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スモークキャットは懐かない?  作者: 白い黒猫
フレンチ・ロースト
79/102

何がどうしてこうなった

 その週はナカマメ会の会長前任者との引継ぎ作業が時間外に行われた事もあり、煙草さんの事気になるもののなかなかデートの時間が取れなかった。毎日電話で話していると、テンション上げているのかヤケに高くその事心配なのだが、本人が元気と明るく言われてしまうと、それ以上突っ込んでも聞けない所も難しい所。まあ顔を合わせて話せば煙草さんはあの性格だし誤魔化しも出来ないだろから見えてくるモノもあるだろうと楽観もしていた。


 金曜日やっと時間取れそうなので木曜日にデートに誘う。

『ゴメンナサイ! その日チョット飲み会の用事が入っていて』

 残念な事に、煙草さんに予定があるようだ。

「了解! 俺とは楽しめないから、酒の世界を満喫してきてね。そして週末は俺とデートを楽しもう」

 別にこの言葉に他意があったわけではなく、軽い気持ちで言った事。本当にそのことを勧めたわけでもなかった。

『……はい。チョット憂鬱な飲み会なのですが、楽しんで来ます』

 気を使う相手で、仕事上の飲み会なのだろう。

「そうか、だったら程々で切り上げるにかぎるかな? 俺は酒飲めないから、飲み会は一人素面でそれはそれでキツいんだよね。だから飲める人が羨ましい。同じ土俵で会話できるから」

 フフフと煙草さんの笑い声がスピーカーから聞こえる。

『呑んで無礼講な事にするのも手ですね! でも明日はそうはいかないので程々に飲みつつ時間潰して、切り上げて来ることにします』

 そのまま話題も移ってしまった為にその話は終わってしまい普通に他愛ない会話を楽しんだ。


 金曜日の夜デート出来なかったので、一人家でノンビリしているとスマフォが震える。見ると煙草さんの名前が表示されている。面倒な飲み会が終わってホッとしてかけてきたのだろう。俺はたいして構えず電話に出る。

『せい~しゆさあ~ん♪ こんばぁんは~?』

 いきなり聞こえた明るい大声に思わずスピーカーから耳を離す。

「煙草さん? 酔っています? かなりゴキゲンだけど」

『ん~? 酔ってなんかいないですよ~! でも楽しいのはそうですね。はい! 清酒さんの声聞いてめっちゃくちゃ~舞い上がっていま~す』

 何故酔っ払いは、自分が酔っ払っている事を否定するものなのだろうか?

「それは良かった。ところで今お家?」

『いえ、外からです~風が冷たくて気持ちいいですよぉ』

 こんな酔っぱらった状態で外にいるなんて大丈夫なのか?

「かなり酔っぱらっているようだから危ないよ。早く帰りなさい!」

『だから酔っ払っていませんよ~♪ 寧ろ逆! めっちゃくちゃ冴えています。思考もクリアーこれ程私が冴えていることなんてないですよぉ!』

 どう聞いても酔っ払いの言葉だ。しかも移動とかしている気配もない。ましては駅とかで待っている感じでもない。

「今何処? 自分のいる場所分かる?」

『ん? 分かりますよ! 公園です。

 そしてパンダさんに座っています』

 危なすぎる。女の子が真夜中に無防備な様子で公園にいるなんて。

「ソチラ行くから。何公園? 公園の名前とか分かる? 何が見える?」

 俺は電話しながらタブレットを手に取り契約してきるカーシェアリングの状況を確認する。車は空いているようだ。俺は直ぐに予約を入れる。

『名前は【高林さざんか公園】? ドゥーメチエさんから左にいった所にある公園で~パンダとキリンと……。何かよく分からない動物がいます。たぶん狸さん? いやアライグマ? 何? コレ! イヌではないし……』


 ネットで検索して場所を把握する。スウェット姿のままだが、上にダウンコートを羽織り、通話をイヤホンに切り替え繋いだまま部屋を出る。

 公園まで車走らせている間も煙草さんと会話を続ける。

『今日ね、自分と過去としっかり向き合ってみたんです。そしたら分かりました! 私清酒さんの事が好きで好きで堪らなくてどうしようもないって事が。そしたら清酒さんの声聞きたくなって、この滾る想い伝えてくて!!」

