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x崩落世界の魔銃戦記x  作者: シン風
第一章 levelⅦ 編
3/23

ノートレア

 世界が崩落し、幾何かの月日が経過した。

 居場所をなくした子供たちは各地で様々な価値観のもとに争い合った。

 居場所とは何か・・・

 人とは何か・・・

 あらゆる考えの中、争いの灯火は広がっていった。

 しかし問いには必ず答えがあるもの。

 答えとはつまるところ、問いに対する共通認識なのである。


 ***



 僕は『ノートレア』の住人となった。

 『ノートレア』は比較的穏健な人たちで構成されたギルドだ。

 穏健派が大多数を占め、戦闘行為については多くの決まりが存在する。

 決まりを破ればもちろんギルドから追放される。

 はじめのうちはギルド生活になじめずにいたが、今では普通の生活が出来ている。

 ギルドの仲間は皆優しく、悩みがあれば親身になって接してくれる。

 そんな家族同然のギルドの仲間たちが僕は好きだった。


 ギルドに正式に入ることが許されるのは第一次適齢期を超えてからだ。

 第一次適齢期とは体の一部に何らかの刻印が現れている者のことを指す。

 刻印がそれまでなかった僕は、仮所属という形だった。

 だがつい先日、刻印が確認し終え正式にギルドの一員として認められた。

 僕の場合、刻印は瞳の中にあらわれた。

 右目が妙にひどく疼き、近くの医療所に駆けつけたところ、第一次適齢期を迎えたことをそこで知った。


 【エリュエ・カリュアス】として新たにギルドで正式に働くわけだが、『カリュアス』というのはギルドから与えられた新たな名前である。

『エリュエ』はもともと生前に親から授けらて馴染んでいた名前だが、『カリュアス』は違う。

 それはここで働くにあたって呼ばれる名前で、仕事をする際にこの新たな名前を主に使われることになる。

 一般的に生前の名前で呼ばれることはギルド内では少ない。

 使われるとすれば親密な間柄になっている者同士だ。

 具体的に言えば恋愛者や兄弟、幼馴染。

 ちなみに僕に関していえばはシノやフィユルがそれに該当する。


 今日からノートレアに正式に所属していくわけだが、仕事をするにあたり知っておくべき必要事項がある。

 それはギルドの仕事には大まかに3つ区分されており、『調査』・『戦闘』・『生活』だ。


 僕はその中でも『調査』に当たる『冒険家』に任命されることとなった。

『調査』は周辺地域の探索が主な仕事で、出現モンスターや植生、環境などを調べ、生活の質の向上を図ることを目的としている。

 つまり『調査』とはギルドの外と内、両方の側面を持つ役職でギルドの発展によりなくてはならない重要な役割の一つというわけだ。


 僕は前々から『調査』をしたいと思っていた。

 戦闘はあまり好きではなく、とはいえ物作りはどうかと言えばそれも気が引けていた。

 昔から様々な世界を自分の足で訪れたいと思っており、いまだ見ぬ世界に足を踏み入れてみたらと想像すると胸の高鳴りが抑えきれない。

 そのためまさに未開の地へ赴くことのできるこの仕事は僕にとって、うってつけの職業だった。

 これから冒険するであろう場所はまだ誰も到達したことのない未踏の地が広がる世界。

 僕の冒険はそれだけでも無限大の可能性と期待を秘めていた。



 ******



 Ⅰ クルカとの出会い



「エリュエ、なにボサッとしてるの。はやく、ついてきて」


 フィユルは不機嫌そうにしながら僕を叱咤する。

 優美でしたたかな彼女といえど、怒るときは鬼の面を被るように怖い。

 僕たちはギルド本部である建物の目の前に来ていた。

