英雄アイクの末裔アイク
「・・・え?」
ウィンの突然の言葉に、アイクは耳を疑った。
「・・・何を・・・そんなわけないじゃないですか。僕が、英雄アイクの末裔だなんて。・・・確かに、名前は同じですけど、僕は、王族の家系じゃありません。ただの、村の子供です。」
「そうだ。お前は、王族ではない。普通に考えれば、お前はアイクの血統ではないはずだ。・・・だが、お前は、間違いなくアイクの末裔だ。」
「・・・どうして・・・そんなことが分かるんです・・・?」
「私達は、人間に流れる血から出る波長を感じ取ることで、その起源を知ることができます。神族にしかできない、特殊能力・・・とでも言えばいいでしょうか。その能力を使えば、あなたがあの人の末裔であることは、一目瞭然です。」
「・・・僕が・・・英雄アイクの末裔・・・。」
アイクは、半信半疑であった。当然である。今まで村に住む一介の子供だと思っていた自分が、大昔、世界を救った英雄の末裔だと言われても、信じられない上に、実感も湧かなかった。
「・・・でも、どうして僕の所に来たんですか?」
「私達は、ラーヴォスが復活した際、自動的に眠りから目覚め、あの人と共に、再度戦うことを約束していたのです。もし、あの人が死んでいたとしても、その子孫と共に戦う。そういう約束を取り決めていたのです。」
「・・・だから、僕の所に来た・・・?」
「そうだ。・・・だが、敵の行動が思ったより早かった。先手を打たれてしまったのだからな・・・。」
「・・・どうして・・・ラーヴォスの手下は、僕やゲイルを?」
「簡単なことだ。ラーヴォスは、アイクを恐れている。かつて、自身を封じたアイクの力を。」
「アイクの・・・力・・・。」
「そうだ。私達がアイクに授けた力は、単なる武具ではない。武具に宿りし力は、アイクの身体にも宿り、そして、その血族にも伝わるのだ。その力は、かつてラーヴォスを封じた力。奴は、再びその力によって、自身が封じられることを恐れている。」
「・・・僕に・・・その力が・・・?」
「そうだ。お前の中に眠るアイクの力が、ラーヴォスに対抗しうる唯一の手段なのだ。アイクの力、そして、私達、賢者の力、この二つがあれば、ラーヴォスを・・・。」
「・・・ウィン。一つ気になっているのですが・・・。彼には、その力が宿っているのですか?」
ウィンの話を遮るように、ディーネは言う。
「・・・何だ、急に?」
「彼は確かに、あの人の末裔です。・・・ですが、力の波動を感じません。それに、あまりにも身体も虚弱です。これでは、ただの人間と大差ありません。いえ、それ以下です。」
「た・・・ただの人間以下・・・。」
「はい。私達は、人間の身体能力や潜在する力を、大よそ見ることができます。あなたの身体能力は、同年代の人間と比べて、低いレベルです。しかも、あなたからは、力の波動を感じません。あの人、そして、あの人に授けた力の波動を。」
「・・・つまり、僕は、子孫であっても、力は宿っていないかもしれない・・・?」
「そうですね。あなたは、残りカスのようなものですね。」
「・・・残りカス・・・。」
ディーネの辛辣な言葉に、アイクはガクッと項垂れる。自身が弱いことは自覚していたが、ここまで酷く言われたことはなかったからだ。
「・・・ディーネ。そこまで言うことはないだろう。力がないことは、彼の責任ではないのだ。」
「・・・ですが・・・。」
『ディーネ。ウィンの言う通りだ。彼が悪いような言い方はいかん。』
「!?」
突然、ウィンとは違う男性の声が聞こえ、アイクは驚いた。
「・・・クェイ。」
『ディーネ。彼は、英雄アイクの子孫であって、英雄アイクではないのだ。彼と同じ様に接するのは、いかんぞ。それに彼は、ラーヴォスの手の者に親しい者を皆殺しにされ、心に傷を負ったのだ。そんな者に、存在を否定するかのような発言は言語道断だ。それが、創造神より世界の守護を任された賢者の発言か?』
「・・・すみません・・・。」
『謝るのは、我ではなく、アイクだ。』
「・・・アイク。すみません。色々とあなたに、酷いことを・・・。」
ディーネは、申し訳なさそうに、頭を下げる。
「そんな・・・僕の方こそ・・・役に立てそうになくててすみません・・・。」
アイクの方も、ディーネに頭を下げる。その姿を、ウィンは、優しそうな眼差しで見ていた。
『・・・優しい人間のようだな。』
「ああ。力はないかもしれないが、この少年からは、英雄アイクと同じ様な優しさを感じる。」
「・・・あの・・・さっきから気になっていたんですけど・・・この声・・・どこから・・・?」
「ああ、この声か。」
ウィンは、懐から発光している玉を取り出す。
「?これは・・・?」
「これは、通信球だ。これを介して、私達は、遠くにいても、会話ができる。」
「便利なものなんですね。」
『・・・ウィン。大至急、我の眠っていた地に来てほしい。・・・少々厄介なことになった。』
「厄介なこと?」
『詳しくは、着いてからだ。』
「・・・分かった。では、そこで落ち合おう。」
『待っているぞ。』
「・・・ディーネ。クェイの領域に行ってくれ。ここからなら、すぐに着くはずだ。」
「分かりました。・・・それにしても、目覚めている賢者が、少ないように感じるのですが・・・。」
「私達は、自身の担当していた領域で眠りに就いていた。目覚めにズレが起きても仕方あるまい。」
「・・・。」
「・・・フリジットが目覚めていないことが、気がかりか?」
「・・・姉様が目覚めているのなら、私に連絡をしてくるはずです。・・・心配です。」
「・・・今は、クェイの許へと急ぐことに専念しろ。事態は、一刻を争うのだ。」
「・・・分かっています。」
「・・・。」
乗り物内を、沈黙が支配する。アイクは、二人に尋ねたいことが色々あったものの、二人の空気を感じ取り、何も言えなかった。
しばらくして、アイク達の目の前に、巨大な陸地が見えてきた。それは、全容は見えなかったが、明らかに、村のあった島より巨大であった。
「あそこだ。上陸するぞ。」
「・・・あれが・・・グラン大陸・・・。」
アイク達の乗る乗り物は、陸地に向かって一直線に進んで行くのだった。