最悪の襲撃者
「うわー!助けてくれ!」
「何なんだよ!こいつら!?俺達が、何したっていうんだ!?」
村人達は、突然の襲撃者の襲来に、逃げ惑っていた。
それは、数分前のことだった。ハーテの村に、二人組の男が現れたのだ。最初は、来訪者と思い、近付いた村人達だったが、男達は、近付いて来た村人数人を切り殺すと、どこからか魔物を呼び出し、村人達を襲わせたのだ。
「あいつら・・・何で魔物を!?人間じゃないのかよ!?」
「とにかく逃げろ!港に逃げれば、臨時用の船がある!それに・・・!」
その時、村人に何かが襲い掛かった。それは、村人と同じ丈の狼のような生き物で、襲い掛かった村人に、鋭い牙で噛みつき、貪り始めた。
「ぎゃあああああああ!?助けてくれええええ!!!」
襲われた村人は、一緒に逃げていた村人に助けを求めるが、その村人は、恐怖のあまり、その場から逃げ出そうとする。
「・・・三人目。」
しかし、その村人を、襲撃者の一人が剣で切り捨てる。村人は、頭のてっぺんから股まで、真っ二つにされていた。
「・・・張り合いのない。人間とは、ここまで弱かったか?」
そう言うと、襲撃者はフードとローブを脱いだ。男の姿は、黒い鎧を着、人間と似た姿をしていたが、頭には角のようなものが生え、肌の色も灰色と、とても人間とは思えない姿であった。
「俺達の村から出て行きやがれ!」
「こいつら!俺達を舐めるんじゃねー!」
「おらおら!俺の剣の錆にしてやるぜ!」
村の別の場所では、数人の村人達が、魔物達を相手に戦っていた。手には、剣や槍を持ち、魔物達を薙ぎ倒していた。彼らは、かつては騎士になろうと志し、村を出たものの、結局果たせず、村に戻って来た者達であった。だが、戦う術を知らない他の村人に比べれば、十分に強かった。
「結構倒したな。」
「これなら、追い払えるかもしれないぞ。」
「よし!次に行くぞ!」
「ほう・・・こんな僻地にも、戦う術を持つ人間がいたのか。」
「!」
そこに、襲撃者の片割れが現れた。手には、剣が握られていた。
「こいつ・・・!あの時の・・・!」
「お前のせいで、村が!この野郎!覚悟しやがれ!」
二人の男が、武器を手に襲撃者に飛び掛かる。しかし、次の瞬間、二人の身体は、両腕と両足、首が胴体から離れていた。
「!?」
「・・・だが、所詮はこの程度か。魔物は殺せても、俺は殺せない。」
「こいつ・・・いつ切ったんだ・・・!?」
男達は、目の前の襲撃者に戦慄した。当然である。いつ攻撃したのか、まったく分からなかったのだ。
そんな男達を尻目に、襲撃者は、男達に尋ねる。
「・・・お前に聞きたいことがある。お前達の村に、アイクの末裔が他にもいるか?」
「な・・・何の話だ?・・・アイクって・・・グランツの家のアイク坊やのことか?」
「家名など知らんが、坊やと言うなら、そいつだろう。奴に、他に家族はいるのか?」
「い・・・いない!アイクは、孤児だったんだ!俺達の仲間のグランツが、赤ん坊のアイクを拾って、自分の子供として育てたんだ!」
「・・その、グランツはどこだ?」
「も・・・もう、死んでいる!・・・数年前に・・・病気で・・・!」
「・・・そうか。なら、もうお前達に用はない。」
襲撃者は、残りの男達も、一刀の下に切り伏せていた。男達は、自分達が死んだことも理解しないまま、死んでいた。
「・・・そうか。ここに、アイクの末裔は、あの子供以外いなかったのか。・・・まあいい。どうせ、皆殺しにするのだからな。」
襲撃者はそう呟くと、着ているものを脱ぎ捨てた。その襲撃者も、片割れ同様、鎧を着、頭部に角を生やし、灰色の肌をしていたが、鎧の色は、白かった。
「おう、ザガン。そっちはどうだった?」
黒い鎧の男が、魔物達を引き連れて、白い鎧の男の許に来た。白い男の側にも、大勢の魔物が控えていた。
「片付いた。お前の方は、どうだった、マーガン?」
「抜かりはない。皆殺しだ。・・・それにしても、五千年も見ない間に、ずいぶん人間は弱くなったな。昔は、もう少し骨があったと思うんだが・・・。」
「・・・マーガン。一つ、悪い報せがある。」
「悪い報せ?・・・まさかお前、逃がしたのか?」
「逃がしてはいない。・・・だが、アイクの末裔に関して、問題が発生した。ここは、アイクの末裔の故郷ではない。あの子供は、孤児だ。」
「孤児?じゃあ、あいつの家族は、大陸にいるのか?」
「それは分からん。ひょっとしたら、既に死んでいるかもしれん。・・・今となっては知りようがないが・・・。」
「なんてことだ・・・俺達の手柄は、ガキ一人か・・・。」
「子供一人でも、戦果としては十分だ。アイクの血族は、一人たりとも生かしてはいかんのだからな。」
「だな。・・・さて、次はどうする、ザガン?」
「無論、逃げた者、外に出ていた者がいないか、島狩だ。同時に村も焼き払う。」
「分かった。じゃあ、ドラゴンでも出すか。」
「ああ。徹底的にやる。虫一匹たりとも、島から出さん!」
二人は、手を上げると、どこからともなく巨大な竜が姿を現した。
「すべて破壊しろ!何もかも焼き尽くせ!すべては、魔王様のために!」
「魔王様のために!」