貴方には、闇属性は有りませんから、お教えしても無理です。貴方は、光属性と、火属性を持たれていますから、光属性の治癒魔法を習得されたら如何ですか?」と進めてみる。

 「ええ、私に光属性も有るんですか? 火属性だけだと思っていました。早速、リーマに帰ってから、勉強します。」とやる気のある答えが返ってきた。サーチで先程から捕らえていたグリフォンが東方向に飛び去って行くのを確認出来たので、

 「もうグリフォンも森の奥に飛んで行きましたので、そろそろ王都へ向かいましょうか。」とカムエルさんに告げる。

 「私たちも、今回は荷馬車も馬も助かったので、王都に引き返します。ご一緒して宜しいですか?」とソフィアさんが聞くので、

 「ええ、良いですよ。それなら、野営の時でもニーナさんにヒールぐらいはお教え出来ますよ。」と俺が言えば、

 「是非、お願いします。」と要望された。夜になるまでの間に出来るだけ深淵の森の側を通過してしまいたい俺たちは、すぐに荷馬車に乗り込みリーマを目出す。先程の戦いで、相当疲れている筈だが、四人の冒険者はすぐに荷馬車に乗り込み後ろに付いてくる。

 「カムエルさん、あのニーナさんという魔法使いの方ですが、何処かで会った事があるように思うんですが、記憶にないですか? 初めてお会いしたのは間違いないのですが、何か会った事があるようにも思えてくるんです。」と、カムエルさんに確かめるが、

 「いえ、初めてで間違いないと思いますよ。」と言う。何故か気になるが、周囲をサーチしながら馬車を走らせる。


 一時間程進んだところに、結構広い空き地があったので、昼食にしようとそこに荷馬車を進入させる。冒険者たちも、そのまま付いてきた。カムエルさんと、フレアに昼食にしますと伝え、馬の世話をお願いした。四人の冒険者も、昼食にするようだ。3人も7人も変わらないので、土魔法で、全員座れるテーブルと椅子を作り、適当に竈を作って、オークの肉を焼くことにした。干し肉と固いパンと水で昼食を済ませるようだったが、俺が、全員分の肉を焼くというと、嬉しそうにテーブルに付いた。適当に千切ったキャベツと、四つに切っただけのトマトのサラダを大皿に盛り、中央に置いて、それぞれの皿にオーク肉の串焼きを並べた。飲み物はエールが無いので、果物のジュースをカップに注いだ。クルムで大量に買い込んである柔らかいパンも大皿に14個のせて出してやる。全員テーブルについて、食事を開始した。

 「あ、ソフィアさんに自己紹介してもらったのに、俺たちまだ、名前も言ってなかったけ。俺は、クルムでBランク冒険者やってるタクマです。で、こちらが、俺の護衛対象の、カムエルさんと娘さんのフレアさんです。今、クルムからリーマへの護衛依頼の途中です。」と自己紹介だけ先にしておく。

 「流石に、辺境のクルムでBランクになった冒険者は、レベルが高いですね。つい先だってリーマでBランクに昇格した私には、Aランク以上にしか見えませんが。」とニーナさんが言えば、

 「そうよね、あのグリフォンの攻撃を防いだ魔法障壁も、凄く強力だったし、放った風魔法も、岩山を切り裂いていたものね。」とソフィアさんも相づちを打つ。

 「いえ、俺の場合は特別なんです。生まれた時から、親爺とオーマ山岳地帯で魔物を狩って生きてきたので、クルムのギルドマスターが、取り敢えずBランクに登録しただけです。」あれ、これって謙遜かな?自慢かなと、言ってから悔やむ。

 「そんなことより、早く食べて、深淵の森から離れましょう。」と言って、串焼きに齧り付いた。

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