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x崩落世界の魔銃戦記x  作者: シン風
第一章 levelⅦ 編
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天賦の才能と代償

 

 短く息を吐き、たかぶる気持ちを徐々に落ち着かせていく。

 これから僕は魔法を使う。

 今まで聞いたことで知らなかった「魔法」という言葉。

 架空の世界で頻繁に扱われてきた言葉だが、現在では現実のものとして認知される現象の一つとなっている。

 その用途は多岐に渡り、魔法はこの世界で生き抜くためには欠かせない能力の一つだ。


 僕が右手に持っているのは赤い宝玉がはめ込まれた杖。

 杖の長さは25cmといったところか。

 体全体で感じる魔素が体内を廻る。

 まるで体が何かに覆われていくかのようだ。

 これが魔力を感じるということなのだろうか。

 刻印が魔素を体内に取り入れ、血液が体全体に魔素を廻らせる。

 空気を吸っているようなそんな感覚もあった。


「いい状態ですね」


 クルカさんは僕にそのままの状態を維持するよう助言する。

 だいぶ魔素を体の中に入れたと思うが、そのせいか少し辛くなってきた。

 今の状況を現すとすれば、空気を吸って吐くのを止めているような状況だ。

 違うとすれば止めることで感じるのは苦しみではなく、疲労感といったところか。


「これが魔法・・・」

「そろそろ蓄えた魔力をイメージにして放出してみて下さい」


 イメージにして放出する。

 その言葉通り、僕は冷たい氷をイメージする。

 脳内に冷たい感覚と共に模様が広がっていく感覚を覚える。

 その広がりは急激に速度を増し、それと共に視野が広がっていくのを感じる。


 ふとクルカさんの顔を見ると、何やら驚いた様子をしている。

 何かまずいことでもあったのだろうか。


「どう、しましたか。何か不都合なことでも」

「いえ、すみません。このままの状態を維持しててください。魔法を発動させる前に冷気が体の周りを漂っていましたので、驚いていただけです。魔法発動には問題ないと思われますので、ご心配なく」


