6
Q、区切りがテキトー過ぎでは?
A、早さを重視しました。
赤い絨毯の敷かれた広い部屋。
翼の生えた女人の絵画が、シャンデリアの明かりに照らしだされている。
「…………ふぁ」
シルヴィアは天蓋に囲まれたベッドのなかで目を覚ました。
てっきり地下牢のような陰険な場所に閉じ込められるものかと思っていたが、どうやら予想が外れたらしい。ベッドの傍のテーブルには煌びやかな金属の花瓶まで置かれている。ただ唯一の拘束具はベッドの脚に鎖で繋げられた首輪くらいのものである。シルヴィアは頭をばりばりと掻いてから、もう一度目を閉じた。
「お目覚めですか?」
天蓋の外から声を掛けられた。
その姿を見ずとも、シルヴィアには彼の正体がわかった。タムルグの武器屋で襲い掛かってきた《シャドウ》だろう。たしか、武器屋の雄の話では、この街を治めている子爵だとか。となると、ここは子爵の館なのだろう。敵ながらうまく溶け込んだものだ。
シルヴィアは《シャドウ》のほうから漂う花の香に気付いた。
「……いい香り」
「ニオイスミレの花を集めて参りました。気に入っていただけましたか?」
「うん。けっこう好きかも」
そう答えてから、シルヴィアは寝たまま天蓋を押しのけた。
薄布によって隔てられていた向こうには、花束を抱えた一人の雄が立っていた。
ドラゴンとは違い、魔法の力で好きなように姿を変えられる《シャドウ》だから若くて容姿端麗であるのも当然だし、ちょっと知性的な青い眼をしているのは彼の趣味だろう。人間の雌が見たら頬を染めるのかも知れないが、シルヴィアにとってはただの顔に過ぎなかった。
《シャドウ》は軽く微笑みながら、腰を折って一礼した。
「初めまして。おはようございます。シルヴィア様」
「うん。おはよう」
手の甲で目を擦りつつ、シルヴィアはもぞもぞ上体を起こした。
あのドガを出し抜いたほどの雄であるから、もっと性格の悪い人物だと思っていたが、どうやらそうでもないようだ。むしろ、武骨なドガに比べれば、ずいぶん紳士的だ。もしもこれがドガなら、「起きたか」で終わりだろう。花束なんて考えられない。
まあ、シルヴィアにとっては花よりも温かい食事のほうが嬉しいのだが。
寝ぼけ眼のまま考え事をしていたら、何を勘違いしたのか、《シャドウ》が自身の胸に手を当てて、名乗りを上げた。
「自己紹介が遅れました。私はタムルグの街を治める子爵、エルリック・ザーバルダンと申します。どうか、よろしくお願い致します」
「……そう」
爽やかな笑顔を添えた自己紹介を、シルヴィアは冷めた目で受け止めた。
この《シャドウ》は人間流の自己紹介だけしかしなかった。昨日の武器屋――あそこでドガに止めを刺すよりも、少女の拉致を優先したことや、わざわざ「シルヴィア様」と呼んでくることからも、こちらの正体を判っているはずなのだが……
――ひょっとして、この雄は、《シャドウ》であることを誇りに思っていない?
