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第二話 『歯車が回りだす1日目』

主人公の日常生活を描くのもあと少しとなります。この先、彼の人生が少しずつ変わっていきます。是非、読んでください。


※更新が遅いので、なるべく早く更新できるよう努力します!

 遮光カーテンの隙間から、眩しいばかりの光が漏れている。蝉の音と隣の家から聞こえる、爺さんの大きなクシャミの音で目を覚ます。


「暑っ・・・」


 首筋にまとわりつく様な汗が、じんわりと出ていた。自分の部屋にエアコンがついていないのが痛い。扇風機はあるけど扇風機の起こす風は温風で、ちっとも清涼感を感じないのが現状だ。窓は開けているが、無風なのか風が入ってこない切なさ。


 気だるさを拭いきれないまま、居間に降りて行く。俺の部屋は2階の6畳一間。それなりに広い部屋を分け与えられていた。部屋から出て向かいの部屋が妹の部屋になっている。どうせまだ、ぐっすりと寝ているのだろう。いい御身分だこと。


居間に降りて居間から台所までに仕切られている、立て付けの悪い磨硝子の入った古臭い木造の引き戸を開ける。目の前には古風な造りの台所が現れた。俺の日課である家族の弁当作りが、これから始まろうとしていた。そんな時、上の階からドタドタと乱暴に降りてくる足音が聴こえてきた。恐らく・・・いや、確実に妹だ。


「祐ぅー!今日、弁当いらないから・・・じゃ、それだけ」


 我が妹は本当にそれだけ言うと、神風の如く2階の部屋に戻って行った。

 

「要らない理由を言ってから去れよな・・・」


因みに妹とは、一つしか歳が変わらない。その為かどうかは、定かではないが、俺のことを唯の一度も「兄」と呼んだ試しがない。いや、別にいいんだけどね。


現在の時刻は朝の5時半です。非常に眠いですが、父上と母上と拙者の分の弁当を作らねば成るまい。この時間だと父親は道場の庭を掃除している頃だ。母親は近くにある総合病院で当直中だ。俺の作った弁当は、父親が午前中にでも、母親の勤めている総合病院に持っていく算段である。


弁当を作り終えた後に朝食を軽く作り、居間のテーブルに置いていく。その頃には父親も居間に来る。少し遅れて妹が寝巻きを、だらしなく着た状態で、爆発した髪の毛のまま登場する。これが、ウチの日課。因みに今は6時半、これから朝飯を食べて、顔洗って、歯を磨いて、制服に着替えたら、7時丁度になる予定だ。これも日々の鍛錬が成せる技でございます。




制服の袖を通して身なりを整えた俺は、照りつける太陽が降り注ぐ外へと渋々、出た。外は想定内の暑さ、猛暑である。「今日の気温は36℃です。熱中症が予想されるので、こまめに水分、塩分をしっかり取ってくださいね」と、お天気お姉さんがニコニコ笑いながら、天気図のパネルを指差して注意喚起をしていた様子を思い出す。


最寄りの駅まで着く頃には、下ろしたてのワイシャツが既に大量の汗を吸い込み、水分を含んだ状態になっていた。


「最悪」


げっそりとした俺は、ゆらゆらと力無く歩き、登り用のエスカレーターに乗り込んだ。ホームに着くと、いつものように彼女が手を振って合図をしているのが、直ぐに分かった。しかも、隣には西巻の姿が見えた。ヤツも俺に気づいて何故か敬礼をしている。


「祐也ぁ、おはよぉ~」


相変わらず、間の抜けた挨拶をする彼女。朝が弱いので、半分顔が寝ている。


「よっ、昨日は心配かけたな。済まないな・・・昨日、一緒に帰れなくてよ」


西巻は後頭部を摩りながら、少し申し訳なさそうに謝ってきた。


「それについては、気にしてないよ」


ただ、気がかりなのは、何時もの西巻らしかぬ言動に少し違和感を感じていた。何処か助けを求めているようなそんな気がした。3人一緒に登校するのは久しぶりだ。高校のある駅に降りる。


