表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スモークキャットは懐かない?  作者: 白い黒猫
ニュー・クロップ
8/102

もっと深く、長く……

 二人でフレンチ料理を楽しみ、手を繋ぎながら夜道を歩く。三月になったとはいえ、まだまだ寒い。それだけに酒が入りいつもより高めの初芽の体温が心地よかった。お酒を飲むと、初芽は少しだけテンションが上がり触り魔となる。『この、酔っぱらいが!』と言いつつも、抱き付いてくる初芽の体の熱を喜んでいた。別にそれはスケベな意味ではなくそうされる事が純粋に嬉しかった。

 初芽の部屋は俺の部屋と二駅離れた場所にある。とはいえ都内の駅なので、歩けば四十分くらいの距離。平日デートは、俺が初芽の部屋まで送ってそのまま電車に乗らず自分の部屋まで歩いて帰るのがいつものパターン。

 初芽のマンションの前でキスをして、離れようとしたら初芽の片腕が俺の腰に回されて抱き付いてくる。少しだけ背伸びして俺の耳許に顔を寄せてくる。彼女の、吐息と唇が耳たぶに当たり少しだけ擽ったい。

「実はね、シャツとネクタイとか着替え買っておいたの。だから……」

 初芽が珍しく大きめのデパートの手提げを持っていた理由を今さらのように気が付く。それを俺に頑なまでにも持たせて貰えなかった訳も。俺も初芽の耳許に唇を、近づけ『なら遠慮なく』と囁く。二人でクスクスと笑いながら手を繋ぎそのままエントランスを通りエレベータに乗り抱き合いながらキスをする。

 平日二人がデートしても泊まりなしの理由は、着替えの問題があった、下着はコンビニで買えるし簡単な着替えは互いの部屋におかせて貰っているものの、それで会社に行くには難しく、どちらの家に泊まるにしても会社に行く準備がそれぞれの家ではやりにくいからだ。


 初芽の部屋に誘われるままにお邪魔し、そのままほとんど会話もしないまま愛し合う。

 元々ベタベタするのが余り好きでなく、『薄情過ぎる』と、今まで付き合ってきた彼女からはよく怒られていた。抱き合った後に何か飲みにベッドからすぐ離れたり、本とか読んだり、他の事に意識を反らしてしまう事が多かったのがその原因なようだ。しかし男の性欲なんて吐き出してしまえば収まり満足してしまうモノなので、それも仕方がないと思っていたから、あえて直す必要性も感じてなかった。

 しかし初芽に対してはこういう事を覚えたばかりのガキのように求め、一緒にいる時は初芽だけを見ている気がする。身体の相性が良いとか下世話な話ではなく、素直に好きというか、初芽に俺が夢中だからだと思う。

 事が終わってもまだ抱き締めている俺の腕の中から初芽が猫のようにすり抜けて裸のままバスルームに消えていく。それを逆に俺が寂しさを感じながら見送る。

 ふと床を見ると、マールが俺の脱ぎ捨てたスーツの上に座っていた。俺は腹黒猫を追い払いスーツを取り戻し、壁に掛かっていたハンガーを借りスーツをかけて、溜め息をつきながらスーツについた猫の毛を払う。まだ今は夏ではないから良いが、その季節それされると、文字通り毛だらけにされ大変な事になる。俺が悪態をついていると、シャワーを終えたらしい初芽が戻ってきた。俺の様子を見てクスクス笑う。

「私もよくやられるの。猫ってなんか何かの上に乗りたがるから」

 俺には、態々俺の持ち物を狙って座ってくるように見える。見ると今度は俺の鞄の上に座っている。初芽はやんわりと猫を叱り、鞄を取り、ラックに俺の鞄を下げて、俺にシャワーをすすめてくる。猫にもっと言いたいこともあったがまだ俺も裸のままでもあったのでバスルームへとむかう事にした。

 シャワーを終えて戻ってきたら、初芽がスーツのズボンにアイロンをかけているのをみてドキリとする。壁にかけられたスーツの上着の背中の部分の皺もなくなっている所からも上着もかけてくれたのだろう。

「あ、ありがとう」

 何故か照れ臭く、口ごもりながらお礼を言うと、初芽は顔を上げ面白いモノを見たかのように笑う。

「ついでだから!

 それに、ヨレヨレスーツのまま貴方を明日ここから送り出す訳にはいかないからね」

 そう明るく言う初芽に、下半身ではなく心が暖かくなる。

「すごいその言葉、くるね。何だかやる気出てくる」

 そっと近付き、初芽に背後から抱き付く。

「あのさ、こういう事やっている時は危ないから、そう言う事やめて! それに、明日仕事だからもうやらないよ!」

 やはり怒られてしまう。

「分かっているよ。ただ感謝の気持ちを態度で示しただけ」

 俺はそう言いながら初芽の半乾きの髪にキスをする。初芽が感じたのか身体をすくませる。

「ちょっ、ダメ! マール!」

 初芽の突然の声に我に帰ると、腹黒猫がアイロン台から出ていた俺のズボンにデーンと座ってコチラをチラリと見上げていた。初芽に追い出され渋々といつまた様子で離れて行った。態々俺の方みてから去る所を見ると、やはり態とやっているとしか思えない。

 アイロンが終わりブラッシングまでされたスーツは無事ハンガーにかけられ見間違える程パリッと見えた。腹黒猫はそこが暖かく気持ち良いのか、まだ仕舞われてないアイロン台の上に座り俺をじっと見張るように見つめながら、パタンパタンと尻尾を動かしていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