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僻地の英雄  作者: レイス
第一章 外の世界へ
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グラン創世と英雄アイク

 島を脱出した三人は、海上を移動していた。周囲には、陸地は一切見当たらず、アイクには、ここがどこかも分からなかった。

 「・・・ここまで来れば、とりあえずは大丈夫でしょう。」

 「そうだな。これで、彼に話すことができる。」

 「・・・。」

 「・・・アイク。これからお前に話すことは、とても大事なことだ。心して聞くように。」

 「・・・それは、僕が襲われて、ゲイルが殺されて、村が焼かれたことと、関係があることなんですか?」

 「・・・そうだ。だが、その話をする前に、まずは、この世界の成り立ちを話しておこう。そうでなければ、話を理解するのは難しいだろう。」

 「・・・分かりました。お願いします。」

 「・・・遥か昔、この世界には、一柱の神が存在する以外、何も存在しなかった。その神は、何もないこの世界に、海と陸を創り、そこに住まう生き物を創った。その陸とは、お前達がグランと呼ぶ大陸のことだ。」

 「創造神の話は、僕も神話や経典を読んで知っています。創造神は、世界を創造し、その後、人間達を創ったと。・・・でも、これはあくまで、伝説や創作のようなものではないんですか?」

 「いや、それは、事実だ。創造神も、世界創造も、創作ではない。」

 「・・・そうだったんだ。・・・てっきり、昔の人が作った作り話とばかり思ってた。だって、誰も信じていなかったから・・・。」

 「・・・その後、経典にはどのように書かれているのです?」

 「・・・創造神は、人間に大陸を治める役目を与え、グラン王国が建国されたと・・・。」

 「・・・ずいぶんと曲解されてしまっているようだな。創造神が、人間にグランを任せたとは・・・。」

 「曲解?・・・どういうことなんです?」

 「創造神は、人間にグランを支配する役目など与えていない。かつてのグランは、人間だけでなく、精霊、妖精、幻獣といった、多くの種族が共存する世界だったのだ。」

 「ええ!?精霊や妖精と・・・共存!?」

 「そんなに驚くことか?同じ、創造神によって創られた存在ではないか。」

 「・・・でも・・・精霊や妖精は、人間と仲が悪くて、住む場所を巡って戦争になったことも・・・。」

 「・・・そんなことがあったのか。・・・私達が眠りに就いている間に、世界は変わったとは思っていたが・・・。」

 「・・・嘆かわしいことです。あの人が生きていた時には、考えられなかったことです・・・。」

 「?」

 「・・・お前には、信じられないことだろうが、かつて、人間とそれ以外の種族は、争うことなく、共に助け合い、生きていたのだ。そこは、まさに楽園だった。そこに住まう者達は、その楽園を『グラン』と呼んだ。これが、グラン大陸の名の起源だ。」

 「楽園の名前・・・。全然知らなかった・・・。そんなものがあったなんて。」

 「そして、その楽園を守護するために、創造神は、眷属である神族を創造し、遣わした。・・・その神族が、私達、賢者だ。」

 「・・・え?・・・ウィンさんとディーネさんは、人間じゃないんですか?」

 「そうです。私達は、創造神により創られた、人間でも、精霊でもない存在です。・・・もっとも、外見上は、人間と変わりありませんが・・・。」

 「・・・。」

 二人が人間でなかったことに、アイクは驚きを隠せなかった。だが、同時にアイクは、彼らが人間でないと言う発言に、どこか納得していた。

 「だが、五千年前、その楽園に、突如として敵が現れた。・・・それが、魔王ラーヴォスだ。」

 「五千年前?そんな昔にいた魔王が、どうして今!?」

 「話は最後まで聞きなさい。まだ、途中です。」

 「・・・。」

 「グランに出現したラーヴォスは、自身の力と細胞を使い、動植物や人間を模して、魔物を創り出しました。そして、その魔物達を率い、楽園を侵略しようとしました。」

 「魔物を創った!?魔物は、ラーヴォスが創ったものだったんですか!?今までの話から、てっきり、魔物も創造神が創ったとばかり・・・。」

 「違う。魔物を創造したのは、ラーヴォスだ。お前達人間や、精霊、妖精、我ら神族などは、創造神が創り出した正統なる存在。だが、魔物はそうではない。奴らは、自然の摂理に反して誕生した、存在自体が呪われた存在だ。」

 「無論、私達賢者達は、全員で防衛に当たりました。ですが、私達の力を以ってしても、ラーヴォスを止めることはできませんでした。・・・魔物だけなら、私達でも倒せたのですが・・・!」

 「・・・。」

 アイクは、ディーネが一瞬、辛そうな、そして、悔しそうな表情を見せたところを見逃さなかった。

 「そうして、私達の守りを突破したラーヴォスは、破壊と殺戮の限りを尽くした。平和な楽園に住む者達は、戦うことを知らなかった。それ故、抵抗することもできず、多くの者が、魔物の餌食となり、楽園は、すっかり荒廃してしまった。・・・私達は、それを『失楽園の日』と呼んでいる。」