 物凄く嬉しいことを熱く語り続ける煙草さん。しかし相手が酔っぱらいだと思うと微妙な気持ちになる。オマケにこの寒空の下に一人佇んでいると思うと心配でたまらない。

 近くに車を停め、公園に入ると探すまでも無く、本当にパンダの遊具に跨いだ状態でスマフォを耳にあてヘラヘラしている煙草さんを見つかる。

「良かった、煙草さんいた」

 俺がそう呟くと首を傾げ、ハッと顔を上げ俺を見つめてくる。その表情がパアと明るくなりムカつく程無邪気に笑いかけてくる。ウッカリその笑顔に見蕩れている間に煙草さんはコチラに駆け寄ってくる。


 バフッ


 駆け寄ってきた勢いのまま、抱きつかれ息が詰まる。そのまま抱きついてくる煙草さんを抱きしめ返す。煙草さんの手からチューハイの缶が転げ落ちてカランカランと音がする。もう空だったようで軽い音で転がるだけ。

「わ~生清酒♪ 清酒さんの温もり、清酒さんの香り。良い香り~♪

 そうそう今日飲んだんですう。清酒いっぱい呑んだの♪ 美味しかったですよ~。それは忌々しいにっくき清酒だけど、味は悪くなかった! 清酒にも罪はない!

 はい! です!

 でも清酒さんの方が素敵だし、カッコウいい♪ コッチの清酒の方好き! 大好き。選ぶならコッチいや二択でもなくシンプルな一択問題! 間違えようがない!」

 俺を抱きしめウットリとそんな言葉を呟く煙草さん。スリスリと顔をすり寄せられてきて擽ったい。しかも身体が動く度に煙草さんの大きな胸が柔らかく俺の身体を刺激する。

「煙草さんこんなに身体冷えて、風邪引くよ。温かい所に行こう」

 素直に頷きそのまま俺の腕に抱きつきながら俺に着いてくる煙草さん。ファミレスにでも行こうかと思ったが、こんな明らかな酔っ払い拒絶されかねないので家に連れて帰る事にする。

「清酒さんだ~♪ ちゃんと清酒さん♪ しっかり清酒さん♪」

 赤ら顔でそんな言葉を繰り返す煙草さん。いつになく甘えジャレてくる。一体どう、酔っ払ったらこうなったのか分からない。仕事で気を遣うはずの飲み会だったはずなのに。

「実はね、今週本当にウダウダドロドロ色~んな事を散々悩んで苦しんでいたの そして今日それがドカ~ン! と爆発。なんかスッキリした♪

 清酒飲んでいたら清酒さんの事が頭にどんどん浮かんできて!! そしたらこうして会えて、こうしてお話もできている♪ コレって運命?

 今、どんなに私が嬉しいか分かっていらっしゃいます?

 あぁ~運転している清酒さんもカッコウいいです!」

 何があったのか聞いてみたが、酔っ払いの話だけに良く状況が分からない。下手に悩んでいる人に酒呑ませると危険という事だろうか?

「ココはどこ?」

 部屋に入ってソファーに腰掛けてから煙草さんはそんな事聞いてくる。知らないで連れこまれているなんて危な過ぎる。

「俺の部屋」

 冷えた身体を何とかしないといけない。俺は暖房の設定温度を上げてからヤカンに水を入れる。いきなり背中に衝動があり温かい何かに包まれる。この柔らかい感じ煙草さんだろう。さっきまでソファーにいた筈なのに。

