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x崩落世界の魔銃戦記x  作者: シン風
第一章 levelⅦ 編
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生き残った僕

 あれから多くの時間が経過しーーー

 僕はギルド『ノートレア』の住民となった。

 『ノートレア』とは、この世界に取り残された者たちが集まって作った一つの集団である。

 長閑な自然に囲まれた村にギルドは存在する。

 文明は前時代に比べてかなり後退したが、最低限の人間の営みが出来るほどには回復してきた。

 この世界にはモンスター、堕人など数多くの敵が野生の動物とは別に存在し、村の外は危険地帯が広がっている。

 高い石壁で周囲を囲んでいるため村の中は安全だが、それでも完全にモンスターの脅威から免れている訳ではない。

 四六時中高台からの索敵を行っているのだが、それでも年に10数名はモンスターの襲撃で命を落としているのが現実だ。

 

 この世界は『崩落世界』と呼ばれている。

 それも荒れ果てたアスファルトの路面、廃墟と化した市街地など当時の面影を残す場所が多く存在しているからではあるが、もちろんそれらすべては今となっては自然の一部と化し、元来の機能は失ってしまっている。

 当時は夜も明るい場所だったかもしれないが、今は原子力発電所も火力発電所も存在しないため電気は通っておらず、夜になれば旧市街地は暗闇に包まれ、夜行性のモンスターの蔓延る無法地帯へと変わってしまった。

 いまギルドがある場所も元は市役所としていた場所だった。

 奇跡的に建物があまり崩壊していなかったため、足らない部分は補填しつつもギルドの拠点として活用できた。

 ほとんどの建物は倒壊する恐れがあり、近づくことすら危うかった。

 そのためほとんど壊れずにあった市役所は奇跡的なものと言わざる終えない。


 この世界では体の一部に刻印が現れ、刻印が刻まれた者は魔法を使うことが出来る。

 前時代では考えられない能力ではあるが、今ではそれが可能となっている。

 ただ魔法が使えるといっても、あくまでそれは魔力干渉作用のある媒体があって初めて成り立つものだが、それは時に水晶であったり杖であったりと様々だ。

 それらのものを駆使しながら、僕たちは日々魔法を扱い生活を送っている。

 魔法を駆使して荷物を運んだり、火をおこしたりと、今では空を飛んでいる人を見かけるのも驚かなくなってしまった。

 僕はまだ魔法が扱えないが、いつかは空を飛んでまだ見ぬ世界へと足を踏み入れてみたいものだ。

 きっと僕がいつも見ているであろう森の先には、心躍る景色があるに違いないのだから。

 

 第一章.    levelーⅫ 編




 今日はいいお日様日和。

 太陽はサンサンと照り輝き、日差しを受けた大地は知力を大いに回復していく。

 現在季節は夏に差し掛かっており、じめじめとした特有の暑さとともに日照りの強い太陽が青空に輝いている。

 畑仕事を長らくやっていると、太陽は恩恵そのものだ。

 今年もまた去年と同じく豊作の年にしたいものだ。

 お日様に感謝をしながら僕は手に持った鍬で畑を耕す。


『ただいまーーー』


 その声が聞こえたのは、畑作業が半分を丁度すぎた辺りだった。

 遠くの方から聞こえてきた女性の声。

 僕はその声の主を知っていた。


 (この声は・・・)