 ギルド本部はぱっとみたところ建設途中であり、作り置きされた箇所が多々ある。

 ここは以前街の市役所として機能していた建物だが、いまはギルド本部として作り替えられている。

 昔は綺麗な建物だったのだろうが、今は壁面は至るところに植物が生えており、多くの蔦や苔が蔓延っていた。

 ノートレアの結成メンバーはここを最初の拠点として住んだ。

 建築技術がままならなかった当時、奇跡的にもそれほど劣化せずに残っていたこの市役所を拠点としたのである。


「・・・はっ、ははい」


 フィユルはシャキッとしない返事に物言いたそうな表情を浮かべるが、そんな時間も惜しいのか。

 彼女は足を止めなかった。


「エリュエ、私はあまり人を長く待たせるのは性分じゃないの」

「ごめん、気をつけるよ」

「ちゃんとしてね。それとちゃんとついてこないと逸れちゃうわよ」


 僕たちは今、調査に当たる上でパートナーになる人物のもとへと向かっていた。

 彼女が言うにはその人物というのは、ギルドの中でも腕の立つ冒険家だそうだ。

 もちろんフィユル自身も相当な実力者で、『紅の魔術師』という二つ名がある。

 なにせ健気に見える彼女であっても、このギルドの3本の指には入るほどの実力者なのだ。

 そんな彼女でさえも一目を置いているというのだから、その人物は相当の実力者とみて間違いないだろう。


「そういえばエリュエ、君は分かっているの。私達が向かおうとしている場所が一体どういう場所なのか」


 ギルド内を移動するなか、フィユルは唐突に質問を投げかける。


「えっ、と・・・」


 僕は突然の質問になかなか答えを出せない。

 その質問が咄嗟だったということもあるが、それ以前にギルド内に足を踏み入れたこと自体、これが初めてのことだった。

 僕はギルド内の地理を知らない。

 だから常に建物内の光景に目を奪われていた。


「まったく、エリュエときたら」


 深いため息を一つ、フィユルはつく。

 その長い溜息は、僕にどれだけ落胆しているのかが言葉にせずとも伝わってきた。


「あははは・・・」


 頭を掻きながら場を濁す。

 しかしそれはかえって裏目に出てしまい、彼女のあきれ顔はさらに度を増すばかりだった。


「エリュエ。君は今『冒険家』としてギルドの一員になったのよ。だったら行く場所は一つしかないでしょ。ギルドの中でも一番開けた場所、クエスト広間という場所に」


 彼女が言い放つと同時に、その場所であるクエスト広間が目の前に広がった。


「ここがギルド本部の中心・・・クエスト広間・・・」


 そこは大勢の人で賑わう圧巻の広間だった。

 上空の天井はドーム状に巨大なステンドガラスで敷き詰められており、そこから差す陽光が広間いっぱいに広がっていた。


「。ここが今日から君がたびたび通うようになる場所よ」


 クエスト広間には多くの人たちが集まり、中には武器を片手に持ちながら談笑している人たちもいる。

 今が昼時ということもあり、多くの人たちが今日行う仕事を決めるためにこの場に集まり、あたりはこれでもかと言わんばかりに騒然としていた。


「フィユル。この子がそうなの」


 突然背後から、透き通った女性の声が聞こえてくる。


「ええ、エリュエ・カリュアス。クルカに紹介したいと思っていた付き人よ」


 振り返ると、顔の横で手を振りながらフィユルに挨拶する金色の髪をした少女。

 その容姿は端麗で、服装や立ち居振る舞いどれをとっても品位がある美少女だった。

 僕はそんな彼女と目があうと、反射的に軽く会釈を返す。

 その動きはまさに典型的な人見知りの動きそのものだった。

 その動きがあまりにも型にはまりすぎていたのか、その姿を見た彼女は笑みを浮かべながら会釈を返してきた