もしそうだとしたら、目の前の雄は、シルヴィアの会ったことのない種類の影人である。
そんなことを考えていると、エルリックが涼しい顔を傾げて尋ねてきた。
「どうかなさいましたか?」
「……ううん。べつに」
シルヴィアが首を振ると、首輪から伸びる鎖がじゃらじゃらと音を立てた。
「やはり、力は戻りませんか」
「……わかる?」
「もちろんです。本来の力を取り戻したドラゴンを拘束できる道具などありません。ましてや、シルヴィア様は天帝様のご令姪であられる御方。万全の上体ならば、私ごときが捕えられるような人物ではありません」
子爵は申し訳なさそうに頬を掻いた。
ここでも彼は敢えて《シャドウ》と言わなかった。シルヴィアはそのことが引っ掛かったが、口には出さなかった。
「ところで――」
子爵は青い眼をぴたりと止めて、正面からじっとシルヴィアを見据えた。
「鬼人と共に旅しているのも、それが理由ですか?」
青い眼が鋭く光った。
そんなもの、普通の《シャドウ》が気にするところではない。シルヴィアの叔父《紅龍》が彼女の父親を殺して天帝の座を奪い、その権力を安定させるために、他の皇族を殲滅しようとしたことは《シャドウ》たちの間では周知の事実である。
万難を排して空中庭園を支配する。
新たな天帝となった《紅龍》の手から辛うじて逃れたシルヴィアが、彼に盾突こうとしているオーガに力を貸すことに何の不思議があろうか。事情を知っている者たちからすれば、しごく当然の成り行きだと感じられるはずだ。ましてや、彼女は手酷い負傷によりドラゴンの力の大半を失ってしまったのだ。
……だが。
改めて訊かれてみると、シルヴィアは上手く答えられなかった。
ドガには同情した。
叔父のことも許せない。
しかし、
「……どうしてかな」
シルヴィアは首を傾げた。
「わたしにもよく分からないの。ドガに助けを求められて、仕方なくついて行って、あの子に力を貸してあげているけど、どうしてそんなことしているのか……。わたしは別に、自分の復讐なんてどうでもいいの」
「まさか」
子爵は軽く鼻で笑った。
事情を知った者が聞いたら、十人中九人は彼と同じ反応を見せただろう。
しかし、これがシルヴィアの偽りなき本音なのだ。
「叔父様に復讐して、誰かが甦るとでも?」
「それは、そうですが……でしたら、何故――」
「さぁ? わたしも分からない」
シルヴィアは肩をすくめた。
すべての行動と感情が理屈で説明できるわけではない。そもそも、エルラックにしても、シルヴィアとドガの組み合わせに何らかの疑問を抱いたから質問したのではあるまいか。
エルラックは顎に手を当てて、何やら深く考え込んだ。
彼の横顔を眺めていたシルヴィアは、少し間を置いてから言った。
「わたしも聞いていい?」
「もちろん構いませんよ。何なりとお尋ねください」
子爵が目線を上げた。
「あなた、《シャドウ》が嫌いなの?」
「っ!」
青い眼に一瞬だけ怒りの色が浮かび、フッと顔を背けられた。
エルリックは壁を睨みながら、唇を震わせて、消え入るような小声で呟いた。
「竜の皇族である、あなたがそれを尋ねますか」
ドラゴンと《シャドウ》の関係は何万年も昔から続いていた。
竜たちの開祖となる偉大なるドラゴン《天帝》は混沌とした地上から山の一部を切り取り、天空にそれを浮かべた。それから洞窟を住みよいように整備し、さらに洞窟内に宮殿を作った。最後に仕上げとして、《天帝》は人間を連れてきた。
空中庭園をまめまめしく管理する奴隷が必要だったのだ。
しかし、人間は脆弱過ぎた。
うっかり踏んだだけで死んでしまう。そんな繊細な奴隷が役に立つものか。仲間からの不満の声を聞いて、《天帝》は人間に影の力を与えた。影の力を得た人間は《シャドウ》と呼ばれるようになった。彼らは人間にあるまじき強靭な肉体と能力を手に入れたが、代わりに自由を失った……
――それから数千年。
竜と影の関係は何も変わっていなかった。
空中庭園の山中から《天帝》の秘術によって湧き出てくる鉄だけでは部族全体の食料が賄えなくなった竜たちは、その下僕である影を下界に送り込み、彼らに鉄を集めさせた。竜は影を自らの元から離れさせるにあたり、彼らに新たな足枷を付けた……