 「・・・。」

 「ですが、そんな楽園の者達を守らんと、一人の人間が立ち上がりました。・・・それが、英雄アイクです。」

 「・・・英雄・・・アイク・・・?」

 アイクは、アイクと言う名に、何か不思議な感覚を覚えた。それは、自分と同じ名前だからという単純な理由ではないように感じた。

 「アイクは、心優しい性格で、楽園に住む者達から慕われていました。彼は、魔物の大群に、一人で立ち向かいました。勝ち目など、あるはずがありません。ですが彼は、皆を守るため、戦おうとしたのです。」

 「私達は、彼のその勇気と優しさに心を打たれ、彼に戦う力を授けた。七色の光を放ち、悪しきものを切り裂く聖剣『虹彩剣』、邪悪な力をはね返し、纏った人間を守る鎧『虹の鎧』を。そして、彼と共に、魔物、そして、ラーヴォスと戦った。そして、長き戦いの末、遂にラーヴォスを打ち倒し、奴を地の底に封じた。」

 「封じた・・・?待ってください!どうして封印したんですか?そのまま倒してしまえば・・・!」

 「・・・ラーヴォスを倒すことは、できなかったのです。ラーヴォスは、不滅の存在でした。剣で切ろうとも、魔法で消し去ろうとしても、滅することはできませんでした。」

 「・・・つまりは、不死身だった?」

 「そうだ。だが、如何に不死身の肉体といえど、弱点はあった。傷を癒す瞬間、奴には隙ができるのだ。私達は、その隙を付き、奴の魂と肉体を引き離すことに成功した。そして、魂を楽園の中心に、肉体は分割し、楽園の各地の地下深くに封じたのだ。」

 「・・・それで、楽園は救われたんですね。」

 「そうだ。アイクが立ち向かおうとしなければ、楽園は、滅んでいただろう。」

 「その後、あの人は、楽園に住まう者達に支持され、楽園の王となりました。そうして建国されたのが、グラン王国です。」

 「・・・グラン王国建国に、そんな起源があったなんて・・・知らなかった。歴史書には、そんなこと書かれてなかったし・・・。」

 「まさか、建国の起源が遺失しているとは・・・悲しい話だ。アイクは、命を捨てる覚悟で楽園を守ったというのに・・・。」

 「それに、他種族とも不和になっているなんて・・・。あの人は、分け隔てなく接する人間だったのに・・・。」

 二人は、酷く落胆した様子だった。アイクは、二人のその姿に、心を痛めた。

 「・・・それでその後、あなた達は、どうしたんですか?」

 「私達は、ラーヴォスとの戦いで、力の消耗が激しかった。このままでは、如何に不老の存在である神族でも、死は免れない。私達は、力を回復させるために、眠りに就くことにしたのだ。」

 「ラーヴォスは、封じられただけで、万が一、復活する可能性もありました。ですから、私達は、それに備える必要があったのです。自身の延命だけではなく、ラーヴォスの復活に対処できるようにするために・・・。」

 しかし、そこまで言って、ディーネの表情は、暗く沈んだ。

 「・・・?ディーネさん?どうかしたんですか?」

 「・・・いいえ・・・何も・・・。」

 「?」

 「だが、そうなれば、我々がいない間、楽園を守護する者が不在となる。私達は、それが心残りだった。何しろ、ラーヴォスの生み出した魔物は、奴が倒されなかったため、消滅しなかった。魔物達が、楽園に害を与えることは、明白だった。」

 「ですが、そんな私達に対し、あの人は、楽園に住まう者達が、自分達の手で楽園を守っていくと告げたのです。」

 「私達は、アイクに、いや、楽園に住まう者達に、楽園の守護を任せ、眠りに就くことにしたのだ。・・・おそらく、この時の私達とアイクとの取り決めが、長い年月を経て、創造神にグランを任されたと曲解されたのだろう。」

 「私達は、悠久の時の中で、眠りに就いていました。願わくば、このまま目覚めることがないようにと、私達は思っていました。・・・ですが、五千年経った今、遂に恐れていた事態が起きてしまいました。」

 「・・・ラーヴォスが・・・復活したんですね。」

 「そうだ。・・・予測はしていたが、もっとも考えたくない事態が起こったのだ。現在、奴は、自身の完全なる復活のため、魔物達を従え、行動を起こしている。」

 「完全なる復活?」

 「奴は、まだ魂が復活しただけだ。肉体は復活していない。私達、神族には、それが分かる。だから、奴は、封じられた肉体を復活させるべく、動いている。今、大陸中は、魔物達が活発に動き回っている状態だ。魔物達は、バラバラにされたラーヴォスの肉体を探している。」

 「・・・じゃあ、僕の村を襲ったのも、ラーヴォスの身体を手に入れるため・・・!?」

 「いや、それはまた別だ。」

 「別?」

 「アイク。お前が襲われ、友も村も消された理由・・・それは、お前が英雄アイクの末裔だからだ。」

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