第10話 草原の狩人
俺は、馬の手綱を持って、昨日の戦いを振り返っていた。フレアのファイアーボールを見て、自分用に改良していたが、最小限の魔力発動で、あの大きさに抑えるのが、限度だった。バリケードに隠れていた敵がすべて炭化して砕け散ったのは、俺の予想をはるかに超えた威力だった。ファイアーウォールについては、あの程度であれば、直接相手を包みこまなければ問題ないが、極力威力を抑え照準を的確に射ることに努めた雷撃は、敵の4人が即死してしまった。気絶させる心算で放った魔法が殺傷能力が高すぎた結果である。人間とはかくも脆い生き物であることを痛感させられた戦いであった。只、止めはレガート侯爵の護衛がさしてくれた10人を別にしても、残りの10人を殺したことについて、何も感じなかった自分に驚いている。たぶん、小さい頃から、獣人のゴンズイが養父として俺を育てるようになった原因が、盗賊による乗合馬車襲撃での皆殺し行為であることを聞かされていたため、一切の躊躇いは無かった。それにこれが初めての人殺しでは無かった。オーマ山岳地帯にも、嘗てのカムエルのように、行商に回ってくれる商人たちがいる。そんな商人を目当てに住み着く盗賊に対し、親父と俺が、獣人族の村々から依頼され討伐に当たっていた。勿論、あのような山岳地帯に、犯罪奴隷を買い取ってくれるギルドは存在しないので、全て殲滅してきた。肉の食えない害獣と割り切って、焼却処分するのが、アンデッド化を防ぐ常套手段であった。しかし、彼らはまさに盗賊であった。今回、襲撃者とはいえ、兵士の装備をした人間を躊躇いなく殺した自分に驚いただけである。反省としては、火属性の攻撃魔法は、魔物や野生動物には使えないことが、はっきりしたことだ。あの威力では、肉が取れない。毛皮も取れないことになってしまう。それでは冒険者の恥だと親父に叱られるのが目に見えている。そんなことを考えながらも前方の探索をしていると、今回はどうも本物の盗賊さまのよう。王都に近付くほどに街道が危険になってくるのはどういう事よとぼやきながら、相手の様子を窺うと、どうやら10人足らずの盗賊たちのようだ。20キロ先の街道の右側に有る丘の裏に馬を繋ぎ、丘の上から街道を見張っているようだ。全部で8人である。この人数では、商隊は襲えない。個人の行商の馬車ぐらいが、獲物になると思う。盗賊たちと俺たちの馬車との間には、商人の馬車等は見当たらないが、5人の冒険者が荷車を引いて王都の方向に進んでいる。俺たちが、盗賊たちの前に着くころに同時に追い付くぐらいのスピードだ。昨日の騒動で夜、馬車で眠れなかった所為で、俺の横で居眠りしていたカムエルさんをお越し、状況説明をする。
「後、半分以下の距離になってから、いろいろ有りますね。魔物より、人間の方が世界の害悪なんでしょうかね。」とカムエルさんが溜息混じりに呟いた。生憎、冒険者たちの荷車を引いての移動スピードが予想より遅かったため、盗賊の待ち構える場所の3キロ手前で、俺たちの荷馬車が追い付いてしまった。荷車には、仕留めたゴールデンバイソンが、積まれており、内臓は抜いているが、相当な重量のようで、5人全員で荷車を引いて進んでいた。この時、俺は閃いた。盗賊には8匹の馬がある。冒険者は俺の同僚であり、言わば仲間と同じである。ここは、この冒険者たちと強力して、盗賊を捕え、馬を彼らにあげれば荷車を引かせられるし、犯罪者奴隷としてギルドに買い取ってもらえるから、僅かでも儲けになる。皆、 WINWINの計画完成です。この計画をカムエルさんに話す賛成してくれた。
「やあ、5人でゴールデンバイソンを仕留めたんですか? 俺は、クルムでBランク冒険者をしているタクマです。これから、どこまで荷車を引いていくんですか?」と声をかけると、
