賢者ウィン
ここは、ハーテの村から一番離れた森。その森の中で、ひと際大きな木の下に、アイクが寝ていた。側には、あの時アイクを助けた男性もいた。男性は、心配そうな面持ちで、アイクを見ていた。
「・・・。」
「・・・ん。」
「・・・起きたか。よかった・・・。」
目を覚ましたアイクの姿に、男性は安堵の表情を見せる。
「!?あれ!?僕は・・・確か、刺されて!?」
アイクは、困惑した様子で、自分の身体を触る。だが、どこにも異常は感じなかった。
「・・・あれ?何ともない・・・?」
「安心しろ。傷は、私の治癒魔法で治した。もう、大丈夫だ。・・・かなり、危なかったが・・・運がよかったな。」
「あ・・・ありがとうございます。助けていただいて。・・・あなたは・・・?」
「私は、ウィンと言う者だ。間に合わなくて、すまなかった。本当なら、こうなる前に、お前に会うつもりだったのに・・・。」
「間に合わなかった?・・・!ゲイル!そうだ!ゲイル!突然、ゲイルの首が・・・!・・・ゲイルは・・・ゲイルは、どうなったんですか!?」
アイクの問いに、ウィンと名乗る男性は、表情を曇らせる。
「・・・お前の友人は、手遅れだった。私でも、死者を生き返らせることはできない・・・。」
「!?死んだ・・・!?・・・ゲイルが・・・!?・・・嘘・・・ですよね・・・?」
「・・・。」
「・・・そんな・・・嘘だ・・・!ゲイルが・・・!」
アイクは、愕然として項垂れると、嗚咽を漏らした。
「・・・悲しんでいるところ悪いが、お前は、私と共に、この島を脱出せねばならない。私が本調子なら、お前と一緒に長距離転移が可能だが・・・今の私では、それも叶わない。船をある所まで案内してはくれないか?」
「・・・ゲイル・・・嘘だ・・・ゲイル・・・。」
アイクは、ウィンの話など全く耳に入っていない様子で、泣きじゃくっていた。
「・・・。」
『ウィン。彼は、目の前で友達を殺されて、精神的に傷付いている。無理はさせるな。』
突然、ウィンともアイクとも違う声が、どこからか聞こえてきた。ウィンは、懐から玉のようなものを取り出す。玉は、黄色く発光していた。
「・・・クェイか。・・・だが、彼を襲った魔族は、アイクの血筋を絶やそうと、大規模な島狩を行うはずだ。・・・そうなれば、彼を守り切れるかどうか・・・。」
『・・・そうか。お主もまだ本調子ではないか・・・。無理もないか。我らは五千年もの間、眠りに就いていたのだからな。』
「・・・クェイ。何か、いい策はないか?彼がこの様子では、ここから脱出することも・・・。」
その時、急に、森の木々が騒めき、鳥達が逃げるように飛んで行った。
「!これは・・・!」
『どうした?』
「・・・奴ら、ついに島狩を開始したようだ。」
『・・・ウィン。まずは、海沿いの場所に移動せよ。海沿いなら、ディーネの力が及ぶはず!』
「そうか!ディーネがいた!・・・だが、問題は、ディーネが目覚めているかだが・・・。」
『我らが目覚めているのだ。ディーネも目覚めているはずだ。』
「・・・分かった。これから彼を連れて、海沿いに出る。」
『幸運を祈る。』
すると、今まで発光していた玉は、無色透明な色に変わった。
「・・・アイク。私と共に、海沿いに出る。行くぞ。」
「・・・ゲイル・・・ゲイル・・・。」
「・・・アイク。悲しむ気持ちも分かるが、今は、生き残ることだけ考えろ。・・・その友人の分までな。」
「・・・。」
アイクは、力なく立ち上がる。
「・・・行くぞ。」
ウィンは、アイクの手を引き、その場を立ち去った。