「これは遅れてしまいました。私はティナ・クルカ。クルカと呼んでください」

「ティナ・・・クル、カ・・・」

「どうかしましたか?私の名前に何かおありで?」

「いえ、これからよろしくお願いします。クルカさん」

「そう・・・何もないならとりあえずよろしくね、カリュアスくん」


 クルカさんはそう言うと白い手を前に出し握手を求める。

 僕は違和感を覚えながらも軽く頭を下げながらその手に触れた。

 彼女の手は少し暖かく女性ならではの柔らかさがあった。

 女性の場合、仕事名は前に来る。それゆえ彼女の本名はクルカだった。

 少し僕が違和感を覚えたのはそういったことを考えていたからだ。

 なぜクルカさんは仕事名であるティナと言わずにクルカの方を選んだのだろうか。

 しかしそう紹介されたからには、その名で呼ばずにはいられない。

 返って言い直すと気を使わせてしまうかもしれない。

 ただ、それなら自分も「エリュエ」と彼女に呼んでもらうことにした。

 一方が仕事名でこちらが本名であると、周りから見ても違和感があるものだ。

 クルカさんは微笑みながらも、素直に僕の名前を呼んでくれるようになった。


「じゃあ紹介も終わったところで、エリュエ。身なりを整えないとね。その服装じゃ、ここを出るには些か心もとないし…」


 フィユルは僕を上から下へと視線を向かわせながらそう言った。

 彼女の言うように今の服装は冒険するにはあまりにも心もとない。

 駆け出しの冒険家といえど、使い古され袖の部分がボロボロになったシャツにズボンでは冒険家としての名が泣くというもの。

 動きやすい服装とは言え、ある程度着替える必要がある。


「君は今日冒険家になるからお金が支給されてるわ、それでまずは買い揃えましょ」

「そうですね。エリュエくんはまず冒険家らしい身なりを整えるのが先決です」


 フィユルとクルカさんに案内されながら僕はまず支給されたお金を手に入れるべく、銀行へと向かった。



 ***



 銀行はクエスト広場の中心地から右手にやや進んだ場所にある。

 僕たちはそこで必要な分だけお金を手に入れると、さっそく商店街へと足を向かわせた。


「エリュエ、この場所よ」


 商店街を少し歩いたところに目的地である装備屋はあった。

 中に入ると店内には多くの服が飾られており、また豪勢な鎧も展示されている。


「おおティーゼにティナじゃないか、こんな場所に来るなんて珍しいな」


 声のあった方向に振り向くと、そこには驚いた表情をする一人の男性の姿があった。

 その男は年の割には老けており、子供というより大人の風格を漂わせていた。


「お邪魔させてもらってるわ、リンダース」

「お久しぶりですね」


 フィユルとクルカさんは親しみを込めて、その男に返事を返す。

 どうやら彼女たちとこの男は知り合いのようだ。


「ちょうど良いところに来てくれたわ、リンダース。ちょっとこの子の服を選ぶの手伝ってもらえない」

「別にいいけどよぉ。こいつ、もしかして新入りか何かか?」

「ええ、今回ティナの付き人として行動することになったエリュエ・カリュアスよ」

「ほぅ・・・こいつがあのティナの付き人ねぇ・・・」


 リンダースさんはもの不思議そうに僕を見ながらそうつぶやく。


「初めまして、先ほど紹介いただいたようにエリュエ・カリュアスと申します。今日なったばかりの新人ですが、よろしくお願いします」 

「わははは、これまた律儀なやつが来たもんだなぁ。そんなに固くなるならんでもええぞ。気軽にしなくていいんだ。俺はロンド・リンダース。お頭ってここらでは呼ばれることが多いがよろしくな、カリュアス少年」