「清酒さん♪ だ~いすき!」

 そうやってスリスリしてくるのは止めて欲しい。先程はまだ外だから自制もきいたが、ここだと危なすぎる。

「煙草さん、酔っ払ってそういう事をいうものではないよ」

 水を止めてからやんわり手を解き身体を捻り、向きあってから諭すようにそう言うと、煙草さんは傷ついた顔をする。

「本気ですぅ! 清酒さんは……私の事……好きではないの? 嫌い?」

 さっきのまでの上機嫌な様子と打って変わって、涙目で哀しそうな表情でコチラを見上げてくる煙草さん。酒のせいで感情の振り幅が大きい。

「好きだよ、大好きだ。でないと告白していないし、心配して駆けつける事もしていないよ」

 そう語りかけながら、煙草さんをソファーに戻し座らせる。そして離れお茶を入れる作業を再開しようと思うが煙草さんの手が伸びて俺のダウンの裾を握って離さず阻む。

「だったら離れないで、側にいてくらさい~!」

「煙草さん寒いだろ。身体がすごく冷えているよ。だから今温かい飲み物つくってくるから、ここで良い子で待っていて。ね」

 屈んで小さい子に話しかけけるように優しく言うと、熱を帯び潤んだ目が俺をジッと見つめてくる。手は俺の服を握ったまま。熱く俺を見つめているようにみえるけど、この目の潤みと赤い顔はお酒によるものなんだろうな……と俺はウッカリ求められていると誤解しそうな自分を戒める。跪き目線を合わせ、手を伸ばし煙草さんの頭をヨシヨシと撫でる。

「お願いだから手を離して。美味しい何か淹れてくるから。甘いココアとか飲みたくない?」

 コレはカワイイ小さい子供、もしくは酔っ払い。女性ではない。そう自分に言い聞かせながら、煙草さんにそう話しかける。煙草さんは子供っぽく唇を尖らせ俺をチロと見上げている。自然に赤く濡れた唇がキスを強請っているようにも見えて俺は唾をのみ込む。酔っ払い相手に何を考えているのだろうか? しばらく黙ったまま見詰めあってしまう。煙草さんが手を離してきたので安心し油断した。そっと離れようとしたら、いきなり全力で飛び付いてこられて体勢を崩してしまう。しゃがんでいて立ち上がろうとした不安定な体勢だったから防ぎようがなかった。


 えっと……俺、なんで押し倒されて上にのられているのだろうか?


「飲み物はいらない! 清酒さんが欲しい!」

 そんなとんでもない誘いの言葉をトロンとした目で言いそのまま覆いかぶさってくる。キスされるのかと思ったが俺の上にのっかったまま抱き付いてくるだけ。えっと、コレってそのまま頂いていいってことなのだろうか? 子供っぽい見た目と思っていたけど、こうしてみるとなかなか色っぽい。間近にある潤んだ瞳、果実のような厚ぼったい唇、そして豊かで柔らかそうな胸。そういった要素が俺の下半身を刺激する。

「清酒さん、温かくて気持ちいい。

            大好……き……」

 耳元でそんな言葉を囁いてくる煙草さん。俺はそんな煙草さんの髪の毛を撫で、その髪にキスを落とす。「ンッ」と声を漏らし甘える仕草をみせてくる煙草さん。ゆっくり身体を捻り身体を回転させ二人の位置を入れ替えソッと煙草さんを床に横たえる。そうした上でコートのボタンを外し、中に手を入れ身体を優しく撫で、胸の膨らみと柔らかさを楽しむ。キスをしようとして顔を見つめアレっと思う。目を瞑っているのはキスを待っているからではなく、幸せそうな顔で眠っているようだ。というか確実に寝ている。そっと優しく頬を指で叩いてみてもフニャ~と笑うだけで、それ以上の反応はない。


「マジか……」


 俺は床にそのまま転がり大きく溜息を吐く。身体が落ち着くまでの間そのまま二人で床に寝転んでいたが、起き上がり、もう一度溜息をつきスヤスヤ眠っている煙草さんを見下ろす。このまま床に煙草さんを寝かせるわけにはいかないので俺のベッドに運び、コートと上着を脱がす。今日はそこに寝かせてあげることにする。そして脱がした上着とコートをハンガーにかけて電気を消して寝室の扉を閉め、また溜息をつく。


 俺はどうする? 今のこの状態で添い寝なんてやりたくない。そんな生殺し状態で俺がキツイ。気分を入れ替える為に、シャワーをまた浴びてから、ブランケット被ってリビングのソファーで寝る事にした。



コチラのエピソード煙草さんが主人公の【私はコレで煙草を辞めました?】の三章【第三種接近遭遇】と同じ夜を描いています。

煙草さんからみたら別の意味で衝撃的な一週間。清酒さんからみたらこのような感じになっていました。

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