 周囲を見渡すと確かに白い冷気の流れが漂っている。

 足場には白い霜が確認できた。


「もしかすると魔力が大きいのかもしれません。膨大な魔力は周囲の環境に変化を及ぼすと聞いています。でもここまで干渉力が高い魔力を見たのは初めてです」


 クルカさんは悩みながらも、僕の周囲に起こった冷気現象をそう結論付けた。

 自分がいま体で感じている魔力はもしかすると多すぎるのかもしれない。

 しかしそれに気づいた時、既に自体は最悪な方向へと傾いていた。


「あれ・・・」


 自分が異変に気づいた時にはイメージが何段階にも変化した後だった。

 いまその何段階も変化したイメージを放出すれば、何が起こるかわからない。

 膨れ上がったイメージはあまりにも膨大で、自分の制御下の範疇を有に超えていた。

 クルカさんもすぐに事態を察したのか。

 急いで止めにかかろうと腰から細剣を抜こうとしていた。

 しかし時すでに遅く、次の瞬間ーーー

 巨大な地響きと共に、辺りは巨大な氷の塊に覆われてしまった。

 それは魔法が限界を超えて暴走した結果だった。

 そして魔力暴走の余波は当時者である僕の体にも表れ、極度の疲労感と脱力感に意識を取られかけていた。


≪エリュエくん、エリュ・・・エ・・・≫


 意識が途切れていくなか、クルカさんの必死の声だけが頭の中を鳴り響いていた。




 *




 真っ暗な闇の世界。

 どこを向いても闇が無限に続く。

 そんな中、何やら女性の声が二つ聞こえてきる。

 一人は明瞭な声をしており、どことなく説得力を感じる。

 もう一方はクルカさんの声だった。


「ティナ、この子がパートナーに・・・」

「はい、そうです」

「気を付けないといけないよ、一つに気のゆるみが命の危機につながるんだ」

「その時は私が責任を取ります」


 目を開け上体を起こすと、そこはベッドの上だった。

 近くには夕暮れになりつつある外の景色が映し出された窓が見える。

 しかし窓以外は白いカーテンの様なものに周りを遮られており、部屋の全体像は見ることが出来ない。


「おや起きたかい、少年」


 パーッと白いカーテンが開くと、そこから二人の女性の姿が入ってきた。

 一人は呆れた顔を取り繕う赤い髪のお姉さん、もう一人はその後ろで不安そうな視線を送りながら見守る金髪の美少女ーークルカさんの姿があった。

 どうやら僕は医務室に連れてこられたらしい。

 赤髪のお姉さんが来ている白衣と僕が寝ていたベットがその証拠だった。


「少年、初めましてだね。私はここで治療をしている、アネット・アレリアだ」

「あ、はい。僕はエリュエ・カリュアスです」

「うん。カリュアス君、どうやら君は見たところ脳に異常はきたしていないようだね、何よりだ」


 アネットさんはそういうと、手元にあった書類に何やら文字を書き始めた。

 白衣に身を包む彼女だが、その白衣は背丈にあってはいなかった。

 大きすぎるサイズの服で、手が袖から出ていない。

 誰かの借りものなのか。それとも何か丘の理由があるのか。


「突然だが、魔法を使った時の記憶はあるかい。君は経験不足による魔力暴走を起こしたわけだが」

「はい、少しなら覚えてます」

「ならよかった。でも不運だったね。まさか最初の魔法でここ送りになるなんて」


 アネットさんはそういうとクスクスと笑い出した。

 どうやら彼女にとってこの不測の事態はおかしかったらしい。

 僕は少し恥ずかしさを覚えつつも自らの過ちを反省する。

 なぜこうした事態を招いてしまったのか・・・

 すべては膨大な魔力を制御しきれなかった自分に原因があるのは間違いない。

 一歩間違えれば、命を落としていたかもしれない。

 それだけに事態は重くのしかかるものだった。

 魔法が使える高揚感に心を任せ、軽い気持ちで魔法を扱っていた。

 その結果どうなったかはいうまでもない。


「すみません」


 僕が唐突に言った言葉にアネットさんは眉をピクリと動かし、驚いた様子をみせた。

 しかし事を察してか、すぐに真剣な目つきに変わる。


「自分が分かってるならそれでいいよ。魔法を使うのが初めてだったとはいえ、冷静さを欠いてはいけない。今後魔法を扱う際は目的に応じた使い方をするように心がけることを忘れないこと。大きな力があっても、使い道を誤れば暴走も暴発も暴力と何ら変わりはしないからね」

「はい、以後気を付けます」


 アネットさんはクルカさんと少し小さな声で会話を交わすと席を外し、別の患者のもとへと姿を消した。

 クルカさんは彼女の背中に一礼すると、中に入りベットの横にある椅子に腰かけた。


「大丈夫でしたか」


 かなり心配していたようで、彼女の顔には疲れが見える。


「すみません、ご迷惑をおかけしました」


 するとクルカさんは大きく手を振りながら全力で否定したてみせた。


「すみません、私の指導不足です。もう少し慎重に模倣を扱っていたならば、こんなことにはなっていなかったはずですから」

「クルカさんは全然悪くないですよ。むしろ制御しきれないところまで魔法を大きくさせてしまった僕のせいです」


 クルカさんはかなり責任を感じているようで、僕がどう取り繕うともすべて効果はなかった。

 そのあと会話は進まず、ただ静かな時間が病室を流れた。

 クルカさんは明日の用事だけ伝えると、気落ちした様子で医務室を後にした。


「魔法を使うのはしばらく控えておこう」


 僕は感覚が戻ってきている手のひらを見ながら、この日を境に魔法使用を制限することを心に誓うのであった。

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