自分の秘密
私の名前は、石神素生。十六歳の高校生。
ごく一般の家庭、普通の両親の元、一人娘として、大切に育てられてきた……。
十六歳の誕生日を迎えるまでは。
「素生、 誕生日おめでとう。 今日はケーキ作ったのよ。 貴女の好きな、ベリーベリーケーキ」
母さんが笑顔言い、リビングのテーブルの中央に、ケーキを置いた。
ロウソク十六本。
ケーキの横にある。
「学校の友達からも、 プレゼント沢山貰った。 色々片付けたりしなきゃ」
学校から帰ったばかりだったので、私は着替えたかった。
重たいカバンから、プレゼントを出したかったし。
何より……。
母さんの顔、今は見たくなかった。
「そう? じゃあ、 早く支度しなさい。 父さんも、もうじき帰って来るし」
ドクン。
心臓を掴まれた様に、胸が痛んだ。
私は今日まで、普通に生活していた。
学校に通い、友達と遊んだり。
でも。
私は普通とは違った。
普通の人と違うと言うべきか。
幼い頃から、何と無くだが感じていた事。
違和感……。
私の中にある、私ではない物。
それに気が付いたのは、中学一年の時。
学校の友達の、口に出していない声が聴こえた。
話している事とは違う。
何を考えているのか。
言われなくても分かってしまう。
初めは何と無く。 頭の中に言葉が響く。
自分の声でないもの。
自分の考えていない事。
何なのか、理解できない。
でも、人の考えが読める。と言うべきか。
友達の、心の中が分かった。
両親には言えない。
信じてもらえないと思ったから。
普通を装った。
いつもの自分を演じた。
でも……。
はっきり聴いてしまった。
うっかりしていたのだろう。
心を読まれな様にしていたけれど、つい、油断していたのだろう。
誕生日の数ヶ月前。
私は学校のクラスの人達の、ザワザワした声に耐えられなくなっていた。
気付いてしまったから、気付いてしまってから、自分をコントロールできない。
聴こえない様に、コントロールできなかった……。
気分が悪い。
私は学校を早退した。
耳を塞いでも、聴こえる声。
頭がおかしくなりそう……。
気分が悪い中、私は家に帰り、玄関で靴を脱いだ。
「あれ? 誰か来てるのかな」
玄関に、見慣れぬ靴があった。
男の人の靴。
それに……。
父さんの靴も。
会社に行ってるはずの、父さんの靴が何であるのか。
何かを感じた。直感的に。
そっとリビングへ向かう。
音を立てず……。
リビングのドアの前に立った時、話し声が
耳に入ってきた。
話している声。
父さんと、母さん。それと……。
聞いた事のない、男の人の声。
リビングの奥は、客間になっている。声は客間から聞こえた。
リビングのドアをそっと開け、中へ入る。
客間はリビングの奥にあるが、死角にあたるので、私が中に入っても、音をたてなければ気付かれない。
客間のドアは少し開いていた。
私はリビングの中にいる。
話し声は十分聞こえた。
「あの子ももうすぐ十六になります。 そろそろ自分の能力に気が付いていると。 私達も
心を読まれぬ様に、 注意しています」
「誕生日をむかえたら、 全てを話さなければなりません。 それまでは、くれぐれも。
悟られては、 計画も無駄になってしまう」
「分かっています。 最近は特に気を付けて
います。 思った以上に、勘がいいので」
父さんと、男の人が話している。
私の事だろう……。
一体何を……。
私は二人に意識を集中させた。
自然にしていたら、雑音も聴こえてしまう。
「しかし、 昨今の犯罪は、 非常に巧妙になってきて、 犯人を検挙しても中々自供しない……。 心理戦すら役に立たなくなってきましたよ。 国としても、 手を焼いております。
だから、 神の領域にまで介入せざるを得ない……」
ため息と共に、男の人が話す。
「国も致し方ないのでしょう。 ここまで物騒な世の中になり、 何とかしなければならない。 国民を守る為です」
父さんの声だ。
「ですが……。 遺伝子操作までして、 特殊能力者を誕生させるのは、 心が痛みました。
しかも、 我が子として育てなければならない。 国の為とはいえ、 辛い物があります」
小さな声で、母さんが話す。
遺伝子操作? 国の為?
何を言っているのだろう……。
この人達は、誰なんだ?
頭の中がごちゃごちゃしてて、訳が分からなくなる。
十六歳になった時、私の人生が変わるのか。
気を立て直す。
詳しく聞かなくては。
いずれ分かる事だとしても、何処まで本音か分からない。
息を潜め、 リビングのドアの近くに座り、
話を聞いた。
「国の威信、 警察の信頼がかかっている。
余計な感情は不要だと……。 博士の研究は、
世界をも救うのですよ。 DNA配合に、 貴女は成功した」
「ですが。 まだはっきり分かりません。
あの子の能力は、 確実です。 特殊能力を備えています。 しかし、 自分で意識し、コントロールできなければ……。 成功とは言えません。 幾つか訓練をしないと」
「それは博士に任せます。 貴女も多少なりとも能力をお持ちだ。 あの子についても詳しい。 だが、 我々もいつまでも待ってはいられません。 早めにお願いしたい」
全身が震える。
母さんが博士? 私を作った……。
それに、訓練って。
私は、モルモットじゃない。
更に気分が悪くなったが、私はリビングを
後にした。
外に出て、空気を胸いっぱい吸い込んだ。
夢か、現実か。
それさえ分からない。
私は国の為に作られた人間。
母さんの研究により、能力を持った。
この先私はどうなるのか。
いつもの風景が、歪んで見えた。