「はい。よろしくお願いしますリンダースさん」


 僕と話すとどうにも調子が崩されるのか。

 やたら頭を掻きながら困った表情を彼は作っていた。

 ここは砕けて気軽に会話した方がいいのだろうが、どうにもそれが自分には出来なかった。

 それは変に僕が人見知りな性格もあるのかもしれない。


「じゃあ早速だが少年。こっち来な」


 案内されるがままに店の奥へと連れられると、そこには地下に続く階段があった。

 この階に展示されているのはどうやら上級、中級者向けの装備品だったようだ。


「ここにあるのが初心者向けの装備だ」


 階段を下りて着いた場所は暗い物置のような場所だった。

 そこには上の階とは違い品物が雑に置かれており、中には試着しそのまま机の上に放置されただけの服もある。


「いつもはこんなことしないんだが、今日に限ってだけだ。俺のおごりで半額の価格で売ってやるよ」

「いいんですか?」

「おお、そもそも初心者用の服装は高価なものはあまりないし、この有様だ。好きなもんを選びな」

「ありがとうございます、ではお言葉に甘えさせてもらいますね」


 乱雑に扱われている品物とは言え、品物自体はちゃんとしている。

 初心者用の装備品といえど種類はそれなりに豊富で、様々な物が置かれていた。

 耐水加工の服、耐久性の高い網目状の服、耐熱加工の服・・・

 値段の割にはおもしろそうな服がたくさんあり、見た目もそれなりに好みに合う物が揃っている。


 どれにしようか迷うなか、奥の机の上に並べられている一つの装備セットが目に入った。

 その服は黒い服で、他の物とは違いそれほど重厚には作られておらず、鎧部分に限っては鉄当てが心臓の部分にしかない。


「お前が見てるその服は身軽に動けるように軽めの資材を使って作られた服だ。だがデザインもそうだが他に比べて地味だし何しろ耐久性が低く駆け出しの初心者にはあまりお勧めできないな。やめておいたほうが無難だぜ」

「じゃあこれでお願いします」

「ああそうだろ・・・ん?」


 リンダースさんは僕の方を再度見返す。

 瘴気か、と言わんばかりに視線を送ってくるが、この服で行こうと決めた。


「おい、この服は冗談でもお前さんに勧められるような服じゃないぜ。なにしろ耐久値の低い服は戦闘に向いたもんじゃねぇ。これ買うくらいならこれより安くて耐久値の高い服を買った方がましってもんだぜ」

「でも僕は駆け出しの冒険者なので、初めのうちは身軽な服装にしておきます。もしもの時があれば走り回って逃げられるように、地味で身軽な服装の方が好都合ですから」


 数秒の間が空き、彼は大きな笑い声をあげる。


「わはははは、絵にかいたようなこんなにも小心者の冒険家も世の中には本当にいるもんなんだな。俺は嫌いじゃないぜ。だが本当にいいのか」


 僕には迷いがなかった。

 耐久値が高い服装の方が戦いに慣れていない初心者にはいいのかもしれないが、重い服はかえって小柄な僕には向いていないと思った。

 それにあまり目立つような服装は自分の趣味に反している。


「はい、これにします」


 僕の元気な声とは裏腹にリンダースさんは困惑の表情を浮かべる。


 無事服が決まった僕はさっそくその場で着替えを済ませたあと、フィユルたちのもとへ戻った。

 フィユルはその姿を見るや、目を疑うように何度も目を瞬きをさせる。


「リンダース。まさかうちのエリュエをだましたんじゃないでしょうね」

「おいおい、それは違うぞティーゼ。俺は逆にこの服を反対したんだ。でもこの少年がこれを着るといってきかなくてよ・・・」


 あきれ果てた顔をしながらフィユルは僕に視線を移す。

 だが、何を言われようとも自分はこの服が気に入っていたため、変えるつもりは毛頭なかった。

 クルカさんはフィユルとは違い、面白そうな目で僕を見ていた。


「フィユル、本人がこれがいいって言ってるのだしこれでもいいんじゃない?」


 クルカさんはそういって、僕の選択を支持する。

 呆れ果てたのか、もうどうでもいいと思うようになったのか。

 フィユルは深いため息をつくと、それ以上言うことはなかった。


「はぁ、まぁないよりはましね」


 フィユルは一人妥協し、落胆に満ちた嘆息を吐く。

 僕たちはこの服の代金を支払うと、店を後にした。


「じゃあ私はこのあたりで失礼するわ、そろそろ仕事がるから。クルカあとはエリュエのことよろしくね」

「フィユル、ありがとね」


 フィユルと別れの挨拶を交わしたあと、クルカと僕は演習場へと向かった。

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