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第一話『はじまり』

『閃光のエアレーザー』は剣と魔法のファンタジーを舞台にした作品です。主人公が異世界にワープしてしまうのですが、主人公が只者ではありませんでした。


ドラゴンやゴブリン等、様々な怪物が登場します。

ヒロインやその他、癖のあるキャラクターが多数登場いたします。


是非、読んでみてください。



※なるべく更新は急ぎます!たまに遅くなることも・・・あるかもしれません。

序章‐




 辺り一面が火の海と化している。巨大な城は異型の怪物達で占領されつつあった。戦火が渦巻く大地に成すすべもなく膝を着く傷ついた兵士達が、次々と異型の怪物達に頭から食い尽くされていく。


 「ウオルダの勇者が倒れましたっ!兵長。このままでは我々も時間の問題です!」

 

 足を引きずりながら、食料庫に隠れていた数名の兵士の元へ駆け寄り、兵長と呼ばれた中堅の兵士に報告した。兵長の見た目は赤い鎧を着込み、赤いヒゲを顎に蓄えたいぶし銀の厳つい男であった。


 「くっ、なんてことだ!」

 

 苦虫を噛む兵長は分厚い食料庫の扉を睨んでいた。


 「兵長。勇者も倒れ魔道士達も全滅した今、我々に残された道はひとつかと・・・」


 扉の奥で阿鼻叫喚が木霊する。城内に響き渡る様々な音が兵長に決断させた。


 「糞野郎共っ、王に命を捧げる準備は出来てるか!」


 兵長が剣を天に掲げながら、生き残った部下達に昂ぶりを見せた。


 「おおーっ!我らベイランドの誇りに駆けてー!!」


 兵長の叫びに皆、喝が入ったのか兵士達も剣を掲げた。


 気迫を纏い(まと)食料庫の扉を開け放った―――。



 


 戦火の炎が次第に激しさを増していき、夜空に舞う煤煙が空を一層と暗黒色へと染めていく。そして、翡翠石の様に輝く満月すらも薄らと隠そうとしていた。


 城の東側に設けられた王室もまた被害を受けていた。


 「姫様ーっ!早く、こちらへっ!!」


 煙と煤が視界を遮る中で必死と足掻く者達がいた。一人は青い甲冑を着込んだ、中年男性。もう一人は白いドレスが似合う気品ある若い女性。「姫様」と言われた女性は、青い甲冑を着た男性に手を引かれ、地下深くに続く隠し通路へと急いでいた。


 「ハァ、ハァ、ハァ。ま、待ってプルートっ・・・もう、走れない、走れないわ」


 普段から部屋に篭って体を動かすことなど無い為か、平均的な運動能力が低い彼女の体力は普通の女性と比べると、あまりにも貧弱である。


 引張ていた手から重さを感じたプルートは、考えるよりも先に彼女を担いでいた。そのまま半壊した城内を鍛え抜かれた足腰で駆け抜けて行く。


 「お、お父様は?お父様は生きているのプルート!」


 担がれた状態で姫はプルートに問いかけた。


 姫の問いに対して、しばしば黙っていたプルートが口を開いた。


 「貴女が生きてさえいれば、また国を取り返せる。貴方は私たち兵士、民の希望なのです・・・絶対に死なせませんぞぉ!この身に代えてもっ・・・」


 プルートの遠まわしな返答に姫は直ぐ、父親が死んだことを悟る。


 悲しい筈なのに涙が出なかったのは、きっと彼女が決意を強く固めた瞬間だからだ。


 隠し通路を抜けた先は、城から数キロ離れた木々に囲まれた祠へと繋がっていた。担いでいた姫をゆっくり降ろすと片膝を着く。


 「姫様。緊急事態とはいえ、姫様に不用意に触れたことをお許しください!!」


 「プルートよ。顔を上げなさい・・・このことについては不問です。あなたの言う通り今は、そんなことを気にしている場合ではない。一時、撤退し兵を徴集。その後、ガルテア王妃と会談し力を貸してくれるよう頼んでみます」