 耳をピクリと動かせ、僕はすぐに手に持った(くわ)を畑の上に突き刺す。

 そして次に畑の横のあぜ道へと足を急がせた。

 しかしあろうことか、僕は失態を冒してしまったのに気付いた。


「あっ・・・やっちゃった・・・」


 自分が今踏んでいる場所はあろうことか、耕したばかりの畑。

 ここは迂回して最低でも耕していないところを通るべきだった。

 そうすれば耕したばかりの畑に大きな足跡を付けることもなく、またこの後控えているであろう重労働を考えずに済んだだろう。


「はぁ・・・」


 思わず心の中の声が漏れだす。

 しかし時すでに遅し。

 これから耕し終わった畑に作物の種をまこうとしていたのだが、自分の後ろにできたたくさんの小さな足跡をみては、断念せざるおえない。

 またあの重労働が続くのかと考えると、足腰が重くなってくる思いだ。

 しかし引き返すこともできず、なるべく大きく歩幅を取りながらそのまま畑横のあぜ道へと移動する。


「エリュエ」


 着地にあたふたしていた僕のもとに、今度は別のあどけない声がかかってきた。

 その声の主は方向からして自分が耕していた畑の南東にある、少し距離が離れたところ。

 そこには茶畑が階段状に緑のカーペットをひき、爽やかな緑の香りをいつもこちらの畑に運んできていた。

 ここで採れる茶葉はお茶にすると更に風味が増し、程よいにごりと旨味、芳醇な香を放つ。

 僕も茶摘みをお手伝いをするが、シノが摘む茶葉はなぜか僕よりの摘む茶葉より味がおいしくなる。

 何がそこまで彼女と違うのか、いつも謎なのだが、肝心の彼女はその答えを教えてはくれなかった。

 あどけない声の主ーーー僕の幼馴染の【シノ】が少しご立腹な様子でこちらを見ていた。


「聞いているのですか、エリュエ」

「あ、ごめんごめんシノ」


 シノはここノートレアに来て以来、共同パートナーとして僕と畑作業を行ってきた間柄だ。

 前時代では親の仕事の都合で家族ぐるみの付き合いがあり、土日などによく遊んでいた幼馴染でもある。

 今は僕の仕事仲間でもあり、共同で暮らしている仲だ。

 白い髪にいつもピンク色の花をつけており、彼女が笑うたびに花びらが揺れるのが印象的だった。


「いいのです、それよりエリュエ、フィユルさんが帰ってきたのです?」

「そうだよ。シノも今さっき声聞いただろ」

「シノは確認のため、エリュエに聞いたのです」


 彼女はムッと頬を膨らまし、いかにも不機嫌そうに僕を見る。

 彼女の透き通るようにきれいな白い髪が、むっと膨れたご立腹な顔をより顕著に際立たせていた。

 いつもシノとはよく口論になるのだが、僕と彼女の相性の点でいえば、最悪の関係だろう。

 シノが機嫌を悪くするたびに僕が謝る。

 それがある種日課になっていた。

 だが僕はそんな関係が嫌いでもなかった。


「ごめん、気を害さないでよ、シノ・・・」

「シノは別に気を害しているわけじゃありません。ただエリュエの対応に少し・・・」


 シノは話の途中だったが、またも遠くから女性の声が聞こえてきた。

 今度ははっきりとここにいる二人にも聞こる声で、その声は僕の名前を呼んでいた。


「ごめん、はなしはあとで・・・」

「エリュエ、待つのです。まだシノは話を・・・」


 顔の前で手のひらを合わせてごめんのポーズをとる。

 シノには悪いが、ここは早く彼女のもとに行かなければならない。

 もしかすると急ぎの用事かもしれないからだ。

 すぐに僕は足をフィユルのもとへと向かわせた。

 シノの顔は横目でチラリとしか見えなかったが、機嫌をさらに損ねていたのは言うまでもない。

 今日の夕食時にまた彼女の機嫌を取ることにしよう、僕は心の中でそう考えながらこの場を後にした。


 遠くから聞こえてくる声の主はフィユルだった。

 フィユルは僕を助けてくれた恩人である。

 ここで僕が平和に暮らしていけるのも、あの時彼女が僕を救ってくれたからだ。

 瓦礫の中で息絶えようとしていた僕を救い、そのうえノートレアでは生きていくために仕事までも斡旋してもらった。

 あの時、彼女が僕を見つけてくれていなかったなら、いま畑を耕すこともシノやよく世話してくれる町の人たちにも出会うことはなかった。

 フィユルは冒険家でもあり、冒険家とはそのままで世界各地を冒険する人のことを指す。

 畑を耕して生活している僕らとは違って、冒険家は世界を旅し、こことは違う外の世界を探索している。

 彼女が帰ってきた時、彼女の冒険談を聞くのは僕の楽しみの一つでもあった。


 坂の上に僕が住む木造の家がある。

 簡単な作りの木造建築の家だが、風の音が(うるさ)くて眠れない夜もあるが、雨風を凌げるので慣れれば住めば都といったものだ。

 家の前に赤い背中まで伸びる長い後ろ髪が風でたゆたう女性の姿があった。

 後ろ姿だが部屋の扉をノックしている様子が遠くからでもうかがえる。

 どうやらもう一方の手には何やら丸められた紙のようなものが握られていた。


「フィユル」


 急いで走っていたため息は荒かったが、前屈みになりながら彼女の名前を呼んだ。


「あっ、やっと見つけたわ。エリュエ」


 フィユルは驚いた様子もなく後ろから来た僕の方へと振り返る。

 嬉しそうにしながら頭の先からつま先まで見下ろしたあと、また彼女は僕の顔に視線を戻した。


「やっと見つけたじゃないよ、フィユル。僕はさっきまで畑を耕していたんだから」

「ごめん、エリュエ。そういえばこの時期だったわね、種入りの季節。完全に忘れてたわ」

「忘れてたじゃないよ、まったく・・・」


 フィユルは反省の色を見せてはいなかったが、それはいつものことなのでそれ以上言及することはなかった。

