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僻地の英雄  作者: レイス
プロローグ
3/9

死神の来た日

 「さあ、アイク!今日こそは、俺から一本取ってみせろ!」

 山に到着した二人は、準備運動もそこそこに、剣の練習を始めた。

 「・・・やあ!」

 アイクが、先に仕掛ける。アイクの剣が、ゲイルの頭に振り下ろされる。ゲイルは、剣でそれを弾くと、アイク目掛けて突きを繰り出す。

 「うわ!?」

 思わず、アイクは体勢を崩し、倒れ込んでしまう。

 「・・・おいおい。まだ始まって、十秒も経ってないぞ?」

 ゲイルが、呆れた様子で言う。

 「・・・大丈夫・・・まだこれからだよ・・・!」

 アイクは、よろよろと起き上がると、再び剣を構えた。

 「・・・そうでないとな!」

 今度はゲイルが、アイクの頭目掛けて剣を振り下ろす。

 「・・・はっ!」

 アイクは、剣を弾くと、今度は自身がゲイルに向かって突きを放つ。

 「!馬鹿!」

 ゲイルは、その突きを剣で止める。

 「ああ!止められた!」

 「当り前だ!俺と同じ手使ってどうする!」

 「くっ!」

 「そら!まだ終わってないだろ!」

 ゲイルはそのまま、アイクの剣を弾くと、攻撃を仕掛ける。アイクは剣で攻撃を受ける。だが、ゲイルの攻撃は、一回だけではなかった。何度もアイクに攻撃を浴びせ掛ける。アイクは、最初は弾き返していたが、次第に手元が覚束なくなり、とうとう剣を弾かれてしまう。弾かれたアイクの剣は、地面に突き刺さる。

 「!」

 「はっ!」

 ゲイルの剣が、アイクの喉元に突き付けられる。

 「・・・勝負ありだな。」

 「はーはー・・・!・・・駄目だったか・・・!」

 「・・・お前な・・・もう少し考えて戦えよ。相手の技をそのまま使っても、見切られるに決まってるだろ。」

 「・・・ごめん・・・。」

 「それに、集中力も、力の入れ具合もまだまだだ。五回ももたないんじゃ、話しにならないぞ。」

 「・・・。」

 「・・・でも、前より反応はよくなったな。動き自体には付いてきてるんだからな。確実に、上達している。」

 「・・・。」

 「一旦休憩だ。三十分ほどしたら、練習再開だ。」

 ゲイルはそう言うと、置いてあった鞄の中からパンを二個取り出し、そのうち一個をアイクに差し出す。

 「・・・ありがとう。」

 アイクは礼を言うと、パンを受け取った。

 「・・・なあ、アイク。俺と練習を始めて、もうどれくらい経つ?」

 「・・・一年くらいかな・・・。」

 「もうそんなに経つか。早いもんだな。」

 「・・・ゲイル。本当にごめん。こんな僕の我が儘に付き合ってくれて。」

 「おいおい、何言ってんだよ。」

 「・・・分かってるんだ。僕には、剣の才能がないこと・・・。そんな僕の練習に、毎回付き合ってくれて・・・ごめん。ゲイルにだって、やりたいことがあるはずなのに・・・。」

 「・・・別にいいっていつも言ってるだろ。それに、お前もだいぶ上達してきてる。この調子でいけば、騎士になるのも夢じゃなくなるかもしれないぞ。」

 「・・・そうかな・・・。」

 「そうだって。俺が信じろよ。」

 「・・・分かったよ、ゲイル。もう少し、信じてみる。」

 アイクは、今までの沈んだ表情から、ようやく笑顔を見せるのだった。


 「・・・見つけた。あいつだ。」

 休憩する二人を眺める、二人の男達がいた。男達は、ローブの様なものを着、顔もフードで隠し、その姿を窺うことはできなかったが、もし、他人がこの男達を見れば、誰もが人間でないと思うであろう。なんと、二人は、空に浮かんでいたのだ。

 「あれがか?・・・隣の奴の間違いじゃないのか?」

 「いいや、間違いない。あの、弱い方の子供だ。あれが、英雄アイクの末裔だ。」

 「・・・信じられんな。本当にあれが、魔王様をかつて封じた英雄の末裔なのか?まったく力を感じない。」

 「子孫が必ずしも強いとは限らない。だが、魔王様の世界支配を完全なものにするために、不確定要素は排除しなければならない。たとえ、力がなくとも、だ。」

 「・・・そうだな。よし、行くぞ!」

 「念のため、隣の子供も始末する。二人を始末したら、村を襲う。皆殺しだ。」

 「おう!行くぞ!ザガン!」

 「ああ、マーガン!」

 男達は、二人目掛けて落下してくる。二人は、男達が迫ってきていることに、まったく気付いていない。

 「騎士団に入るには、王都に行かないといけないんだ。・・・大陸の地図がほしいな。」

 「それなら、俺の親父が持ってるから、貸してもらおう。どうせ、もう使わないだろうし。」

 「勿体ないな・・・僕、大陸に興味があるのに。」

 「この村じゃ、大陸に興味がある人間の方が稀だぜ。」

 「・・・ゲイル。ゲイルは、大陸に・・・。」

 その時、アイクの目の前で、ゲイルの首が、突然、胴体から離れ、宙を舞った。

 「!?」

 事態が呑み込めないアイクだったが、突然、強烈な痛みが胸に走った。

 「・・・え?」

 胸に目をやったアイクは、自分の胸から剣の剣先が突き出ているのが見えた。次の瞬間、その剣は引き抜かれ、抜かれた部分から、夥しい血が噴き出した。

 「・・・何・・・が・・・?」

 アイクは、何も状況が理解できないまま、その場に崩れ落ちた。

 「・・・他愛もない。所詮は子供か。」

 「行くぞ。今度は村だ。」

 二人を襲撃した男達は、その場を立ち去って行った。残されたのは、首を切り落とされたゲイルと、夥しい血を流し、今まさに死なんとするアイクだけであった。

 男達が立ち去った直後、一人の男が現れた。男は、白いローブを着た男性で、年齢は、二十代から三十代くらいに見えた。

 「・・・間に合わなかったか・・・!・・・!いや、まだ生きている!よかった・・・!」

 男は、アイクを抱き寄せると、その場から消えていた。そこには、ゲイルの亡骸と、アイクの流した血の跡、そして、二人の荷物だけが残されていた。

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