終夜神社よすがらじんじゃ~終夜神社~お降りの際は足元に気をつけて、お降りください」


 車内アナウンスが流れ、車内のドアが開くとサラリーマンや学生が、押し合いながら降りて行く。夏休み間近なのに絶えず変わらず人が多い都市部に高校はある。そのせいもあって、年がら年中、人が絶えない。もみくちゃにされながら、俺達3人も汗まみれでホームに出られた。そんな毎日の中で変わらず、俺の後ろでは彼女が白目を向きながら「あうー」と項垂れている。これもいつもの光景だ。


もう少しで夏休み、残すところ、あと2日。校門近くまで来ると、変わらずの登校者の多さに嫌気がさす。しかし、あと2日で見納めというか、しばらく見ないで済むのは、とてもありがたい。


「またな」


「おう」


 西巻と教室の前で分かれると、自分の教室へと入る。担任教師の熱血ホームルームが終わり、予鈴が鳴る。


 最初の授業は数学だ。授業は今日で最後だし、気合を入れて望むことにした。そんなこんなで前半戦が終了。各教科の先生達からの愛の詰まった、夏休みのプリントの宿題が、手渡されていた。はっきり言って要らない。


 お昼休みになり、いつものように教室で西巻を待っているが、10分待っても来ないので、彼女と一緒に隣のB組に顔を出す。


 「うにゅ~・・・西巻くん。また、居ないよぉ~」


 隣で変な声で鳴く彼女を尻目に俺は、西巻の隣の女生徒に聞いてみた。


 「飯食ってる時、悪いけど西巻、何処行ったか知らないかな?」


 俺の問いに女性徒は、すんなりと答えた。

 

「西巻君なら、さっき理科室のある方へ曲がって行ったけど」


理科室?次の授業に必要な資料を持ってくるように、先生にでも頼まれたのか。


「次の授業って理科なの?」


「ううん。違うけど・・・次は国語で、その次が英語、数学ね」


「じゃあ、今日は理科ないんだ」


「最初の1時限目が理科だったけど・・・それが西巻君と関係があるの?」


 俺の質問に訝しがる女生徒に対して、少し苦笑いを浮かべながら、礼を言ってB組の教室をあとにした。


とりあえず俺と彼女は理科室を目指すことにした。理科室は俺達の居るA組の教室から少し離れたフロアにあり、校内の角部屋に設けられている。なので、B組であれば一度、A組の前を通り過ぎて行かなければならない。


「変だな・・・アイツの髪型目立つからA組の前を通り過ぎれば、気づくけどな」


俺の独り言に隣の彼女が首を上下に振る。


西巻の容姿で一番の特徴が髪型。髪が逆立っている上に金髪に染めている。背丈も180センチ台と高い。以前、あいつ自身「俺は黄金の戦士だ」と叫んでいた。因みにウチの高校の規則では染めても問題にはされない。ただし、モヒカンとか二色以上の派手な色を使用した場合。つまり目に余る髪型及び発色はNGなのだ。都立なのに少し規則が緩い気もするが。まぁ、流石にモヒカンとかは居ない。居たとしてもツーブロックぐらいだな。とかなんとか言っているうちに、理科室の前に辿り着いた。


理科室の扉をスライドさせる。鍵が掛かっていないため中に入れた。ウチの高校の理科室には人体模型が2体、君臨している珍しい理科室である。一般的には男性の人体模型が置かれているが、ここでは女性の人体模型も置かれている。理科の授業ではけして触れることのない人体の神秘について、男子共はこぞって、女性の人体の神秘を学ぼうと、積極的になる。なんとも悲しい生き物だ。だからなのか理科の教師が女性の人体模型に白衣を着させているが、逆にエロく見えるので授業中は男子達の玩具にされるのだ。若気の至りは怖い。


「祐也。女性の模型、見すぎ!」


何故か、いつの間にか女性の人体模型エピソードを語っているうちに、知らぬ間に女性の人体模型を、ずっと直視していたようだ。いかん、いかん。


 気を取り直して理科室を見渡すが西巻の姿は無い。準備室にも入るが、そこにも西巻の姿はなかった。


「いないねぇ~」


「アイツ、何処行ったんだ?」


とりあえず、理科室から出ようと、なんとなく外を見ると、そこから屋上の様子が見えた。


「!!」


そこで見たのは西巻と数名の見知らぬ男子生徒数名と、居るのが見えた。胸騒ぎを覚えた俺は彼女に生活指導の先生を屋上に呼んで来るよう指示を仰いだ。


「祐也はっ?どうするの!?」


心配そうに見つめる彼女に俺は「心配すんな」と肩を叩いて、直ぐさま理科室を出た。屋上に上がる階段は二箇所ある。そのうちの1つが、理科室の脇にある階段。これで三年生の居るフロアと、そのまま屋上にも繋がっている。普段、屋上の扉には鍵が掛かっている上に、鎖と南京錠で固く閉ざされている。不用意に立ち入られる場所では無い筈だが。