子爵はシャツの袖をまくって自分の腕を見せた。
剥き出しになった腕は《シャドウ》特有の滑り気のある黒色だった。
「この黒さ。私はこの色が嫌いです」
「……」
「この色の下にある呪縛の術式を隠すために塗りつぶされた黒。どこに隠れようとも、ドラゴンの眼が呪を頼りに追跡してくる。あなたがもし完全に竜の力を保持していれば、呪を操ることで私を制御したことでしょう」
子爵は淡々と語りながら、顔色ひとつ変えずに、呪われた黒い腕を唐竹割に肘の根元までばっさり切り裂いた。しかし、《天帝》の魔法によって強化された肉体は見ているそばからひとりでに再生していく。
その光景を眺めながら、シルヴィアは目を細めた。
――この雄は並の《シャドウ》じゃない。
ドガを出し抜いた知力と、ドラゴンに近しい再生能力。そして、一都市の領主という地位身分。これだけ揃った超人に、いくら歴戦のオーガといえども、銀竜の助けを失った状態で太刀打ちできるものか……
普通の個体より抜きん出ているゆえの不満。
けっきょく、そういうことなのだ。
自分は本来ドラゴンと対等な関係が築けるはずだ。それに相応しいチカラを備えている。だがしかし、呪に縛り付けられて前に出られない。
エルラックはすっかり元通りに戻った腕を見つめながら言った。
「私は、ドラゴンに生まれたかった」
自分にはそれだけの器があった。
そんな傲慢さがシルヴィアには透けて見えた。
――だからこそ。
だからこそ、シルヴィアは花瓶に挿してあった花を投げつけた。
バサッと大げさな物音を立てて、花束はエルラックの顔面に命中した。投げる勢いについて行けなかった花弁が二人の間にひらひらと舞い落ちる。
「バカじゃないの?」
花束を顔で受け止めたエルラックは、目を見開いて少女を見つめた。
「はい?」
シルヴィアはベッドの上に立ち上がった。
子爵の前でずんと胸を反らし、両手をぎゅっと握りしめ、それでいながら、大きな双眸にはうっすら涙が浮かんでいた。《シャドウ》の生い立ちには同情する。ドラゴンの支配は理不尽だと思う。しかし、エルラックの考えはシルヴィアを馬鹿にしている。
彼女はドラゴンなのだ。
しかも、列記とした《天帝》の血を引く竜の皇族である。
「あなたに私の気持ちが分かる?」
「…………」
「あなたは自分の不幸ばっかり嘆いてて、他人のことはお構いなし。まさに悲劇のヒロイン気取りね。他人の気持ちを考えたことはある? わたしが何不自由なく天真爛漫に人生を謳歌しているように見える?」
涙ぐみながら、シルヴィアは自身の手の甲に噛みついた。
新しくできた傷口から赤い血が流れ出る。
《シャドウ》のように即座に傷口が塞がるようなことはない。これでも彼女はエルラックがなりたいと望むドラゴンなのだ。子爵は苦々しい表情を浮かべて、少女が手の甲から血を流す光景から目を逸らした。
「……しかし、あなたは自由の身です」
「すべてを捨てて、昔の仲間から追われながら旅するくらい、誰にだってできる」
エルラックは言葉を失った。
そして同時に、彼女がオーガとともに旅している理由を悟った。
「あなたも少しは抗ってみたら?」
整った顔が、くしゃりと歪んだ。
子爵は頬についた花弁に構うこともなく、くるりと踵を返して少女に背を向けた。
「あなたを捕えたことは、まだ誰にも報告しておりません」
「どうして?」
「一種の処世術ですよ。私なりの流儀と言い換えても構いませんが、とにかく、いつも私は問題を解決してから全部まとめて報告します。そうすれば、上からどうのこうのと無駄な指図を受けずに済みますから」
それだけ言うと、エルリックは寝室から出ていった。
ひとり部屋に残されたシルヴィアは、首輪の鎖を引っ張ってから小さく溜息を吐いた。
5、
染みの多い黒ずんだテーブルに座りながら、カービンはカードを切っていた。
「ローハイは子に選択権がございます。つまり、イカサマが利かないってわけでっさ。どうです? 賭け事にもってこいの良いゲームでしょう? 誰かカットするひとはおりますか? はいはい。念入りにやってくださいよ。勝った後でイカサマだ何だと難癖つけられたくありませんからね」
カービンの冗談に、何人かが失笑を漏らした。