 夜空を照らす真っ赤な明かりが遠くからでも分かる。上空を飛行する大きな翼を持つ龍の怪物が口から炎を吐いている。


 翼を持つ巨大な怪物が地表に降り立つと、城内や庭園に居た異型の怪物達は、鬼気迫る勢いで颯爽と逃げていく。どうやら城を襲っている異型の怪物とは関係のない存在であった。翼を持つ巨大な怪物は人間や異型の怪物、関係なく劫火の炎に包み込むと食したのである。


 逃げ惑う民や兵士、異型の怪物は、たちどころに翼を持つ巨大な怪物の餌食となって徐々に数を減らしていく。


 「ど、どドラゴンだあああああぁぁぁぁぁー!!」


 恐怖で尻餅を付いた兵士が城壁の隅で怯えながら叫んだのは、翼を持つ大きな怪物の名前であった。


 血の匂いと硝煙の臭いに釣られて巨大な怪物を呼んでしまったのである。ドラゴンは巨体でありながら恐ろしく速い。その動きは俊敏で、あっという間に獲物を追い詰め、巨大な前足で踏み殺してしまうであった。。その圧倒的な力の前に人間は愚か異型の怪物達も成すすべが無いまま、ドラゴンの餌となっていく。


 このドラゴンの容姿は全身がワニ肌の様にゴツゴツした皮膚に覆われ、地肌は返り血を浴びたかのような真紅色をしていた。黄金色に輝く巨大で鋭い爬虫類のような眼光を光らせ、尖た刃のような巨大な犬歯を見せつけると、身震いするような天にも轟く咆哮を上げる。それは遠く離れた姫達の耳にも届いた。


 「今のは、恐らくドラゴンの雄叫びでしょう」


 冷静に判断するプルートに対し姫は心配そうに、遠くに見える城を見つめていた。そんな二人に更なる恐怖が待っていた。


 暗がりの中を月の位置から、一時避難所を目指していた二人の前方から突然、複数人の荒くれ者が現れたのであった。



 透かさず、姫を後ろ手で庇う姿勢を取るプルート。既に腰から下げていた剣を右手に構えていた。流石と言うべきか日々の中で鍛錬を積んでいるだけのことはあった。



 荒くれ者達が舌を出しながら汚い笑を浮かべると、持っていた剣で姫を指した。


 「そこの姫様を置いていけぇ」


 姫達を囲うように複数の荒くれ者がジリジリと少しずつ歩みを寄り、包囲しようとしていた。


 「姫様はしっかりと私の後ろにいてください!」


 グッと構えるプルートの背中に隠れる姫の運命はその先にあり。




 深淵の狭間を揺らぎ、時同じくして世界を変えることになる者の世界の話に入る―――。






‐第一話‐


『はじまり』





 〝弱肉強食〟といった言葉があるように、人間社会においても醜悪な部分が存在している。


 高校2年の夏。夏休みまであと3日というところまできていた。夏休みのカウントダウンが間近とあって教室内の生徒達の関心は、目の前の教師が展開する数論より、サマーバケーションで何処に行き誰と夏休みを過ごすのかという想像で頭の中が、いっぱいな者が多く見受けられた。