階段を素早く駆け上がると、屋上の鎖は解かれていた。


俺は考える事もなく屋上の扉を開けようとしたが、内側から鍵が掛けられていた。俺は鍵の掛かったドア越しから西巻を呼んだ。


「西巻ぃー!!西巻。返事しろー!そこの居るんだろ!?返事してくれっ西巻―!」


道場以外で叫ぶことはない俺だが、普段から稽古で活を叫ぶ訓練をしているせいか、大声には自信があった。


ドアを力いっぱい叩くが、向こう側から返事は無い。ドアと格闘して数分が経つ。すると階段を駆け上がってきた、生活指導の鬼瓦おにがわらという体育教師が、すごい勢いで扉の前まで来た。


いかにも怖く厳ついムキムキのオッサンのようなイメージかもしれないが、名前の持ち主は、かなり美人の女性教師である。スタイル抜群で顔も綺麗なモデル美人。しかし、やはり怖い。その容姿とは裏腹に、とてつもなく強く厳しいのだ。名前に負けない性格で、男子生徒達からは恐怖の対象である。一方、女子には優しい。以前に西巻がヤンチャした時も、この鬼瓦先生の愛の後ろ回し蹴りにより成敗されている。今の世の中、生徒が悪いいことをしても先生の体罰が問題視されている今、何故か先生の体罰は許されている。聞いた話では一括した後、いつも後悔して生徒の頭を撫でるのである。そのアメとムチ方式を味わいたい一心で西巻はハイリスク・ハイリターンを経験したのだ。


そんな桃太郎も恐る鬼が、俺の顔を見て察したのか何も言わず、屋上の鍵を開けた。




―――開け放った屋上には、数名の男子生徒と地面に横たわっている西巻の姿が見えた。その光景が目に入った瞬間、俺は頭が真っ白になり、高学年と思われる男子生徒に殴りかかろうと駆け出していた。しかし、直ぐに襟元を鬼瓦に掴まれて一瞬、足が軽く浮くと直ぐに尻を地面に着けていた。


「石動。お前の気持ちは解るが、奴らを殴れば、お前も奴らと同じだ。冷静になれ」


そう言うと鬼瓦は腰から下げている竹刀を手に持つと、肩に掛けて目の前の男子生徒を一括する。


「テメー等、ここで何してんだ?ここは立ち入り禁止だと知っている筈だが」


鬼瓦の質問に数名の男子生徒の一人が答える。


「あ、そうなんすか?いや~すいません。直ぐ、帰るんで見逃してくださいよー」


チャラチャラした雰囲気を出している男子生徒達は、ヘラヘラと笑いながら西巻を跨いで、出入り口のあるこっちに歩いて来た。よく見ると襟首に三年生の証が刻まれていた。


「おい、質問はまだ終わってねーぞ」


高学年の生徒を鬼瓦が睨みを効かせて静止させる。それに対して高学年の生徒達は悪びれる様子も無く、舌打ちをして見せた。


「なんすかー?早くしないと授業、遅れちゃうんすけど~」


くちゃくちゃとガムを噛みながら、両の手をポケットに入れた状態で悪態をつく。典型的な不良の画だ。そんな不良に対して、石のように全く動じない鬼瓦は、更に不良生徒を問い詰める。