賭け事に手を出す者は、最初から自分が勝つことを信じて物を言う。カービンも賭けに敗けるとは微塵も思っていないような口ぶりである。もちろん、賭けのテーブルに着いている連中も考えは同じだ。
――自分が勝つ。
そう信じ込んでいるから、カービンの勝ちを見越したような言葉に笑ったのだ。
テーブルに着く面々が切り終えてから、トランプの束はカービンの手元に帰ってきた。
「さて……」
カービンは男たちの顔をぐるりと見渡した。
皆が皆、期待と興奮に顔をほてらせていた。カービンは満足そうに頷くと、トランプの束をぽんと叩いた。
「それじゃあ、ゲームを始めましょうか」
賭け師の一人が両手を合わせて呟いた。
「神のご加護を」
「俺の上に」
祈る男の隣りに座っていた役者風の者が、小馬鹿にしたように付け足した。
陰険な空気を追っ払うべく、カービンはさっと一枚目のオープン札をめくった。テーブルを囲む面々はじっとカードに描かれた数字を見つめた。
「エース……か」
「賭けにならんな」
「当然、ローだ」
「同じく。ロー」
「ロー」
「こちらもローで」
次々に銀貨が投げられ、ローの宣言が重ねられる。
一枚目と二枚目のカードの高い低いを当てるゲームにおいて、一枚目に最強のエースがめくれたのだ。これでハイと宣言するやつはいないだろう。皆がこぞって「ロー」と宣言し終えたあとで、カービンはニヤリと笑った。
「アッシは――ドローに賭けます」
「なっ!」
何人かの男たちが驚嘆の声を上げた。
ドロー宣言。
これが成功するためには、まったく同じ数字のカードがめくれなければならない。山札の枚数のしぼられた終盤ならたまに宣言する者もいるが、ゲームの序盤も序盤。最初の一回目で張るような宣言ではない。
「バカか?」
「いい度胸だな」
「面白い……」
テーブルの面々の顔が一気に険しくなった。
子が倍率の高い方へ賭けるのなら、こうも殺伐とした空気は流れない。トランプに触れることのできない子はイカサマのやりようがないからである。しかし、これが山札をめくる親となると話が違う。きっと皆の頭に「イカサマか?」という疑問が浮かんだことだろう。
衆人の注目を浴びながら、カービンは銀貨を置いた。
一同がごくりと唾を呑む。
カービンの手が、ぴたりと山札の上で止まった。
「では。勝負と参りましょう!」
威勢のいい掛け声と同時に素早くシュッとカードがめくられる。
カードに描かれた数字は……
「ああ、くそっ!」
「神よ!」
「嘘だろ……」
「イカサマか!?」
二枚目のカードはまさしく「A」の札だった。
驚き、怒り、失望する男たちを前に、カービンはにこにこ微笑みながら、悠々とテーブルの銀貨をかき集めた。敗けた男たちはギラギラした眼でカービンの手や袖口をじっと凝視した。どこかにイカサマのタネがあるのでは……。しかし、男たちがいくら睨んだところで、何の発見も出てこなかった。
「ええい。次の親は俺だ! こうなりゃ、ここで巻き返してやる!」
「そうだそうだ。まだ次がある!」
男がトランプの束に手をかけたところで、鋭い声が上がった。
「ちょっと待った!」
声の主は、役者風の優男であった。
彼は先程からカービンではなくテーブルの面々を眺めたままずっと沈黙を守っていた。大人しい雰囲気を醸していたため、彼が大声を上げたとき、隣りに座っていた老人がびっくりして椅子の上で飛び跳ねた。
トランプを手にした男は、腕を伸ばしたまま尋ねた。
「どうしたんだ?」
「はっ! 共犯者のくせに白々しい」
優男はぺっと唾を吐き捨てた。
尋ねてきた男をひと睨みしてから、優男は目をカービンに向けた。優男に睨まれたカービンはギクッと肩を震わせた。その反応を見て、相手はますます確信を得たように話し始めた。
「アンタ。斡旋屋なんだろ? 知ってるぜ」
「い、いやぁ……まあ、そうですが」
「ならぴったりだ。イカサマペテンは花見と同じ。サクラの有無で出来がちがう、ってな。アンタみたいなご職業じゃあ、サクラを雇うのにも苦労はしねぇだろう。いやぁ、白々しいったらありゃしない」
「あはは……ええと、なんのことやら」
カービンはだらだら冷や汗を流しながら、ぼそぼそ喋った。
――イカサマを見破られた!