 昨年度からクーラーを設けた教室内は聖域と化している。そんな聖域とは打って変わり窓の外では陽炎が踊るような炎天下の地獄となっている。


 焼けるような暑さを尻目に我々、生徒は清涼感を満喫している。

そう。最初はそんな感じで俺も周りのみんなと同様に余裕に浸っていた。



 昼のチャイムが校内に響き渡る。先ほどと打って変わり静寂の教室内が突然、ざわめき立つ。


 これから祭りでもあるのではないかという雰囲気に校内中が、活気づく。生徒達は一様に購買部や学食堂、中庭のベンチに屋上のテラスモールへと駆けて行く。


 俺は自分で作った弁当を自分の席で食べる準備をしていた。毎朝、母親に代り家族の分を作っている。そのついでにと自分用の弁当を、こさえているのである。


 弁当の白米に手を着けようと箸を伸ばした時であった。俺の背後から漂う殺気めいたオーラが沸々と肌越しに感じられた。


 突然、目の前が暗くなると後ろから聞き慣れた女性の声が聞こえた。


 「私を差し置いて、な~にもう食べようとしてるのかしら?」


 たとえ、目の前が暗くとも自分と弁当との距離は感覚で判るもの。目を塞がれていながらも平然と目の前の弁当から、おかずを摘み上げ口へと運ぶ。


 「あーっ!!ちょ、ちょっとぉ~もう、無視とか良くないんだからっ!」


 このやりとりは彼女と付き合ってから1年は経つ。そろそろこのパターンで行くと、もう一人、厄介なのが登場する筈である。


 「あれ~西巻くん遅いねぇ~このぐらいには飛んでくるのに・・・」


 どうやら彼女も毎回のパターンが染み付いているのか、本来なら来る筈の人間が来ないことに疑問を浮かばせていた。


 視界が戻り、少しぼんやりと霞んだ視界になっていた。目の前の弁当に目線を落とすと再度、食べ直す体勢に入る。


 「お、西巻くんが来た・・・あれ?どっか行っちゃったよ」


 人の頭に手を置いた状態で背後に立っている彼女が、教室を通り過ぎる西巻の姿を目で追いながら喋る。


 「ん?」


 俺が教室から廊下の様子を遠目から見た時には、既に西巻の姿は消えていたあとだった。なんとなく胸騒ぎがした俺は彼女が乗っけている手を叩くと「少し様子を見て来る」と言い残し教室をあとにした。


 「えー!?私も行くよぉ~」


 背後から彼女の声がしたが無視して隣の教室へと足を運んだ。西巻が居る教室は2年B組で俺の居るA組とは隣同士である。西巻とは古い付き合いで幼少の頃からの友人、詰まるところ幼馴染というやつだ。


 隣の教室を覗くと西巻が頭を抱えながら机に伏せている状態が見えた。なんとも分かりやすいリアクションに、溜息をついた俺は西巻の机まで行くと、コイツが少し震えているのが判った。


 俺が声を掛けると、西巻は俺の存在に気づいたのか震えていた体を止め、いつも通りの笑を見せながら「悪ぃー悪ぃー。飯食うかっ!」と勢いよく立ち上がる。


 明らかに様子が変なので放課後の帰りにでも聞くことにする。



 日が登り夕刻の空が町並みを茜色に染めている。放課後のチャイムが鳴り教室内の生徒達は一斉に廊下へとなだれ込んで行く。ワイワイと賑やかだった教室が静かになった。


 「祐也ぁ~。一緒にかーえーろー!帰ろー」


 祐也ゆうやとは俺の名前である。俺を呼んだ彼女はニッコリと笑いながら、学校で支給された学生鞄を背中に背負い込んみながら、跳ねていた。なんにしても行動が幼いのが彼女の特徴とも言える。


 石動・祐也いするぎ・ゆうやが俺の名前。そして目の前にいる彼女が朝比奈・あさひな・めぐだ。彼女とは偶然、深夜のコンビニで出会った。彼女が深夜のコンビニで不良に絡まれていたのを助けたのが、きっかけだったかもしれない。なんで深夜かというと俺は夜食を買いに地元のコンビニに出かけた。彼女は別冊レベッカとかいう少女漫画雑誌を深夜に買いに行っていたらしいが・・・何故、そんな時間帯に買いに行くのか不明であったが、後から聞いた話しだと「買い忘れてたのぉ!」と訳の分からんことを言っていたのを思い出した。別に明日でもいいような気がするが。