 「そこに倒れているのは二年B組の西巻・真司に見えるが、お前らなんで西巻が、そこで倒れているか説明しろ」


 不良生徒達は、かったるそうに鬼瓦を見ながら答えた。


 「あぁ~、西巻くんね~。彼が急に殴りかかってきたから、正当防衛で腹に一発、かましたら動かなくなちゃったんすよ~だから俺達は悪くね~んすよ先生ぇ~」


 「では聞こう、なんで西巻がお前達に殴りかかってきたんだ?」


 「しーらないっすよ~。急にだし、急に!マジ、ビビったわ~アイツ退学にしたほうが、いいっすよ先生ぇ~」


 鬼瓦の質問に対して、不良生徒はシラを切る。


 「そうか、それじゃ。この屋上の鍵はどうやって開けた?」


 めんどくさそうにしていた不良生徒達に一拍の間が空く。その間を見逃さない鬼瓦は直ぐに答えるよう促した。


 「ん?どうした?理由を言え」


 不良生徒達は少し引き吊り笑いを浮かべながら答えた。


 「鍵はアレっす。落ちてるのを偶然、見つけて拾ったんすけどね。ちゃんと開くかどうか確認してたんですよ~・・・それから届けようと思ってたんすから~」


 「なら、それは確実に屋上の鍵であることが判ったということだな。返却ありがとう。しかし、無断で解除していいと言った覚えもないし、学生徒の屋上への出入りは、この生活指導の私が許可しない限り基本、立ち入りは認めていない―――」


 不良生徒の顔が少し強ばると、鬼瓦は腰に手を添えて竹刀を不良生徒に向けて指すと、鬼の形相で睨んだ。


 「―――それに例え、西巻が理由も無く殴ったとしても、お前達が暴力を振るい西巻に怪我をさせている事実は変わらない。お前達がやっていることは全て校則違反だっ!」


 まるで、御縄に付けと言っている、御奉行様の様な出で立ちに拍手を送りたい。ジャージ姿でも、それが様になるから不思議だ。


 無事に不良生徒がお縄に付き、鬼瓦にケツを叩かれながら、屋上を出ようといていた時だった。1人のリーダー格と言える不良生徒が、俺と彼女の脇を通る際、俺達だけに聞こえるよう小声で話した。


 「テメー等。覚えてろよ」


 それだけ言うと、不良仲間と一緒に消えて行った。


 「うぅ~祐也ぁ~・・・」


 今にも泣きそうな彼女を心配させまいと、軽く肩を抱いた。それから西巻は保健室に連れてかれ、数分後に目を覚ました。西巻の顔には傷は無かったが、体中に沢山の打撲痕が見つかったという。俺と彼女と目を覚ました西巻で、生活指導と担任教師達の質問攻めに合った。時間にして凡そ2時間に及ぶ軟禁状態が続いた。西巻は3ヶ月前から不良グループに目をつけられていたようで、それがだんだんとエスカレートしていたという。当然、不良グループは後日、校長室に呼ばれ厳しく指導が入り停学となった。当たり前だが、俺達にお咎めは無く事なきを得た。


 また何時もの様に三人一緒に下校をする。


 「なんでもっと早く俺に相談しなかったんだ!?」


 俺の怒りにも似た問いに西巻は申し訳なさそうに答えた。


 「・・・悪ぃ・・・お前に面倒はかけられねよ。お前達まで標的にされちまう」


 うつむいた顔に西巻の優しさが、にじみ出ていた。俺は呆れながら西巻に喝を入れようとした矢先、彼女が西巻の頭を撫でていた。


 「怖かったでしょ~・・・西巻くん。優しいから・・・ありがとうね。祐也と私の事を思って耐えていてくれて」


 こういう時の彼女の行動が正しいか判らないが、彼女の優しさは今の西巻の心を癒してくれていた。それに対し調子に乗った西巻は、態と彼女に抱きついて、鳴き真似をした。


 「わーん!朝比奈ちゃ~ん怖かったよ~エーン!」


 ―――それを知ってか知らずか、彼女は「ヨシヨシ」と犬を撫でる様に、西巻の逆だった髪がオールバックになるまで撫でていた。




 西巻達と別れ、家に帰宅した俺は、自分の部屋に入ると制服を着たままベットに身を投げ出す。そして、昼頃に起きた時のことを思い出していた。三年の不良達が最後、小さな声で言った「テメー等、覚えてろよ」が耳から離れなかった。


 「ただいまー」という母親の声が下から聞こえた。妹と母親が何時もの様にキャッキャッする声が微かに聴こえてきた。


 「祐ぅー!!お母さんが、お寿司買ってきたってー」


 妹がデカイ声で上の階にいる俺に叫んでいた。俺は考えるのを止め、妹に返事を返すと1階に降りることにした。



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