死神の来た日
「さあ、アイク!今日こそは、俺から一本取ってみせろ!」
山に到着した二人は、準備運動もそこそこに、剣の練習を始めた。
「・・・やあ!」
アイクが、先に仕掛ける。アイクの剣が、ゲイルの頭に振り下ろされる。ゲイルは、剣でそれを弾くと、アイク目掛けて突きを繰り出す。
「うわ!?」
思わず、アイクは体勢を崩し、倒れ込んでしまう。
「・・・おいおい。まだ始まって、十秒も経ってないぞ?」
ゲイルが、呆れた様子で言う。
「・・・大丈夫・・・まだこれからだよ・・・!」
アイクは、よろよろと起き上がると、再び剣を構えた。
「・・・そうでないとな!」
今度はゲイルが、アイクの頭目掛けて剣を振り下ろす。
「・・・はっ!」
アイクは、剣を弾くと、今度は自身がゲイルに向かって突きを放つ。
「!馬鹿!」
ゲイルは、その突きを剣で止める。
「ああ!止められた!」
「当り前だ!俺と同じ手使ってどうする!」
「くっ!」
「そら!まだ終わってないだろ!」
ゲイルはそのまま、アイクの剣を弾くと、攻撃を仕掛ける。アイクは剣で攻撃を受ける。だが、ゲイルの攻撃は、一回だけではなかった。何度もアイクに攻撃を浴びせ掛ける。アイクは、最初は弾き返していたが、次第に手元が覚束なくなり、とうとう剣を弾かれてしまう。弾かれたアイクの剣は、地面に突き刺さる。
「!」
「はっ!」
ゲイルの剣が、アイクの喉元に突き付けられる。
「・・・勝負ありだな。」
「はーはー・・・!・・・駄目だったか・・・!」
「・・・お前な・・・もう少し考えて戦えよ。相手の技をそのまま使っても、見切られるに決まってるだろ。」
「・・・ごめん・・・。」
「それに、集中力も、力の入れ具合もまだまだだ。五回ももたないんじゃ、話しにならないぞ。」
「・・・。」
「・・・でも、前より反応はよくなったな。動き自体には付いてきてるんだからな。確実に、上達している。」
「・・・。」
「一旦休憩だ。三十分ほどしたら、練習再開だ。」
ゲイルはそう言うと、置いてあった鞄の中からパンを二個取り出し、そのうち一個をアイクに差し出す。
「・・・ありがとう。」
アイクは礼を言うと、パンを受け取った。
「・・・なあ、アイク。俺と練習を始めて、もうどれくらい経つ?」
「・・・一年くらいかな・・・。」
「もうそんなに経つか。早いもんだな。」
「・・・ゲイル。本当にごめん。こんな僕の我が儘に付き合ってくれて。」
「おいおい、何言ってんだよ。」
「・・・分かってるんだ。僕には、剣の才能がないこと・・・。そんな僕の練習に、毎回付き合ってくれて・・・ごめん。ゲイルにだって、やりたいことがあるはずなのに・・・。」
「・・・別にいいっていつも言ってるだろ。それに、お前もだいぶ上達してきてる。この調子でいけば、騎士になるのも夢じゃなくなるかもしれないぞ。」
「・・・そうかな・・・。」
「そうだって。俺が信じろよ。」
「・・・分かったよ、ゲイル。もう少し、信じてみる。」
アイクは、今までの沈んだ表情から、ようやく笑顔を見せるのだった。
「・・・見つけた。あいつだ。」
休憩する二人を眺める、二人の男達がいた。男達は、ローブの様なものを着、顔もフードで隠し、その姿を窺うことはできなかったが、もし、他人がこの男達を見れば、誰もが人間でないと思うであろう。なんと、二人は、空に浮かんでいたのだ。
「あれがか?・・・隣の奴の間違いじゃないのか?」
「いいや、間違いない。あの、弱い方の子供だ。あれが、英雄アイクの末裔だ。」
「・・・信じられんな。本当にあれが、魔王様をかつて封じた英雄の末裔なのか?まったく力を感じない。」
「子孫が必ずしも強いとは限らない。だが、魔王様の世界支配を完全なものにするために、不確定要素は排除しなければならない。たとえ、力がなくとも、だ。」
「・・・そうだな。よし、行くぞ!」
「念のため、隣の子供も始末する。二人を始末したら、村を襲う。皆殺しだ。」
「おう!行くぞ!ザガン!」
「ああ、マーガン!」
男達は、二人目掛けて落下してくる。二人は、男達が迫ってきていることに、まったく気付いていない。
「騎士団に入るには、王都に行かないといけないんだ。・・・大陸の地図がほしいな。」
「それなら、俺の親父が持ってるから、貸してもらおう。どうせ、もう使わないだろうし。」
「勿体ないな・・・僕、大陸に興味があるのに。」
「この村じゃ、大陸に興味がある人間の方が稀だぜ。」
「・・・ゲイル。ゲイルは、大陸に・・・。」
その時、アイクの目の前で、ゲイルの首が、突然、胴体から離れ、宙を舞った。
「!?」
事態が呑み込めないアイクだったが、突然、強烈な痛みが胸に走った。
「・・・え?」
胸に目をやったアイクは、自分の胸から剣の剣先が突き出ているのが見えた。次の瞬間、その剣は引き抜かれ、抜かれた部分から、夥しい血が噴き出した。
「・・・何・・・が・・・?」
アイクは、何も状況が理解できないまま、その場に崩れ落ちた。
「・・・他愛もない。所詮は子供か。」
「行くぞ。今度は村だ。」
二人を襲撃した男達は、その場を立ち去って行った。残されたのは、首を切り落とされたゲイルと、夥しい血を流し、今まさに死なんとするアイクだけであった。
男達が立ち去った直後、一人の男が現れた。男は、白いローブを着た男性で、年齢は、二十代から三十代くらいに見えた。
「・・・間に合わなかったか・・・!・・・!いや、まだ生きている!よかった・・・!」
男は、アイクを抱き寄せると、その場から消えていた。そこには、ゲイルの亡骸と、アイクの流した血の跡、そして、二人の荷物だけが残されていた。