間違いない。
あの役者風情の優男に、こちらのトリックを見破られたのだ。賭博を持ちかけてイカサマが露呈した場合、運が良くても全額没収で袋叩きというところだろう。運が悪けりゃ、吊るされたうえに晒し者にされる。
カービンの雇ったサクラの男も青い顔でこちらを伺っている。
(そんな顔でこっちを見るんじゃない!)
これでは共犯者であると太鼓判を押しているようなものである。
周囲の殺気立った視線が痛ましい。
だらだら脂汗を流しながら、カービンは自分が破滅に直面したことを悟った。
もうお終いだっ!
――と、そのとき。
酒場のドアがカランコロンと鐘を鳴らしながら開けられた。
皆、神経を尖らせていたため、ついそちらに目を逸らした。その瞬間、サクラの男はさっと袖口に仕込んであった“何の変哲もない”トランプと、テーブルの上のイカサマトランプをすり替えた。まさに一瞬の早業であった。
これには店に入ってきた大男も「ほぅ」と息を漏らした。
「大したものだ」
そう言われて、賭け師たちは慌てて顔をテーブルに戻すも、そこにはもうただのトランプしか残されていない。サクラの男は澄まし顔で口笛なんぞ吹いている有り様である。もはや形勢は逆転した。イカサマをした相手にまんまと逃げられたことを悟った役者風の優男はさも悔しそうにテーブルを叩いた。
「くそっ! そこの御方! どうしてくれる!」
優男は店に入ってきた大男に突っかかった。
どうしてくれるも目を離したものに非があるのは当たり前だが、無念のあまり黙っていられない。優男の噛みつかんばかりの抗議に、闖入者は煩わしそうに眉を上げた。
「失せろ。お前に用はない」
「な、何を言っているんだ! こっちは――」
「黙れ」
店の明かりに、大男の顔が照らし出される。
巖のように角ばった顔と、額から生えた二本角。筋骨隆々の巨躯と相まって、この世のものとは思えない物々しい迫力を醸し出している。オーガの威圧に当てられて、役者風の優男も思わず言葉を呑み込んだ。
ドガはゆったりとした動きでテーブルの前までやってきた。
「カービンとか言ったな」
「へ、へいっ!」
名前を呼ばれたカービンは慌てて首を引っ込めた。
今、目の前にいる鬼人は以前にも増して殺気立っている。どこがどう変わったのか。口で説明するのは難しいが、肌で感じる空気が違う。カービンは忙しなく目を動かしてから、ハッと目を見開いた。
「あ、あの、御嬢さんは……」
「そのことで話がある。ちょっと来い」
ドガは無造作にカービン襟首を掴んで立ち上がらせた。
ライオンの親が子供を咥えるように大人の男をぶら下げながら、ドガはそのまま店の出口へ向かった。
「………………」
からん、からん。
ドアの鈴が静かな店内に響いた。
賭けのテーブルについていた者たちは、何とも言えない気まずそうな顔で、カービンが放置していった銀貨をかき集めた。