初心者としての戦い方
『静かな森』・・・
そうは言うものの、森の中はそれほど静かでもなかった。
森の中にはモンスター討伐や植物の採取をする冒険者たちの姿があった。
中でも一際大きな物音を立てながら『クルル』というイノシシに似たモンスターと対峙するのは、大剣を振り回す一人の少年である。
彼は周囲を気にせず目の前のモンスターをただひたすら攻撃していた。
見た目、技量、行動力といい、まだまだ粗削りなところが多々あった。
その少年の近くには背後から迫るモンスターが一体いた。
モンスターは少年を視界にとらえ、攻撃しようと襲い掛かろうとしていた。
僕は危ないと思い咄嗟に魔銃を抜いたが、その必要はなかった。
そのモンスターはもう一人の別にいた人物が銀色の剣を抜き迅速に切り倒したのだ。
その人物は少年のパートナーだった。
彼は男性で、大剣を振り回す少年をいつでも援護できるように後ろで見守っていたのだ。
距離を保ちつつ最小限の攻撃で技を繰り出すその姿はベテランの力量を感じさせる。
僕は任務を終え、暇している最中だった。
クルカさんは別の事情があり、今は一人で行動している。
彼らの様子を端から見ていたのは森の中を徘徊していたついでだった。
すると突進してきたクルルに少年の大剣が弾き飛ばされた。
油断していたのか、それとも調子に乗りすぎていたのか。
いずれにせよ、彼は思わぬ形で危機に瀕することになる。
それは僕も同じことだった。
端から周囲の様子を見ていたとはいえ、まさか大剣がこちらに勢いよく飛んでくるとは思わなかった。
だが一部始終を見ていた僕はすかさず『琥珀』を抜くとスピンのかかる大剣の剣先を目掛けて一発魔弾を浴びせた。
大剣は響きの良い金属音を立て、そのまま地面に落ちていった。
「お前ってやつはなんでいつも後先考えずに行動するんだよ。何度も言ってるだろ周りを見て行動しろって、まったく・・・」
「分かってるって。今回のはたまたまだって、たまたま」
少年はそういいつつも言動共に帆船の色は見えない。
男は反省の色を一つも見せない少年にたいして、深いため息をついて落胆するほかなかった。
おそらくこれが一度や二度で済まされている雰囲気ではないのだろう。
僕は男の苦労に同情しつつ大剣を拾った。
もちろん持ち主のもとへと大剣を返すために。
「おお俺の大剣や」
少年は明るい笑顔で勢いよくその大剣を取った。
僕はすかさず手から大剣を放した。
素早く手を放していなかったら腕の一本は確実に持っていかれていただろう。
それくらいの速さと勢いがその少年の掴みにはあった。
少し驚いたが、反応できない速さではなかった。
そのため特に何も言おうとは思わなかった。
「おい、レン。今の取り方はよくないぞ、危ないだろうが。しかもその前にお礼言え、ばか野郎」
そう言いつつ男は少年に一つ拳骨を浴びせた。
「ごめんな。わざわざ届けてくれた恩人に対して粗末にあしらうなんて。こいつは悪気があってしたんやないんや。ここは彼の不器用な性格に甘んじて、どうか許してほしい」
男はそう言いながら、深々と頭を下げる。
僕もそれはわかっていた。
彼を遠くで見た時から彼が一辺倒な性格だと思っていた。
だからこそ両手を振りながら、全力でその謝辞を拒んだ。
「いや大丈夫ですから。こちらこそなんだかすみません」
「いや度重なる無礼をどうか詫びていいものか」
「いや、そんなもの要りませんから僕が好きでやったわけですし」
レン・スターラント、ロンド・ルミナス。
これが彼らの名前だった。
二人はクルルの討伐という任務をしていたらしい。
「いや、それにしても君もレンと同じく新人さんだったとはね」
ロンドは驚きながら僕を見た。
どうやら飛んできた大剣を軽く対処したところを見ていたらしい。
彼に銃の腕を誉められた。
「君ほどの腕ならば、討伐隊に入れば引く手あまただっただろうに。そっちの道に進むとはね」
「僕は別にこれでも満足してるんですよ」
「ふーん・・・そっか」
ロンドはそういうと、落ち着きのないレンの背中をたたく。
レンはむっとした顔をするが、ロンドはそれでも笑いながら彼の頭をいじり始めた。
「この馬鹿はどうしようもない奴だが、根は真面目でかわいいやつなんだ。いつかクエストで一緒になる機会があったらその時は共に頑張ろう。ともあれ、命はお互い大事にな」
ロンドはそう言い残すと、レンを連れて次の狩場へと向かっていった。
命は大事にか・・・
それは前にもディランディさんが去り際に残した言葉でもあった。
それにしてもこのギルドには愉快な人たちが多いものだ。
僕が後ろを振り返ると、そこには一体のクルルの死骸があった。
近くには血を引きづった跡がある。
どうやら僅かに残った命で決死の特攻をしようとしていたのだろう。
しかしそれも叶わったようだ。
だがその死骸には不自然な箇所があった。
それはクルルの体にあった傷がレンの大剣の傷とは別に、細い斬撃によって首元を斬られた跡がある。
一体誰がこのクルルにこの傷を負わせたというのだろうか。
傷から鮮血がまだ溢れ出していることから新しい傷だと分かる。
僕はその答えを木の陰に見た。
そこには腰の細剣を携え、金色の髪が風にふわりと揺れる一人の女性の姿。
ーーーまだまだだなぁ・・・
僕もまた見守られていたのである。