 ―――そんなことよりも、西巻の居る教室へと二人で向かうことにした。


 「あんれぇ~?西巻くん・・・居ないねぇ~」


 彼女が俺の肩から覗き込む。


 ちょうど教室を出ようとしていた数名の男子生徒に声を掛ける。


 「ごめん。ちょっといいかな?西巻、見なかった?」


 俺の問いに一人が反応してくれた。


 「あ~アイツなら、家の用事とかで、さっき帰ったよ・・・アイツ最近、付き合い悪いんだよな」


 「そうか・・・ありがとう」


 一足遅く既に帰ったあとだった。胸騒ぎを感じたけが、気のせいのようだ。とりあえず彼女と一緒に帰ることにした。


 彼女とは家も近いので電車も同じである。いつものように車内で彼女は、吊り革に体重を預けると、振り子のように揺らぎながら遊んでいた。まるで、落ち着きのない子供のようだ。少し経つと車内アナウンスが流れて、あと2駅で着く事が分かった。俺は流れていく景色を横目で見ながら思った。本来であれば西巻も一緒にいる筈だが、ここ最近、ヤツとはあまり登下校していなかった。最近のヤツの様子は明らかに可笑しい。何かあるのは間違えないが、嫌な予感しかしなかった。それというのも、ヤツとは古い付き合いで解っているのだが、かなりの問題児である。不良地味たことも、しばしばやっていたことがあるし、そのせいで警察沙汰にもなったことがあるからだ。根は優しく友人想いの熱いヤツだが、喧嘩早い。そう、短気なんだよなアイツは。俺の悪い予感とはつまり、不良グループと連んでいないかという心配だである。


 最寄りの駅に到着した頃には17時を回っていた。夏ということもあり、まだ外は明るかった。蝉の声が風に乗って聞こえてくる。もう随分と慣れたBGMだ。


 改札口に向かう降り階段で彼女が「アイスの時間!」と騒ぎ出したので、家に向かう途中のコンビニでアイスを買うこととなった。買い食いを父親から禁止されてはいるが、今日の気温は天気予報で34℃の真夏日、確かにアイスを所望したくなる気持ちには賛同だ。なので、こっそりと買うことにした。


 聖域とも言えるクーラーの効いたコンビニから出ると、また汗が吹き出してきた。


 「わ~暑い。そんな時は・・・シャピーン!極寒アイスソーダァァァ!!」


 ジワジワと暑い日差しと蝉の鳴き声をバックに、彼女はアイスキャンディーを空高く掲げたのであった。キリッとした顔をして天を仰ぎ見ていたが、早く食べたかったのか、早々にアイスキャンディーの袋を開けると、勢いよく口に突っ込むのであった。


 嬉しそうにアイスキャンディーを食べる彼女を尻目に俺もモナカタイプを食べた。


 アイスを食べ終わる頃に彼女が話しかけてきた。


 「ねー今日もパパさんと稽古なの?」


 上目遣いで俺を見てくる彼女を目の端で見ると、直ぐ視線を外し、遠くの景色を見ながら答えた。


 「当たり前だ。道場を継ぐことになってるからな・・・」


 「むー。祐也はそれでいいの~?将来は有望な金融商社マンになるって言ってたじゃん!」


 膨れ面な彼女が眉間に皺を寄せていた。


 「コラ、誰がいつ金融商社になるって言ったか!俺がなりたいのは漫画家だ・・・っつても、親父と約束したし、別に嫌いじゃないからな空手・・・」


 俺の実家は空手道場で、親父の跡を継ぐ予定である。定めとか存続ではなく俺が空手を好きだからという理由が強い。それに、世の中、親の引いたレールに乗っかるのも一つの選択。時代錯誤かどうかは置いといて、自分のやりたいものが二つある場合、それが実家を継ぐ様な事であっても、自身が好きなら確実に叶う方を優先すべきだ。俺の場合は道場か漫画家という天秤が釣り合っていた。強いて言えば、どちらでもいいといのが答えかな。ただ、簡単に手の届くモノが実家の空手道場なだけの話し。


 俺はクラスの皆から華奢そうに見えて、実は空手体得者の羊の皮を被っている、恐ろしいヤツだと言われた事があった。


 「さて、もう帰るぞ」


 「うぇーい!」


 彼女が、だるそうに手を挙げながら返事した。 さっきよりは少し風も出てきて涼しくなっていた。


 彼女とは途中で別れた。そして、人気の無い未だ鋪装されていない緩やかな坂道を登ると、目の前には俺の家と道場が見えて来た。


 「―――ただいま」


 今日もまた、長い一日が終わった。







 第二話に続く。

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