二人目の賢者
「・・・なんとか着いたな。」
森を抜け、ウィンとアイクは島の海岸沿いに到着した。周囲には、生き物の気配はなく、波の音が聞こえるだけで、静まり返っていた。
「あとは、ディーネが目覚めてくれていれば、この島から脱出できる。・・・目覚めてくれていればいいのだが・・・。」
「・・・。」
焦るウィンとは対照的に、アイクはすっかり意気消沈していた。当然である。突然の親友の死を受け入れられるわけがなかった。
「・・・安心してくれ。私が、命に代えても、お前を守る。・・・信じてくれ。」
「・・・ウィンさん・・・あいつら・・・何なんです?・・・どうして・・・ゲイルは・・・?」
「・・・奴らの狙いは、お前の友人ではなく、お前だ。アイク・グランツ。」
「・・・僕?・・・どうして僕が・・・?」
「・・・今は、すぐにもここから離れなければならない。落ち着いた所で話す。」
「・・・。」
「・・・それにしても、ディーネはまだか?・・・まさか、まだ目覚めていないのか・・・?」
「・・・!あれ?・・・あれは・・・?」
その時、アイクは、遠くの方から出る煙のようなものを見つけた。その方角は、村のある方角である。
「・・・何だろう・・・あの煙は・・・?」
「・・・奴らは、お前に関わるものを、皆殺しにするつもりだ。・・・この島自体、焼き払うつもりだ。」
「!皆殺し!?」
「おそらく、お前の村は、もう・・・。」
「!!!」
アイクは、村に向かって駆け出そうとする。しかし、すぐに、ウィンに腕を掴まれ、制止される。
「今更行ったところで、もう手遅れだ。それに、お前に何ができる?」
「・・・。」
アイクの脳裏に、無残に殺されたゲイルと、抵抗もできずにやられた光景が過る。
(・・・僕が行ったところで・・・何もできない・・・。・・・ゲイルさえ勝てなかった・・・。・・・僕も・・・抵抗すらできなかった・・・。・・・そんな僕じゃ・・・何もできない・・・。)
アイクは、がっくりとその場に座り込んだ。
「・・・アイク。お前は、ここで死んではならない。お前は生き残り、奴らを操る存在、『魔王ラーヴォス』を倒さなければならない。そのためにも、ここで死んではならないのだ。」
「・・・魔王・・・ラーヴォス・・・?」
「今は、詳しくは話せないが、お前を襲い、村を焼いた奴らは、魔王ラーヴォスの手の者だ。奴らは、魔物を操り、人間を超える力を持つ。並の人間では、百人掛かろうとも、相手にすらならない。」
「・・・そんなすごい奴らを・・・どうやって倒せば・・・!?」
「・・・それは・・・。」
ウィンが言葉を続けようとしたその時、二人の目の前に、巨大な生物が降り立った。それは、彼らを優に超える巨大な生物で、蜥蜴の様な顔をし、蝙蝠の様な翼を持っていた。
「!ドラゴン!まさか・・・竜か!」
「な・・・何だ・・・この怪物は・・・!?」
「アイク!こいつは、ドラゴンだ!魔物の中では、最強と言われる生物だ!」
「ま・・・魔物!?この島に、魔物はいないはず・・・!」
「お前を襲ったラーヴォスの手の者が召喚したのだろう。・・・だが・・・これは・・・!」
ウィンは、対峙するドラゴンを見て、顔を曇らせた。
(こいつは、炎を吐くレッドドラゴン・・・!力が戻っていれば、脅威ではない魔物だが・・・今の私では、相性が悪い!・・・どうする・・・!?)
すると、ドラゴンは、大きく息を吸い込み始める。
「!いかん!炎のブレスだ!アイク!逃げろ!」
「・・・え?」
次の瞬間、ドラゴンの口から、凄まじい炎が放出される。炎は、アイクとウィンを捉えていた。
「くっ!ウィンドウォール!」
ウィンは、アイクを側に引き寄せると、呪文のようなものを唱えた。すると、二人の周囲を風が包み、炎を防いだ。
「!?これは・・・!?」
「私の防御魔法だ。・・・私の得意とする魔術属性は、『風』!私は、風の賢者ウィンだ!」
ウィンの使った風の障壁によって、ドラゴンの炎は二人を焼くことはできなかった。ドラゴンは、炎が通じないことに驚き、炎の吐くのを止める。
「・・・ぐっ!」
しかし、炎が止まったと同時に、風の障壁も消え、ウィンはその場に膝を付く。
「!?ウィンさん!?」
「はあ・・・はあ・・・!・・・いかん・・・まだ・・・本調子でない私では・・・!」
ドラゴンは、ウィンが障壁を張れなくなったことを理解すると、再度ブレス攻撃の体勢を取る。
「!まずい・・・!」
ドラゴンの口から、再びブレスが放たれる。だが、ウィンは消耗し、動けなかった。
(・・・ここまでか・・・!)
ブレスが二人に直撃する寸前、突然、地面から巨大な水柱が出現し、ブレスをかき消した。
「!?これは・・・!?」
「まったく・・・力が戻っていないのに、無理をするからです。」
「!その声は・・・!」
ウィンは、声のした方を向く。そこには、ウィンと同じく白いローブを着た女性がいた。女性は、眼鏡をかけ、知的な雰囲気を醸し出していた。
「・・・ディーネ!・・・やはり、目覚めていたか・・・!」
「当然です。ラーヴォスが目覚めた時、私達は目覚め、ラーヴォスを再度封じる。それが、私達の存在する理由です。」
「・・・あの・・・ウィンさん・・・。・・・彼女は・・・?」
「彼女は、私と同じ賢者の一人、『水』の力を司る賢者、水の賢者ディーネだ。」
「・・・あの人も・・・賢者・・・?」
「・・・さて、早く片付けて、島を出ましょう。私も、まだ本調子ではありませんから。」
ディーネはそう言うと、ドラゴンと対峙する。ドラゴンは、突然の乱入者に困惑するも、すぐに戦闘態勢に入り、ブレスを吐こうとする。
「・・・芸がありませんね。」
ディーネは、つまらないさそうに呟くと、手をドラゴンに向ける。すると、一瞬にして、ドラゴンの身体が凍り付いてしまった。
「!?ど・・・ドラゴンが!?」
「・・・凍結魔法。相変わらずエグイな・・・五千年前と変わらない・・・。」
凍り付いたドラゴンは、氷にヒビが入ると、そこから身体と共に崩れてしまった。
「・・・アイスフロスト。この程度の魔物なら、下位の凍結魔法で十分です。」
「あ・・・あの・・・ドラゴンは!?一体何が!?どうして急に凍って!?」
「・・・理解力のない人ですね。それでもあの人の末裔ですか?」
「???」
「・・・ディーネ。今は、ここから逃げることが優先だ。・・・頼めるか?」
「・・・そうですね。事態は急を要することは分かっています。・・・ちょっと待ってください。」
ディーネは、海に向かって手を向ける。すると、海水の一部が宙を浮かぶと、それは、円状の乗り物に変わった。
「さあ、早くこれに。」
「ありがとう。・・・アイク、行くぞ。」
「・・・。」
アイクは、一度故郷の村を振り返ると、水の乗り物に乗った。
「では、行きます。」
乗り物は、三人を乗せると、島を離れていく。島は、ハーテの村があった場所から徐々に、炎に包まれていた。