「ああ、ちょっとデカすぎたよ。俺たちは、この30キロ先に有るメッサの街でCランクパーティー『草原の狩人』を組んでいる者だ。俺がリーダーのヤンガで女性二人が、メルとシンディー、残りの野郎はボブとフランだ。全員Cランクの冒険者だ。こいつは今日中にメッサまで運び込むつもりだ。」との丁寧な答えである。この人たちなら手助けして良いなと思い、
「ちょっと耳よりな相談があるんですが、この前方3キロぐらいの所で、8人の盗賊が待ち伏せしているんです。彼らは、馬を8匹繋いでます。右手の丘に潜んで、護衛の少ない馬車を狙っているようですが、ここに一旦獲物を置いて、俺と一緒に奴等の背後に回り込んで捕縛してしまおうと思うんです。こちらの荷馬車は、王都への急ぎの旅ですので、捕えた盗賊と馬をあなた達に譲りますので、ご一緒に盗賊狩りしませんか?」と申し入れると、二人の女性冒険者の方が飛びついてきた。余程、荷車押しが辛かったのだろう。リーダーのヤンガが、何故盗賊の待ち伏せが解ったのか聞いてきたので、俺が探索魔法で半径20キロを掌握できると教えると、羨ましがられた。俺と、『草原の狩人』の6名は街道を外れ、右に迂回して盗賊たちの背後に回り込む。丁度30mほどのところが盛り上がっていたので、その裏に全員身を潜めた。覗いて見ると、馬は10mほど離れた場所に8頭繋がれている。一人の盗賊が、丘の向こうの街道を見張り、その下手で、7人の盗賊が酒を飲んで時間を潰していた。背後に回り込むために歩いてくる途中、メルさんが、水魔法の攻撃魔法ウォーターボールを使えるときいたので、8人の盗賊たちの中心に打ち込んでくれるように頼んでみる。メルさんがすぐに了承して詠唱を始め、3m近いウォーターボールを彼らの頭上に打ち込む。突然ずぶ濡れになった盗賊たちは、こちらを振り返り剣をぬくが、俺の雷撃が地面に突き刺さり感電して気絶してしまった。直撃では殺してしまいそうだが、地面からの感電なら死なないだろうと、可能性にかけてみた。徐に俺たち5人は、気絶した盗賊たちに近寄り確認するが、8人全員生きていた。俺はガッツポーズをして、異空間収納からロープを取り出し8人全員を縛り上げてしまう。それから、縄尻を立役者のメルさんに渡し、ビンタをかませて気付かせる。どうして縛り上げられたのか理解できず暴れようとした頭目の男は、俺に髪の毛を全て焼かれ静かになった。煩いので猿轡を全員にかませる。そんなことをしている間に、ヤンガたちが8頭の馬を連れてきたので、全員で街道にもどり、荷馬車と荷車を待機させたところまで戻った。僅か1時間ほどの待機であったが、たとえ20キロ以内に魔物は居ないと言われていても心配だったのか、カムエルさんとフレアの顔から安堵した表情が読み取れた。カムエルさんと話して、俺たちは、犯罪奴隷の買い取り金も、8頭の馬も必要ないので、ここから王都への旅を急がせてもらうことにする。ヤンガが分け前を取ってくれとしつこく言うが、俺たちには時間のほうが重要だと説得して、荷馬車を出発させた。分け前は、メルに教えて貰った水属性攻撃魔法のウォーターボールとウォーターアローで充分であった。これらを自分で分析すれば、すぐにウォーターカッターのような撃魔法を開発できる。水流を極細にして水圧を上げるイメージは、攻撃魔法では無く、石材加工や、金属加工に日本で使われていたので、攻撃に使用するのは、ちょっと考えてしまうが、強力な刃物を得たと思うことにした。ヤンガたちと別れ、メッサの街は素通りして、野営予定地に着くまで、その日は何事も起きなかった。