 彼女は性格上、いちいち他人に迷惑をかけたとしても、相手に謝るようなことをするタイプの人間ではない。

 大抵のことは笑って解決する。

 不躾ぶしつけだといえばそうかもしれないが、変にかしこまれるより接しやすいのは間違いなかった。


「でも今日は突然だね。いつもならここに来るときは事前に手紙が来るのに」


 するとそれを聞いてか、フィユルは思わずあっと開いてしまった口を左手で抑える。

 何かを思い出した様子を見せると彼女は今度は少し不敵な笑みを浮かべ始めた。

 何か良からぬことを企んでいるのは明白だった。

 一つ小さな咳払いして彼女は体裁を整え始める。


「何だよフィユル。どうかしたの?」


 僕は照れ臭さを隠しつつも彼女にそう尋ねた。

 彼女は暫く間を空けたあと……


「驚くなよ、エリュエ少年」


 フィユルは嫌らしい視線をさらに強めて、チラチラと僕の方を見てきた。

「少年」と名前の後ろに語尾を付けるところからして、僕を揶揄しているのは間違いない。

 でもどうして揶揄しているのか、その原因は不明だが、もしかすると彼女が手に持っている紙に関係しているのかもしれない。


「その目は何だよフィユル」


 しかし彼女はすぐには答えを教えてはくれなかった。

 チラチラとこちらの顔を伺うだけでそれ以上何も言ってはこない。


「はぁ・・・」


 こう話を勿体ぶる時はいつも僕を(もてあそ)んでいる時と決まっている。

 それは以前にもあった。

 彼女の冒険談を聞く時も、肝心なところで話を勿体ぶる。

 僕は毎回フィユルのお遊びに付き合う羽目になっていた。


 でも今回は以前とは少し違っている。

 それは何を隠しているかという点である。

 何を勿体ぶっているのだろう・・・

 僕には特にこれと言って、思い当たる節は見当がなかった。

 彼女の手にあるものといえば、丸められた紙のみだ。

 彼女の表情からしてよっぽど僕が嬉しがることでも隠しているようではあるが、その紙が何を意味しているのか、僕には見当がつかなかった。



「エリュエ、知りたい?」


 僕は(いじ)られるのはあまり好きではない。

 しかしこうなったら【あれ】をするしかほかないようだ。


「はぁ」


 一つため息をつく。

 僕は嘆息を吐きつつ、自分の中でとある決心を固める。

 俊巡(しゅんじゅう)に囚われている時間など僕にはない。

 僕はできる限りの範囲である決意を表にすことにした。


「教えてください。フィユルお姉ちゃん」


 僕は目を輝かせ、尻尾をブンブン振る子犬のように可愛く懇願してみせた。

 内心では羞恥心に泣いているとは相手は知るはずもなく、彼女は笑みを浮かべながら僕の頭を二度三度撫でるのであった。


「ふふふ。ならおねぇちゃんがおしえちゃおっかなぁー」

「もーゆるしてよぉ」


 さすがの僕でもこれ以上は無理だった。

 これ以上は僕の中にある羞恥心が爆発してしまい、沸騰してしまいそうだ。


「ごめんね、エリュエ、もういいお年頃だもんね」


 フィユルは熱くなった僕の頭をポンポンと軽く手でたたく。

 少し間が空いたあと、彼女は僕に一つの紙を広げた。


「……エリュエ、君の冒険家としての仕事が決まったよ」


 そこに書かれていた内容は次のとおりである。


 ≪


 ーー * ◇任命書◇ * ーー


 ▽ここに冒険家[調査員]の一員として汝を認めることを、ここに記す。


 エリュエ・カリュアス 殿


 __ ノートレア代表 クリストファ・ロンド



 ≫


「エリュエくーん。おーい、固まってるけど大丈夫。おーーい」


 少し静寂な時間が流れる。


「これって夢じゃない、よね」

「君はいつも顔に出やすいね。そうだよ今君の笑っているその顔が何よりの証拠だよ」


 彼女の言ったことが夢じゃないか。念のための確認だったが、杞憂だったようだ。

 太ももをつねった痛さからも、どうやらこの話は現実らしい。


「僕が『冒険家』・・・」


 昂る高揚感に言葉を失う。

 それは男の子の遊び心を揺さぶるには十分すぎる、いや十二分なほどの好奇心の塊である。


「どうかしたのです?」


 目を丸くしながら見るシノ。

 彼女は今来たばかりで、話の流れを掴めずに僕たちの顔を交互にみていた。


「僕ようやく仕事貰えたんだよ、シノ」


 嬉しくて思わず声を大きくしてしまったが、この時の僕は幸福感に満たされていた。


「そうですか・・・もうそんな年になられたのですね、そういえば」

「やったぁ。これで僕も冒険家の一員だよ」


 だがシノはそれを聞いてうれしそうな表情は見せななかった。

 寧ろ歓喜に踊り燥ぐ僕とは対照的に、シノはどちらかといえば寂しそうな顔をしながら僕の姿を静かに見守っている。

 さっきのシノへの対応がまずかったのかなと、僕は少し反省する。


「フィユル、フィユル。僕は晴れて今日から冒険家になった訳だけどこれから何をすればいいのかな」

「そんなに慌てないで。早速あなたにやってもらいたいことがあるから」


 僕の冒険はこの時より始まりを迎える。

 第一次適齢期を迎えた者には『冒険家』の称号が与えられ、ギルドから任務を受けることが出来る。

 それは同時にギルド員として活動することを許されることでもあり、より一層ギルドの一員としての責任感が増してくる。

 これからは一つ一つの行動に注意を払っていかないといけない。

 希望に満ちた僕の冒険はこうして幕を開けた。

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